不動産投資でフルローンはやめたほうがいい?その理由も解説!【税理士監修】
不動産投資でフルローンはやめたほうがいい?
フルローンとは:頭金を出さずに物件価格の満額の融資を受けること
フルローンが受けられる金融機関の割合:銀行5%、信用金庫・信用組合13%
フルローンのメリット:自己資金を抑えられる、運営資金を残せる、投資効率を高められる
フルローンのデメリット:キャッシュフローが出にくい、余裕のない資金計画、金利上昇リスク、物件売却が困難

目次

  1. フルローンとは?
  2. フルローンが受けられる金融機関の割合
  3. フルローンのメリット3つ
  4. フルローンのリスク4つ
  5. 覚えておきたいフルローンはやめたほうが良い理由
  6. フルローンを検討できるケース
  7. 不動産投資で自己資金を入れる4つのメリット
  8. フルローンを検討する際によくあるQ&A


本コラムでは、フルローンの意味および金融機関の融資情勢について述べたうえで、不動産投資におけるフルローンのメリット・デメリットを解説する。

フルローンとは?

フルローンとは、頭金を出さずに物件価格の満額の融資を受けることを指す。

融資を受ける際には、初期費用および頭金を自己資金から拠出しなければならないことも多いが、フルローンを活用することで頭金も借入金から支払うことができる。

フルローンでも融資を受けられない諸経費7つ

不動産投資で物件を購入するにあたっては、物件価格に加えて主に以下の7つの諸経費がかかる。

・仲介手数料
・各種税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税)
・司法書士への報酬
・融資保証料
・融資事務手数料
・損害保険料(火災保険、地震保険、その他特約)
・買主が負担する固定資産税

各種経費の計算方法や料金、税率などは以下の通りである。

・仲介手数料
購入価格400万円以上の売買における仲介手数料の上限の計算式は、速算式で「売買価格×3%+6万+消費税」である。例えば、5,000万円の物件を売買したときの仲介手数料の上限は、以下の通りだ。

(5,000万円×3%+6万円)+消費税10%=171万6,000円

売買価格が大きくなるにつれて仲介手数料の負担が大きくなることがわかる。

・各種税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税)
印紙税は、売買契約書に記載されている金額によって下表のように定められている。
尚、宅地建物取引業法の改正により、不動産取引において電子契約が可能となったため、最近では売買契約を電子で契約する場合が多い。電子契約で行われた契約書類への収入印紙は基本的に不要となり、印紙税の納付は必要なくなる。下記表は電子契約ではなく、紙で印刷した売買契約書にかかる印紙税の税額一覧となる。

<印紙税税額表(不動産)>

記載された契約金額税額
(本則)
税額
(軽減措置)
1万円未満非課税非課税
10万円以下200円200円
(軽減措置の対象外)
10万円を超え50万円以下のもの400円200円
50万円を超え100万円以下のもの1,000円500円
100万円を超え500万円以下のもの2,000円1,000円
500万円を超え1,000万円以下のもの1万円5,000円
1,000万円を超え5,000万円以下のもの2万円1万円
5,000万円を超え1億円以下のもの6万円3万円
1億円を超え5億円以下のもの10万円6万円
5億円を超え10億円以下のもの20万円16万円
10億円を超え50億円以下のもの40万円32万円
50億円を超えるもの60万円48万円
契約金額の記載のないもの200円
※1997(平成9)年4月1日から2024(令和6)年3月31日までの間に作成される不動産の譲渡に関する契約書のうち、契約書に記載された契約金額が一定額を超えるものについては、税率が軽減されています。
出典:国税庁※この先は外部サイトに遷移します。「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」より株式会社ZUU作成

登録免許税は、土地と建物それぞれに課される。土地の所有権移転登記に対する税率は、2026(令和8)年3月末までは軽減措置で売買不動産価格の1.5%だ(本来は2.0%)。一方建物の登記は所有権を保存する不動産価格の0.4%となっている。

不動産取得税の計算式は、「不動産の価格(課税標準額)×税率」だ。一般的に課税標準額は、不動産価格の6~7割程度となる。税率は、2024年3月31日までは土地または家屋(住宅)が3.0%、家屋(非住宅)が4.0%である。なお、投資用不動産(居住用)の場合、新築であれば「新築住宅に係る税額の減額措置」を受けられる。

・司法書士への報酬
日本司法書士会連合会が2018年に司法書士に対して行ったアンケート調査による報酬の目安は、以下の通りだ。下表の例は、新築マンションを登記する場合の「所有権保存登記」における課税価格1,000万円あたりの平均報酬額である。新築で前所有者がいないため、手続きが簡易なことから比較的低料金となっている。

所有権移転登記は所有者が変わるため、報酬は下記の2倍以上の水準となる傾向だ。ケース別の平均報酬額については、下記の「報酬に関するアンケート」にアクセスして参照されたい。

<所有権保存登記司法書士報酬>

低額者10%の平均全体の平均値高額者10%の平均
北海道地区1万3,838円2万3,592円4万5,712円
東北地区1万3,588円2万2,739円3万7,845円
関東地区1万4,557円2万4,707円4万1,938円
中部地区1万5,460円2万3,708円3万7,020円
近畿地区1万5,369円3万1,299円5万5,040円
中国地区1万4,621円2万6,411円4万8,420円
四国地区1万4,833円2万4,099円3万9,106円
九州地区1万4,100円2万3,800円4万1,456円

・融資保証料
一般的に融資保証料は「一括返済」と「分割返済」で計算方法が異なる。一括返済の計算式は「借入金額×信用保証料率×保証期間(月)÷12」である。保証料率は顧客の財務内容などによって設定される。

【計算例】借入金額5,000万円、信用保証料率1.15%、保証期間6カ月
5,000万円×1.15%×6÷12=28万7,500円

分割返済については、分割返済回数別係数を使って計算し、据え置き期間の有無によっても計算方法が異なるなど複雑な体系になっている。

・融資事務手数料
融資事務手数料は、融資額によって異なる「定率型」と金額が一定の「定額型」がある。定率型が一般的で、融資額の0.5%(税込)程度〜2.2%(税込)程度の手数料に設定している金融機関が多い傾向だ。なお、金融機関によっては事務手数料がかからない場合もある。

・損害保険料(火災保険、地震保険、その他特約)
保険料は、金融機関や補償内容によって異なる。補償内容というのは、火災や地震での保険だけでなく。盗難などの補償も特約として含まれている場合がある。それぞれの金融機関で実際に相談してみるのがいいだろう。火災や地震のほかに盗難などの特約も含まれている。

・買主が負担する固定資産税・都市計画税
本来、固定資産税は毎年1月1日時点の不動産所有者がその年一年分の固定資産税を支払う。しかし、売主と買主の金銭の負担は法律上定められていないため、不動産契約では慣例として引き渡し日前日までの固定資産税・都市計画税を売主が、引き渡し当日以降の分を買主が負担することになっている。

計算例として、その年の固定資産税が10万円、都市計画税が5万円で8月1日に引き渡しが行われた場合に買主が負担する固定資産税・都市計画税は、15万円×153日(その年の8月1日以降の残日数)÷365日=6万2,876円となる。

なお、上記の例では起算日を1月1日としているが、4月1日とする自治体もあるため注意したい。

上記7つの諸経費は、原則フルローンでも融資を受けることはできないため、自己資金から拠出することが必要だ。

フルローンよりもハイリスク!オーバーローンについて解説

オーバーローンとは、物件購入にあたって必要な諸経費も含めた金額での融資のことを指す。

不動産投資フルローン

例えば5,000万円の物件を購入するにあたって、諸経費込みで5,500万円の融資を受けるような場合だ。オーバーローンでは、物件価格を超える金額の融資を受けるため、家賃収入に対する返済比率が高くなる。また、総支払金利の金額も多くなる。

5,000万円の物件に自己資金20%(1,000万円)入れた場合と、フルローン(5,000万円)、諸経費500万円を含めたオーバーローン(5,500万円)で融資を受けた場合の支払額の違いは、以下のようになる。

【シミュレーション条件】元利均等払い、金利1.0%、返済期間35年

借入額毎月返済額利息総額返済総額
4,000万円
(自己資金20%)
11万2,914円742万3,753円4,742万3,753円
5,000万円
(フルローン)
14万1,142円927万9,814円5,927万9,814円
5,500万円
(オーバーローン)
15万5,257円1,020万7,759円6,520万7,759円

フルローンに比べてオーバーローンは、月の返済額が1万4,115円多い。また利息総額も92万7,945円と100万円近く余計に支払うことが必要になるため、フルローンよりもオーバーローンのほうがキャッシュフローを出しにくくなる。そのため賃貸経営における財務状況が弱くなる点でハイリスクだ。一方、初期費用を極限まで抑えて不動産投資をスタートできる点では、一定のメリットはある。

空室率や諸経費率を資金計画に織り込み、緻密なシミュレーションをしたうえでキャッシュフローが出る安全な賃貸経営ができそうであればオーバーローンも検討できるかもしれない。

フルローンが受けられる金融機関の割合

フルローンで融資が受けられる金融機関はどれくらいあるのだろうか。以下のアンケートをもとに分析してみよう。

金融庁が2018年に実施した「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」※この先は外部サイトに遷移します。を参照する。なお、調査した金融機関の内訳は、銀行121、信用金庫261、信用組合148である。

同調査において、「物件の購入金額の一部を顧客の自己資金で賄わせているか」という問いに対して、「一切行っていない(すべての案件でフルローンを行っている)」と回答した割合は銀行で5%、信用金庫・信用組合で13%であった。銀行95%、信用金庫および信用組合87%において、必ずしもフルローンで融資を受けられるわけではないということがいえる。

フルローンのメリット3つ

フルローンで融資を受ける主なメリットとして以下の3つが挙げられる。

・自己資金を抑えることができる
・手元の運営資金を残しておける
・投資効率を高めることができる

手元資金の拠出を抑えて合理的に投資を行うことができるという点がフルローンのメリットといえる。

自己資金を抑えることができる

融資を受けるにあたって考えなければならないのが自己資金だ。購入者の属性(年収、金融資産等)や購入物件によって大きく異なるが、物件価格の20%以上の自己資金が求められることもある。

物件価格の20%となると5,000万円の物件の場合は1,000万円以上、1億円の物件の場合は2,000万円以上の自己資金が求められる可能性があるということだ。

不動産投資に回せる1,000万円単位の余裕資金を一度に拠出できる人はそう多くはいないだろう。

フルローンで融資を受けることで、頭金を借入金でカバーすることができ、初期費用分のみの自己資金で物件を購入できるチャンスが生まれる。

手元の運営資金を残しておける

賃貸経営には、以下の表のような固定コスト(発生時期および金額が比較的予測しやすいコスト)と変動コスト(金額に変動があり予測が困難なコスト)がかかる。

項目固定コスト変動コスト
・ローン返済
・管理委託費
・固定資産税、都市計画税
・損害保険料
・管理費、修繕積立金(区分マンションの場合)
・共用部分の水道光熱費(一棟物件の場合)
・原状回復工事費用
・入居者募集費用
・修繕費

両コストともに家賃収入の有無に関わらず発生するコストであるため、手元資金の管理には要注意だ。

コストの金額が大きい場合や家賃収入が減少した場合など、家賃収入の中からコストを支払うことができない場合に備えて、常時一定の手元資金を温存しておく必要がある。

物件購入時に多額の自己資金を拠出すると物件購入後の手元資金が手薄になるリスクがあるが、フルローンで融資を受けることで手元資金を温存できるため、余裕をもって賃貸経営を始めることができるだろう。

投資効率を高めることができる

フルローンで物件を購入することで、少ない自己資金で大きな金額の投資ができる(レバレッジが効く)ため、投資効率を高めることができる。

自己資金と投資効率について、以下のような投資事例をもとに解説する。

<投資条件>

物件条件融資条件
物件価格※15,000万円借入期間30年
実質家賃収入(年間)※2400万円金利2%
※1.購入時の初期費用込み
※2.額面の家賃収入から諸経費(ローン返済以外)を差し引いた金額

<自己資金と投資効率の関係性>

投資①投資②投資③
自己資金(万円)a5,000万円1,500万円500万円
融資金額(万円)0円3,500万円4,500万円
年間返済総額※3.40円155万円200万円
年間キャッシュフロー(CF)b ※5.6400万円245万円200万円
自己資金に対するCFの割合(b/a)8.0%16.3%40.0%
※3.元利均等返済、固定金利とする
※4.千円以下の端数は四捨五入
※5.実質家賃収入からローン返済を控除した金額
※6.簡略化のため空室率や変動コストは加味していない

自己資金に対するCFの割合が高いほど、少ない自己資金で効率良く利益を上げられていると評価できる。

上掲表では、拠出する自己資金が少なくなるにつれて、自己資金に対するCFの割合、すなわち投資効率が高くなっていることが分かる。

フルローンのリスク4つ

フルローンで融資を受ける主なリスクは以下の4つ。

・キャッシュフローを出しにくい
・余裕のない資金計画になる可能性がある
・金利上昇リスクでさらに返済負担が増大
・物件売却が困難になるリスクがある

キャッシュフローを出しにくい

不動産投資におけるキャッシュフローとは、家賃収入から各種コストを差し引いた手残りの金額をいう。

フルローンにおいては家賃収入に占めるローン返済の割合が高くなるため、キャッシュフローは減少する。キャッシュフローが減少するということは、毎月の手残り金額が少なくなるということであるため、キャッシュフローを得ることを主眼においた不動産投資には適さないかもしれない。

自己資金を入れた通常のローンと、フルローンで各種コストを引いた手残り金がどのくらい違うかシミュレーションしてみよう。

【シミュレーションの条件】
・3LDKマンション、物件価格5,000万円、家賃月18万円、経費率20%
・借入金額4,000万円および5,000万円、元利均等払い、金利1.0%、返済期間35年

自己資金20%(融資額4,000万円)フルローン(融資額5,000万円)
家賃収入18万円家賃収入18万円
月経費3万6,000円月経費3万6,000円
ローン返済額11万2,914円ローン返済額14万1,142円
手残り3万1,086円手残り2,858円
月間キャッシュフロー差額 2万8,228円

月3万円近いキャッシュフローの差が出る結果となり、フルローンでマンション経営を行うことがいかに難しいかがわかる。

余裕のない資金計画になる可能性がある

フルローンにおいてはキャッシュフローが減少し、資金的に余裕がない状態になる可能性がある。融資の金利や投資物件の利回りによっては、各種コストの金額が家賃収入を上回り、収支が赤字になる事態も想定されるだろう。

フルローンで融資を受ける際は、変動コストも加味した資金計画を立て、キャッシュフローの見込める物件を選定するなどの対策をしておこう。

・フルローンで収支はどのくらい悪化する?シミュレーションしてみよう
フルローンで融資を受けることは、家賃収入に対する返済比率が上がることになるため、その分キャッシュフローが悪化する。実際にフルローンでどの程度キャッシュフロー(CF)が悪化するのか、自己資金を入れた場合とフルローンの場合の2パターンでシミュレーションしてみよう。購入する物件は、ともに以下の通りとする。

・物件価格:1億円
・年間家賃収入:1,000万円(表面利回り10%)
・年間諸経費:200万円
※空室率は考慮しない

【シミュレーション1】
金利2%・融資7,000万円・自己資金3,000万円・返済期間30年

満室時家賃収入/年諸経費/年実質家賃収入/年返済額/年CF/年返済総額
1,000万円200万円800万円約310万円約489万円約9,314万円

【シミュレーション2(フルローン)】
金利2%・融資1億円・自己資金0円・返済期間30年

満室時家賃収入/年諸経費/年実質家賃収入/年返済額/年CF/年返済総額
1,000万円200万円800万円約443万円約356万円約1億3,306万円

同じ物件を同じ金利・融資期間で購入したとしても自己資金を入れるか否かでキャッシュフローに大きな差が出ていることが分かる。3,000万円の自己資金を入れることで、総返済額が約4,000万円近く安くなるのだ(下図参照)。フルローンにおいては、借入金額の増加に伴い返済総額が増えるため、収支を圧迫することになるのだ。

不動産投資フルローン

また、「フルローン」と「自己資金あり」で、年を追うごとにキャッシュフローの差がどれくらいになるのか、以下の条件でシミュレーションしてみよう。

・フルローンで年間キャッシュフローが200万円
・自己資金を入れて年間キャッシュフローが250万円

年別の累計でのキャッシュフローは、以下の表のようになる。

3年目5年目10年目15年目
フルローン約600万円約1,000万円約2,000万円約3,000万円
自己資金あり約750万円約1,250万円約2,500万円約3,750万円
差額約150万円約250万円約500万円約750万円
※元利均等返済を想定

上図のように、15年目になると750万円も差が出ることになる。

上記シミュレーションにおいては、空室率や大規模修繕などを加味していない。そのため空室率や大規模修繕費など家賃収入の減少と支出の増加を反映させると、フルローンでの不動産投資における財務状況の脆弱さが浮き彫りになる。キャッシュフローが少ないということは、手元に資金を残しにくいということだ。空室や大規模修繕などの要因によって年間収支が悪化したり、最悪の場合は資金ショートしたりするリスクがある。

フルローンで不動産投資を始める場合でも突発的な支出の発生や収入の減少に備えて一定の手元資金を確保しておく必要があるだろう。手元資金がない状態で不動産投資をしてしまうと、毎月の返済が滞って「金融機関から物件が差し押さえられる」「自己破産を余儀なくされる」といった可能性もある。不動産投資は年単位の中長期的な投資であるため、まずは安全性を第一に考えることが重要だ。

融資という外部資本で投資をする場合は、100%自己資金で投資をする以上に安全性を重視し、リスクを事前に理解しておくことが必要といえる。「不動産投資には経費がかかる」「家賃収入は空室によって減少する可能性が常にある」ということを認識して、キャッシュフローベースで余裕のある資金計画を入念に立ててから不動産投資を始めたい。

金利上昇リスクでさらに返済負担が増大

日本は、長期間にわたって超低金利の金融情勢が続いている。これは、逆にいえばこの先金利上昇の余地が大きいことを意味する。金利が上昇すれば月々の返済負担が増大する。金利1%上昇でどの程度返済が増えるかをシミュレーションしておこう。

【シミュレーション条件】融資金額5,000万円、元利均等払い、返済期間35年、金利1.0%と2.0%で比較

金利毎月返済額利息総額返済総額
1.0%14万1,142円927万9,814円5,927万9,814円
2.0%16万5,631円1,956万4,969円6,956万4,969円
差額2万4,489円1,028万5,155円1,028万5,155円

1%金利が上がると毎月の返済額が約2万4,489円増加する。一気に1%も金利が上がるとは限らないが、金利の上昇が大きなリスクであることがわかる。

物件売却が困難になるリスクがある

フルローンでは物件価格の満額で融資を受けることになるため、売却時の価格に対するローン残高の割合が高くなりやすい。

フルローンで融資を受けることで、以下のような場合に物件売却が困難になる可能性があることを認識しておこう。

購入後に物件価格が下落し、売却価格がローン残高を下回った場合
短期間での売却の場合

売却時の価格がローン残高を下回っている場合には、ローン完済のために自己資金を拠出しなければならないことから難航しやすいといえる。

覚えておきたいフルローンはやめたほうが良い理由

フルローンはやめたほうが良い理由としては、以下のような点が考えられる。

・空室リスクや家賃滞納リスクへの対応が難しくなる
毎月ある程度の手残りがあれば、積み立てておいて空室が出た場合にローンの返済に充てることができる。しかしフルローンで手残りが少ないと空室や家賃滞納が出た場合にローンの補填が難しくなる

・金利上昇の影響を受けやすい
先にシミュレーションしたように金利が上昇すると月の返済額が増えてしまう。フルローンにして融資額が多いほど金利上昇の影響も大きくなるので注意したい。

・修繕費など予期せぬ費用の発生時に資金的余裕がなくなる
空室リスクと同じようにフルローンにして手残りが少ないと修繕費など予期せぬ費用が発生したときに資金的余裕がなくなる

フルローンを検討できるケース

フルローンは、キャッシュフローの悪化や財務状況の脆弱化を招きかねない。しかし、「リスクはあるがフルローンを利用したい」という場合は、以下のような条件をクリアする必要がある。いずれも資金的にかなりハードルが高いことがわかるだろう。

・安定した高年収か金融資産が5,000万円以上ある
年収が高いか金融資産が多いと、フルローンを組める可能性がある。あくまでも目安だが、金融資産に関しては「5,000万~1億円未満」あると準富裕層の定義に当てはまり、フルローン融資を組んだとしても、突発的な要因に対応できるだろう。年収に関しては2,000万円以上が理想だが、なおかつ毎年コンスタントに稼いでいる必要がある。

例えば個人事業主などで売り上げが多い年は2,000万円を超える年収があるが、それ以外の年は2,000万円を割っているような不安定な状態だと融資を受けにくくなるため、注意が必要だ。

・購入する物件以外に担保になる物件がある
共同担保を差し入れることでフルローンにできる場合がある。共同担保とは、購入する物件以外に保有している土地や建物などの不動産を担保設定することをいう。物件に共同担保が上乗せされるため、担保評価が高くなる。ただし、どんな物件でも評価されるわけではなく、物件の条件(築年数など)やローンの残債によっても変わってくる。

例えば5,000万円の担保物件に対し4,000万円の融資を受けていた場合、3,000万円で売却できるとしても残債が3,500万円あればローンが残ってしまうため、共同担保にすることは難しい。ローンの残債が半分以下か、完済している物件が共同担保であればフルローンで融資を受けられる可能性が高くなるだろう。

・新築物件を選んで資産価値を高く維持する
新築物件を選ぶことで物件の資産価値がすぐには下がりにくく、フルローンの審査に通る可能性がある。また、築年数が5~10年であれば築浅物件となり、売却しやすい傾向となるため金融機関の評価が高くなる。

レインズの「首都圏中古マンション・中古戸建住宅地域別・築年帯別成約状況【2023年04~06月】」によると、築年が経過するごとに価格は右肩下がりに推移していることがわかるだろう(下図参照)。特に築30年付近になると下落幅が大きいため、フルローンにしたいなら築年数の浅い物件を購入したほうが無難だ。

<東京都中古マンションの築年帯別価格>

不動産投資フルローン
出典:レインズ※この先は外部サイトに遷移します。「首都圏中古マンション・中古戸建住宅地域別・築年帯別成約状況【2023年04~06月】」より株式会社ZUU作成

・土地の価値が高い物件を購入する
不動産価格は、建物価格と土地価格で成り立っている。建物価値が多くを占める物件もあれば、土地価格のほうが高い物件もある。どちらの価値が高いかで以下のように資産価値が変化する。

・建物価格3,000万円、土地価格2,000万円の物件
建物が経年劣化し、10年後に建物価格が2,100万円(70%)に下がると、物件の価値は4,100万円となる。
・建物価格2,000万円、土地価格3,000万円の物件
建物が経年劣化し、10年後に建物価格が1,400万円(70%)に下がっても、土地の価格は変わらないため、物件の価値は4,400万円となる。

同じ5,000万円の物件でも、土地の価格は下がりにくいため、土地値が出る物件のほうが担保価値は高い。フルローンを検討してもらえる可能性が高い。

・キャッシュフローが黒字の物件を持っている
すでに投資している物件のなかで、キャッシュフローが黒字になっている物件があれば金融機関の評価が高くなるだろう。なぜなら分散投資にもなり、A物件で空室が出た場合でもB物件の黒字分である程度ローンの返済に充てることができるからだ。また投資物件でキャッシュフローが出ている実績にもなり、賃貸経営の手腕があると評価される。

逆にキャッシュフローが赤字になっていれば、金融機関としては貸倒れになるリスクがあると判断されるため、フルローンで融資を受けるのは難しいかもしれない。

不動産投資で自己資金を入れる4つのメリット

フルローンには、物件購入後の財務面のリスクが伴うだけでなくフルローンでの融資を受けられる金融機関も限られる。そのため不動産投資を行う際は、自己資金を入れて始めることを検討するほうが無難だろう。ここでは、不動産投資で自己資金を入れる主なメリットを4つ紹介する。

・キャッシュフローを確保できる
・物件の買い増しができる可能性が増す
・売却が困難になるリスクを軽減できる
・金利の相談がしやすくなるケースがある

キャッシュフローを確保できる

自己資金を入れることで家賃収入に対する返済比率を抑えられ、キャッシュフローが出しやすくなる。自己資金を入れて借入額を少なくすると総支払利息を抑えられるため、財務状況を良くする効果もあるだろう。キャッシュフローは、賃貸経営における財務的基盤となるため、拠出できる自己資金の範囲内で「いかにしてキャッシュフローを最大化するか」を考えるのが賢明だ。

物件の買い増しができる可能性が増す

まず、前提として融資については投資家の資金状況のほかに属性についても関連して審査される。そのため、自己資金を入れたからといって次の融資が問題なく簡単に進むわけではない。以下の話は、1つの可能性として認識しておくとよいだろう。

自己資金を入れることで2棟目以降の物件の買い増しをスムーズに行える可能性も出てくる。なぜなら借入額を抑えることは、その投資家が受けられる融資金額の余力を温存しておくことにつながるからだ。仮に、融資枠が1億円の投資家がいたして、1棟目の投資時に1億円分の融資枠をすべて使い切ってしまうと2棟目以降の購入の際に融資を受けられない状況が予想される。また、自己資金を入れることによって資産と負債のバランスが良化することから、金融機関が受ける印象も良化する。

資産規模拡大を考えるのであれば自己資金を入れて融資枠を温存させておくのが合理的な場合もある点は押さえておきたい。

売却が困難になるリスクを軽減できる

自己資金が少なく物件価格に対する借入比率が大きいと物件の売却が困難になるリスクがある。なぜなら物件価格が購入時から下がっていた場合、物件を売却して得られたお金で融資の繰り上げ一括返済ができなくなる可能性があるからだ。自己資金を入れて物件価格に対する借入比率を抑えることで物件価格が購入時から下がっていた場合でも売却価格が融資残高を下回るリスクを軽減することができる。

自己資金の多寡は、物件売却時にも影響することを認識しておこう。

金利の相談がしやすくなるケースがある

自己資金を入れることで資産負債バランスが良化する。そのため、金融機関に金利の相談がしやすくなる面があるだろう。仮に、金利を下げることができれば、キャッシュフローの良化につながる。

ただし、そもそも金融機関から自己資金を求められている場合には金利の相談は難しいだろう。また、融資額に対する投入する自己資金が少ないなど資産負債バランスの良化にあまり寄与しないケースでも同様だ。

フルローンを検討する際によくあるQ&A

Q.フルローンには諸費用も含まれるのか?

フルローンとは、頭金を出さずに物件価格の満額の融資を受けること。ただし、諸経費は含まれない。用意しなければならない諸経費は「仲介手数料」「各種税金」「司法書士への報酬」「融資保証料」「融資事務手数料」「損害保険料」「買主が負担する固定資産税」など。

Q.フルローンの仕組みは?

不動産投資の物件を買うには、物件価格、諸経費が必要になる。物件価格を全て融資で賄うのがフルローンで、諸経費は自己資金で賄う必要がある。また、諸経費まで含めて全てを融資で賄うのは「オーバーローン」という。

Q.フルローンが向いている人は?

フルローンが向いているのは金融資産が多い人である。金融資産が多い人は、キャッシュフローが悪化したり財務状況が脆弱になったりするリスクカバーが比較的しやすいため、フルローンが向いている。不動産投資の収支がマイナスになったとしても本業からの収入や金融資産の切り崩しができれば補てんがしやすいだろう。

宮路 幸人
税務に関する記述の監修

宮路 幸人
税理士・CFP・宅建士・マンション管理士

会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。

(提供:manabu不動産投資

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