楽天グループ傘下の楽天銀行が東京証券取引所に上場を申請した。具体的な上場時期などは未定だが、同傘下の楽天証券も上場準備を進めている。上場の目的は「楽天エコシステム」の拡大が想定されるが、背景には難航する携帯事業の影響があるとも指摘される。楽天グループ各社の現状や狙いについて分析する。
楽天銀行が上場申請
楽天銀行は2022年7月4日、東京証券取引所に新規上場申請を行ったと発表した。実際に上場するには今後、上場審査を経て東証から承認を得る必要がある。
楽天グループ・楽天銀行の現状
楽天グループ株式会社(旧楽天株式会社)は1997年に三木谷浩史会長によって設立され、インターネットショッピングモール「楽天市場」を開設した。その後ネット証券や銀行を買収し、現在まで金融事業を拡大させている。主な子会社には、フィンテック事業として楽天銀行・楽天証券・楽天カード、携帯電話事業として楽天モバイルなどがある。2021年に楽天グループ株式会社に商号変更した。
楽天銀行の前身は、2001年にインターネット銀行の先駆けとして開業したイーバンク銀行だ。2009年に楽天グループの連結子会社になり、楽天銀行へと名称を変更した。2022年3月期の連結総資産は9兆4,900億円だった。楽天銀行の口座数は2022年1月末に1,200万を突破し、預金残高は6月末時点で8兆円を超えており、口座数・預金残高ともにネット銀行では最大規模だ。
楽天証券も上場準備へ
楽天グループは2022年5月に、楽天証券の上場準備を開始することも明らかにしている。楽天証券はネット証券の中でSBI証券に次ぐ規模で、2021年12月期の連結営業収益は895億円余りと業界屈指の高収益だ。上場によって「楽天エコシステム(経済圏)」のさらなる拡大を目指すとしている。
楽天銀行・楽天証券が上場する目的は?
楽天グループが高収益の金融子会社2社を上場させる真の狙いはどこにあるのか。
「楽天エコシステム」形成へ
楽天グループは、フィンテック事業やインターネット事業、モバイル事業など多岐にわたる分野を手掛け、それらを有機的に結びつける「楽天エコシステム」の形成を重視している。
楽天銀行はインターネット銀行業界の前線を走り、金融サービスのデジタル化を推進してきた。同社は、この段階を「第一の成長ステージ」としている。そして2022年4月に同社が発表した「中長期ビジョン」では、事業拡大の数値目標を次のように掲げた。
これらの数値目標はどれほどの規模なのか。2022年6月に公表されたメガバンク3行の個人口座数は次のとおりだ。
・三菱UFJ銀行:約4,000万口座
・三井住友銀行:約2,700万口座
・みずほ銀行:約2,400万口座
さらに楽天銀行は、「第二の成長ステージ」として「メガバンクに匹敵する3,000万口座、メガバンクに次ぐ預金30兆円の到達」を目指している。具体的には、楽天ペイとの連携を深め、楽天グループの持つデータとAI(人工知能)を活用したマーケティングの精度向上などによって、フィンテック領域を強化するという。まさに「楽天エコシステム」を活かした成長戦略によって、メガバンク規模への成長を目指している。
上場の背景にはモバイル事業の苦境も?
一方で、上場によって資金確保を要する背景には、難航している携帯電話事業の現状もあるようだ。楽天グループは楽天モバイルを設立してモバイル事業に参入しているが、2020年に自社回線を利用する移動通信事業者(MNO)サービスを開始した。
楽天モバイルは基地局の建設などに多額の設備投資をしており、その影響を受けて楽天グループの2021年12月期の連結最終損益(国際会計基準)は過去最大の1,338億円の赤字となった。赤字は2019年12月期から続いている。
楽天モバイルは、自社の基地局が整っていない地域ではKDDIから回線を借りる「ローミング」を行っている。この費用がかさんでいることが赤字の一因であり、同時に基地局整備への投資を急ぐ理由でもある。
またこれまで、1GB以下の通信容量であれば「ゼロ円」で携帯電話が使用できる料金プランを強みにしてきた。しかし、2022年5月に同プランの廃止を表明し、その影響で解約するユーザーも一定数見込まれる。
楽天グループが楽天銀行と楽天証券の上場を狙うのは、こうした苦境にあるモバイル事業の赤字を埋め、設備投資を続けるための資金確保する目的があると見られている。