貸出動向: 対面サービス業向け貸出の減少続く
(貸出残高)
12月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、11月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比0.54%と前月(同0.78%)を下回った。伸び率の低下は3ヵ月ぶりとなる(図表1)。
10月以降、(前年比で見た)円安の進行が加速したことで外貨建て貸出の円換算残高が嵩上げされていることを考慮すると、貸出の実態はさらに伸び悩んでいる(図表3)。企業収益の改善に伴ってキャッシュフローも回復したことで資金需要が一服したうえ、一部でコロナ禍入り後に予備的に借り入れた資金の返済が進んでいることが重荷になっているとみられる(図表4)。
業態別に見た場合には、都銀の伸び率が前年比-1.07%(前月は-0.67%)と依然前年割れかつマイナス幅を拡大した。一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比1.94%(前月は2.05%)とプラス圏を維持しているものの、プラス幅を縮小している(図表2)。
(業種別貸出動向)
9月末の業種別貸出データを見ると、製造業向けの寄与度が前年比▲1.09%(6月末は▲1.26%)と大幅なマイナスを維持し、引き続き全体の伸び率(6月末0.57%→9月末0.94%)を大きく押し下げている(図表5)。また、従来は前年比でプラスの寄与を続けてきた対面サービス業(飲食、宿泊、生活関連サービス・娯楽業)向けも寄与度がマイナス(6月末0.04%→9月末▲0.11%)に転じており、残高も昨年末をピークとしてじわりと減少してきている(図表6)。一方、不動産業向けや、その他向けの寄与度は依然としてプラスかつ6月末からプラス幅をやや拡大している。
製造業では、収益回復が進んでいることで資金繰りが改善し、資金需要が一服する一方で予備的に借り入れていた資金の返済が発生したとみられる。一方、対面サービス業は9月末にかけて緊急事態宣言などで厳しい収益環境と資金繰りが続いており、製造業のような前向きな資金返済は困難な状況にあったが、コロナ拡大後に借り入れた資金が徐々に返済期限を迎えていることが影響している可能性がある。
ただし、特に飲食業・宿泊業向けの貸出残高は依然としてコロナ前と比べて2割~3割も高い水準にあり、今後の重い返済負担が経営を圧迫すると見込まれる(図表6)。
マネタリーベース:資金供給ペースは実質的にコロナ禍前のレベルに
12月2日に発表された11月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比9.3%と、前月(同9.9%)を下回り、7カ月連続で低下した(図表7)。
低下の主因は引き続きマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率低下(前月11.6%→当月10.9%)である。日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行額が前年同月よりも縮小する一方で、日銀による各種資金供給も国庫短期証券買入れを中心に、国債・ETF買入れ、コロナオペなどで幅広く縮小されていることから、増加ペースが鈍化している(図表7・8)。
その他の内訳では、貨幣流通高の伸び率が前年比0.7%(前月は同0.5%)と5カ月ぶりに上昇したほか、日銀券発行高の伸びも前年比3.1%(前月は同2.9%)と持ち直した(図表7)。
なお、11月末時点のマネタリーベース残高は660兆円と前月末比で3.6兆円減少した。ただし、季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみると、前月比4.4兆円増と前月(2.5兆円増)、前々月(4.5兆円減)から増加ペースがやや持ち直した(図表10)。ただし、同系列では5月以降の平均が前月比1.1兆円増に留まっており、実質的には資金供給ペースはコロナ禍前である2019年の平均(1.3兆円増)並みに減速している。
マネタリーベースの先行きについては、日銀がETFや国債の買入れを抑制するなど市場への関与を徐々に減らしているうえ、今後もしばらく比較対象となる昨年同月の伸び率上昇が続くことから、前年比伸び率の鈍化基調が続くと見込まれる。
マネーストック:市中の通貨量は緩やかな増勢が継続
12月9日に発表された11月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.99%(前月は4.21%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.57%(前月は3.73%)と、ともに低下した。伸び率の水準はそれぞれ2020年4月以来の低水準にあたる。
銀行貸出の伸び率低下や日本の貿易収支赤字化が伸び率の低下に影響しているとみられる(図表11)。
M3の内訳で見ると、主軸である普通預金等の預金通貨(前月7.8%→当月7.6%)の伸び率低下の影響が大きかった。また、CD(譲渡性預金・前月17.3%→当月10.4%)の伸びも大きく低下している。一方、現金通貨(前月3.2%→当月3.4%)が伸び率をやや拡大したほか、定期預金などの準通貨(前月▲3.2%→当月▲3.1%)の伸び率がマイナス幅を若干縮小したことが支えとなった(図表12・13)。
また、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比4.79%(前月は5.00%)と2カ月ぶりに低下した(図表11)。
内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下したうえ、規模が大きい金銭の信託(前月13.8%→当月13.7%)、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月0.3%→当月-0.8%)、国債(前月-0.6%→当月-1.6%)の伸び率がそれぞれ低下したことが影響した(図表13)。投資信託の残高は今年の春以降、伸び悩みが続いている。
ただし、季節調整値の前月比でみた場合では、M2、M3、広義流動性ともに伸び率は小幅なプラス圏で推移しており、市中の通貨量は実態として緩やかな増勢が続いている(図表14)。
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上野 剛志 (うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト
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