プロダクトアウトとは? マーケットインとの違いやメリット・デメリット
(画像=inkdrop/stock.adobe.com)

ユーザーのニーズを満たすことが事業成功のカギ、ということはもちろん揺るがない事実だ。しかしユーザーのニーズが顕在化している市場とは、競合他社も参入しやすく競争の激しい市場だということもできる。自社が作りたい製品や自社の技術で製造可能な製品で事業展開をすると聞くと、ニーズを満たすかわからないのにユーザーに受け入れて貰えるのか?と不安になるかもしれない。だがユーザーのニーズが潜在的であるならば、このような戦い方(プロダクトアウト)も有効なのだ。今回はプロダクトアウトの概要からそのメリット・デメリット、成功事例などを紹介していく。

目次

  1. プロダクトアウトと
    1. プロダクトアウトの概要
    2. プロダクトアウトとマーケットイン
  2. プロダクトアウトのメリット・デメリット
    1. プロダクトアウトのメリット
    2. プロダクトアウトのデメリット
  3. マーケットインのメリット・デメリット
    1. マーケットインのメリット
    2. マーケットインのデメリット
  4. プロダクトアウトの失敗事例:3Dテレビ
  5. プロダクトアウトの成功事例:ウォークマン
  6. 企業の状況でどちらかを選ぶ
    1. プロダクトアウトは新しい市場を作る可能性がある
  7. カスタマーインとは?
    1. マーケットインとカスタマーインの違い
  8. 自社状況に合わせて戦略を選択
  9. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

プロダクトアウトと

最初にプロダクトアウトの概要と、その対極にあるとしてよく取り上げられるマーケットインとの違いについて確認しておこう。

プロダクトアウトの概要

プロダクトアウト(Product Out)とは、自社で作りたい製品、もしくは自社の技術で製造可能な製品を開発・販売する考え方だ。基本的にこの考え方には、ユーザーの好みや要望などは反映されていない。つまり考え方の方向をニーズ志向やシーズ志向という考えで分ければ、プロダクトアウトはシーズ志向に近く、視点は企業側もしくは生産者側ということになる。

プロダクトアウトとマーケットイン

プロダクトアウトとは正反対の考え方がマーケットイン(Market In)だ。ユーザーの好みや要望を製品開発に取り入れ、顕在化しているユーザーのニーズを満たす考え方といえるだろう。つまり先述の思考でいえばニーズ志向での事業展開がマーケットインだ。

このように書くと、プロダクトアウトは企業側の勝手な理屈で製品開発を行うようなネガティブなイメージを持つかもしれないが、実はそうではない。プロダクトアウトにはデメリットだけでなくメリットもあり、反対にマーケットインにもメリットの他にデメリットがある。この点を次章では整理してみよう。

プロダクトアウトのメリット・デメリット

このように書くと、プロダクトアウトは企業側の勝手な理屈で製品開発を行うようなネガティブなイメージを持つかもしれないが、実はそうではない。プロダクトアウトにはデメリットだけでなくメリットもあり、反対にマーケットインにもメリットの他にデメリットがある。この点をこちらの章では整理してみよう。

プロダクトアウトのメリット

・自社の強みを生かした製品開発がしやすい
自社に、他社にはない強み(技術開発力やコスト対応力など)があれば、それを生かした製品作りができる。強みは市場の優位性につながり、高い利益を享受できる可能性がある。

・新しい市場を作れる可能性がある
新しい市場を作るためには、プロダクトアウトで製品を投入する必要がある。その市場には顕在化したユーザーのニーズがまだないからである。新しい市場を立ち上げることはリスクも高いが、市場の独占による先行者利益を得られる可能性がある。

・ユーザーの潜在的なニーズを開拓できる
新しい市場を立ち上げたということは、潜在的なユーザーニーズの開拓に成功したということでもある。他社はこの事実を認識してから製品開発を行うことになり、自社は市場の優位性を保持することができる。

・コストを抑えることができる
ユーザーのニーズに応えるために、新たな投資をする必要がない。現状保持している設備、人員などで開発を行うことができるため、コストを最大限に抑えることができる。

プロダクトアウトのデメリット

・市場やユーザーのニーズに合わない可能性
プロダクトアウトの一番の問題が、このデメリットである。自社の優位性を生かして市場に製品を投入したつもりが、市場やユーザーにまったく受け入れられない可能性もあるのだ。こうなると失敗事例を作りだしてしまったことになり、下記のような問題も発生する。

・競合他社にヒントを与えてしまう
ユーザーに受け入れられない事例を明らかにしてしまったということは、競合他社にヒントを与えてしまう結果になる。競合他社はその失敗をみて、製品開発の方向性を絞り込むことができるのだ。

・方向修正にコストがかかる
製品投入の失敗が明らかになってから方向修正しようとすれば、新たなコストが発生することになりかねない。微修正で対応できるならまだしも、新しい生産設備や新たな技術を導入するには余計なコストがかかることになり、再開発にかかる時間も無駄となる。

マーケットインのメリット・デメリット

マーケットインとは、ユーザーのニーズがある程度顕在化している市場に製品を投入していく手法だ。そのメリットは比較的明確だが、デメリットにはどのようなものがあるのだろうか。

マーケットインのメリット

・ユーザーのニーズに応えられる
ユーザーのニーズに合わせて製品を開発するので、当然のことながらニーズに応えることができる。製品を開発したものの、ユーザーに受け入れられないというリスクは無いといえるだろう。

・一定の売上が見込める
上記のような理由から、一定数は売れるという見込みを立てることができる。製品の売上は宣伝方法や販売方法などによっても変わってくるが、販売数量がある程度見込めることはコスト戦略にも有利な影響を与える。

・開発の目標が明確
ニーズが明確であれば、製品の達成すべき性能などもあらかじめ決めておくことができる。開発目標が明確なので、無駄な開発費を使う必要が無く効率的に開発を進められる。

・事業を効率的に進められる
ターゲットとなるユーザーが明確であれば、広告宣伝の方法や販売方法(販売場所)も絞り込むことができ、無駄なコストをかけずに済む。全体的に事業を効率的に進めることができる。

マーケットインのデメリット

・競合が多い市場で戦うことになる
需要が多くユーザーのニーズが顕在化している市場は、レッドオーシャンになりやすい。多くの競合が市場に参入することにより価格競争が発生し、利益を上げにくい事業で戦うことになる。

・競合との差別化が難しい
ユーザーのニーズが明確になっているということは、差別化が難しいということにも通じる。レッドオーシャンとなった市場で生き残っていくには、他社が持っていない差別化ポイントを見つけるか、価格競争に打ち勝つコスト戦略などが必要になる。

・ブランドが不明確になる可能性がある
ユーザーのニーズに合わせて製品開発を行えば、自社がもともと持っているブランドが不明確になっていく可能性がある。ブランド力が強い企業にとって、マーケットインは必ずしも最適な戦略ではないのだ。

プロダクトアウトの失敗事例:3Dテレビ

2009年の映画「アバター」の影響で3Dが話題となり、テレビメーカー各社は2011年から2012年にかけて3D機能を持つ家庭用テレビを次々と発売した。ところが専用メガネをかけることが嫌気され、また3D酔いなどを起こすユーザーもいたため、2013年には急速に市場が縮小。2017年には3D機能を持つ最後のモデルが消滅し、今では3D機能を持つテレビは販売されていない。

本件は単独のメーカーが失敗した事例ではなく、業界全体がプロダクトアウトで失敗した事例だ。各テレビメーカーは従来、独自に3D映像の研究を進めており、映画がヒットしたのを機に実用化して販売した。ところがユーザーは3Dでテレビを見たいというニーズなど持っておらず、メーカーによる技術の押しつけに終わってしまったことが失敗の原因だといわれている。

プロダクトアウトの成功事例:ウォークマン

ソニーが1979年に発売した「ウォークマン」は、それまで家庭で聴くものだった音楽を手軽に持ち出せることをユーザーに訴求し、大ヒットとなった製品だ。ソニーはウォークマンの発売前から、ポータブルモノラルテープレコーダー「プレスマン」(マスコミ向けに開発した屋外取材用の録音・再生機)などを開発・販売していた。カセットテープを使った録音・再生機の技術は、もともと持っていたのだ。プレスマンは録音機能の他にスピーカーもついており、ショルダータイプのテープレコーダーであったが、それでもプロ向けとしては小型でマスコミからは好評だった。

当時の名誉会長と会長によって、ウォークマンの開発が下命されたのは1979年。ソニーは4ヵ月間でプレスマンから録音機能とスピーカーを除き、ステレオ再生を可能にしたウォークマンを開発した。ソニーがプレスマンで培った小型化のノウハウと微細加工の技術がそれを可能にしたのだ。

当初社内からは録音機能やスピーカーがないことに「半端もの」と批判され、ヒットなどするわけがないと噂された。そこでソニーの営業は、山手線でウォークマンを身につけて一日中グルグルとまわったり、休日には若いスタッフに製品を持たせ街中を歩かせたりする戦略にでた。結果的にはこれらが功を奏し、半年以上も供給不足が続くほどの大ヒットとなったのだ。

ソニーは従来持っている自社の技術を製品開発に生かし、音楽を持ち歩くという今までになかった新しい市場を作り出した。ソニーのウォークマンは、プロダクトアウトの成功例としてよく取り上げられている事例だ。

企業の状況でどちらかを選ぶ

プロダクトアウトとマーケットインを語る場合に、プロダクトアウトは比較的ネガティブなイメージで捉えられる場合が多い。ユーザーのニーズを実現することが、企業としてもビジネスとしても王道だと考えられているからだ。ただプロダクトアウトの成功例と失敗例をみてもわかるように、どちらの戦略を選択するかはその企業の状況次第なのだ。

プロダクトアウトは新しい市場を作る可能性がある

ソニーの持っていた小型化のノウハウと微細加工の技術は特別なものだったが、プロダクトアウトでの成功にはそれが必須とは限らない。たとえばアップルのiPhoneもプロダクトアウトの成功事例としてよく取り上げられるが、iPhoneの前にはBlackBerryという製品がスマホ(当時はPDA業界と呼ばれていた)の業界を席巻していた。iPhoneは後発ながら、モバイルコンピュータという思想とアプリを提供する仕組みの工夫で、瞬く間に業界を席巻した。

プロダクトアウトでの成功は、オンリーワンの技術ではなく発想の転換や既存技術、既存の仕組みを活用することでも実現できるのだ。

カスタマーインとは?

最後にカスタマーインという考え方も紹介しておこう。

マーケットインとカスタマーインの違い

カスタマーインとは、ユーザーの個々のニーズに応じた製品やサービスを提供する考え方だ。たとえば完全オーダーメイドのスーツや、ユーザーの足にフィットするランニングシューズなどがその例だ。他にもサンドイッチのトッピングや、コーヒーのカスタムオーダーなどもカスタマーインと考えられるだろう。

マーケットインはカスタマーインと違うものではなく、マーケットインの発展形と考えれば良い。外食などでも「お一人様」対応が人気となっているし、パソコンのBTO(セミオーダー式受注生産)も、もはや当たり前のことになっている。とはいえ、個々への対応はコストに直結する。ユーザーの要望と対応コスト、このバランスを取ることがカスタマーイン成功の秘訣といわれている。

自社状況に合わせて戦略を選択

プロダクトアウトとマーケットイン、どちらの戦略を選択するにせよ、大切なことは自社の状況と市場を冷静に調査・比較することだ。「これしかできない」という考えから製品を開発していても、決して市場に受け入れられることはない。プロダクトアウトとは、潜在的なユーザーのニーズを発掘する戦略なのだ。

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野口和義
野口和義
中小企業診断士・野口コンサルタント事務所代表
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