FX取引をしている方なら、「差金決済(さきんけっさい)取引」という言葉を見聞きしたことはあるだろう。しかし、その具体的な仕組みや特徴を理解する投資家は必ずしも多くない。そこで当記事では、メリットが多い差金決済の仕組みや、広く「差金決済取引」と呼ばれる商品について紹介する。特有のデメリットやリスクについても解説するので、投資判断に役立てよう。

目次

  1. 差金決済の基礎知識
  2. 差金決済取引の代表的な投資商品
  3. 差金決済取引のメリット
  4. 差金決済取引のデメリットやリスク
  5. 差金決済取引のリスク管理方法
  6. まとめ:差金決済取引を成功させるにはリスク管理がポイントに

差金決済の基礎知識

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(画像=ProximaStudio/stock.adobe.com)

最初に、差金決済(さきんけっさい)について、最低限理解しておくと役立つ基礎知識をまとめてみる。確認していこう。

差金決済取引とは?

差金決済、もしくは差金決済取引とは、現物の金融資産を売買することなく、それぞれの金融資産の取引において発生する価格差に相当する金銭の受け渡しのみを行う取引だ。この方式によって取引される金融派生商品(デリバティブ)についても同様に差金決済取引と呼ばれる。

差金決済という手法自体は株価指数先物取引や株価指数オプション取引においても使われるが、商品を指して差金決済取引と呼ぶ場合、これらは除かれることが多い。

差金決済の仕組みと、現物取引との違い

差金決済取引では株や商品、世界の主要通貨などを取引できるが、現物の売買や受け渡しは行われない。「差金決済」という名前の通り、差金取引は現物をやり取りすることなく、売買によって生じた「損益の差」だけを受け渡すのが最大の特徴だ。

▽差金決済のイメージ

投資家からの人気が高いFXも、差金取引決済の一種である。FXでは「ドル円」などの通貨ペアを売買するが、これも米ドルと日本円の交換レートを参照原資産にしているだけで、実際にドル紙幣や円紙幣のやり取りをしているわけではない。このように現物のやり取りをしないことで、後述する多くのメリットが得られるのだ。

差金決済だからできること

現物の受け渡しを伴わない差金決済だからこそ、できることが主に2つある。

・差金決済だからできること1:あらゆるものを投資対象にできる

差金決済の仕組みを利用すると、外国通貨だけではないさまざまなものを投資対象にできる。市場で取引される現物株や金(ゴールド)、銀、原油といった商品のほか、株価のボラティリティ(変動幅)によって変動する指数である「恐怖指数」に対しても差金決済で投資が可能だ。

・差金決済だからできること2:レバレッジ

レバレッジとは本来「てこの原理」の「てこ」を意味する言葉だ。投資の世界ではこの原理になぞらえて、少額の証拠金を預けることで大きな資金規模の運用ができる仕組みのことをいう。差金決済取引では現物の受け渡しやそれに伴う金銭の授受がないため、このような取引が可能になるのだ。

差金決済取引の参照原資産とは

差金決済には、必ず参照原資産がある。理論的には価格変動のあるものなら何でも投資対象として考えられるが、そのなかでも知名度が高く投資家からのニーズが高いものが参照原資産となっている。

▽参照原資産の種類と主な投資対象

参照原資産の種類主な投資対象
株価指数日経平均株価、TOPIX、NYダウ、S&P500、ナスダック100指数などのほか、世界の主要な株式市場の株価指数、恐怖指数など
商品金、銀、原油、天然ガス、コーン、大豆など
個別株日本株や米国株の個別銘柄など
外貨レート(FX)ドル円、ユーロ円、ユーロドル、ポンド円、豪ドル円、NZドル円など多数

差金決済取引の代表的な投資商品

個人投資家が手軽に投資できる主な差金決済取引商品を紹介しよう。いずれも、それぞれの差金決済取引を取り扱っている証券会社に口座を開設すれば簡単に取引を始められる。

差金決済の代表的な投資商品1:FX

FXも差金決済取引の一種だ。FXは実際の為替レートと連動する「通貨ペア」を売買し、売買の価格差によって利益を狙うのが基本となる。

たとえば「ドル円」は、日本円で米ドルを売買する際のレートを参照原資産として、通貨ペアを売買する。ユーロ円なら日本円でユーロを売買するレート、ユーロドルなら米ドルでユーロを売買するレート、といった具合だ。

現物の為替取引は世界各地にある「インターバンク市場」という外国為替市場で行われている。FX取引業者のなかには顧客からの売買注文をインターバンク市場にそのまま流す「NDD業者」と、顧客の注文を自社で取引相手となる相対取引を提供する「DD業者」がある。

NDD業者とDD業者にそれぞれのメリットとデメリットがあるが、日本国内のFX取引業者は大半が後者のDD業者だ。

FXは個人投資家からの人気が高く、外為どっとコムやDMM FX、トレイダーズ証券「みんなのFX」などの国内業者が知られている。

差金決済の代表的な投資商品2:CFD(株価指数)

CFDとはContract for Difference(差金決済)の頭文字をとったもので、その名の通り差金決済により取引される商品のうち、特にFXでないものがこう呼ばれる。

多くの証券会社では、CFD取引サービスの一環で株価指数の売買を提供している。日経平均株価やTOPIX、米国株のNYダウ平均やS&P500、ナスダック100指数、そのほか主要国の株価指数など多彩な商品が用意されている。

株価指数CFDは、GMOクリック証券やIG証券、岡三オンライン証券などで売買が可能だ。

差金決済の代表的な投資商品3:CFD(商品)

商品価格に連動する商品CFDも、多くの証券会社で売買が可能だ。金や銀、原油、天然ガス、小麦、コーン、大豆といった商品は個人投資家が売買するには最低売買単位が大きく、手を出しにくいものも少なくないが、差金決済(CFD)であれば個人投資家であっても売買ができる資金規模になる。

商品CFDについても、上記の株価指数CFDで紹介したような証券会社が取り扱っている。

差金決済の代表的な投資商品4:CFD(各種指数)

恐怖指数など、参照する現物資産がないような指数も投資対象にできることは、差金決済取引の面白いところだ。

たとえば代表的な恐怖指数であるVIXは、米国の株価指数であるS&P500のオプション価格におけるボラティリティ(価格変動幅)によって変動する。「恐怖」と名づけられているように、この指数には投資家の不安心理が反映されると言われており、VITの数値は株価の乱高下に対応して高くなる。

GMOクリック証券にはこのVIXに連動する「米国VI」という差金決済(CFD)商品がある。

差金決済取引のメリット

差金決済取引には、多くのメリットがある。ここでは差金決済取引のメリットを4つの項目にまとめて解説する。

差金決済取引のメリット1:投資できる選択肢が多い

すでに紹介してきたように、差金決済では実にさまざまなものを投資対象にできる。米国株の恐怖指数であるVIXを投資対象にするのも、差金決済取引だからこそできることだ。

また商品CFDによってこれまで個人投資家が手を出しにくかった商品市場にも参入しやすくなったほか、投資対象としてマイナーな国の株価指数がリアルタイムに取引可能になるなど、差金決済によって、個人投資家に対して多くの投資対象の門戸が開かれた。

差金決済取引のメリット2:レバレッジで投資効率を高められる

運用規模に対して少額な資金を証拠金とすることで、レバレッジをかけた投資ができる点も、差金決済がもたらすメリットだ。

たとえばFXは、日本国内の個人であれば最大25倍までのレバレッジをかけられるため、仮に1ドルが100円のときにドル円のポジションを1万ドル分保有する場合、必要な最低証拠金は4万円で済む。このように、4万円だけで1万ドル分もの売買が可能になるため、少ない資金を有効に活用して利益を狙うことができる。

(参考:外国為替証拠金取引のレバレッジ規制|日本証券経済研究所

そのほかにも株価指数CFDであれば10倍、商品CFDであれば20倍(それぞれGMOクリック証券の場合)のレバレッジをかけた投資が可能だ。

差金決済取引のメリット3:取引可能時間が長い

差金決済取引は、株式よりも取引可能な時間が長い。日本の東証は取引時間が平日の9時から11時30分(前場)までと12時30分から15時(後場)までだが、差金決済取引はこれらの取引所で売買を行うわけではないからだ。例えば、東京金融取引所に上場している取引所CFDである「くりっく株365」なら、「日経225」「NYダウ」「NASDAQ-100」を午前8:30~翌午前6:00まで取引可能である。

市場が動いていない時間帯に大きな出来事などがあったとしても、現物株の場合は株価が市場に反映されるのは翌営業日以降だ。しかし差金決済の場合、何か大きな出来事があるとリアルタイムで相場に反映されることが多い。そのため、現物よりも差金決済を見ている方が金融市場の動向を察知しやすいとの考え方もある。

差金決済取引のメリット4:「買い」と「売り」が同条件

差金決済で「売り」や「買い」の注文が成立すると、ポジションと呼ばれる建玉(反対売買による決済がされずに残っている分のこと)を保有する。

このポジションを決済すると差額が受け渡されるため、ポジションを建てたときよりも有利な価格で決済すれば利益となり、逆に不利な価格で決済すれば損失の確定となる。

このポジションを建てる条件は売りでも買いでも同じなので、現物と違って差金決済では売り買いどちらも同条件で投資できる。

これに対して、たとえば株の現物でカラ売りをするためには株を借りるための貸株料などのコストが発生するため、売りと買いが同条件とはいえない。

つまり、差金決済取引は特に「売り」からエントリーする際にメリットがある。

差金決済取引のデメリットやリスク

メリットの次には、差金決済取引のデメリットやリスクについても解説しよう。差金決済は特有のメリットがある一方で、デメリットやリスクも特有のものとなるので、これから投資を検討している方は特に注意されたい。

差金決済取引のデメリットやリスク1:わずかな値動きで大きな損失が発生することがある

差金決済取引ではレバレッジをきかせることができるため、少額の投資で大きな利益を狙える投資効率の高さが魅力だ。しかしこれは裏を返すと、わずかな値動きで大きな損失が発生するリスクと隣り合わせだ。

レバレッジ10倍で投資する場合、同じ投資金額であれば現物と比べて10倍のポジションを保有することができる。つまり同じ値動きであってもCFDだと10倍の規模で損益が変動するため、相場が逆行したときの損失額は大きくなる。

差金決済取引のデメリットやリスク2:強制決済が発生する可能性がある

差金決済取引でポジションを保有するために投じている資金は証拠金であって、対象となる金融資産を購入するための資金ではない。相場が逆行すると含み損が拡大し、有効証拠金(含み損を加味した証拠金)が減ってしまう。この有効証拠金が一定割合を下回ると、保有ポジションを強制的に決済する「ロスカット」となり、反対売買(決済)が発動して損失が確定する。

たとえばFXでドル円が100円のときに、4万円を使って1万ドル分の買いポジションを保有しているとしよう。

ドル円が99円になると含み損が1万円なので、有効証拠金は3万円になってしまう。さらに逆行して96円になると証拠金が枯渇する計算になる。

証拠金がどれだけ減った段階で強制ロスカットになるかは、証券会社ごとのロスカットルールによって異なるが、このように証拠金が枯渇すると投資家の意向に関わらず決済されてしまうのは、差金決済特有のリスクだ。

▽証拠金維持率(必要な証拠金と有効証拠金の割合)とロスカット(楽天証券の場合)

現物資産であれば証拠金の概念がないため、価格が暴落したとしても塩漬け(長期保有)する手もあるが、差金決済取引では証拠金維持率が著しく低下しないようにする資金管理が必要になる。

差金決済取引のデメリットやリスク3:損失が預け入れ金額を上回ることがある

差金決済取引を取り扱っている証券会社には必ずロスカットルールが設定されている。しかし、相場に急激な値動きが起きて注文が殺到している場合など、証券会社の売買システムによるロスカットの発動が間に合わないことがある。

本来であればロスカットをしなければならない価格よりもさらに相場が逆行した場合、預け入れている金額以上の損失が発生してしまい、証券会社から追加の証拠金を求められることがある。

この場合、想定している金額以上の損失が出ることになるため、これも差金決済特有のリスクとして留意されたい。

差金決済取引のリスク管理方法

先ほどのリスク解説で、差金決済取引に対して「とてもリスクの高い投資商品」というイメージを抱いた投資家も多いのではないだろうか。しかし、適切にリスク管理をすれば差金決済取引は投資家の味方に十分なり得る。そこで、差金決済取引のリスク管理で知っておくべきこと2点を解説する。

差金決済取引のリスク管理方法1:レバレッジを高くしすぎない

レバレッジをきかせられるのは差金決済取引のメリットだが、上限ギリギリまでレバレッジを高くするのは推奨しない。なぜなら、差金決済取引はわずかな相場の逆行で証拠金が枯渇し、意図しないロスカットが発生する恐れがあるからだ。

レバレッジ10倍でポジションを保有する場合、必要証拠金である10分の1だけを預け入れるのではなく、その数倍にあたる金額を口座に入れておくことで、実効レバレッジを10倍より低くすることができる。

100万円の投資商品は10万円あればレバレッジ10倍で運用できるが、口座に20万円を入れておけば、実効レバレッジが5倍になってリスクを軽減できる、といった具合だ。

差金決済取引のリスク管理方法2:許容できる最大の損失額を設定しておく

差金決済取引では相場が逆行して証拠金維持率が低くなってくると、そのポジションが強制ロスカットになる。これを防ぐために投資家自身が資金を追加入金することがある。

この追加入金はポジションを守るための方法としては有効ではあるが、相場の逆行が進んでいるのに際限なく入金していると、損失も拡大してしまう。

相場の逆行は必ずあることなので、その場合はどこまでは守って、どこから先は見切りをつけるのかをチャート分析などで決めておき、そのルールに従って行動することが重要だ。追加入金をするか否かも含めた損切りの判断は、特にロスカットがある差金決済取引で必須のリスク管理術である。

まとめ:差金決済取引を成功させるにはリスク管理がポイントに

差金決済取引について、代表的な商品であるFXやCFDなどの概要も含め、これから投資を検討する人が知っておくべき情報を解説した。差金決済取引はメリットが多く投資効率の高い仕組みではあるが、その一方で特有のリスクもあるので、その特性を十分に理解したうえで投資検討をいただきたい。