コロナ陰性でも隔離扱い? 当局の権力乱用疑惑

さらに驚かされるのは、河南省当局の対応である。中国の報道機関によると、抗議活動を抑制する目的で、意図的に住民をコロナ感染者に仕立てあげているというのだ。

中国の多くの都市ではゼロコロナ政策の一環として、居住者が建物に出入りしたり公共交通機関を利用したりする際に「健康診断アプリ」で健康状態を証明することが義務付けられている。アプリのステータス表示が赤の場合は、ユーザーが最近コロナの検査で陽性だった、或いは陽性の疑いがあるとして2週間の隔離が必要となる。

つまり、アプリのステータス表示が赤である限り、抗議のためにデモに参加したり銀行に乗り込んだりといったことができなくなるのだが、預金凍結騒動以降、被害者らのアプリが検査結果にかかわらず続々と赤に変わっている。

無論、当局側は凍結問題とアプリの不具合の関連性を否定しているが、SNS上では「当局による権力の乱用の可能性がある」との批判で炎上している。

過去数年間で地方銀行の取り付け騒動が増加

今回の預金凍結騒動の原因として、ゼロコロナ政策により引き起こされた地方銀行の収益悪化を挙げる声もあるが、実際の問題は遥かに根深い。

フィナンシャルタイムズ紙によると、中国国内には3,900以上の地方金融機関が存在するが、過去数年間で取り付け騒動(信用不信などから消費者が預金の引き出しに殺到すること)が増加している。

PBOCが2021年第4四半期に高リスク機関として挙げた316の金融機関のうち、そのほとんどが小規模な地方銀行だった。

前述のサードパーティー経由の販売戦略から分かるように、小規模な地方銀行は常に潜在的な財務リスクに晒されており、少しでもその痛みを緩和するためにリスクの高いビジネスに手を出すという悪循環が生じている。

こうした高リスクの金融機関が有する純資産は全体の僅か1%に過ぎないが、取り付け騒動の増加は金融システムから生じる潜在的なリスクの波及や、社会の不安定性に対する規制当局の懸念を高めている。

世界第2位の経済大国に起こっている「金融システムの綻び」

2022年7月6日現在は、当局と警察が共同で調査を進めているが、今のところ凍結が解除されたとの報告はない。

中国の預金保険制度下で、銀行が財政難に陥った場合に口座保有者に補償されている金額は、最大50万人民元(約1,010万円)である。それ以上の貯蓄がある口座保有者は、過剰分を失う可能性に直面している。

その一方で、今後、地方政府や外部の投資家が、金融機関の資本増強や再編に乗り出す可能性が予想される。世界第2位の経済大国における「金融システムの綻び」は、世界経済にも暗影を投じている。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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