2021年はガソリン価格の高騰に加えて長雨の影響により野菜の価格も値上がりした。こうした仕入コストの上昇は商品やサービスの価格設定に大きく影響するため、悩まされる経営者も多いだろう。自社商品の価格を適切に設定するためにも「価格弾力性」の言葉の意味と仕組みについて理解しておきたい。
目次
商品の価格設定を行うには価格弾力性を理解する必要がある
マーケティング用語でいう「価格弾力性」とは、「商品の価格の変動」に対して「需要が変化した割合」を数値化したものだ。まずは価格弾力性の言葉の意味を理解していこう。
経営戦略に重要な商品の価格設定
企業経営において商品やサービスの価格の設定が重要であることは誰でもわかる。商品やサービスの価格を設定する場面をケースごとに見てみよう。
・1.新しく事業・店舗を開始するとき
「オープニングキャンペーン」により格安の目玉商品を用意して自社を知ってもらうことで顧客数の増加や顧客1人あたりの購入金額の増加を狙う方法がある。新しく事業や店舗を開始したときには、まずは知名度を上げて自社を知ってもらうことが必要になるだろう。起業して事業を新しく開始するには、商品やサービスの適正な価格を設定し、広告宣伝も含めた販売戦略を練ることから始まる。
・2.商品やサービスの価格を変更(調整)する必要があるとき
長く商売をしていれば商品やサービスの価格を調整する場面が必ず来る。売上が思うように伸びなければ「特売セール」「割引キャンペーン」のイベントを打つこともあるだろう。しかし物価の上昇・下落は、販売価格に影響するため、どのような商品やサービスを価格調整の対象にするべきかはよく検討する必要がある。単に価格を安くしただけでは、利益を圧迫しかえって経営悪化を招きかねない。
価格弾力性を考慮することなくセールやイベントを行うと値下げをしても十分な利益を確保できない。値引きに適した商品と適さない商品があり、それに合わせた価格設定が必要になるのだ。値下げ効果が高い商品と低い商品を判断するためにも価格弾力性を理解することは重要だ。
・3.新たな商品やサービスを提供するとき
新たに商品やサービスを提供する場合には、その商品・サービスに合わせた販売戦略が必要となるため、市場の需要量と供給量を分析することが不可欠だ。商品価格は売上や利益に大きな影響を与えるため、価格設定は販売戦略の基本となる。価格設定には仕入コストや人件費、広告宣伝費やブランド力などさまざまな要素が影響し商品やサービスの種類によっても異なるのが特徴だ。
事業計画を作成する際も需給の有無を十分に検討し、その裏付けがなければ実行できない。事業計画が「絵に描いた餅」では、なにも意味がないのだ。
価格弾力性とはなにか
価格弾力性は、価格弾性値とも呼ばれ、市場における商品の価格の変化率と需要または供給の数量の変化率で、価格が需要や供給にどのような影響を与えるかを測定するための指標のこと。一般的に以下のように表現される。
- 基準値「1」を下回る:価格弾力性が小さい
- 基準値「1」を上回る:価格弾力性が大きい
価格弾力性の大小は、以下のように言い換えることが可能だ。
- 価格弾力性が小さい:価格が変動しても需要または供給の変動が小さい
- 価格弾力性が大きい:価格が変動しても需要または供給の変動が大きい
基準値が「0」であれば価格の変動が需要や供給にまったく影響を与えないことになる。また価格弾力性は、変化率を基に計算し、絶対値で表現するためマイナスとなることはない。例えば値上げ10%も値下げ10%も変化率としては同じ10%で計算することになる。
・1.需要の価格弾力性は「需要量の変化率 / 価格の変化率」
価格を10%上げた場合の需要の価格弾力性を見てみよう。
【需要が30%減少した場合】
パソコンの価格を10%上げて需要が30%減少した場合、パソコンにおける需要の価格弾力性の計算式は以下のようになる。
- パソコンの需要の価格弾力性=3(30%÷10%)
【需要が5%減少した場合】
大根の価格を10%上げて5%しか需要が減少しなかった場合、大根の需要の価格弾力性は「1」を下回る。
- 大根の需要の価格弾力性=0.5(5%÷10%)
パソコンの場合は、10%価格が上がることで需要は30%も下がり、パソコンの価格弾力性は「1」を上回ることから、価格の上昇が需要に与える影響が大きいことになる。一方で大根の価格弾力性は、「1」を下回り価格の上昇が需要に与える影響が小さいことがわかるだろう。
・2. 供給の価格弾力性は「供給量の変化率 / 価格の変化率」
同じように価格を10%上げたときの供給の価格弾力性を見てみよう。
【供給が30% 増加した場合】
パソコンの価格を10%上げて供給が30%増加した場合、パソコンにおける供給の価格弾力性の計算式は以下の通りだ。
- パソコンの供給の価格弾力性=3(30%÷10%)
【供給が5% 増加した場合】
大根の価格を10%上げて供給が5%しか増加しなかった場合、大根の供給の価格弾力性は「1」を下回る。
- 大根の供給の価格弾力性=0.5(5%÷10%)
パソコンの場合は10%価格が上がることで供給量は30%も増加し、パソコンの価格弾力性は「1」を上回ることから、価格の上昇が供給に与える影響は大きいことを意味する。一方大根の価格弾力性は「1」を下回り、価格が上昇してもすぐに大根の出荷量を大幅に増やすことはできない。価格の上昇が供給に与える影響が小さいことがわかる。