企業価値を測る材料として、ESGスコアに注目する投資家が増えている。2015年にSDGsが国連で採択されたことからもわかるように、社会貢献や環境保全への取り組みが世界的に重視され、各国の投資も大きく伸びているからだ。今後は株価に影響を与えるケースも多くなることが予想され、企業のESGに対する取り組みやリスクを数値化するESGスコアは重要な指標となる可能性がある。しかし、現状のスコアリングの基準は明確ではなく、格付けにはさまざまな種類がある。このESGスコアについて、投資家としてあらためて確認しておこう。

目次

  1. 1. ESGスコア(ESG格付け)とは? ESGスコアの定義
  2. 2. 主要なESGスコア提供会社
  3. 3. 現状のESGスコアの特徴
  4. 4. 企業側のESGスコア利用方法
  5. 5. 投資家として確認したいESGスコアを利用した銘柄検討の注意点
  6. 6. ESGスコアの問題点と統一・整合性への課題
  7. まとめ:複数のESGスコアから一次データを確認、中長期の投資判断の参考にしよう

1. ESGスコア(ESG格付け)とは? ESGスコアの定義

企業価値向上の取り組みを可視化する「ESGスコア」とは?利用方法と問題点
(画像=PIXTA)

ESGスコアとは、企業におけるESGの取り組みやリスクなどを数値化したものだ。企業の成長性や価値を判断する材料として、近年注目されている。まずは、ESGおよびESG投資の基本事項を確認したい。

1-1. ESGおよびESG投資とは

ESGとは、環境(Environment:エンバイロメント)、社会(Social:ソーシャル)、企業統治(Governance:ガバナンス)の頭文字を取って作られた言葉だ。ESG投資は、ESGに配慮した経営を行う企業に投資することをいう。一般的な投資では利益率やキャッシュフローといった財務諸表の分析により投資企業を選定するが、それらに加えてESGへの取り組み状況も勘案するのがESG投資の特徴だ。

一般的に、ESGへの取り組みは短期的な営業利益につながりづらいが、社会的な責任を果たすことで企業価値の上昇とブランドの構築が期待される。社会的に価値がある企業として認められることにより、長期的な株価の値上がりを目指すのがESG投資のポイントだ。

そのためESG投資は、大きな資金を長期で運用する機関投資家(年金基金や保険会社、投資顧問会社など)を中心に広がっている。

1-2. 増加し続けるESG投資額の推移

ESG投資額は、世界的に増加し続けている。ESG投資額の統計を取っている国際団体GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)が発表したESG投資額の推移は、下表のとおりだ。

▽世界におけるESG投資額の推移(US 億ドル)

 2016年2018年2020年
世界全体228,390306,830353,010
アメリカ87,230119,950170,810
ヨーロッパ120,400140,750120,170
日本4,74021,80028,740

世界のESG投資額は、2016年から2020年の間に1.5倍以上に増加している。アメリカやヨーロッパと比べて日本におけるESG投資額は小さいが、2016年から2020年にかけて6倍以上に急拡大している点は注目すべきだろう。

1-3. ESGスコアとは

ESGスコアとは、企業におけるESGへの取り組みを数値化したものだ。先述のとおり、ESG投資は世界規模で拡大している。しかしESGには誰が見てもわかる判断指標がないため、企業の取り組み状況が投資家にわかりにくい。ESGへの取り組みを数値により可視化することで、投資家の判断材料として活用しやすくしたのがESGスコアなのである。

2. 主要なESGスコア提供会社

ESGスコアは、いくつかの評価機関が提供している。ここでは、主なESGスコア提供会社を10社紹介したい。

▽おもなESGスコア提供会社と提供するスコアの種類

提供会社ESGスコアの種類
Bloomberg(ブルームバーグ)・取締役構成スコア
・業界別の環境&社会(ES)スコア
・環境&社会ニュースセンチメントスコア
・ESG開示スコア
・ブルームバーグ男女平等指数スコア
・BIカーボンスコア
・BNEF・BIトランジションスコア
CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)・気候変動スコア
・水セキュリティスコア
・フォレストスコア
・サプライチェーンスコア
・気温上昇スコア
FTSE Russell(フィッツィー・ラッセル)・ESGレーティング
ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)・ESGコーポレートレーティング
・ESGカントリーレーティング
・カーボンリスクレーティング
Moody’s(ムーディーズ)※Vigeo Eirisとして発表・サステナビリティレーティング
・ソブリンサステナビリティレーティング
MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)・MSCI ESGレーティング
Refinitiv(リフィニティブ)・Refinitiv ESGスコア
S&P Dow Jones Indices(エスアンドピー・ダウ・ジョーンズ・インデックス)・S&PグローバルCSA(Corporate Sustainability Assessment)
Sustainalytics(サステナリティクス)・ESGリスクレーティング
東洋経済新報社・CSR企業総覧

日本国内で最大規模のESGスコア調査を行っているのは、東洋経済新報社だ。2006年から15年以上、データ収集を行っている実績がある。他方、世界の企業のESGスコアを確認するなら、外国評価機関のデータを活用したい。

3. 現状のESGスコアの特徴

ESGスコアは、評価機関によってデータに違いがある。ESGスコアを有効活用するには、データの見方や特徴を知っておくことが重要だ。

3-1. ESGスコア同士に、相関関係はほとんど見られない

ESGスコアは、評価機関により結果が異なり、結果に相関関係はほとんどない。たとえば、A調査機関で高評価を得た企業が、B調査機関のスコアでは中程度の評価にとどまるケースもある。ESGスコアを見る際は、複数の調査機関の結果を精査することが重要だ。

3-2. 評価機関ごとにESGスコアが異なる理由

評価機関によってESGスコアが異なるのは、スコアの評価方法に明確な基準がないからだ。そのため、調査方法や調査項目などによって結果に違いが出る。つまり、ESGスコアを正確に読み取り有効活用するには、調査結果だけでなく調査を行う評価機関の特徴も知っておくことが重要になる。ここでは、ESG評価機関の特徴を確認する際の4つのポイントを紹介したい。

・ESGスコア調査機関の確認ポイント1:調査対象企業数
1つめは調査対象企業数だ。日本最大規模の東洋経済新報社CSR企業総覧では、約1,600社を調査している。一方、世界規模で調査を行う外国の評価機関では、5,000を超える企業を調査対象としていることも少なくない。より多くの企業でESGスコアを比較したいなら、調査対象数が多い評価機関のデータを参考にするといいだろう。

・ESGスコア調査機関の確認ポイント2:調査方法
2つめは調査方法だ。ESGへの取り組み実績を調査するにあたっては、企業にアンケートを取る方法と、企業が公開する情報を収集する方法がある。独自のアンケートによる調査を行っている評価機関では、一般投資家では知りえない情報がスコアリングに反映されている可能性もある。ただし、ESGへの取り組みを経営戦略と位置付けている企業の場合、不十分な回答しか得られない場合もある点には注意が必要だ。

・ESGスコア調査機関の確認ポイント3:重要視する項目
3つめに、重要視する項目の違いがある。ESGスコアは、環境・社会・企業統治と評価項目が多岐にわたる。多くの企業を評価するにあたり、すべての項目でまんべんなく調査を行うのは難しい。そのため、評価機関によって項目ごとの評価の比重に差が生まれるのである。ESG投資をするなら、投資家が重視する項目について重点的に評価しているESGスコアを選びたい。

・ESGスコア調査機関のポイント4:スコアの表示方法
4つめは、スコアの表示方法だ。評価結果は、10段階や100段階などで示される場合と、AAA~CCCなどで表される場合がある。スコアを正確に読み取るにはまず、表示方法をチェックしよう。

4. 企業側のESGスコア利用方法

ESGスコアは投資家の投資判断材料として利用されるだけでなく、企業側の企業価値アピールのために用いられることもある。評価される企業はESGスコアをうまく活用し、企業価値やブランド力の向上につなげるべく活動する。企業側のESGスコアの利用方法についても確認しておこう。

4-1. よりアピールしたいESG項目を重視する評価機関を選ぶ

ESGに積極的に取り組む企業でも、すべての項目で高ポイントを獲得するのは簡単ではない。高いESGスコアを獲得するには、高評価を狙うESG項目が重視される評価機関を選ぶことが重要だろう。

4-2. 社内におけるESGスコア対応部門を整備する

ESGへの取り組みには、短期ではなく中長期的な経営計画が必要だ。将来にわたり一貫性がある取り組みを続けていくには、社内における対応部門を整備し専門部署を設けることが第一歩となる。また、専門部署を保有していることが、ESGへの積極的な取り組みとして評価されるケースもある。

4-3. 評価されたESGスコアを積極的に開示する

ESGスコアを上げるには、取り組み実績をしっかり開示することが重要だ。ESGへの取り組みを積極的に行っていたとしても、評価機関に認知されなければポイントに加算されない。ポイントを取りこぼさずESGスコアを上げるには、実施した取り組み内容を定期的にわかりやすく公開していくべきだろう。

また評価機関からESGスコアリングを受けた際は、結果を広く開示したい。評価結果にかかわらず、現状と今後の課題や方針をしっかりと示すことで、ESGに対する企業の高い意識を投資家にアピールできるはずだ。

5. 投資家として確認したいESGスコアを利用した銘柄検討の注意点

1-1で述べたとおり、ESG投資をいち早く取り入れたのは機関投資家だ。しかし現在は、ESGをテーマにした投資信託が販売されるなど、個人投資家の投資も拡大している。特に中長期的な資産運用を考えているなら、ESG投資をポートフォリオへ組み入れることも選択肢となるだろう。ESG投資を検討するにあたり、ESGスコアを投資に取り入れる方法と注意点を確認しておきたい。

5-1. ESGスコアを用いる場合、スコアが何を重視しているか認識が必要

ESGスコアを投資判断に取り入れる際は、どの項目を重視して評価されたかを確認することが重要だ。たとえば、企業統治がしっかりしている企業へ投資を検討しているにもかかわらず、環境問題への取り組みを重点的に評価するESGスコアを参考にしてはあまり意味がない。ESGスコアを利用するには、各スコアと評価機関の特徴を確認することから始めよう。

5-2. 複数のスコアを利用し比較する

ESGスコアは、評価機関によって対象企業数や評価方法が異なる。そのため、1つのスコアだけでなく複数のスコアを確認して比較することも重要だ。複数のスコアを活用しさまざまな評価を照らし合わせることで、より多面的な投資判断ができるだろう。

5-3. ESGの「スコア」ではなく、ESG評価の元となる一次データで判断する

ESGスコアの高低のみで投資先を決めるのではなく、スコアをもとに企業の一次データを確認して、投資の判断材料とするのも1つの方法だ。

ESGスコアは、幅広いESGの取り組みを多くの企業間で比較するのには適したデータだと言える。しかしESGスコアだけでは、実際どのような活動をしているかまで確認することはできない。より具体的な実績を知るには、ESGスコアを参考に各企業の公開情報を確認することも必要になる。

6. ESGスコアの問題点と統一・整合性への課題

ESGスコアの問題点は、評価基準が曖昧なため評価機関によって結果に差が出てしまう点だ。ESGスコアを信頼できるデータとして成長させるには、評価基準の統一を図ることとスコア間の整合性を取ることが、急ぎの課題となるだろう。

6-1. 企業視点でのESGスコア課題解決策は?

ESGスコアの課題を解決するには、企業の情報開示について一定の基準を設けることが必要になる。経団連が行った企業のESG情報開示に関するアンケートによると、約66%がESG情報開示基準を国際的に早期に統一するべき、または、統一が望ましいと回答している。また、統一不要と回答した企業はわずか6%にとどまっており、多くの企業がESG情報開示に関するルール作りを前向きに検討しているようだ。

ただしESGへの取り組みは、企業ブランドの構築や経営戦略に大きな影響を及ぼす可能性がある。そのため情報開示の統一性は望むものの、企業の独自性を尊重した柔軟性がある基準の策定を求める声が多い。

【参考】経団連 ESG情報開示に関する アンケート結果の概要(PDF)

6-2. 投資家視点でのESGスコア課題解決策は?

ESGスコアの課題を解決するには、投資家がESGへの取り組みを評価し投資判断のポイントとする姿勢を示すことも重要だ。どのような取り組みが投資家に評価されるのかが不透明では、企業のESG活動や情報開示は進まないだろう。投資家が重視するESG項目を明示していくことで、ESGスコアの評価基準の統一につなげたい。

なお、先に紹介した経団連のアンケートによると、現状で最も投資家の関心が高い開示項目は脱炭素を含む気候変動への対応だった。次点は、社外役員の数・比率・担う活動、役員報酬など、ガバナンスに関する項目が入っている。ダイバーシティや人権といった社会問題に関する項目は、ガバナンスに次いで注目されていた。

▽投資家から関心の高いESG関連開示項目アンケート結果

まとめ:複数のESGスコアから一次データを確認、中長期の投資判断の参考にしよう

ESGスコアは、企業が取り組むESG活動を数値化したものだ。多くの企業のESG取り組み状況を簡単に把握できるメリットがある一方、評価基準が一定でなく評価機関によって結果に差が出るといった注意点もある。

ESGスコアを投資に活用するにあたっては、評価機関の特徴や重視する項目をあらかじめ確認しておくことが肝心だ。また、ESGスコアを参考に企業の一次データを確認することも有効だ。ESG投資は、機関投資家だけでなく個人投資家にも広がっている。中長期での資産形成を目指すなら、ESGスコアを有効に活用したESG投資をポートフォリオに組み入れてみてはいかがだろうか。