トヨタにみるイノベーションによる新たな付加価値創造
「ゼロカーボン化」への取り組みは、日本の基幹産業である自動車産業にも大きなバリューチェーンの見直しを迫っている。
トヨタは、カーボンニュートラルなモビリティー社会実現に向けて、究極のクリーンエネルギーと呼ばれる水素を活用した「水素エンジン」の技術開発に取り組んでいる。トヨタの内燃機関エンジンを基本としたハイブリッドシステムやプラグインハイブリッドシステムは、その二酸化炭素排出量の低減から自動車産業界で唯一無二の高付加価値システムとして、日本では珍しいデファクトスタンダードを確立した。しかし、「ゼロカーボン化」により根本的な価値が覆った。
そうしたエンジンシステムのパラダイムシフトが起こったなかで、トヨタは燃料電池車(FCV)を世界に先駆けて発表。「ゼロカーボン化」に向けて先陣を切った。水素を空気中の酸素と化学反応させて電気を発生させることでモーターを駆動させるシステムをつくり上げたのだ。
ガソリンを主体とした内燃機関システムから二酸化炭素を発生させない「水素」という付加価値にバリューの主軸を置いたトヨタはガソリンエンジンから燃料供給系と噴射系を変更し、水素を燃焼させることで動力を発生させる「水素エンジン」というイノベーションと「水素」をバリューの主軸に置いたバリューチェーンの構築に取り組んでいる。
トヨタは2020年12月、水素分野におけるグローバルな連携や水素サプライチェーンの形成を推進する新たな団体「水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)」に加盟した。
JH2Aは、地球温暖化対策で中心的な役割を果たすと期待される水素に関し、日本が世界的なリード役を果たすべく、さまざまなステークホルダーと連携して水素社会推進に向けて取り組む団体である。参加会員はトヨタを筆頭に岩谷産業、ENEOS、川崎重工業、三井住友フィナンシャルグループ等88社(2020年12月現在)となっている。
トヨタは9月に安定した水素供給を可能にするための実証実験の一つとして、オーストラリアで作られた水素を調達して耐久レースに水素エンジン車で挑んだ。水素を活用した脱炭素社会を実現するためには、水素の安定供給は欠かせない。しかし国内生産だけでは見込まれる需要を賄えないところから、将来の海外を含むサプライチェーン構築のための実証実験に挑んだのである。
変わるグローバル・バリューチェーンの流れ
すでに川崎重工業や岩谷産業、Jパワー等が「HySTRA」と呼ばれるサプライチェーン構築に向けた連合を形成しており、オーストラリアから日本に水素を運ぶプロジェクトを進めている。こうしたグローバル・バリューチェーン(GVC)構築の流れは、新たなイノベーションの創出に伴い、素材調達から生産、輸出入というこれまでと異なるバリューチェーンとして形成されるのである。