日銀職員の平均給与は822万円
もっとも、黒田総裁は大蔵省のキャリア官僚出身であり総裁という地位は当然だが、その地位は日銀の中でかなり特殊なものだ。では、一般的な日銀の職員の給与はどうなっているのだろうか。
前述の『日本銀行の役職員の報酬、給与等について』によると、2020年度の日銀の常勤職員は3,847人で平均年齢は43.3歳、その平均給与は822万2,000円と公表されている。
日銀は「銀行の銀行」と呼ばれ、民間には全く同じ職種の企業が存在しない。参考までに、割と近い業種として金融業界の給与水準を見てみる。求人・転職情報サイトの「doda(デューダ)」によると、金融業界の平均年収は455万円。このうち「全国転勤があり、有名大学の卒業生が多い」ということが日銀と共通するであろう「都市銀行」の平均年収は、516万円となっている。
それぞれ出典の異なる数字なので正確に比較はできないが、日銀と都市銀行の間には、数百万円レベルの年収差がありそうなことがわかる。なお、dodaの調査では証券会社が558万円、地方銀行が417万円、信用金庫が378万円となっている。一口に金融業界と言っても、日銀と地方金融機関では大きな所得格差があるのだ。
世の中の平均年収の2倍?
ただ、いくら日銀と比べて薄給と言っても、金融機関は世間の平均よりも高給取りのイメージが浸透しているはずだ。実際、dodaの調査では全165業界の平均年収は403万円だった。単純に比較すれば、日銀の平均年収は世間の平均年収の2倍以上ということになる。
もちろん、日銀に入るには高校受験や大学受験、入行試験など、さまざまな関門で一貫して好成績を出して通過せねばならない。そのため、一般的な企業よりも待遇が良いこと自体には納得感があるかもしれない。
問題は、その高給ぶりが故に、金銭感覚が世間と離れてしまうことにある。本来、日銀は国民の消費意欲や経済感覚の現状を肌で感じ、金融政策に生かすべきだ。この点、今回の黒田総裁の発言内容は、その給与水準の高さと相まって「日銀は庶民感覚を知らず、机の上でデータだけ見て政策を考えている」という、疑念や不信感を生むに十分だったと言えるだろう。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)