本記事は、宮川淳哉氏の著書『中小企業のための人事評価の教科書 制度構築から運用まで』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています
評価をしない「ノーレイティング」
●「ノーレイティング」とは
近年、「ノーレイティング」という考え方が注目を集めています。
ノーレイティングとは、1年に一度の人事評価(年次評価)を廃止する動きです。P&Gジャパンや日本マイクロソフト、アクセンチュア、アビドシステムなどの有名企業が導入しています。
ただし、「ノーレイティング」という語感から想像するような「まったく評価をしない」ということではありません。今までのような年次評価やそれによるランクづけではなく、リアルタイムで目標設定をして、頻繁に上司とミーティングを行い、フィードバックにより、その都度評価がされます。
簡単にポイントを整理すると次のとおりです。
【従来の評価制度の問題点】
・環境変化が激しい中、年に一度の目標設定では現実と乖離する ・半期に一度の進捗確認や期末のみの評価・フィードバックではうまくいっていない場合の機会ロスが大きい ・相対評価によるランクづけは評価基準が曖昧で納得性が低くモチベーション低下につながる ・評定結果を処遇(昇格、昇給、賞与など)に反映させる
【ノーレイティングのポイント】(図表10)
・期初の年間目標設定はせずに、リアルタイムでの目標設定、修正、追加を行う ・期末に一度だけ部下の評価を行うのではなく、日々の業務において気づいたことはリアルタイムに部下にフィードバックする ・部下のパフォーマンスや成果の向上にフォーカスする ・年次評価は行わず、マネージャーが部下の貢献度や成果に応じて報酬額を決定する(様々なパターンあり)
「ノーレイティング=人事評価をしない」と言われたらメッセージ性がありますが、そこまでのことではなく、本書でここまでお伝えしている以下の主旨と近い考え方です。
・評価作業に時間をかけない ・頻繁な進捗管理を行い、目標達成に向けてのサイクルを回す ・過去よりも未来に向けた対話・フォローを行う ・時間をかけて評価調整会議や精緻な評定分けを行う必要はない
結局のところ、費用対効果と経済合理性をどのように評価するかです。
本質的な効果を生み出さない作業に時間を費やすことをやめ、どこに時間を使うことが適切なのかを検討した結果と言ってよいでしょう。
逆にノーレイティング運用上のデメリットとしてよく挙げられるのは、次のような点です。
「評価をする立場にある上司は、部下との密接なコミュニケーションを何度も繰り返しながら、状況に応じた目標設定やフィードバック、アドバイスを求められるため、時間、手間、精神的な負担が大きく、高度なスキルを必要とする」
しかし、これはデメリットではありません。それこそが上司が行うべきマネジメントなのです。
だからこそ、上司に対しての直接的支援、間接的支援を行う必要があります。
直接的支援とは、マネジメントスキルや面談スキル、育成スキルについてのトレーニングを行うことで、間接的支援とは、上司が部下と向き合う時間を作れるような環境整備、仕事の分散などを指します。
従来の目標管理の、四半期、半期、年度での評価・フィードバックでは、目標達成や成長に向けてのプロセス管理として圧倒的に少なすぎます。一方で、リアルタイムで求められる随時・頻繁なフィードバックを行うのは負荷が大きすぎるという不満が出てきます。
どちらかを選ぶというよりも、4つの視点に基づいて部下に応じて時間の使い方を変えることが重要です。
画一的されたマネジメントではなく、相手に応じてメリハリをつけるのです。
ちなみに、「年次評価は行わず、マネージャーが部下の貢献度や成果に応じて報酬額を決定する(様々なパターンあり)」については、現実的に運用が難しい企業が多いと思われるため、今後も含めて導入企業はまだまだ少ないでしょう。
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