人工知能(AI)による株取引は、株価の予測や自動売買サービスにおけるポートフォリオ組成において、すでに社会的に認知されている。スマホでも利用できることから、投資初心者を呼び込む金融商品として証券業界も力を入れている。本記事では人工知能(AI)を活用する株取引を行うメリットと注意点について解説し、併せて人工知能(AI)を活用した株取引ができるアプリを紹介する。

目次

  1. 1. 人工知能(AI)を活用した株取引とは
  2. 2. 人工知能(AI)による株取引のメリット
  3. 3. 人工知能(AI)による株取引のデメリット・リスク
  4. 4. 人工知能(AI)を活用した株取引アプリ・システムを選ぶ際の注意点
  5. 5. 人工知能(AI)による株取引アプリ
  6. 6. 人工知能(AI)による株価予想システム
  7. 7. これからの株式市場と人工知能(AI)
  8. まとめ:AI(人工知能)を活用したアプリは増える傾向。投資家のリテラシー向上が求められる

1. 人工知能(AI)を活用した株取引とは

【株式投資】人工知能(AI)による株取引のメリットと注意点
(画像=PIXTA)

人工知能(AI)を活用した株取引は、人間に代わって人工知能(AI)が銘柄を選んでポートフォリオを構築し、あらかじめ決めた条件を基に自動的に売買する仕組みである。ロボアドバイザーなど投資信託を中心に売買するサービスもあれば、個別銘柄の株価を予測するサービスもある。投資初心者や投資に割く時間がない顧客を中心に、近年利用する人が増えている。

1-1. 金融業界で進む人工知能(AI)の活用法

金融業界では証券会社、銀行、保険会社の各分野で人工知能(AI)の活用が進んでいる。証券会社ではチャットボットを利用してマーケット情報を提供している証券会社がある。株価や外国為替、株価指数などを問い合わせれば24時間対応できるので、ユーザーはリアルタイムで情報を入手できる。

銀行では、顔認証技術を搭載した次世代ATMの開発や、広告物の校閲・校正を人工知能(AI)が行うシステムの実証実験を行っている。また、保険会社では生命保険の保険診断や見積もりを自動応答で行うことが可能になっている。損害保険ではドローンが撮影した画像をAIが解析するサービスを実施している。

1-2. 株取引で利用されている人工知能(AI)の具体例

人工知能(AI)が株取引で利用されている例として、次の4つの項目が挙げられる。

・自動取引
指定した株価になったら買うまたは売る取引方法。株式投資は利益を上げると同時に、いかに損失を少なくするかが大事であり、個人の推測や情に流されずに売買を実行する方法として有益である。現在のところ、個人の行う取引において、AI(人工知能)を使った自動売買の仕組みは一般に採用されていないものの、株価の予測や動向予測においてAIを活用した分析・レポートを行い、売り時や買い時のアドバイスをしたり、ポートフォリオ構築の一助を担うサービスが導入されている。今後は取引そのものへのAI導入の可能性も注目を集めている。

・株価予想
個別銘柄の株価がこの先上がるか下がるかを予想するサービス。専用ソフトが多数リリースされている。無料で利用できるものから3万円程度かかるものまで、コストは異なる。過去の株価やチャートなどを重視する「テクニカル型」と、ファンダメンタルズやニュースなどテクニカル以外の要素を重視する「ファクター型」に分かれる。テクニカル型は予測結果が頻繁に変わる点がデメリットだ。

・顧客対応
証券会社では、チャットボットを利用して各種手続きや口座開設などへの問い合わせに対応している。コールセンターへの問い合わせは、混みあっている場合に待たされることがあるが、チャットボットならチャットで自動的に会話できるので待ち時間を短縮できる。

・不正検知
株取引で最も心配なのがセキュリティの問題である。金融業界では不正検知やサイバー攻撃防止に人工知能(AI)を活用している。人工知能(AI)が顧客のお金の流れを分析し、人間では気づかないパターンの変化を検知する仕組みだ。

2. 人工知能(AI)による株取引のメリット

株取引は元本保証ではないため、リスクを恐れて投資に踏み出せない人が多いだろう。ふだん仕事を持っている人は、取引にかける時間がない、または株取引のリスクを検討する時間がない、という理由も考えられる。人工知能(AI)を活用した株取引のメリットは、それらの問題の一部を解決できることだ。

2-1. 人工知能(AI)による株取引のメリット1:初心者にも簡単

人工知能(AI)による株取引は初心者でも簡単に行うことができる。「ロボットアドバイザー」などのサービスを利用すれば、提示される質問に答えるだけで、最適なポートフォリオを組み、自動で運用してくれる。一部のロボットアドバイザーサービスでは、AI(人工知能)の活用による株価や市場動向分析から、ポートフォリオの組み換えを自動で行うサービスもあり、より高い精度の資産運用が期待されている。

2-2. 人工知能(AI)による株取引のメリット2:AI性能の向上により損失を少なくし、安定的な利回りを得やすい

株取引は売買の判断が難しい。上がるときは「まだ上がる」と欲が出て、下がるときは「もっと下がる」と不安に駆られるのが投資家の心理である。

人工知能(AI)は、銘柄や市場の動向について分析・レポートを行うため、売買のタイミングを計るうえで役に立つだろう。データに裏付けられた傾向を参考にできるため、個人の直観に頼らない投資判断が可能となり、安定的な利回りにつながる可能性がある。

3. 人工知能(AI)による株取引のデメリット・リスク

人工知能(AI)による株取引は安定した利回りが得られやすいといっても、デメリットやリスクはある。とくに注意すべき点として次の4つのポイントが挙げられる。

3-1. 人工知能(AI)による株取引のデメリット1:ツール、アプリ利用料がかかる

高度なツールやアプリを使うには利用料がかかる場合がある。なかには10万円以上の費用がかかるツールもあるので、コストをペイできるかどうか慎重に検討したほうがよいだろう。はじめは無料体験版を提供しているツールを使って、どの程度の損益になるか試してみるのも1つの方法だ。

3-2. 人工知能(AI)による株取引のデメリット2:確実に勝てるわけではない

人工知能(AI)は人間のトレーダーよりも優秀という評価がある。しかし、仮に人工知能(AI)が運用しても負けるときは負けるのが現実だ。とくにロボットアドバイザーは「ドルコスト平均法」の理論を応用して、毎月一定の金額を積み立てる積立投資によって運用される。株式市場が上昇相場にあるときに始めると買付コストが高くなる。その後相場が反転急落して評価損を抱えることは十分にあり得るだろう。

人工知能(AI)による運用が優秀な成績ではあっても、100%利益が保証されるわけではない点を心得て投資する必要がある。

3-3. 人工知能(AI)による株取引のデメリット3:動作環境に左右されやすい

ツールやアプリはすべての動作環境で利用できるわけではない。パソコンのOSがWindowsでは使用できるがMacでは使用できないツールもある。メモリも「2GB以上の実装メモリが必要」などの条件があり、もちろんインターネット環境は絶対的に必要だ。動作するかどうかトライアル版で確認する必要があるだろう。

3-4. 人工知能(AI)による株取引のデメリット4:AI判断で負けた場合の責任の所在が明確ではない

人工知能(AI)に運用を任せた場合、損失が出たときの責任の所在が明確ではない点もリスクだ。株式市場では大きな出来事が起きたときに「フラッシュクラッシュ」(突然相場が大きく動くこと)が起きることがある。

現代はコンピュータが人間に代わってアルゴリズム(単純な計算や操作の組み合わせ)による高頻度取引を行うことが主流になっている。2020年に起きたコロナショックのときも、コンピュータがアルゴリズムによって自動的に売り注文を出したためフラッシュクラッシュが起き、数度にわたってサーキットブレーカー(強制的に取引を停止すること)が発動される大暴落となった。

もし、人工知能(AI)がフェイクニュースに反応して、本来必要のない売り情報を出して損失を発生させた場合に、誰が責任を取るかは大きな課題といえるだろう。自動運転で事故が起きた場合と同じ問題と考えられるので、取引ルールの整備が待たれる。

4. 人工知能(AI)を活用した株取引アプリ・システムを選ぶ際の注意点

人工知能(AI)を活用した株取引のアプリやシステムを選ぶ際には、次の3つのポイントを備えた商品を選ぶことが望ましい。

4-1. 人工知能(AI)を活用した株取引アプリ選びの注意点1:分析データの充実度合い

人工知能(AI)は過去のデータを分析して株価の動きを予測する。したがって、分析するデータが多いほど予測の精度を高めることができる。たとえば、景気の動向を判断するなら「消費者物価指数」、労働環境を判断するなら「失業率」という具合に、過去のデータが充実しているアプリなら人工知能(AI)が正確に予測してくれる確率は高くなるだろう。

4-2. 人工知能(AI)を活用した株取引アプリ選びの注意点2:実績

金融系アプリの場合、一番重要なのは実績である。運用成績が優秀なアプリであれば、運用成績を公式サイトで公表しているので参考になる。逆に運用成績を公表できないようなアプリは注意したほうがよいだろう。

4-3. 人工知能(AI)を活用した株取引アプリ選びの注意点3:価格と機能のバランス

株取引アプリといっても無料から10万円以上する高額なものまで多種多彩な商品がある。はじめは無料アプリで試してみるのもよいだろう。証券会社が会員向けに提供しているものはほとんどが無料で利用できる。経験を積み、より高機能な有料のアプリを購入したい場合は、実績等をよく調べ、価格と機能のバランスがとれたアプリを選ぶことが大事だ。

5. 人工知能(AI)による株取引アプリ

人工知能(AI)による株取引アプリのなかで、代表的な3つについて紹介する。

5-1. 人工知能(AI)を活用した株取引アプリ例1:Theo

「Theo」は経済・金融学者や運用のプロの監修によるアルゴリズムを駆使した、お任せ運用ができるアプリである。231通りのポートフォリオから顧客ごとに適したポートフォリオが提供される。投資対象は最大30種類のETFで、世界86ヵ国、1万1,000銘柄以上に及ぶ。

AI(人工知能)活用の観点からすると、市場の下落リスクを事前に予想するための「AIアシスト」という機能が搭載されている。世界中のニュースやSNSによるつぶやきと市場データの分析から、市場心理を解析、一定期間後に銘柄または資産クラスが大きく下落するかどうかを判断する。このデータを活用して自動的にポートフォリオを最適化させ、リスクを軽減させる仕組みである。

なお、手数料は運用資産額の年率0.715%~1.1%(税込)である。「毎月積立をしている」「出金していない」などの条件によって手数料が段階的に分かれている。

5-2. 人工知能(AI)を活用した株取引アプリ例2:Alpaca ROBO

日本株の個別銘柄について、売り時と買い時をAIが分析、シグナルとして情報配信を行ってくれるアプリ。ユーザーは、アプリ上で情報を参考に株式の売買ができ、ポートフォリオの確認も行える。

40種類以上の市場データを活用し、AIによるリターン予測を行うAlpacaAIと呼ばれるAI(人工知能)の仕組みを採用しており、SBI証券やMUFGといった大手金融機関も出資している。

AI(人工知能)の活用としては、アプリ上で、AlpacaAIが分析する2,000銘柄のうち、買い時、つまり値が上がりそうな銘柄については強気シグナル、逆に値が下がりそうな銘柄については弱気シグナルを表示する。ユーザーは、この情報を参考に売買を行うことができる。また、保有銘柄のポートフォリオについて、小型株、中型株、大型株の保有バランスをAIからアドバイスをしてくれる機能もある。

運用自体は自動化されておらず、投資家の判断で、指定された証券口座から株式の売買を行う仕組みとなっている。口座開設と情報利用料は無料で、アルパカ証券に口座開設をする必要があり、約定代金の0.55%(税込)が手数料として設定されている。

5-3. 人工知能(AI)を活用した株取引アプリ例3:Wealth Navi

「Wealth Navi」は、これまで一部の富裕層や機関投資家など特別な層が活用してきた金融アルゴリズムを取り入れ、高いリターンを上げている人気のアプリである。顧客のリスク許容度(5段階)によってポートフォリオを提供している。

運用はお任せ、自動化されており、設定したリスク許容度と目標金額に合わせて設定されたポートフォリオに対しETFの買い付けにより運用される。運用実績はリスク許容度が高いほど利回りも高いという結果が出ている。手数料は個別の取引ごとではなく、預かり資産残高の1.1%(税込)を日割計算で毎月支払う仕組みだ。

ユニークなのは、AIを資産運用ではなく、投資家への資産運用アドバイスに活用している点だ。一般に長期投資においては、一定期間が過ぎるまで投資スタンスに迷いが生じ、結果、長期投資ができなくなるケースも少なくない。その際に投資家が行う不規則なアクションを読み取り、状況に応じて長期投資に関するアドバイスを行う仕組みになっているという。同アプリがユーザーの長期取引を前提にしたビジネスモデルであることを考えると、取引に対する直接的なAIの活用ではないものの、注目したいアプリといえるだろう。

6. 人工知能(AI)による株価予想システム

人工知能(AI)による株価予想システムのなかで代表的なアプリとして次の3つが挙げられる。

6-1. 人工知能(AI)を活用した株価予想システム例1:AI銘柄ナビ

マネックス証券が提供している無料アプリ。人工知能(AI)がテーマに関連する銘柄をピックアップし、1ヵ月後の株価が上昇するか下落するかを予測する。人工知能(AI)が「ロボット」「5G」「キャッシュレス決済」など注目されるテーマから関連銘柄をピックアップしてくれることから、テーマで投資したい人には便利だ。ただし、具体的な予測株価が表示されるわけではなく、1ヵ月後の株価が「大幅に上昇」「上昇」「下落」「大幅に下落」の4段階でトレンドマークが表示される仕組みになっている。

6-2. 人工知能(AI)を活用した株価予想システム例2:話題株セレクト

急騰が期待されるテーマ株に特化したアルゴリズム搭載の株価予想システム。国内全銘柄から急騰が期待できるテーマ株を人工知能(AI)が自動的にセレクトする。テーマは「話題のニュース」「米大統領選」「デジタル革命」など多数あり、様々な要素を加えたデータを人工知能(AI)が分析し、大きく上昇または下落しそうな銘柄を提示する仕組みである。料金は8万円~だが、無料体験版もある。

6-3. 人工知能(AI)を活用した株価予想システム例3:AI株式チャート

ディープラーニング(深層学習)を使って、日本株の翌日の株価を予測する無料の株価予想システム。ディープラーニングとは、人間が行う作業をコンピュータに学習させる機械学習の手法をいう。「AI株式チャート」ではトップページに証券コードまたは銘柄名を入力するだけで、翌日の予想株価が表示されるシンプルな仕組みで非常に使いやすい。デイトレードを行う投資家に向いているソフトといえる。

7. これからの株式市場と人工知能(AI)

これからの株式市場は人工知能(AI)とどう向き合っていけばよいのだろうか。アルゴリズムによる高速取引を問題視する声は常に聞かれるが、規制などの議論は聞かれず、当面改善される見込みはない。そして、より高い運用でのリターンを目指し人工知能(AI)はますます進化するはずで、市場を席巻する状況は常に想定しなければならないだろう。

証券会社もロボットアドバイザーやファンドラップなど人工知能(AI)を活用してポートフォリオを組む商品の販売に力を入れている。人工知能(AI)による取引が主流になると、投資家が自分で考えて取引する比率は減っていく可能性がある。

そのような時代を乗り切るには、人工知能(AI)に任せきりではなく、自分自身も投資全般や経済動向、株取引の知識を継続してアップグレードしていく必要がある。それには人工知能(AI)を積極的に活用するために、金融リテラシーを向上させる必要がある。

金融リテラシーの向上のためには、最新の市場動向や金融商品に関する知識はもちろん、市場の仕組み、金融商品の仕組みなど、金融に関する基礎的な知識を得ることが重要だ。これにより、中長期的な視野をもつことができ、短期的で最新データに基づく人工知能(AI)との組み合わせによって、投資のリスクを回避できるようになるだろう。「ZUU online」も金融リテラシー向上の一助として活用されることをおすすめしたい。

まとめ:AI(人工知能)を活用したアプリは増える傾向。投資家のリテラシー向上が求められる

AI(人工知能)を活用した株取引は今後も伸びることが予想される。アプリも無料で使える簡易なものから、高機能の有料アプリまで様々な商品がリリースされるだろう。

しかし、人工知能(AI)による取引が主流になるとしても、どのサービスやアプリを選ぶかは投資家が決めなくてはならない。株取引の知見は常に高めておく必要があるといえる。人工知能(AI)を活用した株取引は、投資の新しい因子として今後も注目していきたい。

※本記事は人工知能(AI)による株取引の概要を紹介するものであり、特定のサービスやアプリを推奨するものではありません。また、アプリの手数料や料金は変更になる場合があります。参考程度にお考えください。

丸山

丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。