この記事は2022年1月14日に「きんざいonline:週刊金融財政事情」で公開された「気候変動や経済安保対応で22年のエネルギー価格は高止まり」を一部編集し、転載したものです。
2021年夏の欧州の発電量不足を端緒として、世界的な天然ガス不足と価格高騰に市場関係者の注目が集まった。海外では新型コロナウイルス感染の状況よりも、電気料金や燃料費の高騰が連日トップニュースとして報じられた。北半球の厳しい冬はようやく半ばに差し掛かり、季節的なエネルギー需要は峠を越えつつある。しかし、需給バランスの悪化という一言では片付けられない課題にも直面した。
課題の1つは自然との共生だ。ガス不足の発端は、欧州で吹く風が足りなかったために風力発電が十分に機能しなかったことだ。また、ブラジルでは少雨の影響で、主力である水力発電量が例年以上に低下した。中国でも水力発電を主力としている雲南省で、天候が不安定となり電力不足が生じた。折からのラニーニャ現象の影響により、地域によっては少雨や低温が続いたことで、ガス需要が高まり需給が逼迫する状況となった。自然エネルギーは環境には優しいが、常に必要なエネルギー量を供給してくれるわけではない。人間が生物である以上、私たちは自然に翻弄され続ける。
2つ目は拙速な気候変動対応だ。化石燃料由来ではない再生可能エネルギーによる電力供給が求められるなか、不測の事態が生じた場合は二酸化炭素(CO2)排出量の少ないガス発電での補完が検討されてきた。石炭も有力なバックストップ(安全策)候補だが、地域や設備によってはPM2.5に代表される微小粒子状物質や窒素酸化物、硫黄酸化物などの排出により大気汚染を引き起こす原因として敬遠されている。結果的に、ガスに発電用需要が一気に集中し価格が高騰した。価格変動は需給調整を促すはずだったが、目前に迫る厳しい冬を前に調整機能が大きく低下したことも価格乱高下の要因となった。
3つ目は経済安全保障だ。エネルギーは「地産地消」が理想とされるが、天然ガスなどエネルギー資源の産地は限られている。欧州では域内生産の不足分をロシアや米国、中東から調達しているが、ウクライナの問題でロシアとの対立が先鋭化しており、エネルギー調達に不安が生じている。同盟国の米国から液化天然ガス(LNG)を輸入する声もあるが、コストの問題に加え、米国内の需給逼迫につながる懸念から、米国では追加輸出に反対する意見もある。
欧州で生じたガス不足が世界中に短期間で波及した以上、日本にとっても対岸の火事で済まされる問題ではなくなった。2022年もLNGなど主要エネルギー価格の高止まりが予想される(図表)。エネルギー多消費型産業を中心に脱炭素化対応に加え、費用転嫁や仕入れ、販売における与信管理など、現場対応の難しさも一段と高まりそうだ。
住友商事グローバルリサーチ チーフエコノミスト / 本間 隆行
週刊金融財政事情 2022年1月18日号
(提供:きんざいOnline)