2020年から小学校のプログラミング教育が必修化された。プログラミング教育は子供にどのようなプラス効果をもたらすのだろうか。学校教育として取り組むだけでなく、家庭でもプログラミング教育を行うことができる。本記事ではプログラミング教育の概要と学校・家庭での取り組み方を紹介し、併せてプログラミング教育のねらいと問題点を探る。

目次

  1. 1.必修化されるプログラミング教育とは?
  2. 2.小中高におけるプログラミング教育必修化(実施)の特徴
  3. 3.プログラミング教育の問題点
  4. 4.【家庭でできる】子供の能力を向上させるプログラミング教育の方法
  5. 5.プログラミング教育で利用される教材
  6. 6.急成長するプログラミング教育市場とビジネスチャンス
  7. まとめ:一億総プログラミング思考の時代の到来も。ビジネスパーソンも必須のスキルに

1.必修化されるプログラミング教育とは?

【小学校も必修化】プログラミング教育とは?そのねらいと問題点
(画像=PXITA)

2020年から2022年にかけて、小中学校と高校でプログラミング教育の必修化が段階的にスタートする。プログラミング自体の定義は「コンピュータに意図した動作を行わせるために、まとまった処理手順を作成し与えること」(IT用語辞典)である。しかし文科省によれば、プログラミング教育の目的は、コーディング(プログラミング言語を用いた記述方法)を覚えることではない、としている。

このようにプログラミング教育の定義は単純ではないものの、英語教育と同様にITリテラシーも子供のうちから養うことは時代の要請といえるだろう。

はじめに、プログラミング教育の概要と、導入のねらいを確認しておこう。

1-1.プログラミング教育の定義

プログラミング教育とは、「子供たちに、コンピュータに意図した処理を行うように指示することができるということを体験させながら、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる力としての『プログラミング的思考』などを育成するもの」(文部科学省見解)をいう。

インターネットで検索して情報を得る、音楽ソフトを使って音楽を聴くといった単純なパソコンの使い方ではなく、自分が指示をして、目的の結果を得られるようなコンピュータの使い方ができる、そんな思考力「プログラミング的思考」を養うことが、プログラミング教育の目的だ。

注意しなければいけないのは、小学校でプログラミング教育は学ぶものの、「プログラミング」という専門の科目があるわけではない。また、プログラミングといっても必ずパソコンを使うとは限らない。中学校まではパソコンを使わない授業もあるという。

1-2.「プログラミング的思考」とは何か

プログラミング的思考とは、「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」(文部科学省見解)をいう。

「動きの組合わせ」とは、たとえば「ロボットにおにぎりを作らせ、作ったおにぎりをお皿に載せ、テーブルに運ばせる」ことを指示する場合、単に「おにぎりを作る」という命令を与えただけではいつまでもおにぎりを作り続けることになる。

そこには「3個作る」など数の指定が抜けている、と考えるとよい。作る数を指示することでロボットは「おにぎりを3個作ってお皿に載せ、テーブルに運ぶこと」が可能になるのだ。このように目的を達成するための正しい指示と順序を組み立てることがプログラミング的思考といってよいだろう。

1-3.プログラミング教育必修化の目的

プログラミング教育を必修化する目的は、実践的な技術の習得ではなく、子供たちの思考力を養うことに重点を置いている。

現代社会では人や物を動かす様々な仕組みが存在し、その多くでコンピュータが使われている。まずコンピュータが生活を便利にしてくれていることを知り、その上で技術を利用して、よりよい社会にしていこうという姿勢を育むことがプログラミング教育の目的だ。

あわせて、算数や理科など各教科の学びを、プログラミング教育を用いることでより確かなものにするねらいもある。

1-4.小学校のプログラミング教育でのねらい

文部科学省は小学校におけるプログラミング教育のねらいとして、次の3つを挙げている。

▽文部科学省の設定する小学校におけるプログラミング教育のねらい
・「プログラミング的思考」を育成すること。
・プログラムや情報技術の社会における役割について気づき、それらを上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする態度を育むこと。
・各教科等の中で実施する場合については、「教科等での学びをより確実なものにする」こと。

プログラミング教育によって、身近でコンピュータが活用されていることを知り、コンピュータを生活や社会に生かす姿勢を身につけることができる。また、基礎的な「プログラミング的思考」だけでなく、問題解決のための段階的な考え方(論理的思考)を身につけることも目的としている。

2.小中高におけるプログラミング教育必修化(実施)の特徴

2020年から順次スタートしているプログラミング教育必修化には、どのような特徴があるのだろうか。
各段階におけるプログラミング教育の内容と、学校教育機関で行われている取り組み状況をみてみよう。

2-1.各学校の実施タイミングと主な内容

小中学校と高校におけるプログラミング教育実施のタイミングと主な内容は下表のようになっている。とくに高校は「情報Ⅰ」が必修科目になることで、注目が高まりそうだ。

▽小中高におけるプログラミング教育実施のタイミングとその内容

開始年度主な内容
小学校2020年算数・理科など既存の教科にプログラミングの要素を取り込み、プログラミング的思考を養う
中学校2021年受け身の活用ではなく、自分がコンピュータに働きかけ応答を得る、双方向性コンテンツによるやりとりを学ぶ
高等学校2022年2022年から「情報Ⅰ」が必修科目になる。情報が処理される仕組を理解し、問題を発見して解決する情報活用能力とITリテラシーを身につける

2-2.学校教育機関のプログラミング教育の取り組み状況一例

学校教育機関のプログラミング教育の取り組み状況の一例として、横浜市立白幡小学校と國學院大學が共同で取り組んだ「電気を無駄なく使うための工夫を考えよう」という学習活動を紹介する。学校教育機関と民間企業が共同で取り組む事例(家について学ぶ学習に積水ハウスが協力する等)が多いなか、小学校と大学が共同で行ったユニークな活動である。

▽電気を無駄なく使うための工夫を考えよう(横浜市立白幡小学校)

この学習の指導計画による学びのポイントは、「電気をつくりだしたり、蓄えたりすることができることを理解する」「蓄えた電気を利用することができることを理解する」「電気は光や音、熱、運動などに変換され、様々な利用がされていることを知る」「電気を無駄なく使うための工夫を考える」などである。学習活動を通して子供たちが電気の仕組みを理解し、節電の意識が高まれば大変有意義な学びのときとなるだろう。

▽「電気を無駄なく使うための工夫を考えよう」学習指導計画

3.プログラミング教育の問題点

プログラミング教育はプラス面だけでなく、問題点も指摘される。学校におけるプログラミング教育と、習い事としてのプログラミング教育の問題点を整理しておこう。

3-1.学校におけるプログラミング教育必修化の問題点

学校においてプログラミング教育が必修化される問題点の1つに、スキルを持つ教員の不足が挙げられる。教える教師はプログラミング専門の教師ではなく、他の科目も教える一般の教師である。プログラミングを教えるための研修を受けなくてはならず、2020年4月のスタート時には教員が不足しているとのニュースも流れた。

教員のプログラミング教育にかかわる研修環境と情報も不足しているなか、文部科学省は総務省や経済産業省と共同で、先に事例で紹介した「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」というサイトを開設し、小学校プログラミング教育の実施事例を掲載している。

学校現場ではパソコンやタブレットを1人1台使える環境は整備されてきたが、過疎地では教員や生徒数が少ない学校もあり、同じような環境の整備がなされるか不安もある。全国的な環境整備が今後の課題になるだろう。

3-2.習い事としてのプログラミング教育の問題点

習い事としてのプログラミング教育はどうか。全国各地には数多くの「プログラミング教室」があるが、プログラミングのスキルを重視しすぎる傾向がある。プログラミングのテクニックだけ覚えても、創造力が身につかず、指示されたものしかプログラミングできないということになりかねない。プログラマーをはじめ、将来の仕事で生かすには、プログラミングの知識だけでなく、企画や設計、デザインなどのスキルも必要になる。

また、プログラミング教室の講師はエンジニアが多く、プログラミングのスキルは高くても、学校の教師のように教えるスキルが高いとは限らない。子供のやる気を引き出す教え方ができるか、コミュニケーションを上手くとれるかが問題である。教える側が教員ではないことで、講義内容が文部科学省の意図から外れる懸念がある点も問題といえる。

4.【家庭でできる】子供の能力を向上させるプログラミング教育の方法

プログラミング教育は家庭で取り組むことも可能だ。子供の能力を向上させるプログラミング教育を行うために、次の4つのポイントに留意しながら子供と向き合うことが大事である。

4-1.IT環境とテクノロジーに慣れる環境づくり

IT環境やテクノロジーに適応できる子供に成長させるには、家庭内の環境づくりが重要になる。今やパソコンは1人に1台の時代となった。通信教育もタブレットを使って行うのが一般的になりつつある。はじめは家庭にあるパソコンを共用して、基本的な操作をともに学び、慣れるようにするのもよいだろう。子供が1人で操作できるようになれば、将来への投資と考えて、専用のパソコンやタブレットを与え、IT環境を整えてあげることも大事だ。

4-2.論理的思考力や創意工夫力を伸ばす習い事

プログラミング教育の必修化に伴い、習い事としてプログラミング教育を選ぶ家庭も増えているが、目的となる論理的思考や問題解決力、創意工夫力の向上に寄与することから、あわせて注目が集める習い事がある。たとえば「囲碁」「将棋」「チェス」など対局系の習い事は相手との駆け引きもあり、どう攻めどう守れば勝てるかの論理的思考力を養うことができる。とくに将棋においては藤井聡太四冠(2021年11月13日現在)の活躍で、論理的思考力を養うのに有益であるという認識が高まっている。

他にも、ロボットを作ることでプログラミング学習ができる「ロボット教室」や、物を正しく見る力や創造力を育てる「絵画教室」も論理的思考の成長に有益といわれている。プログラミング教育そのものでなくても、考える力を養う習い事として検討するのもよいだろう。

4-3.日ごろから「考え」「工夫する」環境づくり

教育は環境が大事である。プログラミング教育は論理的思考を養うことが目的なので、ただ与えられた情報を生かすだけでは足りない。提示された課題に対してどのように解決するか考え、よりよい方向に改善するために工夫する習慣をつけることで、論理的思考が身についていくのだ。

慣れるまでは親が一緒に考え、意見を述べ合うのもよいだろう。大事なのは子供が日ごろから考え、工夫する環境をつくってあげることだ。

4-4.子供が興味を持ったことはトコトン伸ばしてあげよう

子供を育てるうえで大事なのは、興味を持ったことはトコトン伸ばしてあげることである。芸術家やスポーツ選手も、大成した人は幼い頃からそのことに興味を持ち、場合によっては親も熱心に子供の才能を後押ししてきた。家庭でも子供がプログラミングに興味を持ったら、才能を開花できるように応援してあげるのも親の大事な役割といえる。

5.プログラミング教育で利用される教材

プログラミング教育を受けるには適合する教材を利用する必要がある。ここでは小学生向けの代表的な教材をタイプ別に紹介する。

・プログラミング教育で利用される教材例1:mBlock(エムブロック)
ロボット教材にプログラミングできるロボット型学習教材。同社のロボットキット「エムボット」と組み合わせることで実際に動くロボットを作ることができる。ロボットの動きをコントロールするためのプログラミングを構築することも可能だ。プログラムを組む際はビジュアル言語を使用するため、小学生でも操作しやすい。

・プログラミング教育で利用される教材例2:教育版マインクラフト
ゲームと教育を組み合わせたゲーム系学習教材。1つひとつのブロックを組み合わせて、独自の世界を構築するゲーム「マインクラフト」の教育版である。あらかじめゲーム内でプログラムを組むことで、キャラクターを自由に動かすことができる。ゲーム内では同級生と共同で世界を構築していくため、他者との協調性も学ぶことができる。ゲーム系教材なので、小学生には馴染みやすいといえるだろう。

・プログラミング教育で利用される教材例3:Scratch(スクラッチ)
画面上のブロックをつなぎ合わせてプログラムを作るビジュアル言語型教材。プログラムは、画面上にあらかじめ準備されている「10歩動かす」「1秒待つ」などのブロックを組み合わせてプログラムを作り、画面上のキャラクターを動かす仕組みである。プログラムを修正しては実行する「トライアンドエラー」も手軽にできる。キャラクターを動かす基本を習得すると、子供の自由な発想に基づくゲームやクイズを作ることが可能になる。

プログラミング教育
参照:SCRATCH

6.急成長するプログラミング教育市場とビジネスチャンス

プログラミング教育の必修化によってビジネスチャンスも生まれてくる。GMOメディアが運営するプログラミング教育ポータルサイト「コエテコby GMO」と船井総合研究所が共同で実施した「2021年子供向けプログラミング教育市場調査」によると、2021年のプログラミング教育の市場規模は175億7,900万円で、前年の139億9,600万円に比べて125%に伸長している。2019年に約114億円とはじめて100億円を突破してからも、順調に拡大傾向が続いている。

▽子供向プログラミング教育市場規模

両社では、プログラミング教育の市場規模は2025年に400億円に伸びると予測しており、ビジネスチャンスはさらに広がりそうだ。「コエテコby GMO」に掲載されているプログラミング教室の数は2021年6月9日現在で1万900ヵ所を数えている。今後は大手教育機関やIT企業の進出も予想されることから教室の数はさらに増えるとみられる。

まとめ:一億総プログラミング思考の時代の到来も。ビジネスパーソンも必須のスキルに

2021年9月1日に内閣直属の組織としてデジタル庁が発足し、日本はデジタル社会に大きく舵を切った。将来はIT化に乗り遅れると生活にも不便をきたす時代がやってくるかもしれない。デジタル社会に対応できるようにするため、自分の子供にプログラミング教育を受けさせ、論理的思考と問題解決力を高め、プログラミングスキルを上げることは親としての大きな課題になるだろう。

また、ビジネスパーソンにとってはプログラミング教育市場の一段の拡大を見据え、ビジネスチャンスに上手く結びつけることが求められる。そのためには、子供だけでなく自分自身のプログラミング教育に対する知見を高めることが大事といえよう。