目次
本コラムでは、記事前半で土地を所有している人がアパート経営をする際に必要な資金、メリット、注意点などを解説。さらに後半では、アパート経営の成功に欠かせないキャッシュフローの内容、重要性、増やす方法などについて解説する。
【本コラムのポイント】
・土地ありで有利な点は「土地の購入資金は不要」「融資を受けやすい」「ローリスク・高利回り」
・100坪に鉄筋コンクリート造の物件を建てるのに必要な資金は「建築費用」だけで約1億円
アパート経営は土地を所有しているほうが有利な理由とは?
所有している土地を活用し、アパート経営を行うことは有利といわれるが、その主な理由として次の4つが挙げられる。
土地の購入資金は不要、かつ融資を受けやすい
土地を所有している人がアパート経営を始める場合、土地の購入費用がかからない分、投資金額が少なく済む。これにより、ローンを組んだとしても月々の返済金額を抑えられるもしくは、早期に完済できるなど返済しやすくなる。
例えば、金利と返済期間を同一条件にし、土地付きアパートが物件価格8,000万円(内訳:土地5,000万円・建物3,000万円)で売りに出されていたとしよう。これに対して、土地ありなら建物のみ3,000万円でアパート経営を始められる。両者を比べると、不動産投資ローンの月々の返済額は以下のように約18万円もの差になる。
土地ありアパート経営 | 土地なしアパート経営 | |
---|---|---|
金利 | 2.5% | |
返済期間 | 35年 | |
借入金額 | 3,000万円 | 8,000万円 |
月々の返済額 | 10万7,248円 | 28万5,996円 |
また、アパートローンの融資審査に土地ありで申し込むと、借入金額が少なくなるだけでなく審査に通りやすくなる場合もある。なぜなら、土地を一緒に担保提供することでローンが借りやすくなるからだ。
土地代がかからない分、入居者ニーズに合う設備を導入しやすい
アパート経営を土地ありで検討している人は、土地代がいらない分を物件や設備投資に回してグレードアップすることもできる。アパート経営で成功するには、入居者満足度を高めることも重要になってくる。物件や設備のグレードが高ければその分、入居者満足度を高めやすく空室率を抑えやすいだろう。
とはいえ、入居者満足度につながらない部分にお金をかけても意味がない。入居者ニーズを分析し、その内容に合った設備に費用を回すことが大事だ。近年入居者に人気の設備としては、以下のようなものがある。
- インターネット無料
- エントランスのオートロック
- 高速インターネット
- 宅配ボックス
- システムキッチン
- 24時間利用可能ゴミ置き場
- 追い炊き機能
- 浴室換気乾燥機 など
土地なしよりローリスク・高利回りで始められる
設備のグレードを高めた結果、賃貸需要が高まることが期待できる。そのため、家賃を高めに設定して高利回りで運営しやすくなる点もメリットだ。一般的に立地と1部屋の延床面積が近い物件を比べると、設備のグレードが高いほうが、家賃収入と利回りが高くなる。
例えば、10部屋あるアパートで1室あたりの家賃が1万円違えば、年間120万円、20年間で2,400万円も家賃収入が変わってくるため、利回りで20%の差がつくケースもある。
土地ありアパート経営 | 土地なしアパート経営 | |
---|---|---|
物件価格 | 3,000万円 | 8,000万円 |
1部屋あたりの家賃 | 8万円 | 7万円 |
年間家賃収入 | 960万円 | 840万円 |
表面利回り | 32% | 10.5% |
土地ありのアパート経営では、増収した部分の家賃収入を修繕費に回すことで、物件の美観や快適性を保ちやすくなり、空室リスクを長期的に抑えることが可能になるだろう。
知っているエリアのため賃貸ニーズを把握しやすい
アパート経営を成功させるには、不動産投資に向いた立地を選ぶことも重要だ。土地ありでアパート経営を考える場合は、その土地の性格をよく知っていることが多いため、以下の点で有利になる。
- その土地がアパート経営向きか判断しやすい
- 入居者ニーズを判断しやすい(例:学生が多い、ファミリーに人気など)
また、その土地が先祖代々受け継がれてきたものであったり、もともと実家があって自身で住んでいた経験があったりする場合は、地域のネットワークとつながりがあることも強みだ。例えば、親戚や知人から信頼できる業者(例:不動産会社、管理会社、リフォーム会社など)を紹介してもらえればアパート経営が有利に進めやすいだろう。
土地ありでアパート経営をするときに必要な資金は?
土地ありでアパートを経営するときには、どのような資金が必要となるかを確認していきたい。必要な資金の種類を大別すると、アパートの建築費用、付帯工事費用、設計費などがある。
アパートの建築費用
まずは、アパートの建築費用について解説する。
・建物自体の「建築費用」
アパートの建築費は、建物の延床面積で変わってくる。延床面積が広くなるほど建築費が高くなるが、その際の面積は坪単価(1坪=約3.30578平方メートル)や平米単価(平米=1平方メートル)で表される傾向だ。例えば、坪単価50万円で100坪のアパート建築する費用を概算する場合は、5,000万円(50万円×100坪)となる。
また、建物の構造によって坪単価が異なり、一般的に最も安いのが木造、次いで鉄骨造、鉄筋コンクリート造となっている。構造によって建物の耐久性が異なるため、どれを選ぶかでアパートの資産価値が変わってくるだろう。それぞれの構造の建築費用の目安は次の通りだ。
【全国平均】
・木造:約57万900円/坪
・鉄筋コンクリート造:約87万4,500円/坪
・鉄骨造:約84万4,800円/坪
・ライフライン、外構などの「付帯工事費用」
次にライフラインや外構などの付帯工事費用だ。付帯工事費用とは、本体の工事に付帯してかかる費用のことである。
具体的な付帯工事としては、以下のようなものがある。
- 造成工事:アパートを建設できるよう土地を整備する工事
- 外構工事:門扉や塀を設置する工事
- 仮設工事:足場組み立てや仮設のトイレ設置などの工事 など
このほかにも 状況に応じて、「電気や水道の引き込み工事」や「解体工事」も必要だ。
<付帯工事で行われる主な工事>
造成工事 | ・用途に合わせて土地を整備する工事 ・地盤の改良・切土・盛土などがある |
外構工事 | ・建物の屋外にある構造物に関連する工事 ・門扉・ 塀・植栽・アプローチ・カーポートなどに関連する工事がある |
電気・ガス・水道の引き込み工事 | ・敷地に電気・ガス・水道などを引き込むための工事 |
仮設工事 | ・建築工事をスムーズに進めるための前処理や施設・設備の設置など ・具体的には、足場設置・養生・現場内の片付け、仮説の電力・用水・トイレ の設置など |
解体工事 | ・敷地に建物が建っている場合の解体・除去するための工事 |
付帯工事費用の一般的な目安としては、付帯工事費は、全体の建築費に対して10~20%前後といわれる。例えば、アパート全体の建築費が5,000万円であれば500万~1,000万円といった具合だ。ただし、造成・面積・外構の内容・ライフラインの整備状況などで金額が変わるため、一概にどれくらいかかるかは断定できない(下記の表参照)。
<付帯工事の費用の目安>
造成工事 | 国税庁が相続評価のために示している「宅地造成地の金額表」は以下の通り(東京都/令和4年度) ・整地費:1平方メートルあたり800円 ・伐採/抜根費用:同1,000円 ・地盤改良費:同1,600円 など |
外構工事 | 一例では、塀は設けず駐輪場と駐車スペースを設ける場合(コンクリート打設)は350万円前後など |
電気・ガス・水道の整備工事 | 引き込む距離や立地によっても大きく異なるが、電気整備で10万円前後、ガス整備で15万円前後、上下水道の整備で100万円前後など |
仮設工事 | 一般的な新築工事であれば費用の相場は70万~100万程度が目安 |
解体工事 | 一軒家の1坪あたりの解体費用の目安 ・木造:3万~5万円 ・鉄骨造:5万~7万円 ・RC(鉄筋コンクリート)造:6万~8万円 |
・アパートの「設計費用」
最後にアパートの設計費用だ。設計費用とは、設計士や設計事務所にアパートの設計管理を依頼するときに発生する費用である。費用は、設計士や設計事務所によっても異なるが、総工事費用が5,000万円程度の物件の場合は、その10%前後となることが一般的だ。
なお、総工事費用が上がるにつれて設計費用の割合は減る傾向にある。
契約に関連する諸経費
次に契約に関連する諸経費も確認していこう。契約に関する諸経費は、主に以下の5つだ。
・工事の請負契約書に貼付する「印紙税」
1つ目は、工事の請負契約書に貼付する「印紙税」である。まずは、工事請負時の契約書に契約金額に合わせて印紙税がかかる。2014年4月1日~2024年3月31日までに作成されたものには、以下の軽減税率が適用される。例えば、8,000万円の工事請負契約であれば3万円の印紙を貼付することが必要だ。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
100万円超~200万円以下 | 400円 | 200円 |
200万円超~300万円以下 | 1,000円 | 500円 |
300万円超~500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超~1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
1,000万円超~5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円超~5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円超~10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円超~50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円超~ | 60万円 | 48万円 |
ただし、電子契約では印紙税の課税対象とならないため、印紙代は不要だ。
・登記に伴う「登録免許税」
2つ目は、登記に伴う「登録免許税」だ。登録免許税は国税で、建築・取得した土地や家屋の登記の際にかかる税金のことを指す。また新築と中古の建物で税率が異なり、住宅用家屋に関しては適用条件を満たせば軽減措置がある。所有権保存登記(新築賃貸住宅の建築)の場合は標準税率0.4%だ。
例えば、課税標準が3,000万円なら登録免許税は12万円(課税標準3,000万円×税率0.4%)になる。
・建物を取得したときの「不動産取得税」
3つ目は、建物を取得したときの「不動産取得税」だ。不動産取得税は、都道府県から課される地方税で建物を取得したときに一度だけかかる。
不動産取得税は、建物の登記を申請することで都道府県事務所から納税通知書が送られてくるので、それに従って納付することが必要だ。ただし新築の場合、建物の固定資産税評価が決定していないため、実際に納税通知書が送られてくるのが半年~1年後になる場合もある。忘れたころに請求が来るため、事前に納税資金は準備しておきたい。
不動産取得税は取得した不動産の価格(課税標準)×税率で算出する。以下の表の税率を参考に計算してみよう。
取得日 | 土地 | 家屋(住宅) | 家屋(非住宅) |
2008(平成20)年4月1日~ 2024(令和6)年3月31日 | 100分の3 | 100分の4 |
不動産取得税の計算式は、以下のようになる。
・土地と建物の不動産取得税=課税標準×3%
ただし、建物は適用条件を満たせば以下の「軽減の特例」が使える。
・建物の不動産取得税=(課税標準-控除額1,200万円)×3%
〈適用条件〉
・居住用物件(アパート含む)であること
・1戸あたり40平方メートル以上~240平方メートル以下(戸建て以外の賃貸住宅)
*認定長期優良住宅の場合は、控除額が1,300万円
上記をもとに、アパートの建物を取得した場合の不動産取得税を計算すると、以下のようになる。
〈設定条件〉
・課税標準:5,000万円
・10戸(ファミリータイプ)
・1戸あたり:50平方メートル
・(課税標準5,000万円-軽減特例1,200万円×10戸)×3%=0円
なお、厳密には1戸あたりの課税標準から上限の1,200万円(普通の建物の場合)が必ず控除されるわけではないので注意が必要だ。例えば、1戸あたり500万円が課税標準の場合、控除の上限は500万円となるケースもある。そのため、事前に専門家に相談するのが賢明だろう。
・司法書士に依頼した場合の「報酬」
4つ目は、司法書士に依頼した場合の「報酬」である。依頼する内容としては、建物の所有権保存登記や抵当権設定などがある。報酬額の目安は、2018年1月に日本司法書士連合会が実施した「報酬アンケートの結果」を目安にすると参考になるだろう。なお報酬は、地域によっても異なる点は押さえておきたい。
日本司法書士連合会が実施した「報酬アンケートの結果」によると、例えば関東地区の目安は、課税価格1,000万円の新築建物の所有権保存登記手続きを依頼する場合、全体の平均値は2万4,707円である。また関東地区における抵当権設定登記費用の目安は、債権額1,000万円に対して3万9,267円(全体の平均値)だ。
例えば、アパート経営に伴う所有権保存登記の報酬が2万5,000円、抵当権設定登記の報酬が4万円の場合は合計6万5,000円となる。
・融資を利用したときの「事務手数料」
5つ目は、融資を利用したときに金融機関へ支払う「事務手数料」だ。土地を所有している場合は、土地を担保にして金融機関の融資を利用するケースが一般的だが、その際に金融機関が事務手数料を設定している場合が多く、支払いが必要となる。なお、事務手数料は以下の表のように金融機関によって設定が異なる(金融機関によって定額制と定率制がある)。
金融機関の手数料の例(借入金額)
金融機関 | 手数料率 (消費税込) |
支払い手数料 (借入金額3,000万円の場合) |
---|---|---|
A社 | 融資金額×2.20% | 66万円 |
B社 | 融資金額×0.55% | 16万5,000円 |
C社 | 一律 | 11万円 |
また金融機関が融資にあたり保証会社を利用することが多く、その保証会社から保証を受けるための所定の「保証料」も必要になる。これらは借入金額によって金額が異なるため、注意が必要だ。
*保証料が不要なケースもある。
アパート設計のための土地測量費
土地測量(確定測量、現地測量)とは、専用の機器を使って土地の面積や形状、間口、奥行きなどを計測し図面・書面にする作業のことだ。土地測量を行うことで、その土地に即した建物を設計することができる。そのためアパートを建築する場合は、土地測量を行うのが一般的だ。
土地測量には主に2つの方法がある。
- 確定測量:隣人・行政立ち会いのもとで境界を確定させて測量するもの
- 現況測量:現在の状況をそのまま測量するもの
境界が確定していないことで、のちのちトラブルとなるケースがある。土地測量をする場合は確定測量をするのが無難だろう。
なお、確定測量の費用の目安は40万~80万円程度である。土地の形状や隣接する土地の所有者の数によって金額は大きく異なる。また、公道や河川などの官有地に接していると高めになることが考えられる。
ただし、直近で確定測量を行っていて手元に正確な図面があるなら土地測量を改めて行う必要はないだろう。
所有している土地でアパート経営をするメリット
所有している土地でアパート経営を行う主なメリットには、以下のようなものがある。
建物・設備だけの資金でスタートができる
1つ目のメリットは、主に建物・設備の購入資金で経営をスタートできることだ。土地を別途購入しアパートを建てるケースと比較して投資額や自己資金を抑えることができる。
<土地なしの場合>
・売買価格:建物 4,000万円 土地 3,000万円 合計7,000万円
・借り入れ:5,600万円(自己資金1,400万円)
<土地ありの場合>
・建物の建築費用:4,000万円
・借り入れ:3,200万円(自己資金800万円)
例えば、上記のケースを想定してみよう。土地があれば、借り入れする金額は2,400万円、自己資金は600万円少なくて済む。
収支のキャッシュフローがいいケースが多い
アパートを所有するためには金融機関から借り入れをすることが多いが、すでに所有している土地にアパートを建築する場合は土地購入分を借りる必要がない。そのため、返済金額が抑えられ、キャッシュフローがいいことが多いのが2つ目のメリットだ。
例えば全10部屋の同じアパートで考えた場合、土地なしからアパート経営を始めた場合と土地ありでアパート経営を始めた場合のキャッシュフローを比較してみよう。またキャッシュフローの違いを分かりやすくする目的から、税金や管理費などの諸経費は考慮しない。
【シミュレーション前提条件】
・家賃収入:7万円×6部屋=42万円(月額)
・金利:固定金利2.4%
・返済期間:25年
・金利タイプ:元利均等
<土地なしの場合>
・売買価格:建物 4,000万円 土地 3,000万円=7,000万円
・借り入れ:5,600万円(自己資金1,400万円)
・毎月の返済額:24万8,414円
・毎月のキャッシュフロー:17万1,586円=家賃収入42万円 − 毎月の返済額24万8,414円
<土地ありの場合>
・建物の建築費用:4,000万円
・借り入れ:3,200万円(自己資金800万円)
・毎月の返済額:14万1,951円
・毎月のキャッシュフロー:27万8,049円=家賃収入42万円 − 毎月の返済額14万1,951円
アパート経営におけるキャッシュフローとは
アパート経営を土地ありで行った場合、キャッシュフローが高まりやすい。ここで改めて前項で紹介したアパート経営におけるキャッシュフローの意味を再確認しよう。
最終的に手元に残るお金を示す
一般的にキャッシュフローとは、お金の流れを意味する。しかしアパート経営においては、家賃収入から諸経費や税金などを差し引いた後の最終的に手元に残るお金のことを指すことが多い。利回りなどを組み合わせて経営を分析
アパート経営の収支をチェックする代表的な指標には、表面利回りがある。計算式は、以下の通りだ。
表面利回り=年間の家賃収入÷物件価格×100
例えば、上述した土地ありの条件のケースで表面利回りを計算してみよう。
・年間の家賃収入:7万円×6部屋×12ヵ月=504万円
・建物の建築費用:4,000万円
年間の家賃収入504万円÷物件価格4,000万円×100=表面利回り12.6%
表面利回りだけを見ると、かなり高利回りの物件といえるだろう。
しかし、よりローリスクの経営を目指す場合は、諸経費を反映させた実質利回りや本コラムで解説するキャッシュフローなど性格の違ういくつかの指標を組み合わせて分析するのがおすすめだ。
アパート経営のキャッシュフローの計算方法
次にアパート経営のキャッシュフローの計算方法を解説する。仕組み自体は、シンプルなので初心者でも理解しやすいはずだ。
- キャッシュフローの計算式
アパート経営におけるキャッシュフローは、以下の計算式で算出する。前出のキャッシュフローの比較では、便宜上諸経費と税金を省いて計算したが、これらも含めて計算するのが一般的だ。
キャッシュフロー=家賃収入-(諸経費+ローンの返済額+税金)
- 入居率・家賃下落率を厳しめに設定して家賃収入を割り出す
アパート経営を検討している人がキャッシュフローの計算を行う場合、仮の入居率を設定することで計算式のうちの「家賃収入」を割り出すことができる。以下のように、いくつかの入居率を設定するのも一案だ。
想定する入居率:90%
甘めの入居率:95%
厳しめの入居率:80%
また、何年後には家賃を下げざるを得ないことを考慮した「家賃下落率」も設定しよう。その際、空室率や家賃下落率は厳しめの数値で見積もって計算したほうがよいだろう。
キャッシュフローを甘く考えてアパート経営を始めてしまうと「手残りがほとんど残らない」「最悪自己資金で損失を補てんする」といったケースに陥りかねない。これでは、何のためにアパート経営を始めたのかが分からなくなってしまう。
こういった状況に追い込まれないためには、アパート経営を始める前にキャッシュフローを綿密にシミュレーションすることが大事だ。
- 諸経費、ローン返済額、税金を割り出す
キャッシュフロー計算式の諸経費は、管理費や修繕費、修繕積立金、火災保険料などの総計で割り出す。またローン返済額は、不動産投資ローンの年間返済額(元本+利息)、税金は対象年度の固定資産税・都市計画税(所得税・住民税を反映させるケースもあり)で割り出すことが必要だ。
なぜ、アパート経営ではキャッシュフローを増やすのが重要か
アパート経営を成功させるには、十分なキャッシュフローが得られるか否かが鍵を握る。その理由として以下の2つが挙げられる。
リスクに柔軟に対応し安定経営をしやすくなるから
キャッシュフローが少ない経営状態だと諸費用が膨らんだ場合、赤字経営に転落しやすい。例えば、もともとキャッシュフローが赤字でさらに空室率が高まった場合は、ローン返済の一部を自己資金でまかなわなければならなくなりアパート経営が行き詰まってしまうだろう。
以下のリスクが顕在化した途端に経営が行き詰まってしまいかねないため、注意が必要だ。
【リスクの一例】
空室リスク | 想定していたよりも物件が稼働せずに思ったような家賃収入を得られないリスク |
家賃下落リスク | 想定よりも大きく家賃が下落する可能性があるリスク |
十分なキャッシュフローを継続的に確保しておけば、各種リスクが生じた場合でも柔軟に対応しやすくなる。つまり、アパート経営を安定させるには一定のキャッシュフローの確保が前提になるのだ。
また、十分なキャッシュフローが出たときの注意点として、余剰資金を生活費や遊興費にあてるのは避けたい。なぜならいくらその時点でキャッシュフローが出ていても建物の老朽化や入居者ニーズの変化などに伴い将来的に収支が悪化する可能性があるからだ。
アパート経営の規模拡大をしやすいから
十分なキャッシュフローを継続的に得ていけば手元資金に余裕ができる。この手元資金を新たなアパート購入の頭金にすることで効率的に2棟目を購入することも可能だ。さらに2棟目のアパートでも潤沢なキャッシュフローが出せれば3棟以降の物件購入がスムーズになる。
ただし、手元資金に余裕ができたからと言ってそれらをすべて2棟目の購入資金に充てることは避けたい。1棟目に必要な修繕費、突発的に必要になる諸経費は十分に確保しておこう。
Appendix「キャッシュフローを高めるための5つの方法」
アパート経営の成功の鍵を握るキャッシュフローを高めるためには、以下の5つの方法が考えられる。
<1.ローンの借入期間を延ばす>
同額の不動産投資ローンを借りても借入期間を延ばすほど毎月の返済額が減りキャッシュフローが出やすくなる。その意味では、(同額、同金利であれば)返済期間を長めに設定してくれる金融機関を選択するのが賢い選択だ。
一方で、返済額が少なくなるということは残債の減りが遅くなるということである。その点は十分に理解した上で選択すべきだろう。
<2.ローンの頭金を多めに入れる>
不動産投資ローンで融資を受ける際、頭金を多く入れるほど借入総額が減るため、毎月の返済額が抑えられる。キャッシュフローを高めるために頭金を多めに入れるのも有効だ。
<3.ローンの繰り上げ返済をする>
手元資金に余裕が出てきたら次のアパート購入の頭金にするほか繰り上げ返済をする選択肢もある。ただし手元資金が少なくなると急なリフォームなどに対応しにくくなるため、慎重に判断したい。
<4.できるだけ低金利で借りる>
不動産投資ローンの金利設定は、金融機関ごとに異なる。そのため低金利を提示する金融機関から融資を受けるのが基本だ。一方、いくら低金利で融資を受けても借入総額や期間によっては、毎月の返済額が膨らむこともあるため、注意したい。
<5.家賃収入を増やす努力をする>
家賃収入を増やす努力によってキャッシュフローを改善することも可能だ。例えば以下のようなことが考えられる。
・人気の住宅設備を採用する
・アパート全体に無料Wi-Fiを導入する
・物件力を高めるリフォームをするなど
ただし、費用をかけ過ぎてしまうと費用対効果が伴わず、思った以上に收入が増えない事態にもなりかねないため、慎重に行う必要がある。
土地ありのアパート経営の注意点
所有している土地でアパート経営を行う際の注意点を押さえておこう。
土地がある場所は賃貸ニーズがあるのか、そのニーズは長く続きそうか、リサーチする
まずは、土地がある場所は賃貸ニーズがあるか確認することが最も重要だ。例えば所有する土地が「最寄り駅から遠い」「近くにスーパーやコンビニなどがない」といったエリアの場合は、アパートを建てても入居者が望めない可能性がある。郊外などの場合は「近くに大学のキャンパスや工場があり、賃貸ニーズがあるから建てた」という人もいるだろう。
しかしそれらの施設が移転、あるいは撤退してしまい一気に空室だらけになったアパートも多い。このようにリサーチを行う際は、目先の賃貸ニーズだけではなく10年後や20年後でも需要が見込めるのかまで想定しておきたい。
一括借上の落とし穴
「30年一括借上」といった一見お得な営業トークを聞いたことがある方も多いのではないだろうか。オーナーにとって賃料収入が安定することは魅力的な仕組みだ。しかし実はさまざまな落とし穴が潜んでいる可能性がある。具体例としては、以下のようなオーナーにとって不利になる条件が記載されている場合も少なくない。
・得られる家賃は相場家賃より10~20%も低くなる
・礼金や更新料収入はもらえない
・2年ごとに賃料の見直しがある
・解約するとペナルティが発生する
一括借上は、契約によってはメリットも期待できる。しかしオーナーが不利になるような内容が契約書に記載されている場合もあるため、しっかりと自分で契約内容を精査する能力が必要だ。
キャッシュフローに関するQ&A
アパート経営をするにあたって、土地(建設地)を持っていることは物件価格を抑えやすいため有利だ。だからといって、キャッシュフローを意識しないと、安定経営や規模拡大が難しくなる。土地のありなしに限らず、キャッシュフローを綿密に計算したうえでアパート経営を判断すべきだろう。
最後に、キャッシュフローに関する、よくあるQ&Aを説明しましょう。
<Q1 キャッシュフローの健全性を判断する方法はありますか?>
健全性の指標として代表的なものに「債務返済倍率(DCR:デットカバレッジレシオ)」がある。これは年間の営業純利益を年間のローン返済額で割ったものである。計算式は以下の通りだ。
・債務返済倍率(DCR)=年間の営業純利益÷年間のローン返済額
一般的にこの数値が1以上、現実的には1.3ほどになるのが望ましいといわれている。ちなみに営業利益とは、家賃収入から諸経費・税金を差し引いたものだ。(ローン返済額は含まない)
<Q2 自己資金回収率(CCR)とは何ですか?>
不動産投資における自己資金回収率(CCR:キャッシュオンキャッシュリターン)とは、その物件を購入するときに投入した自己資金に対する年間キャッシュフローの割合のこと。計算式は次の通りだ。
・自己資金回収率(CCR)=年間キャッシュフロー÷自己資金×100
この数値が高いほど投資効率がよいことを示す。仮に年間キャッシュフローが100万円、自己資金が1,000万円であれば、自己資金回収率(CCR)は10%となり10年間で自己資金が回収できる計算となる。
<Q3キャッシュフローと所得はどう違うのですか?>
不動産投資のキャッシュフローと所得の違いを計算式で表すと次のようになる。
・不動産所得=家賃収入-(諸経費+支払い利息+減価償却費)
・キャッシュフロー=家賃収入-(諸経費+ローン返済額+税金)
比べると、キャッシュフローは返済額(元金+利息)が反映されているため、現金の入出金の流れをつかみやすい。
宮路 幸人
会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
(提供:manabu不動産投資 )
- 【オススメ記事】
- 「FPの私ならここを見る」 プロが語る不動産投資とは?
- 不動産投資の種類はいくつある?代表的な投資方法を紹介
- 少額から始められる不動産投資4選
- 不動産投資は30代から始めるべき?メリットや注意点について解説
- 初めて不動産投資をする際に気をつけることとは?
- コラムに関する注意事項 -
本コラムは一般的な情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的とするものではありません。
当社が信頼できると判断した情報源から入手した情報に基づきますが、その正確性や確実性を保証するものではありません。
外部執筆者の方に本コラムを執筆いただいていますが、その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。
本コラムの記載内容は、予告なしに変更されることがあります。