東芝が、自社を3社に分割する方針を決定した。経営再建中の東芝が発表したこの3社分割を、「総合電機メーカーの解体」とネガティブにとらえる人もいるが、将来的にこの3社分割は東芝にとって吉と出るのか凶と出るのか。同社の発表内容を紐解きつつ、考えてみよう。
東芝が事業分離による3社分割の方針を示す
東芝は2021年11月12日、「東芝、株主価値向上を目指し3つの独立会社に戦略的再編へ」というプレスリリースを発表した。事業を分離(スピンオフ)し、東芝を3社の独立会社に分割するという内容だ。
3つの独立会社は「インフラサービスCo.」「デバイスCo.」「東芝」である。それぞれの独立会社が手掛ける事業や役割は、以下の通りとなっている。
東芝はスピンオフの狙いとして、成長戦略の明確化や意思決定のスピードを加速させること、コスト構造の最適化による各事業の競争力の強化などを挙げているが、事業を分割することで全体としての企業価値を向上させることも目的の1つだとされている。
3社分割の狙いは?全体としての企業価値向上へ
さまざまな事業を複合的に展開する日本の大手企業が、事業を大規模に分割するのは異例だ。
確かに、事業ごとに会社を分割した方が全体としての企業価値が高まる。多くの事業を1社で抱えると企業価値が割安になる「コングロマリット・ディスカウント」という現象が起きるが、分割すればそれを避けることができるからだ。
一方、これまで育てあげた東芝というブランド力が、会社分割によって低下することは避けられない。もし業績が好調だったのであれば、東芝も会社分割という道を選ばなかったはずだ。それだけ東芝はいま苦しい。
続いて、東芝の経営危機に陥った流れを振り返っていこう。
東芝が経営危機に陥った流れは?不正会計問題が引き金
東芝は2015年に不正会計問題が発覚し、2016年には原子力事業において巨額の損失が判明した。その結果、2017年3月期(2016年4月~2017年3月)に債務超過の状況に陥り、損失額は1兆円を超えるまでに膨らんだ。
このようなことがあり東芝は経営危機に陥ったが、「物言う株主」などからの増資もあり、何とか今まで生き延びてきた。しかし、思うように業績が回復できず、株主に対して利益を還元することができないまま今に至る。
このような状況で、今回発表した3社分割の方針が決まった。企業価値を高めるために、やむを得ない決断だった。ちなみに、以下が東芝の売上高の推移だ。直近15年の推移を見ていくと、売上高が右肩下がりの状況になっていることが分かる。
東芝は3社分割を行ったあと、それぞれの企業を2023年度に上場させる方針を示している。
日本の家電メーカー、韓国・中国勢の台頭で苦戦
東芝は、家電メーカーとして日本の大企業へと成長した。東芝の問題を日本のほかの家電メーカーにあてはめるわけにはいかないが、日本の家電メーカーはいずれも昭和、平成、令和という時代を経て、いま非常に厳しい状況に直面している。
その背景にあるのが、中国や韓国の家電メーカーの台頭だ。中国や韓国の家電メーカーが売上高を急速に伸ばし、日本の家電メーカーのシェアは世界的に大きく低下した。日本製品の質の高さは今も世界的に好評ではあるが、価格面などでは太刀打ちできない状況だ。
売上高ベースの家電メーカーの世界シェアは2020年時点で、1位が「サムスン電子」(韓国)、2位が「LGエレクトロニクス」(韓国)、3位が「ハイアール」(中国)となっている。日本企業が上位を独占していたのは、すでに過去の話だ。
東芝の3社分割が「日本の家電メーカー復活の狼煙(のろし)」となるのか、引き続き注目したい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)