この記事は2022年4月13日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「英国雇用関連統計(2022年3月) ―― 労働参加率がコロナ禍後の最低値に」を一部編集し、転載したものです。
1 ―― 結果の概要:失業率は3%台で推移
4月12日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
【3月】
・失業保険申請件数(*1)は前月(175.10万件)から4.69万件減の170.41万件となった(図表 - 1)。
・申請件数の雇用者数に対する割合は4.3%となり、前月(同4.4%)から低下した
・給与所得者数(*2)は前月(2955.9万人)から3.5万人増の2952.4万人となった。
増減数は前月(+17.4万人)から減少、市場予想(*3)(+12.5万人)も下回った。
【2月(2021年12-2022年2月の3か月平均)】
・失業率は3.8%で前月(3.9%)から低下、市場予想(3.8%)と一致した(図表 - 1)。
・就業者は3248.5万人で3か月前の3247.5万人から1.0万人の増加となった。
増減数は前月(▲1.3万人)から増加に転じたが、市場予想(+5.2万人)は下回った。
・週平均賃金は、前年同期比5.4%で前月(4.8%)から加速、市場予想(5.4%)と一致した(図表 - 2)。
*1:求職者手当(JSA:Jobseeker’s Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
*2:歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは利用可能な情報の85%ほどを集計して算出。
*3:Bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
2 ―― 結果の詳細:労働参加率の低迷が続く
まず、3月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は2022年1-3月の平均で128.8万件となった。増加ペースは減速しつつも調査開始後の最高記録の更新が続いている(図表 - 4)。3月単月の求人数も127.8万件と高水準にある(*4)。
給与所得者データでは、給与所得者数の増加が続いているものの3月の増加幅は限定的となった(図表 - 4)。産業別には、最近増加傾向にある事務サービスや居住・飲食業が引き続き増加をけん引する一方、製造業や卸・小売業が前月比でマイナスとなり冴えなかった。月あたり給与額(中央値)については前年同月比5.9%で2月(5.8%)並みの伸び率だった(図表 - 4・6)。
次に2月までのデータ(労働力調査)を確認すると、2021年12-2022年2月期の失業率は3.8%となり、コロナ禍前の最低値(3.8%)水準まで下がった(前掲図表 - 1)。ただし、失業者は前月比で減少したものの、就業者も減少しており、非労働力人口は増加している。労働参加率は63.0%とコロナ禍後の最低値を記録(図表 - 5)、高齢層が労働市場に戻ってこない傾向が続いている。
労働時間は31.9時間(前年同期差+2.1時間)、フルタイム労働者で36.5時間(同+2.3時間)となり、回復は進んでいるものの依然としてコロナ禍前の水準まではやや距離がある(前掲図表 - 2)。一方、(週間)総労働時間は雇用者の増加傾向を受けてコロナ禍前ピーク(2019年8-10月)から1.7%低い水準まで回復している。
名目平均賃金は2021年12-2022年2月の前年同期比で5.4%と高い伸び率が続いている(前掲図表 - 2)。ただし、高インフレ率の影響で実質値は前年比で0.4%とゼロ%台での推移が続いており、コロナ禍の影響を除いた2年前比で見ると、名目値と実質値の乖離がかなり拡大していることが分かる(図表 - 6)。また、ボーナスを含まない基本給では名目伸び率が4.0%、実質伸び率が▲1.0%となり、基本給の実質伸び率は5か月連続で前年比マイナス成長だった。
*4:3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていない点には留意が必要
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高山 武士(たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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