2022年は、団塊の世代が後期高齢者に
「団塊の世代」という言葉を見聞きすることは多いでしょう。ここで改めて言葉の意味を確認しておくと、1947~1949年生まれの合計約810万人のことを指す言葉とされています。
団塊の世代以外にも「第1次ベビーブーム世代」との呼び名もあります。ベビーブームとは、その名から明らかですが、赤ちゃんの出生が一時的に急増することを指します。ちなみに第2次ベビーブームは1971~1974年で、「団塊ジュニア」という呼称があることからもわかるように、こちらは非常に人口が多い前述した団塊世代の子どもにあたります。
なぜ、このような話をしたのかと言うと、2022年は団塊の世代が75歳以上、すなわち後期高齢者となりはじめる年だからです。「人間は誰しも年を取るもの、何をいまさら…」と思われた方もいるかもしれません。しかし、問題は75歳以上になると、1人当たりの医療・介護費用が急増し、国庫の大きな圧迫要因となるという点にあります。その数の力も相まって、これまで日本の牽引役を担ってきてくれた世代を本格的に支えていくことになる時代がついに現実としてやってくるのです。逆に言えば、人口減少という構造的な問題を抱える日本が、持続可能な社会保障制度を再構築するために残された時間は非常に限られているとも言えます。
とはいえ、社会保障制度のあり方などについては、私たち一人ひとりにとって重要な問題ではありますが、投資という観点からは立ち入る必要がありません。むしろ、この問題を通じて投資家が考えるべきは、「社会の関心が一体どこに向かうのか」という点です。その答えのひとつが今回の注目テーマである「健康・ヘルスケア」となります。
健康・ヘルスケアは、政府が推進する国策テーマ
日本はもともと長寿の国として知られており、実際に2021年版の世界保健統計(World Health Statistics)によると、男女の平均寿命が最も長い国は日本(84.3歳)で 2位はスイス(83.4歳)、3位は韓国(83.3歳)となっています。しかし、昨今重要視されているのは、単なる寿命ではなく「健康寿命」です。
健康寿命とは、平均寿命から介護状態(寝たきりや認知症等)の期間を差し引いた期間のことを指します。ちなみに、厚生労働省は「健康寿命延伸プラン」を2019年に策定しており、(1)健康無関心層も含めた予防・健康づくりの推進、(2)地域・保険者間の格差の解消、という2つを図ることで健康寿命のさらなる延伸を目指しています。
プラン実現のため、厚労省は「自然に健康になれる環境づくり」および「行動変容を促す仕掛け」として、以下3分野を中心に取り組みを推進するとしています。
(1)次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成 (2)疾病予防・重症化予防 (3)介護予防・フレイル対策、認知症予防
その結果、2040年までに健康寿命を男女ともに2016年比で3年以上延伸し、男性が75.14歳以上、女性が77.79歳以上となるよう国家として取り組みます。人口層の移り変わりに伴う社会の関心の高まりに加え、そもそも国策でもある本テーマの株式市場での物色の可能性は今後大きく広がることになりそうです。
フィットネスジムから食に至るまで物色は幅広く波及
関連銘柄としては、まずスポーツジム(トレーニングジム)、フィットネスなどを手掛ける企業が挙げられるでしょう。「コナミスポーツクラブ」を運営しており、健常高齢者特化の「OyZ(オイズ)」を展開しているコナミホールディングス(9766)やライザップシニアプログラムを通じて60歳以上の動けるカラダづくりを支援するRIZAPグループ(2928)の知名度が特に高いかもしれません。
そのほかにもルネサンス(2378)、カーブスホールディングス(7085)、トゥエンティーフォーセブン(7074)、アルペン(3028)、デコルテ・ホールディングス(7372)、東祥(8920)、セントラルスポーツ(4801)、三洋堂ホールディングス(3058)、アトラグループ(6029)、ジェイエスエス(6074)、アールビバン(7523)、音通(7647)、三菱地所(8802)、東急レクリエーション(9631)など関連銘柄は豊富です。
また、運動だけでなく「食」も健康に大きく関わっています。健康食品・サプリメントのOEM受託製造を行うAFC-HDアムスライフサイエンス(2927)、食事コントロールを通して血液検査結果の数値改善を目指す健康食宅配サービスなどを手掛けるファンデリー(3137)、サプリメントや健康飲料の提案、海外人気ブランドの健康食品などの調達を行う大木ヘルスケアホールディングス(3417)、スティックゼリー・ドリンクサプリのパイオニアである室町ケミカル(4885)などが挙げられます。
その他、健康食品、化粧品、日用雑貨、医薬品の企画製造販売を手掛けるグラフィコ(4930)、新規事業として加工食品事業&生活雑貨事業を育成しているリベルタ(4935)、「Natural Healthy Standard.」というブランドでスムージーや酵素ドリンク等を展開するI-ne(4933)、グループ企業が健康補助食品事業を担う総医研ホールディングス(2385)などが新興市場では挙げられそうです。ここでは広がり過ぎるので取り上げませんが、「アンチエイジング」などのキーワードが社会で大きく取り上げられたこともありました。抗酸化作用を持つ飲食物を手掛ける企業にも物色が向かう可能性もあるでしょう。
ヘルスケアとテクノロジーの造語「ヘルステック」に注目
そして最後に見逃せないのが、「ヘルステック」です。Fintech(フィンテック)やEdTech(エドテック)などと同様の造語で、「Healthcare(ヘルスケア)」と「Technology(テクノロジー)」が掛け合わされています。先程登場したI-neは、上質な茶葉を使用し、独自製法によりニコチン0mgを実現した喫煙具「NICOLESS」を子会社が手掛けています。
エムスリー(2413)は、一般の方が健康について、インターネットで気軽に医師に相談できるQ&Aサイト「AskDoctors」を運営しているほか、グループ会社が先端研究とビッグデータを切り口に予防医療の普及を目指しています。オプティム(3694)やメディカル・データ・ビジョン(3902)は、オンライン診療プラットフォームを提供。シスメックス(6869)は、採血せずにヘモグロビン推定値を測定できる健康モニタリング装置など、さまざまな「診断・治療」から「予防・健康管理」まで幅広くサービスを展開しています。
シップヘルスケアホールディングス(3360)は最先端のがん治療施設「大阪重粒子線センター」の管理・運営。エス・エム・エス(2175)は、ヘルスケア事業において、認知症予防ソリューションやICTを活用した禁煙サポートを展開。さらに、シニアライフ事業を通じて、多様なシニアライフにおける困りごとの解決に対応しています。
本稿では、出来るだけ網羅的に紹介するよう努めましたが、関連銘柄が多いためそれでも紹介できたのは一部です。さらに詳しく調べて、知識を蓄え、物色の波を待ちましょう。
文・村瀬智一(RAKAN RICERCA)
(提供:SmallCap ONLINE)