株式と同じように売買でき、価格もわかりやすいETFは投資家にとって人気の金融商品だ。最近では海外の指数・指標に連動するリスクの高いETFも上場され、取引できるようになっている。なかでも、レバレッジ型ETFは、名前からくるイメージと実際の特性が異なるため、経験の浅い投資家にとってわかりづらい商品となっており、金融庁も注意を促している。今回はこのレバレッジ型ETFの特性やリスクを詳しく紹介する。見落としがちなリスクを知ることで、自分の投資スタンスに本当に合っているか、ぜひ見直してほしい。

目次

  1. レバレッジ型ETFとはなにか
  2. そもそも、なぜレバレッジ型ETFが人気なのか
  3. レバレッジ型ETFのメリットとデメリット
  4. 金融庁も注意をうながす「レバレッジ型ETF」の注意点
  5. レバレッジ型ETFのよくある勘違い
  6. まとめ:投資の前に、レバレッジ型ETFの特性を正しく理解できているか確認しよう

レバレッジ型ETFとはなにか

レバレッジ型ETFとは? 金融庁も注意をうながす投資時のリスクを解説
(画像=wsf-f/stock.adobe.com)

個人投資家にとって話題の「レバレッジ型ETF」とは、一体どのような商品だろうか。まずはその特性を知っておこう。

レバレッジ型ETFの概要

ETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託)は、日経平均株価やTOPIXなどの特定の指数・指標に連動する金融商品だ。このETFは、株式と同じように株式市場で売買ができることや、身近な指数に連動するため、価格の動きがわかりやすいなどの特徴がある。

▽ETFとは

上場投資信託。証券取引所に上場され、株式と同様に売買されている投資信託。

引用:JSDA日本証券業協会 | 投資の時間 | ETF(いーてぃーえふ)

レバレッジ型ETFはETFと同じく、特定の指数・指標との連動を目指すETFだが、通常のETFとは連動の仕方が異なる。レバレッジ型ETFの場合、対象指数の値動きの一定の倍率(レバレッジ倍)の値動きを日次(1日)で達成するように運用されている。

たとえば、TOPIXの日々の値動きの2倍の値動きを目指すレバレッジ型ETFは、TOPIXが2%上昇した日には、4%の上昇になることを目指して運用されるわけだ。

レバレッジ型ETFはハイリスク、ハイリターンな金融商品

レバレッジ型ETFは対象指数に対してレバレッジ倍の値動きをするため、大きな利益を狙える反面、リスクも大きい。いわゆる「ハイリスク・ハイリターン」の商品だ。2倍リターンがある可能性があるとは2倍の下落幅、損失のリスクがある、ということだ。

そして当然ながら、レバレッジ倍率が2倍、3倍と上がるに従って、リスクとリターンもより高くなると理解したい。

レバレッジ型ETFが対象にする指数の例

東京証券取引所に上場されている、または上場予定のレバレッジETFの対象指数となっている指数には、以下の指数がある。

▽表1.レバレッジ型ETFが対象とする指数

指数内容
日経平均株価日本経済新聞社が東京証券取引所プライム市場上場銘柄から選んだ225銘柄から構成される平均株価。日本の株式市場の大きな動きを把握する代表的な指数
TOPIX東京証券取引所に上場する銘柄を対象として算出される株価指数。日経平均株価と並ぶ日本の代表的な指数。以前は東証1部上場の全銘柄を対象としていたが、2022年4月1日の新市場区分施工後、対象銘柄の見直しが行われている
JPX日経インデックス400JPXグループと日本経済新聞社が2014年から公表を始めた、「投資者にとって投資魅力の高い会社」400社から構成される株価指数
ハンセン中国企業株指数香港証券取引所のメインボードに上場する中国本土の企業の中から、時価総額や流動性の高い優良株を選んで算出される指数

レバレッジ型ETFの商品特性

レバレッジ型ETFは、1日の動きで比較するとその変動率は対象指数のレバレッジ倍(現状商品では2倍)になるが、2日以上離れた日と比較した場合、複利効果により対象指数の変動率の2倍超または未満となる場合がある。

特に、対象指数が交互に上昇・下落を繰り返す場合、この複利効果により、レバレッジ型ETFの変動率は対象指数に比べ少しずつ減少していくという特性がある。このため、投資家は利益を得にくくなるので注意が必要である。

一方、対象指数が上昇トレンドにある場合には、レバレッジ型ETFはリターンをさらに強めるため、有力な投資先になる。

そもそも、なぜレバレッジ型ETFが人気なのか

レバレッジ型ではないシンプルなETFに比べ、レバレッジ型ETFは値動きがわかりづらくリスクも高い。では、なぜこのレバレッジ型ETFがいま注目されているのだろうか。

信用口座を開設しなくても、レバレッジ取引ができる

レバレッジ(Leverage)とは「てこの原理」という意味だが、投資の世界では借入をして自己資金の収益を高めることを指す。自己資金が少なくても大きなリターンが期待できる反面、リスクも大きいのがこのレバレッジの特徴だ。

▽レバレッジ型とは

日経平均株価やTOPIXなどの指数(原指数)の日々の変動率が一定の倍率になるように設計されたもの。ブル型とも呼ばれる。

引用:日本証券業協会 | 投資の時間 | レバレッジ型(ればれっじがた)

通常の株式取引において、レバレッジを用いた取引するためには、信用口座の開設が必要になる。しかし、レバレッジ型ETFではその必要がなく、シンプルなETFと同様に売買ができる(ただし、信用口座での取引も可能)。

これは、レバレッジ型ETFが、ETFをレバレッジ取引するという商品ではなく、ETFの対象指数にレバレッジがかかっている状態のものを通常と同じように取引するからだ。

なお、信用取引とは、現金や株などを証券会社に担保として預け、その預けた担保額の約3.3倍の取引ができる制度のことだ。この信用取引を行うのに必要な専用の口座が「信用口座」だ。

信用取引ではないので、減っても0円まで、リスクは限定的

信用取引と違い、レバレッジ型ETFは自己資金を超えて投資をすることはない。あくまで商品の1日あたりの値動きがシンプルなETFの2倍、3倍になるだけだ。

したがって、対象のレバレッジ型ETFが暴落したとしても、信用取引のように損失が自己資金だけでカバーできず、負債を抱え込むという事態にはならない。リスクは高いが、限定的でもあると理解しよう。

2021年までは、投資すれば利益を得られたレバレッジ型ETF

2022年6月時点で東京証券取引所に上場しているレバレッジ型ETFは、最も古いものでも2012年4月上場である。つまり、レバレッジ型ETFは比較的新しい商品と言える。

日経平均株価やTOPIXなどの日本の指数は、2008年に起こったリーマンショックで急落し、さらに2011年の東日本大震災の影響で、2012年の後半まで低調であった。しかしその後はコロナ禍などで一時的に下落はしたものの、2021年まで概ね順調に上昇してきた。

つまり、レバレッジETFが上場した時期からは、そのリターンが高まりやすい上昇トレンドだったのである。

▽2002~2022年の日経平均株価の推移

レバレッジ型ETFのメリットとデメリット

レバレッジ型ETFには次のようなメリット、デメリットがある。一般のETFのイメージと異なる項目、そしてリスクもあるので、十分に注意して、投資を検討しよう。

レバレッジ型ETFのメリット

レバレッジ型ETFの最も大きなメリットは、レバレッジにより大きなリターンが狙える点だ。

通常のETFでは指数や指標に連動するように設計されているため、それらの対象指数と同程度のリターンしか期待できない。しかし、レバレッジ型ETFでは指数に一定の倍率をかけた1日ごとの値動きに投資するので、うまくいけば同じ投資資金でも大きなリターンが見込めるのである。

レバレッジ型ETFのデメリット

意外かもしれないが、レバレッジ型ETFはシンプルなETFに比べ、長期の保有には向いていない。

その理由の1つとして、対象指数が交互に上昇・下落を繰り返す場合、複利効果によりレバレッジ型ETFのパフォーマンスは次第に減少していくという特性である。

▽表2.レバレッジ型ETF(レバレッジ2倍)の値動きの例

項目 基準日1日目2日目3日目
指数日々の値動き10012090108
前日比(A)+20%-25%+20%
基準日からの変動率+20%-10%+8%
レバレッジETF
(2倍)
日々の値動き1001407098
前日比(=A×2)+40%-50%+40%
基準日からの変動率+40%-30%-2%

表2は、指数が交互に上昇・下落する相場でのレバレッジ型ETFの値動きを示したものだ。対象指数は2日目に下落したものの、3日目には基準日から+8%のリターンが出ている。

しかし、レバレッジ型ETFでは3日目に-2%の損失が出ていることがわかる。上昇・下落を繰り返す指標ではレバレッジの効果は薄まるのだ。

一般的に投資期間を長期に取れば取るほど、株価は上昇と下落を繰り返すため、レバレッジ型ETFは長期間の保有には向かない。

もう1つ、長期保有に向かない理由が、コストの高さである。

長期保有する商品のコストは低ければ低いほどいいが、一般的にレバレッジ型ETFは対象指数に連動させるため、先物取引を用いた運用を行なっている。したがって、シンプルなETFに比べ、先物取引コストを負担している分、信託報酬が高めに設定されているのである。

レバレッジ型ETFが強みを活かす投資局面とは

すでに説明したように、レバレッジ型ETFは、株価などの対象指数が上下動を繰り返す場合、コストが高いことも相まって長期保有に向かない。では、レバレッジ型ETFの特徴を活かした投資方法はあるのだろうか。それは、対象指数が上昇トレンドにあるときだ。以下の表を確認したい。

▽表3.レバレッジ型ETF(レバレッジ2倍)の値動きの例2

項目 基準日1日目2日目3日目
指数日々の値動き100120150180
前日比(A)+20%+25%+20%
基準日からの変動率+20%+50%+80%
レバレッジETF
(2倍)
日々の値動き100140210294
前日比(=A×2)+40%+50%+40%
基準日からの変動率+40%110%194%

表3のように、指数の上昇が続くケースにおいては、レバレッジ型ETFは対象指数の2倍以上のパフォーマンスを発揮している。

一般的に、株価の指数が長期にわたって常に上昇することは稀だが、短期間であれば上昇が続くケースはあり得る。

したがって、レバレッジ型ETFは上昇トレンドが見込める局面に短期売買することで、最も強みが発揮されるのである。

金融庁も注意をうながす「レバレッジ型ETF」の注意点

これまで説明をしてきたように、レバレッジ型ETFは、一般のETFとは異なる特徴を持っている。だから、レバレッジ型ETFの特性を正しく理解しないまま投資をすると、思わぬ損失を招くこともある。そのため、金融庁も投資家向けにコメントを公表するなどして、間違った認識を正す対策を取っている。

▽金融庁によるレバレッジ型ETF取引への注意喚起

商品性質が長期投資に向いていないため、長期投資には注意が必要

上昇と下落を繰り返す指数では、レバレッジ型ETFの価格は対象の指数の価格のレバレッジ倍にならない可能性がある(表2)。一般的に株価は、短期的には上昇し続けることはあっても、長期的には上昇と下落を繰り返すことが多いため、長期投資には向かない。

また、シンプルなETFに比べてコストが高い点も長期投資に不向きな理由である。

2024年開始の新NISA制度からも対象から除外される予定

2019年12月に金融庁が公表した「令和2年度税制改正について」によると、2024年から始まる新しいNISAでは、投資対象商品である上場株式・公募株式投資信託等から「レバレッジを効かせている投資信託、及び上場株式のうち整理銘柄・監理銘柄を投資対象から除外」される予定だ。

▽金融庁「令和2年度税制改正について」で示された新NISAの投資対象商品

繰上償還リスク-強制的に損切りになる

通常のシンプルなETFは多くの企業に分散投資しているため、極端に価格が下落する可能性は低い。しかし、レバレッジ型ETFでは、たとえば対象指数が前日比-30%になると、変動率は-60%となる。これが数日続くと価格は限りなく0に近づいてしまう。

実際にはそうなる前に手放す人が多くなり、繰上償還されることになるだろう。シンプルなETFでも繰上償還のリスクはあるが、レバレッジ型ETFでは下落の速度が速いため、そのリスクがより高い恐れがある。

▽繰上償還とは

信託約款に定められた信託期間(運用期間)の満了日前に投資信託が償還されること。繰上げ償還の条件は、あらかじめ信託約款に定められている。例えば、「当該投資信託の残存口数が一定の規模以下になった場合」、「基準価額が一定条件を満たした場合」等であるが、各ファンドによって条件が異なるので信託約款で確認する必要がある。また、約款上で「繰り上げ償還することができます」と記載されている場合には、事前に公告し、受益者への書面の交付を行い、受益者に賛否を問うことによって繰り上げ償還が決まる。

引用:一般社団法人 投資信託協会 | 用語集 繰上償還

レバレッジ型ETFのよくある勘違い

レバレッジ型ETFに関してよくわからないまま投資をしてしまうと、思わぬところで損失を出してしまうかもしれない。ここではレバレッジ型ETFに関するよくある勘違いを紹介する。

レバレッジ型ETFの勘違い1:レバレッジ対象の価格から2倍、3倍と変動する

レバレッジ型ETFが常に対象指数の2倍、3倍で変動するという考えは、レバレッジ型ETFに関する勘違いのなかでも多い。たとえば、TOPIXレバレッジ(2倍)指数では、TOPIXが1年後に50%上昇すれば、100%値上がりするという勘違いである。

レバレッジ型ETFは、対象となる指数の値動きの一定の倍率(レバレッジ倍)の値動きを日次(1日)で達成するように運用されている商品である。あくまで1日後の値動きがレバレッジ倍を目指すのであって、2日以上の運用期間で見た場合、レバレッジ型ETFの価格は対象指数の価格のレバレッジ倍にはならない可能性がある(表2、表3)。

つまり、投資期間が長くなればなるほど、対象指数とは異なる値動きになっていく。

シンプルなETFはニュースなどでよく見る指数・指標と連動し、値動きがわかりやすいのが特徴だが、レバレッジETFはしっかりと自分で値動きを確認しなければならない。

レバレッジ型ETFの勘違い2:値下がりしてもいつか価格が戻るから塩漬けする

レバレッジ型ETFを単純に対象指数の2倍、3倍で変動すると勘違いしていると、いくら下がってもいつか価格が戻ると安易に考えがちである。

しかし、レバレッジ型ETFでは対象指数の価格が下落している期間はもちろん、下落した後しばらく停滞している期間も注意が必要だ。

表4は、対象指数が毎日10%の上昇、下落を繰り返しながら停滞した場合のレバレッジ2倍、3倍指数の値動きである。

▽表4. レバレッジ2倍、3倍における対象指数に対する価格の推移イメージ

経過日数対象指数レバレッジ2倍レバレッジ3倍
価格前日比価格前日比価格前日比
基準日100.0100.0100.0
1110.0+10%120.0+20%130.0+30%
299.0-10%96.0-20%91.0-30%
3108.9+10%115.2+20%118.3+30%
498.0-10%92.2-20%82.8-30%
5107.8+10%110.6+20%107.7+30%
697.0-10%88.5-20%75.4-30%
7106.7+10%106.2+20%98.0+30%
896.1-10%84.9-20%68.6-30%
9105.7+10%101.9+20%89.1+30%
1095.1-10%81.5-20%62.4-30%
11104.6+10%97.8+20%81.1+30%
1294.1-10%78.3-20%56.8-30%
13103.6+10%93.9+20%73.8+30%
1493.2-10%75.1-20%51.7-30%
15102.5+10%90.2+20%67.2+30%
1692.3-10%72.1-20%47.0-30%
17101.5+10%86.6+20%61.1+30%
1891.4-10%69.3-20%42.8-30%
19100.5+10%83.1+20%55.6+30%
2090.4-10%66.5-20%38.9-30%

対象指数が停滞(あるいは緩やかな下落)しているのに対し、レバレッジ2倍、3倍では明らかに価格が下がっているのがわかるだろう。

価格が下がっても値上がりするまで保有すればよいという考えは、通常のETFや投資信託では間違ってはいないが、レバレッジ型ETFでは必ずしも当てはまらないので注意が必要だ。

まとめ:投資の前に、レバレッジ型ETFの特性を正しく理解できているか確認しよう

レバレッジ型ETFは、信用口座を開設しなくてもレバレッジ取引が行え、高いリターンが狙える商品である。また、2021年までは日本の株価は上昇トレンドとなっており、レバレッジ型ETFの特性が活かしやすかったため注目されている。

しかし、レバレッジ型ETFは、あくまで1日あたりの変動率を対象指数の値動きのレバレッジ倍に連動することを目指すETFで、常に対象指数の2倍、3倍の動きをする商品ではない。

投資期間が長くなれば対象指数と異なる動きになるし、対象指数が停滞している期間は価格が下がることがある。あくまで短期的に利益を狙う商品という認識が大切だ。

レバレッジ型ETFは商品名のイメージから勘違いが起こりやすい商品だが、決してダメな商品という訳ではない。大切なのは商品のメリット・デメリットをよく理解した上で、自分の投資スタイルに組み込むことである。

最も避けたいのは、その商品のことをよくわからないまま、なんとなく儲かりそうだから投資してしまうことだ。今一度、レバレッジ型ETFに関してその特性を確認しよう。