ESG(環境・社会・ガバナンス)は、投資家にとっても大手企業にとっても、投資先や取引先を選択するため、企業の持続的成長を見る重要視点になってきている。各企業のESG部門担当者に、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施した。ESGに積極的に取り組み、未来を拓こうとする企業の活動や目標、現状の課題などを紹介する。
今回は、日本だけでなく世界的にも有名な二輪車、船外機などのメーカーであるヤマハ発動機株式会社の丸山平二氏(=写真)にインタビュー。CO2排出と密接な関係にある小型モビリティ業界において「ヤマハ発動機グループ環境計画2050」を打ち出す同社が見据える環境戦略を聞いた。
(取材・執筆・構成=山崎敦)
全社の基盤技術、新技術の開発及び新ビジネスの創出を担当。1962年生まれ、福岡県出身。1986年ヤマハ発動機入社。AM事業部、パワートレインユニットを経て、2021年より技術・研究本部の本部長を務める。取締役、上席執行役員。
ヤマハ発動機株式会社
ヤマハ発動機株式会社はオートバイや船外機などを製造するメーカー。1955年7月創立、本社は静岡県磐田市。連結子会社127社、持分法適用子会社4社、持分法適用関連会社28社(2022年3月末現在)。日経平均採用銘柄の1つ。
1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都にて就職し、24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族と共に東京から鳥取にIターン。
株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird」運営など多岐にわたる。
目次
「感動創造企業」が目指す成長戦略と環境への取り組み
アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):最初に、ヤマハ発動機のESG活動におけるテーマや取り組み、考え方をお聞かせください。
ヤマハ発動機 丸山氏(以下、社名、敬称略):下の図が、当社の成長戦略と、実現するアウトカムになっておりまして、左側の「重要な社会課題」がESGのテーマということになります。
▽ヤマハ発動機の成長戦略とアウトカム
我々の企業目的は「感動創造企業」で、これまで培ってきた技術やブランド、あるいは事業や製品などの枠組みを使って重要な社会課題の解決を図りながら、さらに新しい価値を生み出していくという方向で事業をドライブし、社会課題に取り組んでいます。
また、長期ビジョンである「ART for Human Possibilities 人はもっと幸せになれる」という部分が非常に重要でして、私たちは人がより人間らしくイキイキと生きていくために必要な技術、そして新しい価値を創造しています。
「ART」のそれぞれの文字には、我々が培った技術の思いが込められております。Aの部分は「Advancing Robotics」ということで、先進的なロボット関係の技術を使って世の中を変革していきます。Rの部分は「Rethinking Solution」になり、もう1度根本から解決策を考え直すことで新しい社会課題に解答を見出していくという考え方です。そして最後のT「Transforming Mobillity」には、モビリティの世界に新しい風を吹き込んでモビリティ自体を変えていくといったような思いを込めています。
坂本:ヤマハ発動機は2021年7月に「ヤマハ発動機グループ環境計画2050」を見直したそうですが、その理由と、新たに設定した目標、目標達成に向けて重要になるポイントをお聞かせください。
丸山:元々は2010年比で2050年にCO2の排出量を半減させるという目標になっておりました。しかし、その後、日本を含む各国政府の目標値が「2050年にカーボンニュートラル」というところで大きく変更されましたので、我々もそれに合わせて2050年にカーボンニュートラルを達成するという目標に修正しました。
▽ヤマハ発動機のライフサイクル全体のCO2排出量
上記のグラフは、2020年におけるヤマハ発動機のライフサイクル全体におけるCO2の排出量になります。左側の円グラフが総排出量を表しておりまして、年間2,370万トンになります。
特徴的なのは、事業そのものから出るCO2や購入電力によるスコープ1.とスコープ2.の部分は、全体の占める割合の1.8%程度だということです。もちろんここの低減も大事ですが、実はスコープ3.が98.2%を占めておりまして、そのうちのカテゴリー11.にあたる製品使用時の排出量というのが82.7%です。
スコープ3.の内訳を見ますと、約6割が二輪車、マリンエンジンが約2割ということで非常に大きな割合を占めているため、ここの部分を小型モビリティの世界においていかに下げていくかというのが非常に重要と考えています。
脱炭素化の流れがもたらした、モビリティの新たな形
坂本:脱炭素の大きな流れは、エンジンという内燃機関に対してとても大きな影響があったかと想像できますが、CO2削減に対する取り組みについてお聞かせください。
丸山:我々のビジネスでは、お客さまが使用されるモビリティからのCO2排出量が非常に大きな比率を占めます。いかにその部分のエネルギーを使ったときにCO2が出るのを下げられるかというところに腐心していました。
BEV(Battery Electric Vehicle:二次電池式電気自動車)をメインで考えていますが、小型モビリティにとってはバッテリーが非常に重くて大きい、かつ値段が高い、というところが負担になり苦慮していたところです。そのため、CO2削減に対して2つの戦略を掲げました。
▽小型モビリティの活用と、CO2削減のイメージ
丸山:1つめは、上図の左側のグラフで示す小型モビリティの活用になります。四輪車と二輪車を比較しますと、人がある一定の距離を移動するときのCO2の排出量は小型モビリティである二輪車のほうが70%ほどCO2排出量は低いということがわかっています。したがって、人ひとり当たりの移動に伴うCO2の排出量を減らそうとすると、より小型で利便性の高いモビリティを使っていくというのが大きな流れになると考えます。
左グラフにおいてCO2排出量を縦軸、車両サイズを横軸にとりますと、もっとも小さなサイズは電動アシスト自転車(PAS)の領域になり、そこの上に二輪車があって、さらにその上に四輪があるという状況です。マリンの場合は航走時の抵抗が陸の乗り物に対して大きいので、さらに多くのCO2を排出するというような関係になります。この状況から、グラフの左下の方向に向けて、小型モビリティを活用することでよりCO2を減らしていくという考え方です。そのために我々は、四輪車と二輪車の間の新しい領域や、自転車や二輪車の間の新しい領域といったところのモビリティの開発を考えながらビジネス戦略を立てております。
もう1つは右グラフになり、各モビリティに搭載されているパワートレイン(エンジンで発生したエネルギーを駆動輪に伝えるための装置)を効率化することでCO2排出量を下げていくという考え方です。もちろん内燃機関に関しても燃費の改善をすることによってCO2排出量を下げていけますし、BEV化することによって走行時のCO2排出量をゼロにすることもできます。
最近話題にもなっております水素の活用ということでFCVも検討していますし、水素をそのまま燃焼させる水素エンジンというものも検討を進めています。右グラフで言えば、下方向に向けてCO2排出量を下げていくという考え方で取り組んでいます。
業界全体で取り組む省エネ・再エネの中で、ヤマハ発動機の取る戦略とは
坂本:ヤマハ発動機の環境計画におけるスコープ1.、スコープ2.(*)の排出量削減の取り組みについてお聞かせください。
*スコープ1.:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)、スコープ2. : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
丸山:現在、2010年比で、2030年を中間目標の50%とし、最終的には2050年にゼロにするという目標を立てております。2019年時点で、マイナス37%減になっています。スコープ1.達成に向けて、取り組む方法としましては、省エネ、あるいはそれに伴った新しい設備を入れ、事業から発生するCO2を下げています。
また、理論値エナジーという定義も取り入れています。これは「理論値生産」という考え方を、エネルギー循環に適用したものです。たとえば、理論値生産においてネジ1本を締める場合で考えますと、「ネジを締める」という行為そのものは価値を生む作業なのですが、「ネジを取り出す、または前準備をする」という行為は無価値作業という風に呼んでいます。
エネルギーも同じように、アルミを溶解するときに使われるエネルギー(熱)は価値を生みますが、その前段階での準備や暖機というのは無駄になるものですから、そういったところのエネルギーを省くことで効率を上げ、理論値に近づけていくというのが理論値エナジーの考え方になります。
こういった考え方にプラスしてスコープ2の部分では、再生可能なエネルギー由来の電力を自分たちで導入するという方法と、購入するという2本立てで取り組んでいます。
▽ヤマハ発動機の丸山氏
坂本:再生可能エネルギー導入の進行状況につきまして、具体的な目標は定められていますか? また、どのような手段をお考えでしょうか?
丸山:2010年比で、直近では35%の省エネ、再エネ分を含めて37%ということで進んでまいりました。そこからさらにCO2の割合を13%程度減らしていきたいと考えています。
減らすにはいろいろな方法があります。省エネ、再エネ、設備更新といったものや、再生可能エネルギーやCO2フリーの電力を導入して今まで使っている化石燃料を電化していく取り組み、生産設備自体をEVにシフトしていくことで、今までの内燃機関よりも生産負荷が減るだろうと考えています。あとは電源の係数というところで、インフラに関してかなりの改善が進むと思います。
主に太陽光発電などの再生可能エネルギーの設備を自前で導入し、10カ国以上に設置して、再生可能エネルギー率を2.3%から5.5%に上げていく計画を進めています。
今はCO2フリーの電力(発電時にCO2を排出しない電力)というのが出てきておりますので、それを積極的に採用することで購入する電力のCO2排出量を下げていくという取り組みを進めています。
坂本:CO2フリー電力の導入計画を教えてください。
丸山:CO2フリー電力の購入は国内からスタートします。水力由来の電源ということで、地場のサプライヤーさん含めて結構、購入されているところはあると聞いています。
CO2排出量において購入電気の占めている割合がそこそこ高いものですから、導入することによって69%、約7割のCO2排出量を下げられると考えています。あくまでも国内の話で、海外の生産拠点に関してはまだこれからですが、当然、CO2フリー電力の導入は視野に入れています。
坂本:カーボンニュートラルに向けて、二輪車のパワートレインのマイルストーン(中間目標)はありますか?
丸山:はい、以下の図を参考にご説明いたします。現状、パワートレインの構成が複雑化し、選択肢が増えているため、現段階での計画ということになります。
▽パワートレインのマイルストーン
上図は、各年次に沿った構成比率を表しています。左の「モーターサイクル」は、2050年に向けて、BEV(二次電池式電気自動車)が主力になると考えております。これは二輪の製品の大半、60%から70%以上が125CCから150CCクラスのスクーターということになりますので、このクラスであればBEVに変えていくというのがもっとも成立性が高いと考えています。2030年から比率を高めていこうと考えています。
また、CN燃料(CO2と水素から製造する合成燃料)ですが、大型のモデルに関してはバッテリーEVに置き換えて、電池の容量を確保しますと非常に車重が重くなってしまい、値段が高くなるということで、なかなか成立が難しいのです。技術的にいろいろな方法をトライしています。たとえば、水素を燃料に使ったり、2030年以降に出てくる合成液体燃料でカーボンフリーのものに転換したりすることを見込んでいます。
坂本:船外機のカーボンニュートラル計画はありますか?
丸山:船の世界はまだ試行錯誤している段階ですが、50馬力くらいの小型エンジンはBEV(二次電池式電気自動車)が成立すると考えています。ただ、それ以上の大きさですとバッテリー搭載量が非常に増えます。航走時の抵抗の大きさと、航続距離を考えた場合、何トンというバッテリーを積まないと理論的には成立しません。
大型のエンジンにつきましてはFCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)や水素エンジンといったバッテリーの代わりに、より軽量な水素タンクを積むという考えです。水素による推進器、あるいは液体・気体のカーボンニュートラルな燃料を使った内燃機関、ということを考えています。まだ完全な目処はつけきれていませんが、現在は技術開発中になります。
坂本:二輪車のBEV(二次電池式電気自動車)のメリットをお聞かせください。そして、技術的に難しい点などがあれば教えてください。
丸山:二輪車のBEV化に関しまして今年(2022年)は2モデル発表させていただきました。通常のエンジンと違って手入れが不要になります。たとえば、オイル交換や冷却水の入れ替などのメンテナンスがなくなるところが非常に大きいと思います。何といっても非常にスムーズで静かな乗り心地になりますので、街中で使うには最適な小型コミューターになると考えています。
ただ、航続距離を求めますと搭載電池の量が増えてしまい値段が高くなる、あるいは大きさや重さが増してしまうという問題があります。ある一定の航続距離に割り切った仕様にすることで、利便性を損なわないようにしながらバランスを取るという作業が必要になると思っています。
坂本:昨年(2021年)、二輪車メーカー合同で、水素エンジン開発の可能性を検討し始めたそうですが、現在の状況はいかがでしょうか?
丸山:現在、二輪車で協同組合のようなものを作り、テーマを整理して開発を加速させようということで協議をさせていただいている状況です。
トヨタさん(トヨタ自動車株式会社)はレースに出られておりまして、我々も当初からエンジンの開発に加わらせていただいています。四輪車はレースに出るところまで技術開発が進んでおりますが、二輪車はひとつのシリンダーの容積が四輪車より小さいということと、扱う回転域が四輪車以上なので水素の燃焼にとって少し難しいところがあります。そういった課題点も、体制を整えて技術開発をやっていくという段階にあります。
坂本:四輪車電動モーターの受注を行っているそうですが、現在の進捗状況はいかがでしょうか?
丸山:四輪車のBEV用のモーターに関しましてはレッドオーシャン状態になっていまして、中国のメーカーさんもたくさん参入されています。日本ですと、株式会社アイシンさん、株式会社デンソーさん、そして日本電産株式会社さんが非常に強い領域になっております。
そこで我々は、通常よく使われる普及帯の出力帯ではない、高性能で高付加価値の商品に絞って開発を行っております。スバルテクニカインターナショナル株式会社さんと共同で、ニュルブルクリンクでのタイムアタックにも取り組んでおります。
脱炭素が進んだ未来の都市で想定するヤマハ発動機の社会貢献とは
坂本:近い未来、脱炭素が進んだ新しい都市ができてくると思われます。その街で、御社はどのような製品を提供し、社会に貢献する企業になっているのか、未来像のようなものがあればお聞かせください。
丸山:我々は、モビリティをより小型化することで最適なものを提供していくという考え方を持っておりますので、車よりもより小型のモビリティというところで貢献していきたいと考えています。
▽三輪で立ち乗りのモビリティ「TRITOWN」
上の写真は「TRITOWN」という、電動アシスト自転車とバイクの間のような、三輪で立ち乗りのモビリティのコンセプトモデルです。それから、シニアカーの操作性を高めた「NeEMO」いうコンセプトモデルも発表しております。こういった小型モビリティを使ってラストワンマイルといったところを貢献したいと考えています。
坂本:小型モビリティを動かすエネルギーの面で、戦略はありますか?
丸山:エネルギーサイクルに関しましては、再生可能エネルギーで発電した電力でBEVを動かすということと、余った電力は水素に変えて溜めるという戦略は政府からも提示されておりますので、できた水素を用いたFCVや水素エンジンというものをモビリティに使えないか、と考えています。
また、非常用として火力発電、化石燃料を使った電源は残っていく可能性があります。その電源が空気中に出すCO2をキャプチャーして、水素などと反応させることで、合成CN燃料を作るというような活用方法など、エネルギーを循環させていく方法を考えています。
ラストワンマイルを技術で解決し、社会に貢献する
坂本:たとえば地方創生といったような、社会貢献という部分では、具体的にどのような活動をしてらっしゃいますか?
丸山:我々は地方創生や社会貢献という部分を非常に重く考えています。具体的な活動としては、ゴルフカーに低速自動運転を組み合わせて、地方都市におけるラストワンマイルの実現に取り組んでいます。これは国のプロジェクトとして、現在、各地域でさまざまな展開を行っているものです。
▽ゴルフカーと低速自動運転を組み合わせた「Low Speed Mobility」
もうひとつ、ドローンや小型の無人ヘリコプターを使った森林計測をしています。これは自動運転技術などで活用される「LiDAR」(*)というセンサーをヘリコプターに搭載し、森林の非常に近くを飛ばすことで木の1本1本のサイズや枝の張り具合などを、山に分け入ることなく大きな3Dデータとしてマッピングするというものです。
Light Detection And Ranging(光による検知と測距)の略称。近赤外光や可視光、紫外線を使って対象物に光を照射し、その反射光を光センサーで捉えて距離を測定する
これによって山のどの部分に手入れをするべきかがよくわかり、森林の手入れの効率化ができます。よく手入れされた森林というのは、荒れている森林に比べて5倍のCO2吸収量があると言われていますので、森林が荒れるのを防いでCO2の吸収量を上げていくといったような、地方の林業の手助けとなると考えています。
あとは、クリーンウォーターですね。海外の話になりますが、アフリカなどの水がなかなか手に入らない、手に入ったとしても非常に汚れた川の水しか飲めない国の方々のために、現地で調達できる部材を使用した非常にシンプルな浄水器を安価に提供する、といった活動をしています。
坂本:我々アクシスは鳥取県に本社を構えるIT企業です。地方企業目線のところから質問させていただきたいのですが、アクシスは超地域密着型生活プラットフォーム「Bird」を構築しています。加盟いただいている地元のスーパーや飲食店の品物を、インターネット上で買い物することができます、ご自宅や職場への配達も、店舗での受け取りも、自由に選ぶことのできるサービスです。
まさにそのラストワンマイルの部分の解決に向けて配送などのリアルの部分を融合させていますので、小型モビリティの有効性を強く感じています。このラストワンマイル、特に自動運転という分野についてはどのようにお考えでしょうか?
▽アクシスが提供する「Bird」のワンシーン
丸山:自動化することで最終的には、安全になったり楽になったりっていうのはあると思います。しかし、同じ漢字で書いても「楽」なのと「楽しい」っていうのはかなり意味が違うと捉えています。
たとえば、体が不自由な方がお知り合いの方の家にちょっと遊びに行くという場合には完全自動で安全に移動するというのがもっとも良いと思いますが、運動した方がより健康に生活できるという方にとっては自ら移動した方がいいと思います。そういった場合には電動アシスト自転車「PAS」のシニア向けのモデルなど、自発的な移動のサポートをすることによって楽しく、かつ安全に移動していただくというような考え方をしています。
そのため、ラストワンマイルの移動に関しては全自動でフリーに移動できるというところから、自分の力で移動される方のためのサポートをする技術までという幅を持っています。
坂本:自動運転に関して、実証実験のような取り組みはされていますか?
丸山:はい。スローモビリティに関しては、全国各地いろんなところでやっております。実験方法としては、昔からある電磁誘導線や磁気マーカーといったあまりコストがかからない手軽な技術での半自動運転などができるようになっています。あとは、路肩に駐輪した自転車といったような外的な環境変化に対応するために「LiDAR」やカメラを組み合わせるなど、普及させやすい技術を開発しています。
実証実験で使用しているような、オープンでゆっくり動く乗り物というのは、特に天気のいい日などは地域の方々にも非常に好評で、乗ったままお知り合いの方と話をしたり景色を見たり、あるいは通り過ぎていく際に近所の人に声をかけるといったような移動を楽しんでいただけるものですから、人との交流という意味でも、地方にとっては非常にいい方法だと考えています。
ESG推進におけるビジネス上の課題やリスクとは
丸山:逆にアクシス様にお聞きしたいのですが、こういった自動運転のような提供できる技術っていろいろあるものの、最終的にビジネスになるかどうかというところは非常に悩んでおりまして……。アクシスさんも同じようなお悩みはありますか?
坂本:実は我々も地方、地元の鳥取県の中でビジネスをやっていて、1番の課題はやっぱりそこだと思っています。よく議員さんとかに「自動運転やってみたい」と相談されますが、実際、ビジネスという面で捉えると、一日に何人が、どれくらいの費用で乗ってくれるのかを考える必要が出てきます。残念ですが、どう試算しても成り立ちません。
自治体を巻き込んだ形でやらない限り、ラストワンマイル問題は解決しないということを訴えています。これに関しては、自治体と民間企業が継続的にやっていける関係であれば協力したいという話で進めています。ようやく耳を傾けていただける自治体が出始めたという段階ですね。
▽アクシス・坂本氏
丸山:そうですね。その点に関しては自治体の方にも課題意識を持っていただき、インフラとしてどう維持していくのかということを考えていただきたいですね。我々も実証実験に関してはひっぱりだこなんですけど、皆さんに喜んでいただける反面、ビジネスとしては成り立たないという悩みがあるものですから。「社会インフラとしてどうしていくのか、という考えが必要かな」と思いますね。
坂本:脱炭素社会における脱炭素経営を推進していくにあたり、どのような経営上のリスクがあると考えられていますか? また、リスクを解消するために現在取り組まれていることがあれば教えていただけますでしょうか?
丸山:BEVを主力にするにあたり、今、1番心配なのは供給の問題ですね。原材料もどんどん上がっていますし、特にリチウムバッテリーやコバルト、ロジウムなどのトータル量が、最終的に地球全体のカーボンニュートラル化のパワートレインの変革についてこられるのかというような問題があります。
米国のEV自動車メーカーさんも、昨今1万ドル以上の値上げをされているという話も聞いておりますし、そういった影響が我々にとって大きくなると考えています。当然、争奪戦になり、供給不安が増すことも考えられますので、カーボンニュートラルを目指した技術的な選択肢をひとつに絞らず、分散させながらいろんな選択肢を検討しておこうと考えています。
また、安定供給への布石として、できるだけ発注のボリュームをまとめた上で調達させていただくということは検討しています。
ヤマハ発動機が考える、消費するエネルギーの「見える化」の意義とは
坂本:今後脱炭素社会になっていくにあたり、製品そのものはもちろん、製造する過程においてどのようなエネルギーをどのように消費しているか把握し、公表していくことが大切になってくると思います。ヤマハ発動機様としては消費するエネルギーの「見える化」の意義をどう捉えていますか?
丸山:我々は、エネルギーの循環で全体を考えるようにしています。そのため、エネルギーがどのぐらい消費されているか、どのエネルギーをどこでどれだけ使って、その結果、CO2を含む環境負荷物質というのがどのぐらい排出されているのかを把握するのは基本中の基本という考えです。何がどれだけ排出されているのかがわからないことには減らすのも難しいものですから、しっかりと把握して公表していくという方向で考えています。
坂本:環境負荷物質の排出量把握に向けた具体的な動きはありますか?
丸山:非常に難しいのは、ライフサイクルとなりますと原材料から廃棄までということになりますので、廃棄の部分が一体どうなっているのかを把握しつつ、原材料の購入先の皆様のCO2のカウントがきちんとできているということが前提条件になります。そのため、現在は基準をそろえて、どのようにカウントをお願いするのかというようなところの検討を進めています。
坂本:アクシスでは再エネ活用に関して、経路の部分などを活用する側の視点で「見える化」するサービスを進めていますが、完全に「見える化」して、モニタリングができる状態というのはメリットとデメリットが表裏一体な部分があると思います。「見える化」の本当の意味での活用方法と、会社の利益への繋げ方は、まだ答えが出ない状況かと思います。こちらについてはどう思われますか?
丸山:昨今は情報が急速に広がり一面的な情報で判断されてしまうという場面はありますが、基本的にはできるだけ「見える化」して、見えたデータによって当社がどう取り組んでいくのかを理解していただきたいという思いを強く持っています。
単にデータを出すだけではちょっと乱暴かな、と考えていますので、たとえば見えたデータによって我々が何をどうしていくのかというストーリーをきちんとご説明差し上げるために、今、試行錯誤しているところです。
ヤマハ発動機から投資家へのメッセージ
坂本:ESGは投資の面からも注目が高いテーマです。ヤマハ発動機様がステークホルダー(特に投資家の皆さま)に対し、どのようなスタンスで、どのような利益をコミットしていくつもりなのかお伺いできればと思います。
丸山:冒頭でもお話しさせていただきましたが、我々は長期ビジョンとして「ART for Human Possibilities 人はもっと幸せになれる」を掲げております。課題を技術でヤマハ発動機らしく解決して、新しい価値というのをしっかりと生み出していきたいと考えています。
投資家の皆様におかれましても、CO2を減らしていく方法というのはいろんな技術が考えられますので、技術がどのような価値を生み出して社会に役に立っていくのかというところをしっかり見ていただいた上で投資のご判断をいただければ、我々にとって非常に幸いです。
昨今、環境のことが話題になりますと悲観的な意見が多く出ますが、私を含め技術者にとっては環境と価値を両立させるというやりがいのある仕事だと思っておりますし、非常におもしろいチャレンジのしがいのある時代になったなと考えておりますので、しっかり頑張っていきたいと思います。