「無くて七癖」という言葉がある。小学館のデジタル大辞泉には「どんな人でも多少は癖があるものだということ」と記されている。癖は人間が無意識のうちに行う習慣的な行動とみられるが、実は「脳」にも癖があるのをご存知だろうか? いわゆる「認知バイアス(Cognitive Bias)」と呼ばれるものだ。

「認知バイアス」は認知心理学や社会心理学等のさまざまな観察者効果の一種とされている。『自分では気づかない、ココロの盲点』(朝日出版社)の著者で脳研究者でもある、東京大学薬学部の池谷裕二教授は、認知バイアスをより平易な言葉で「脳の癖」だと指摘している。

「脳の癖」は時として合理的な判断や意思決定の妨げとなる厄介者だ。たとえば、株式投資でも「脳の癖」に翻弄されて、利益を得るチャンスを逃したり、大きな損失を出すことも珍しくない。「脳の癖」というバイアスがかかることによって、間違った判断をするということだ。では、投資判断を左右する「脳の癖」にはどのようなものがあるのだろうか?

今回は投資家として特に理解しておきたい4つの「認知バイアス」を紹介したい。

リスクやチャンスを正確に判断できない「アンカリング効果」

投資,失敗する人
(画像=Graphs / pixta, ZUU online)

まず、1つ目の「脳の癖(認知バイアス)」として理解しておきたいのが「アンカリング効果」である。アンカリング効果とは「最初に得た情報」の印象が強く残ってしまい、船がアンカー(いかり)で固定されているように思考が固まってしまう状態のことだ。

たとえば、過去の上昇局面で付けた高値を忘れることができず、株価の流れが変わっても「いずれは値上がりする」と思って損切りの機会を逃すケースなどだ。いわゆる「高値覚え」と呼ばれる現象である。一方、逆パターンとして「安値覚え」もある。「安値覚え」は過去の下落局面で付けた安値の印象が強く残ってしまい、株価が上昇に転じても「いずれは値下がりする」と思って、買いのチャンスを逃すケースを指す。これは投資に限った話ではないが、「アンカリング効果」の罠に気づかずに行動していると、リスクやチャンスを正確に判断できずにいつまでたっても成果を出せなくなる可能性がある。

自分に都合のよい情報ばかりを集める「確証バイアス」

2つ目に理解しておきたいのが「確証バイアス」である。人は自分の価値観や信念を否定するような情報に接すると不快になることがある。これを専門用語で「認知的不協和」と呼ぶ。確証バイアスは、認知的不協和を避けようとして、自分の考えや価値観を肯定するような「都合のよい情報」ばかりを集め、逆に自分に都合の悪い情報は無視する傾向のことだ。

たとえば、値上がりを見込んでA社の株を保有しているとしよう。ここで認知的不協和を避けようとする心理が働くと、A社のポジティブな情報ばかりを重視し、ネガティブな情報に目が向かなくなる。その結果、損失を回避するための重要な情報を見落とすことにもなりかねない。

自分の価値観や信念を否定するような情報を避け続けていると、視野が狭くなる恐れもある。既成概念にとらわれない新しい価値観を創造するような企業を見つけるには、投資家自身も広い視野を持つことが必要だろう。

「損をしたくない」気持ちが損失を拡大する?

3つ目は「プロスペクト理論」である。プロスペクト理論は、1979年に米国の心理学者・行動経済学者のダニエル・カーネマン氏と心理学者のエイモス・トベルスキー氏が公表した理論で、「人間は利益を得た時の満足感よりも、損失を被った時の不快感のほうが勝る」というものだ。

たとえば、株式投資で100万円の利益を得た喜びよりも、100万円を失う苦痛のほうが遥かに大きい、とされるもので、このような心理状態を「損失回避性」という。

損失回避性の高い人は、株式投資で含み益を得ても「いま売らないと下がるかもしれない」との不安を強める傾向にある。このため、わずかな含み益で利益確定に走りがちだ。一方で、含み損を抱えると「損をしたくない」気持ち(損失回避性)が強いために損切りに動くことができない。それどころか、損を取り戻そうとしてより大きなリスクをとることさえある。

筆者の知人でも長年コツコツと積み上げてきた利益を、たった1回の損失で吹き飛ばした人がいるが、そういう人は損失回避性が高い傾向にあると考えることができる。

「バンドワゴン効果」にもご注意を!