本記事は、宮川淳哉氏の著書『中小企業のための人事評価の教科書 制度構築から運用まで』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています
人材育成のゴールとは?
育成とはそもそも何を指すか
マネージャー層になると、人材育成や部下育成という役割が期待されます。
しかし、職場での「育成」とはそもそも何を指すのでしょうか?
評価制度を「育成ツール」として活用するために、「どうなったら育成したと言えるのか?(ゴール)」「どうやって育成するのか?(プロセス)」に分けてポイントを押さえる必要があります。
どうなったら育成したと言えるのか?(ゴール)
「会社として社員に求めるもの」ができるようになること。つまり、
1.各役割における目標の達成・問題解決
(1)各役割において目標を達成すること (2)各役割において目標達成や問題解決のための構想や計画を策定し、実行すること
2.各役割における目標達成・問題解決を行うための能力の発揮・行動
(1)各等級に求められる能力を習得すること (2)各等級に求められる能力を発揮・行動すること
の中で、できなかったことができるようになり自律的に仕事を進めることができるようになることが「育成」であり、「成長」です。
「自分はマネージャーとして、部下の育成や部下に対して成長の働きかけができているか?」という問いはマネージャーとして常に自分自身に問いかけるべき質問です。
その質問に対する回答、つまりマネージャーとして部下育成ができているかの判断基準は、「部下の評価シートや等級基準の評価が前年よりも高くなっているかどうか」です。
部下との関わりというと、指導する、相談に乗る、褒める、叱る、信頼関係を築く、勇気づける、声をかける、応援する、フォローする……などさまざまな関わりがありますが、それらは言ってしまえば育成の手段に過ぎません(もちろん手段だから重要でないということではありません)。
部下育成のゴールは、「評価シートに挙げられている項目の中で、何ができていないかを確認・評価し、それらをできるようになること」です。そう考えるとシンプルではないでしょうか。
1.各役割における目標の達成・問題解決
(1)各役割において目標を達成すること (2)各役割において目標達成や問題解決のための構想や計画を策定し、実行すること
というのは、目標管理に該当しますので、ここでは、下記にフォーカスして話を進めます。
2.各役割における目標達成・問題解決を行うための能力の発揮・行動
(1)各等級に求められる能力を習得すること (2)各等級に求められる能力を発揮・行動すること
「各等級に求められる」という言葉がありますので、等級制度がポイントとなります。
等級制度の基本的な考え方
等級制度とは
多くの企業では、「2各役割における目標達成・問題解決を行うための能力・行動の発揮」を「能力評価」「行動評価」「コンピテンシー評価」のような評価項目で評価しています。
この能力・行動の定義を階層別・等級別にまとめていくことになります。
これらは多くの企業で、
・等級別要件 ・等級要件基準
などと呼ばれています。この「等級」とは、社員を階層に区分して格づけを行うもので、その体系を「等級制度」といいます。能力開発の方向性や社員のキャリアパスの指針となります。また、等級が処遇や報酬水準とも紐づくため、等級制度はいわば人事制度の屋台骨とも言えます。
等級制度には、
・職能資格制度(職能等級制度) ・職務等級制度 ・役割等級制度
という3つの考え方があります。
日本企業では、社員が持つ能力を基準とした「職能資格制度」が一般的に採用されてきました。この制度では求められる能力、つまり職能のレベルによって等級の格づけが行われます。これは日本企業に特有の考え方であり、職務や職種を超えて設定できるため、スペシャリストではなく人事異動を前提とするゼネラリスト育成に重きを置く企業で使い勝手が良かったのです。
一方、職務や職種を超えて統一した等級基準をつくる必要があり、どうしても表現の抽象度が高くなりがちで、厳密な等級基準としては使いづらく、年功序列的な運用になる問題点も生じます。これを社員の成長・育成や評価にどう活用するのかが考えどころです。
「評価→育成ツール」としての活用ポイントは、この等級基準を社員の成長・育成にいかに結びつけることができるかです。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます