注目の投資テーマの1つである「SaaS」。クラウド経由でソフトウェアを提供するサービスのことを指し、すでに日本国内の市場規模も1兆円を突破しています。この記事ではSaaS銘柄に投資する際に最低限知っておきたい基礎知識や用語、注目銘柄を紹介します。

目次

  1. 1. SaaSの基礎知識とSaaS銘柄
    1. 1-1. そもそもSaaSとは?
    2. 1-2. SaaS銘柄に注目が集まっている理由
    3. 1-3. 市場規模の推移と今後の予想
    4. 1-4. いつ頃から注目されているのか?
  2. 2. SaaS銘柄に投資をするなら知っておきたい5つの基礎用語
    1. 2-1. サブスクリプションモデル
    2. 2-2. CS(カスタマーサクセス)
    3. 2-3. エコシステム
    4. 2-4. SaaSのプラットフォーム化
    5. 2-5. Vertical SaaS
  3. 3.SaaS銘柄に投資をするなら最低限知っておきたい基礎指標
    1. 3-1. ARR・MRR
    2. 3-2. チャーンレート
    3. 3-3. PSR(株価売上高倍率)
    4. 3-4. 成長目安としての「T2D3」とは?
    5. 3-5. SaaSの「40%ルール」とは?
  4. 4.SaaS関連の注目銘柄は?
    1. 4-1. ユーザベース(マザーズ/3966)
    2. 4-2. システムディ(JASDAQ/3804)
    3. 4-3. ココペリ(マザーズ/4167)
    4. 4-4. プロパティデータバンク(マザーズ/4389)
  5. 5. 有望なSaaS銘柄を発掘し、チャンスをつかもう

1. SaaSの基礎知識とSaaS銘柄

SaaS銘柄への投資における基礎用語&基礎指標、注目銘柄は!?

まずSaaSの基礎知識を包括的に紹介していきます。

1-1. そもそもSaaSとは?

SaaSの読み方ですが、日本語では「サース」もしくは「サーズ」と発音し、メディアなどでは「サース」の方が一般的な読み方と言えるでしょう。SaaS自体は「Software as a Service」(サービスとしてのソフトウェア)を略した言葉です。

SaaSはクラウドサービスの一種に数えられ、冒頭触れたとおり、クラウドを経由してソフトウェアを提供するサービスのことです。SaaSの料金体系はサブスク型が一般的で、使用する機能によって月額料金や年間料金が複数設定されているケースが多数を占めています。

代表的なSaaSとしては、米・Microsoftの「Microsoft 365」、ビジネス用チャットソフトの「Slack」や「Chatwork」、会計ソフトの「freee」、名刺管理ソフトの「Eight」などが挙げられます。

1-2. SaaS銘柄に注目が集まっている理由

「SaaS銘柄」は、SaaS関連のビジネスを展開している上場企業のことを指します。いまSaaS銘柄に注目が集まっている理由は、SaaS市場が将来有望であり、関連企業の今後の業績に対する期待感が強いからでしょう。

将来有望な市場で業績を伸ばしている企業には、自然と投資家の注目が集まります。そして、その企業の株式を買いたいという投資家が増えれば、株式市場において「買い」が先行することで株価が上がっていきます。

さらに今後SaaS銘柄の株価が上がっていくのであれば、早めに投資した方が大きな利益を残すことができます。こうした流れで、いまSaaS銘柄に注目が集まっているのです。

1-3. 市場規模の推移と今後の予想

ではSaaS市場は今後どのようなペースで拡大していくのでしょうか。民間調査会社の富士キメラ総研が2021年7月に国内市場の調査結果を発表していますので、参照してみましょう。

富士キメラ総研によれば、SaaSの国内市場は2020年度見込みで1兆332億円となっており、2019年度比では23.7%増とのことです。この市場規模が2024年度には1兆6,054億円まで膨らむと予想されています。

SaaSの国内市場が2020年度に見込みベースで1兆円を超えたことについて、富士キメラ総研は「新型コロナの影響により、従来対面や紙で実施していたアナログ業務のSaaS化が進んだこと」を要因のひとつとして挙げています。

1-4. いつ頃から注目されているのか?

SaaSという概念自体は2010年ごろにはすでに日本でも浸透しつつありましたが、SaaSが投資テーマとして注目されるようになり、SaaS銘柄がより適切な評価指標(KPI)で比較されるようになったのはごく最近です。

2019年から2020年にかけ、SaaS銘柄では従来から使われている株価指標である「PER」(株価収益率)よりも、「ARR」(年間経常収益)や「MRR」(月間経常収益)、「チャーンレート」(解約率)といったKPIでSaaS銘柄が比較・評価されるようになりました。

PERを使わない理由は、株価と1株当たり利益を使って算出するPERの尺度を使うとSaaS銘柄の割高感が際立ってしまうからです。実際には、SaaS企業の成長余地がまだまだ大きいのが実態です。ARRやMRRといった経営指標については、後ほど詳しく説明します。

2. SaaS銘柄に投資をするなら知っておきたい5つの基礎用語

続いてSaaS銘柄に投資する際に知っておきたい5つの用語を説明します。

2-1. サブスクリプションモデル

サブスクリプションモデル(サブスクモデル)は、定期的に費用を支払って、サービスを利用する形態のことを指します。SaaSでは月額料金や年間料金が指定され、月単位や年単位で契約を更新していくのが一般的です。

2-2. CS(カスタマーサクセス)

SaaSでは「CS」が非常に重要視されます。CSとは「Customer Success」(カスタマーサクセス)の略で、日本語に直訳すると「顧客の成功」という意味です。

要はSaaSを利用して顧客にメリットを感じてもらえれば、サービスの契約を継続してもらえ、自社の売上増・利益増につながるというわけです。

2-3. エコシステム

SaaS市場の今後のさらなる拡大の肝となるのが、しっかりと機能する「エコシステム」がSaaS業界で構築されているかです。エコシステムとは直訳すれば「生態系」の意味です。

SaaS業界におけるエコシステムとは、SaaSを提供する企業が利用するデータセンター、SaaS企業が利用するユーザー課金システム、SaaS企業が提供するサービスの利用をトレーニングする企業などが存在し、生態系のようにつながっている状態のことを指します。

こうしたエコシステムが整わなければ、SaaS企業がスムーズにサービスをユーザーに提供していくことも、サービスを利用するユーザーがSaaSを有効利用していくこともできません。

2-4. SaaSのプラットフォーム化

これまではSaaS企業が個別にサービスを提供していましたが、SaaSサービスを横断的に検索・比較することが可能なプラットフォームも登場しつつあります。

すでにそれぞれの分野で多数のSaaSサービスが存在する現在においては、非常に有用なプラットフォームであると言えます。

2-5. Vertical SaaS

「Vertical SaaS」(バーティカルSaaS)という言葉があります。これは特定の業界・業種に特化したSaaSサービスのことを指します。例えば、会計ソフトはどのような業界でも利用価値がありますが、医療機関向けのSaaSサービスは他の業種では利用価値がありません。

ある業界に特化するためVertical SaaSの個別の市場規模は小さくなる傾向がありますが、その業界の慣例や慣習を踏まえた優れたサービスを開発できれば、その業界を独占できる可能性が高まります。そのため今、各業種向けのVertical SaaSの開発が盛り上がりつつあります。

3.SaaS銘柄に投資をするなら最低限知っておきたい基礎指標

ここまでの説明の中で、SaaS企業を評価・比較する経営指標(KPI)として「ARR」や「MRR」などがあることに触れました。ARRやMRRのほか、どのようなKPIがSaaS業界で重視されているのか、解説していきましょう。

3-1. ARR・MRR

ARRは「Annual Recurring Revenue」、MRRは「Monthly Recurring Revenue」の略語です。それぞれ「年間経常収益」「月間経常収益」を意味し、このARRとMRRがどれくらい成長しているかで、そのSaaS企業の好調ぶりが判断されます。

3-2. チャーンレート

チャーンレートの「チャーン」(Churn)は、日本語では「解約」という意味です。つまりチャーンレートは「解約率」「退会率」という意味で、一般的には「今月の解約数」を「前月の会員数」で割って算出します。

例えば、今月の解約数が70ユーザーで、前月の会員数が1,000ユーザーだった場合、チャーンレートは7%となります。

SaaSサービスの平均的なチャーンレートは3〜10%だとされることが多く、例えばチャーンレートが3%以下のSaaSサービスは、非常に高いCS(カスタマーサクセス)を実現できていると言えます。

3-3. PSR(株価売上高倍率)

SaaS企業のような急成長企業を評価する指標としては、「PSR」もよく用いられます。PSRとは「Price to Sales Ratio」の略語で、日本語では「株価売上高倍率」と訳されます。PSRは「時価総額」を「売上高」で割ることで算出されます。PSRが低いほど、株価が割安と判断されます。

3-4. 成長目安としての「T2D3」とは?

SaaS企業の理想的な成長モデルを示す言葉として「T2D3」があります。この言葉は、サービス開始からARRを「3倍→3倍→2倍→2倍→2倍」と成長させていくモデルを指します。

3倍は英語で「Triple」ですので「T」が2回続き、2倍は英語で「Double」ですので「D」が3回続くということで、「T2D3」と表現されます。T2D3を実現できた企業は、ARRが5年で72倍になります。

3-5. SaaSの「40%ルール」とは?

アメリカのベンチャーキャピタル(VC)などがSaaS企業へ投資するか判断するための基準のひとつに、「40%ルール」があります。「企業の売上高の成長率」と「営業利益率」を足した値が40%を超えていれば、投資を検討する価値が高いと判断されることが多くなります。

4.SaaS関連の注目銘柄は?

続いて、売上高が基本的には右肩上がりの状況が続いており、SaaSサービスを実際に展開する企業の中から、特に注目したい中小型のSaaS銘柄を紹介します。中小型の銘柄の中からピックアップするのは、大型株に比べて今後の成長余地が大きいからです。

4-1. ユーザベース(マザーズ/3966)

ユーザベースはBtoB(企業間取引)のSaaSサービスとして、企業分析サービス「SPEEDA」やソーシャル経済メディアの「NewsPicks」、スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」顧客戦略プラットフォーム「FORCAS」を展開している企業です。

2021年12月期 第3四半期(2021年1〜9月)の決算説明資料によれば、SPEEDAのMRRは5億3,400万円(ARRは64億800万円)、NewsPicksのMRRは2億6,200万円(ARRは31億4,900万円)、FORCASのMRRは1億3,000万円(ARRは15億6,000万円)、INITAILのMRRは4,600万円(ARRは5億5,400万円)とされています。

2021年11月22日時点の時価総額は670億9,613万円となっています。

4-2. システムディ(JASDAQ/3804)

システムディはSsaSサービスとして「School Engine」を提供していることで知られています。このSaaSサービスは小中高校などの教育機関向けの校務支援サービスで、児童・生徒の情報の管理や、学校における徴収金の管理、施設管理などに役立ちます。

2021年11月22日時点の時価総額は81億4,199万円となっています。

4-3. ココペリ(マザーズ/4167)

ココペリは中小企業向けの経営支援サービス「Big Advance」を展開している企業です。ビジネスマッチングやウェブサイトの制作、ビジネスチャットなどのさまざまなサービスが月額3,300円で使い放題となっています。

2022年3月期 第2四半期(2021年4〜9月)の決算説明資料よれば、Big Advanceのチャーンレートは1.78%で、SaaS企業の中でもサービスの解約率が低めであると言えるでしょう。2021年11月22日時点の時価総額は203億851万円となっています。

4-4. プロパティデータバンク(マザーズ/4389)

プロパティデータバンクは、不動産管理のSaaSサービスとして「@プロパティ」を展開している企業です。施設や不動産に関するさまざまな業務をクラウド上でできるようにし、不動産の管理・維持に関するコストを大幅に下げられることが特徴となっています。

2021年11月22日時点の時価総額は91億3,012万円となっています。

5. 有望なSaaS銘柄を発掘し、チャンスをつかもう

この記事では、SaaS銘柄に投資する際の基礎的な知識や注目の銘柄などについて説明してきました。

現在は以前よりもSaaS銘柄を比較するための評価指標が浸透しつつあり、個人投資家が投資先を探しやすくなっていることは、投資をするうえでは非常によい状況であると言えます。

ARRやMRRをチェックして継続的な成長を実現できているかを確認したり、チャーンレートが同業他社と比べて低くないかをチェックしたりしながら、その企業がSaaSサービスを展開している業種の成長性なども見極め、投資する銘柄を選定していくとよいでしょう。

すでに注目度が高い大手SaaS企業は株価もかなり上がってしまっていますが、まだまだ十分に成長余地が考えられる企業も少なくありません。また、新たなSaaS企業が続々と上場しているほか、まださほど注目されていない中小型銘柄を見つけることができれば、投資妙味は大きいでしょう。

文・岡本一道

(提供:SmallCap ONLINE