サプライチェーン多様化で脱中国依存狙う
「中国は韓国との強力な経済的つながりを維持することに苦戦している」
中国の慎重な対韓国姿勢についてこう分析するのは、米中政策財団で研究員を務めた経験もあるThe Diplomatの編集長、シャノン・ティエジ氏だ。
韓国にとって中国は最大の貿易相手国であり、2021年の貿易額は3,623億5,000万ドル(約50兆3,834億円)と、韓国の貿易全体の4分の1を占めた。
尹政権はインド太平洋の他の経済圏との関係を強化して「サプライチェーン同盟」を確立することにより、このような中国への貿易依存を断ち切ることを目論んでいる。「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定( CPTPP、11ヵ国からなるアジア太平洋地域における経済連携協定 )」への加入推進も、脱中国依存の一環である。
さらに、1月に発効された地域包括的経済連携(RCEP、日中豪など10ヵ国が参加)に加盟することで、東南アジア諸国との経済協力を強化する方針を示したほか、米国が主導するインド太平洋地域の新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」への参加にも前向きだ。
米シンクタンク、ブルッキングス・インスティテュートの試算によると、韓国はCPTPPに参加することで年間860億ドル(約11兆9,580億円)相当の経済効果を期待できるという。
「世界の工場」中国の強み
しかし、尹政権の野心とは裏腹に、韓国が中国依存を完全に断ち切るのは非現実的との見方もある。
他の多くの国同様、韓国にとって中国は「世界の工場」であり、経済は中国に強く依存している。特に、半導体などの電気・電子機器(部品含む)の製造で、中国が世界市場を占める割合は依然として高い。韓国が輸入している電気・電子機器も、大部分は中国からのものだ。
それに加えて、世界トップ5の電気自動車用バッテリー生産国である韓国は、その主要コンポーネントの希土類の調達も中国に依存している状況である。単にサプライチェーンを多様化するだけでは、中国の穴埋めは難しいだろう。
王毅外相は5月、このような韓国のジレンマを見透かしたかのように、「中国の巨大な市場は韓国企業に可能性を提供し、デジタル経済や人工知能、新エネルギーにおける協力がより大きな利益につながる」と主張した。サプライチェーンの多様化を試みる韓国の動きについて、反対の意を示した。
韓国との対立、百害あって一利なし?
西側諸国との緊張が高まっている現在、中国にとって韓国との対立がお互いにとって何の利益もないどころか、対応を間違えるとリスクとなりかねないことは重々承知しているはずだ。さまざまな背景を考慮すると、少なくとも現時点において、中国が韓国と表立って対立することに消極的なことだけは確かである。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)