本記事は、宮川淳哉氏の著書『中小企業のための人事評価の教科書 制度構築から運用まで』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています
人事評価は「客観性」「公平性」「納得性」が最重要か?
●なぜ「客観性」「公平性」「納得性」が求められるのか
「人事評価制度には、客観性、公平性、納得性が必要である」とよく言われます。しかし、改めて考えてみると、なぜ客観性、公平性、納得性が求められるのでしょうか? それは、「査定」として活用しているためです。
・査定だから、主観ではなく、客観的な事実に基づいて評価が行われなければならない ・査定だから、部門間や個人間でのバラつきをなくして公平性を保たなければならない ・査定だから、その結果を本人に納得感を持って受け止めてもらわなければならない
しかし、客観性、公平性、納得性があれば、評価制度の運用がうまくいっていると本当に言えるのでしょうか?
「うまくいっている」と言えるためには、「目的が達成されている」のが前提です。目的は、「社員の成長が実現され、それにより会社の成長や業績向上が実現できている状態」です。現状の目標管理・評価制度がうまく機能しているかどうかの判断基準は上述した目的が実現できているかどうか、つまり「実際に社員が成長できているのか」「目標達成・業績向上が実現しているのか」です。
間違っても、「運用に慣れてきた」「期限どおり評価シートの提出や面談が行われるようになった」ということではありません。それでは手段が目的化してしまいます。
また、「客観性、公平性、納得性のある制度運用ができている」ということも目的ではありません。そもそも、客観性、公平性、納得性を追求することと、社員の成長、会社の成長や業績向上を追求することは意味合いが異なっています。
想像や妄想での評価はもちろん困りますが、数ある事例や行動事実から何を拾い、どのようなウエイトづけをして、どの基準で、どのように評価するのかというプロセスにおいて、主観性を完全に排除することは不可能です。
また、所属している部門・部署が異なれば、目標水準も評価基準もやっている仕事も異なりますので、その基準のズレを0にすることはできず、完全に公平性を保つこともできません。
正しい査定、正しい処遇の差をつける必要があるならば、これら主観性の排除や基準のズレの解消を追求することが必要ですが、そこは本来の目的とは別であると割り切ったほうがよいでしょう。
●効果の出ない評価者研修
評価者研修を企画・開催する企業も多いですが、大多数のケースでは効果がほとんど見られない内容で実施されています。たとえば、評価エラーの紹介、事例を見た上での評価演習・ケーススタディ、グループで意見交換して発表、模範解答の確認・解説などがそれに当たります。こうした考え方を伝える人事コンサルタントや人事制度に関する書籍などにも問題がありますが、それを盲目的に受け入れて惰性で評価者研修が行われているのです。
評価者に求めるべきことは、正確に評価をすることでも評価のズレをなくすことでも主観的な評価をやめることでもありません。「自分が成長し、目標達成すること」と「部下を育成し、部下の目標達成を実現すること」を求めるべきであり、評価者研修を行うならばそれに沿った内容にしなければなりません。
つまり、目標達成と部下育成のためのPDCAを回すためのマネジメントスキルの向上、マネジメントツールの使い方のレベルアップをメインに据えるべきです。具体的には、目標達成と部下育成におけるP→D→C→Aのそれぞれのステップの精度をいかに上げられるかにフォーカスしたマネジメント研修の方が効果的です。やはり、評価力向上のための研修ではなく、マネジメント力向上のための研修のほうが重要です。
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