各業界で進むバリューチェーンの見直し
突きつけられたこのバリューチェーンの見直しという大きな命題に対して各産業では、大手企業を中心に2050年に向けた脱炭素社会実現へのロードマップを示し実現に向けた施策を模索し始めている。具体的な例を挙げよう。
電力業界
脱炭素社会の実現に向けて最も大きな影響を受けるのが、化石燃料による温暖化現象の原因と揶揄される電力業界だろう。
各電力業界は、ゼロカーボンに向けた施策を策定した。関西電力は「ゼロカーボン2050」を2月に策定し、事業活動に伴う二酸化炭素(CO2)排出を2050年までに全体としてゼロにする目標を策定している。そのために①デマンドサイドのゼロカーボン化、②サプライサイドのゼロカーボン化、③水素社会への挑戦を3つの大きな柱に据えて取り組む方針で、自社内に「ゼロカーボン委員会」も発足させている。
関西電力は、脱炭素ソリューショングループを設け、法人顧客のロードマップ策定からエネルギーマネジメントサービスまで、ゼロカーボン化実現に向けてまさに自社のバリューチェーンを見直す活動を加速させている。
食品・飲料業界
食品や飲料業界でも「ゼロカーボン化」に向けた取り組みを強化している。サントリーホールディングスは、「2050年ネットゼロビジョン」を掲げるが、ビジョン達成へのカギとなるのがバリューチェーン全体でネットゼロを目指す「共創」の重要性である。カーボンゼロ工場の稼働に加え競合他社との共同配送、リサイクルの促進に加えサプライヤーとの共創等、社内外が一致団結し知恵を絞ることで新たなイノベーションを起こすことが重要としている。
不動産・デベロッパー業界
街づくりの中核をなす不動産・デベロッパー業界も「カーボンニュートラル」への対策を着々と進めている。三井不動産は2020年に「2050年のカーボンニュートラル」を目標に掲げたが、ここでもバリューチェーン全体での「共創」を掲げている。自社単独での目標達成には限界があり、建築段階からテナントへの貸し出し等の運用段階まで、一連の関係者との協業と共創で実現させる方針だ。
日立製作所はバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを
日立製作所は9月、「2050年度までに自社の生産活動、調達、製品/サービスの使用などバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現し、ネットゼロ社会に貢献する」という目標を掲げた。具体的には2050年度までにバリューチェーンで使用する二酸化炭素排出量を2010年度比で80%削減するとしており、製品の設計段階から環境負荷の低減を図るとしている。また、「サスティナブル調達ガイドライン」を新たに発行し、調達パートナーと協力して二酸化炭素削減に取り組んでいくという。
以上大手企業の2050年に向けた「ゼロカーボン化」への取り組みをみれば一目瞭然だが、地球温暖化対策という企業価値を示す物差しが変われば、これまで付加価値を生んできた原材料調達や輸送、使用段階も含むバリューチェーン全体も見直しや新たなイノベーション開発に迫られる。
さらに各工程の見直しに際しては、その効率化の観点からDX化の積極的な導入も促進され、企業活動全体でのバリューチェーンが、変化せざるを得ないのである。まずは自社の生み出す製品やサービス等の定量的評価を実施し、環境負荷に対する貢献を可視化することが重要だといえるだろう。