全国のレギュラーガソリン価格が、2022年1月に170円を超えた。ガソリン価格の上昇は、家計の負担が増えるだけでなく、企業のコスト高要因となりインフレを招きうるため、日本経済全体に与える影響に注目したい。ガソリン価格は今後どうなるのか? 高騰は続くのか? 2022年のガソリン価格推移の予測・見通しを考えるヒントを提示する。また、ガソリン価格高騰時のインフレヘッジ手段として有効な投資方法についても紹介したい。

目次

  1. 1. 国内のガソリン価格推移と高騰の理由は?
  2. 2. 国内のガソリン価格の決定要因
  3. 3. 原油・ガソリン価格高騰の影響
  4. 4. ガソリン価格推移、今後の予測・見通しは?
  5. 5. ガソリン価格推移の上昇への対応策
  6. まとめ:原油・ガソリン価格推移は高止まりか。インフレヘッジとしての投資妙味も

1. 国内のガソリン価格推移と高騰の理由は?

ガソリン価格推移と今後の予測 高騰に対するヘッジ手段とは?
(画像=PIXTA)

まず、国内のガソリン価格の現状と、高騰の理由について解説する。

1.1. 国内のガソリン価格の推移

資源エネルギー庁によると、国内のレギュラーガソリンの店頭価格は2022年1月31日に全国平均で170.9円をつけた。2014年にも169円台まで高騰したが、170円を超えるのは、2008年9月以来、約13年ぶりのことだ。約1年前との比較では、31.3円(約23%)の上昇だ。2月前半も下がることはなく、171円台で高騰が続いている。

▽レギュラーガソリン店頭価格(全国平均)の推移(2008年1月7日〜2022年1月31日)

レギュラーガソリンの全国平均価格や都道府県別価格などは、石油情報センターが調査を行っている。調査の結果は毎週水曜日に発表され、資源エネルギー庁ウェブサイトの下記ページにて「1.給油所小売価格調査(ガソリン、軽油、灯油)」の項目で確認できる。

【参考】資源エネルギー庁「石油製品価格調査」

1.2. 国内のガソリン価格高騰の理由

ガソリン価格に大きく影響するのは、原料となる原油の価格だ。原油価格は市場の需要と供給のバランスに応じて推移する。2022年2月現在のガソリン価格高騰の原因は、原油が世界的な需給のひっ迫で高騰していることだ。

新型コロナの感染拡大で停滞していた経済活動が再び活気を帯び、景気回復に伴い燃料需要が高まっている。米国やアジアなど世界的に入国制限を撤廃する動きが出て来ており、人の動きが燃料需要をさらに加速させる可能性もある。

2. 国内のガソリン価格の決定要因

続いて、ガソリン価格推移を決定づける原油の状況を見ていこう。原油価格は高値で推移し、その背景にある原油の供給量も、主要な産油国が協調減産を行っていることなどから、需要に対して不足している。また、原油の輸入に影響する為替相場の状況も見ておこう。

2.1. 【原油価格】WTI原油先物価格が約7年ぶりの高値

原油価格の世界的な指標となるニューヨーク市場のWTI原油先物価格は、2022年2月2日に一時1バレル89ドル台まで上がった。終値は1バレル88.26ドルで、2014年10月以来、約7年4ヵ月ぶりの高値だ。

▽WTI原油先物価格の推移(2020年1月〜2022年2月初旬、週足)

2.2. 【原油の供給量】景気回復に伴う需要増も、OPECプラスは増産に消極的

原油価格高騰には、原油需給のひっ迫が影響している。ワクチンの普及で世界的に景気が回復し、エネルギー需要も高まったが、供給は不足しているのだ。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国からなるOPECプラスは、増産に消極的だ。

2022年2月現在の原油需給のひっ迫について、ここ2年ほどのOPECプラスの協調減産について振り返っておこう。

2020年、新型コロナの感染拡大の影響で世界経済が停滞した。原油は、需要は減少して供給過剰に陥ったことで、価格が急落した。これを受けて、OPECプラスは同年5月から協調減産を開始。減産幅の規模は過去最大で、5〜6月は日量970万バレルの減産(1日あたりの生産量を970万バレル抑える対応を、2ヵ月継続)とした。

2021年には、ワクチンの普及を背景に世界経済は予想を上回る速さで回復に向かい、原油需要が世界的に急増した。一方、OPECプラスは、減産幅を段階的に縮小し、供給量を少しずつ増やすことを決めており、2021年8月以降は月ごとの供給量を日量40万バレルずつ増やしてきたが、コロナ禍以前の供給量には戻っていない。需要の回復に対して産油国の増産ペースが伴っていないため需給がひっ迫している。

2021年秋以降の原油高騰を受け、米国はOPECプラスに対して増産を繰り返し要請している。しかし、OPECプラスは「市場は均衡しているため供給量を増やす必要はない」として増産ペースを上げていない。さらに、生産目標に対して実際の生産が追いついていないのが実情だ。

このほか、ウクライナ情勢の緊迫化によって、世界の主要な産油国であるロシアから欧州への天然ガスや原油の供給が滞る懸念も高まっており、原油高の一因となっている。

また、需給ひっ迫の長期的な要因としては、世界的な脱炭素化の流れから原油に対する投資が縮小し、供給力に影響していることが挙げられる。

国際エネルギー機関(IEA)がまとめた世界のエネルギー投資に関する報告書によると、2021年は、再生可能エネルギーへの投資が、石油・ガス上流(探鉱・開発・生産など)への投資をはじめて上回った。

2021年は世界経済が回復に向かった一年であり、石油・ガス上流への投資は前年より8%増加し3,510億ドルとなる見込みだが、それでも再生可能エネルギーへの投資額(3,670億ドル)を下回っているという。

【参考】International Energy Agency「World Energy Investment 2021」(PDF)

2.3. 【為替相場】約5年ぶりの円安水準

ここまで原油の状況を見てきたが、日本は原油を輸入に頼っていることから、為替相場にも着目したい。原油を輸入する石油会社がガソリン価格を決めるうえで、もっとも価格変動に影響するのが、原油の輸入コストだ。円安になると原油の調達コストが上がる。

ドル・円相場は、2020年末に103円台だったが、2021年年末には115円台まで円安ドル高が進行。2022年1月4日には、一時1ドル116円台をつけている。

▽為替レートの推移(ドル・円、2020年2月〜2022年2月、週足)

3. 原油・ガソリン価格高騰の影響

周知のとおり、原油・ガソリンは国民生活や企業の経済活動のあらゆる場面に利用され、利便性の高い生活を維持するために欠かせないものだ。価格高騰による影響として、主に次の3つが挙げられる。

3.1. 原油・ガソリン価格高騰の影響1:家計の負担増

ガソリン価格高騰の直接的な影響としては、家計の負担増が真っ先に挙げられる。地方を中心に主な移動手段として自家用車を利用する人口は多い。高騰を受ければ、財布の紐が固くなる。

さらに、原油・ガソリン価格高騰で企業が打撃を受け、さまざまなものの値上げという形でも個人消費を冷え込ませる。原油はプラスチック製品の原料となるため、原油価格高騰はあらゆる商品の包装材のコストを増加させる。そして、ガソリン価格高騰は物流コスト上昇に直結する。

これらのコスト増による負担を企業が吸収するのは限界があり、やむをえず価格転嫁する企業も出てくる。値上げは消費者の買い控えを招き、個人消費を押し下げることになる。

3.2. 原油・ガソリン価格高騰の影響2:GDPを短期的に0.85%押し下げる

原油価格高騰がGDPにもたらす影響については、野村総合研究所(NRI)のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏の試算がある。

それによると、原油価格が2021年1月の1バレル50ドル台から同年10月の時点で80ドル台へと約60%上昇したことは、個人消費を短期的に0.75%押し下げるとしている。また、2021年の年初から円は対ドルで10%近く円安に振れており、個人消費を短期的に0.10%押し下げるとした。あわせてGDPを短期的に0.85%押し下げる要因だ。

木内氏は、原油高と円安の同時進行が個人消費にもたらす打撃は大きいとし、日本経済の回復に水を差す可能性を指摘している。

【参考】NRI ナレッジ・インサイト「原油高・円安の同時進行は既に個人消費を約0.9%押し下げ」

3.3. 原油・ガソリン価格高騰の影響3:インフレ率上昇でスタグフレーションの懸念

世界経済への影響についても、ふれておきたい。原油高騰や物流停滞を背景に、世界は記録的なインフレ率上昇に直面している。2021年12月、米国の消費者物価指数が前年同月比で7.0%の上昇となった。7%台は39年半ぶりだ。欧州でも、ユーロ圏19か国の2022年1月の消費者物価指数が前年同月比で5.1%の上昇となり、伸び率は過去最大だった。

このままインフレ率が高い状況で景気が下降局面に入ると、スタフグレーションの懸念がある。スタグフレーションとは、不況下での物価高のことだ。景気が悪化すると、通常は需要の落ち込みから物価は下がるが、原油や原材料価格が高騰すると、通常とは反対に物価が上昇する場合がある。

スタグフレーションの代表例は、第1次石油危機時の世界景気後退だ。1973年10月の第4次中東戦争勃発を機に、OPECが原油の供給制限と原油輸出価格の大幅な引き上げを実施し、原油価格は4倍に急騰。世界経済は大きく混乱し、インフレが加速するとともに厳しい景気後退局面に入り、金融市場も崩壊した。今回の原油高騰によるインフレを受けて、スタグフレーションを警戒する声もある。

4. ガソリン価格推移、今後の予測・見通しは?

ガソリン価格推移は、今後どうなるのか。国内では、政府が補助金によるガソリン価格抑制に乗り出したが、その効果は消費者にダイレクトに届くわけではなく、対象期間も限定されている。さらに原油の需給から考えても、ガソリン価格推移は2022年も高止まりとなりそうな予測だ。

4.1. 政府が補助金支給でガソリン価格抑制へ

2022年1月下旬、政府はガソリン価格高騰への対策として、補助金支給を決めた。補助の対象はガソリン、軽油、灯油、重油で、1リットルあたり最大5円を国内の主要石油元売りと輸入業者に支給する。財源は2021年度補正予算に盛り込まれた800億円、対象期間は同年3月末までとしている。

だが、この補助金制度の効果は、全国一律でガソリン価格に反映されるわけではない。なぜなら、小売価格を決定するのは個別のガソリンスタンドだからだ。

補助金は、ガソリンスタンドに直接支払われるわけではない。店側は補助金で価格が抑制されたガソリンを仕入れたときに、はじめて恩恵を受けることができる。仕入れがいつにかるかは店によって異なり、たとえば在庫回転率が高い幹線道路沿いの店と、在庫回転率が低い過疎地の店では、差が生じるだろう。仕入れが遅ければ、小売価格は値下げされづらいと考えられる。

さらに、補助金制度の対象期間は2022年3月末までとされており、4月以降もガソリン価格推移が高い水準を維持した場合にどうなるのかは、まだ示されていない。これらを勘案すると、補助金制度により国内のガソリン価格高騰が解消されるとは考えにくい。

4.2. 原油の需要・供給の予測は?

再三述べているとおり、ガソリン価格に大きく影響するのは原油価格だ。原油価格は、市場の需要と供給のバランスで推移する。2022年の原油の需要・供給の予測についても考えたい。

原油の需給にはさまざまな要因が影響するが、ここでは影響力が特に大きい要因に絞って整理していこう。原油需要は、主に世界の景気の動向が影響する。供給は、主にOPECプラスの動向が影響する。

まず、需要の予測についてだ。米投資銀行のゴールドマン・サックスが、2022年と2023年の原油需要は平均ベースが過去最高に達すると見通しだとしている。需要拡大が見込まれるのは航空・輸送分野で、設備投資やインフラ整備事業の増加により、2022年の需要は堅調だと予測。新型コロナのオミクロン株の流行は、原油需要には影響がないと見通している。

次に、供給の予測については、OPECプラスは2022年末までの減産延長で合意していて、2022年も増産ペースを急に上げることはなさそうだ。脱炭素化が加速するなか、近い将来の原油の需要減は避けられたいため、今のうちに高値で売っておきたいという産油国の意図も推測できる。

シンクタンクの日本総合研究所は、OPECプラスが予定どおり緩やかに増産していくとの前提で原油需給バランスを試算しており、いずれは供給超過に転じると見込んでいる。だが、OECD加盟国(日本、米国、欧州各国など主要な先進国)の原油・石油製品在庫が低い水準となっていることを理由に、OPECプラスが増産を継続しても価格が急に下落するリスクは少ないとしている。

【参考】日本総合研究所「原油市場展望 2022年1月」(PDF)

このほか、原油・ガソリン価格推移を予測するには、地政学的リスクにも注目したい。2022年2月現在、米国はロシアがウクライナ国境に10万人規模の軍を集結させていると主張している。ウクライナへの侵攻が現実となれば、原油・天然ガスの供給危機を招き、原油・ガソリン価格への影響は必至だ。

5. ガソリン価格推移の上昇への対応策

ガソリンや、ガソリンの原料となる原油の価格高騰に対して、国はどのような対策を行っているのか。また、消費者や投資家といった個人はどのような対策をとればいいのか。ポイントをまとめたい。

5.1 国の対策:ガソリン補助金で対策も、4月以降は未定

ガソリン価格推移の上昇に日本政府はどのように対応しているのか。まず、4.1. で述べたとおり、レギュラーガソリンの小売価格の全国平均が1リットルあたり170円を超えたことから、政府は補助金による価格抑制を試みている。春以降の対応は未定だ(2021年2月4日現在)。

原油価格高騰への対策としては、米国、インド、韓国など世界の主な石油消費国と協調して2021年には11月に石油備蓄放出も行った。しかし、世界の原油の需給に与えた影響は限定的で、高騰対策としては一時的なものだった。

5.2 消費者の対策:ガソリンの使用量を減らす

ガソリン価格推移の上昇に対して、消費者がとれる自衛策といえば、やはりガソリンの使用量を減らすことだろう。こまめに自動車のメンテナンスを行ったり、エアコンの使用方法を見直したりすることで、燃費は改善できる。思い切ってガソリンが不要な電気自動車に乗り換えるという手もある。

また、電車や自転車の利用を増やす、自家用車を手放して給油不要なカーシェアリングに置き換えるなど、自家用車の利用機会を減らす抜本的な対策も考えられる。

5.3 投資家の対策:原油高やインフレへの対策として投資を行う

ガソリン価格推移と原油価格推移は、基本的に相関している。そして、原油高騰をはじめとするエネルギー価格の高騰は、インフレに強く影響する。つまり、ガソリン高騰時は原油高対策・インフレ対策にも意識を向けたい。インフレヘッジとしての投資には、以下のような方法がある。

・原油価格連動のETFに投資する
原油高メリットがある金融商品に投資したい場合、原油価格連動のETF(上場投資信託)への投資という方法がある。原油価格の代表的な指標はニューヨークのWTIの先物市場であるが、個人が先物取引を行うのは難易度が高い。しかし原油価格連動のETFなら、少額から投資や株と同じように売買することが可能で、売買コストも低い。

東京証券取引所で売買できる原油価格連動のETFには、WTI原油価格連動型上場投信<1671>、WisdomTree WTI原油上場投資信託<1690>、NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信<1699>などがある。

いずれもWTI原油先物価格と連動するような仕組みだが、円建てのため、円高の場合は原油上昇分を打ち消すこともあり得ることには注意が必要だ。

・石油元売りや商社の株式に投資する
株式投資では、原油高、資材高で業績拡大、株価上昇のメリットがある企業の株に投資したい。代表的なのが、石油元売り会社や総合商社だ。米国の石油会社の株価も原油高で上昇している。

・米ドル等の外貨に投資する
インフレは円安との相関関係も強いため、ガソリン価格が上がっているときは円安から資産を守ることも考えたい。円安で評価が上がる外貨や外債への投資が1つの方法だ。

・不動産や金など実物資産に投資する
インフレ時は、現金、債券、保険などの価値が目減りするため、インフレヘッジとして株や実物資産への投資が有効とされている。実物資産の代表例は、不動産と商品(コモディティ)だ。このほか、仮想通貨も現物資産の一種としてインフレヘッジになるとの見方もあるが、まだ歴史が浅いため、その有効性に疑問の声もある点には留意したい。

まとめ:原油・ガソリン価格推移は高止まりか。インフレヘッジとしての投資妙味も

国内のレギュラーガソリンの店頭価格は2022年1月に、13年ぶりに170円を超えた。価格高騰の原因は、ガソリンの原料である原油が世界的な需給のひっ迫で高騰していることにある。WTI原油先物価格は、2022年1月に一時1バレル87ドル台前半まで上がり、7年ぶりの高値だ。

原油の需給ひっ迫を招いた主な要因は、新型コロナのパンデミック以降、OPECプラスが生産量をセーブしていることにある。また、世界的に脱炭素への動きが加速し、世界の油田に対する投資が不足していることも、原油の供給不足につながっている。

2022年のガソリン価格推移を予測するにあたっては、原油の供給に注目したい。OPECプラスは2022年末まで協調減産で合意しており、増産ペースは大きく上がらないとみられる。ウクライナ情勢の緊迫を受けて供給危機への警戒感も高まっており、原油価格の推移は不透明ながらも急落する可能性は少なそうだ。

原油・ガソリン価格高騰を受けて、投資家ができる原油高・インフレへの対策としては、原油価格連動のETF、石油元売りや商社の株式、外貨、現物資産への投資がある。市場のボラティリティが上がっており、リスクは大きいが、それだけにチャンスであるともいえる。投資は自己責任であり、リスクヘッジもよく検討し慎重に進めたい。