本記事は、長友威一郎氏の著書『最強のナンバー2チームをつくれ! 会社を大きく成長させる、社員の強みを活かした人材育成』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
ナンバー2と経営者との決定的な違いとは
経営者の方々は、ナンバー2を選ぶ際、自分と同じような価値観や考え方をもつ人を理想としてあげることが多いようです。しかしながら、ナンバー2は雇われ社長にはなれますが、決して経営者になることはできません。その会社の全責任を背負う経営者にはなれないのです。
経営者とナンバー2の一番の違いは何だと思いますか。それはお金です。少々リアルすぎるでしょうか。だとしたら、責任という言葉に置き換えることもできます。会社に何かあったときに、最終的にその責任を背負えるかどうか、ということです。
ナンバー2は逃げられる立場です。「責任を取って辞めます」という言葉を発することができる人たちです。しかし、経営者はこの言葉を言えません。最終的には会社の全責任を背負うのが経営者です。
辞められるか、辞められないか。この違いには雲泥の差があります。
経営者には、もう後ろがありません。この立場になったときの意識や考え方は、実際に体験しないとわからないものです。経営者としての覚悟には、資金面で融資など、いわゆる借金を背負うことも含まれます。万が一の場合には、家族を巻き込む恐れのある自己破産という、大きなリスクを背負いながら会社を経営しているところも、ナンバー2とは決定的に違います。
一方のナンバー2は、自分のやりたいことや任されたことを果敢に遂行するのが役割です。もし失敗してしまっても、責任を取ってその会社を辞めるという道も残されています。そして別の会社に就職してやり直せるわけですから、経営者との違いの大きさがおわかりいただけるかと思います。
私たちのお客様の中でも、設備投資をしたり、在庫を抱えたりする中小企業では、経営者はもちろん、ナンバー2にもなりたくないという方が圧倒的に多いのです。「もしも、後継経営者がいない場合、雇われ社長ならやってもよいけれど……」という方はいるのですが、自分自身で資本を投入したり、役員になって印鑑を押して保証人になったりするようなことは、皆さん嫌がります。
設備に投資したり、在庫を抱えたりすることは、相当の借金を抱えることになりますから、そんなリスクを冒してまで、会社のためにやってみようという人は、正直ほとんどいません。そうした危険を冒してでもこの事業が、この会社が好きだという人ならばできるかもしれませんが、残念ながらそういう方はほとんどいないのが現状です。
私たちの会社のように、在庫を抱えずにパソコン一つで参入できる事業を展開している会社は別ですが、在庫を抱える、機械設備を持つという会社では、「雇われ社長にはなれるけれど、経営者にはなれない」人が大多数を占めています。
以前、営業先で出会った中小企業の雇われ社長の方が、「私は腹を決めてやっています」という話をされました。「すごいですね。どのくらいお金を入れているのですか?」と聞いたところ、その答えは「入れていません」でした。やはり、経営者と雇われ社長では、悲壮感の漂い方が違うのです。
経営者という人たちは、多くのリスクを一人で背負って、日々の業務を見守っています。経営者の状態がよければ、会社の運営もスムーズにいき、業績も上がるのですが、世の中の動向や社員とのやりとりの中で、うまくいかないことが続くと、重責に耐えきれず、つい感情的になったり、社員に当たってしまったりすることもあります。それにより、ますます社員との距離ができてしまい、経営者は孤立して苦しくなってしまうのです。
ただでさえ、経営者として会社を回していくのは、並大抵のことではありません。重すぎる肩の荷を下ろし、信頼できるナンバー2と一緒に会社を運営できるようになれば、経営者が思い描いてきた事業活動や社会的な貢献なども、もっと幅広く実現できるようになっていくはずです。そろそろ一人ですべての重責を背負うのをやめて、ナンバー2チームのメンバーとともに、信頼や共感に基づいた会社運営に切り替えていきませんか。
ナンバー2候補は「生え抜き」から選べ!
社員の会社への思い入れは、組織としての理念やミッション、ビジョンに共感し、その環境で育ってきたからこそ強くなるものです。ある程度までキャリアを積んでくると、「恩返しの意味でも部下を育てていこう」という気持ちも自然と生まれるでしょう。そのため、その会社が好きで長年勤務しているような「生え抜き」社員が幹部までいくと、経営者を裏切るということはほとんどありません。
ところが、多くの経営者はナンバー2や幹部を選ぶ際、「生え抜き」の中からではなく、幹部候補をいきなり中途採用で取ろうとしてしまいます。
「幹部候補、募集!」という掲示をインターネットや求職雑誌などでよく目にしますね。確かに、そのような方法に頼りたくなる気持ちはわかります。
ただ、正直にいうと、このやり方で幹部候補を採用するのはおすすめできません。中途採用で引っ張ってくる幹部候補は、専門的なスキルが必要となるタイミングや自社の足りないところを埋めてくれる時はいいのですが、その人がずっと会社にいるかというと、そうとは限りません。結局は数年たつと、もっと条件が良く、スキルやキャリアップができそうな別の会社に移ってしまう可能性が高いからです。
弊社のクライアントを見ていても、業者を通じたヘッドハンティングや紹介で入った幹部候補の中途採用の人たちは、また2〜3年後に紹介などで抜けていくことが多いのです。幹部候補を目的とした中途採用には、このようなリスクがつきものです。それより、新入社員、もしくは中途採用であっても、会社の理念や事業に誇りをもって、長年働いてくれている社員のほうが、将来的には会社に貢献してくれる人材に育っていきます。結局は急がば回れで、「生え抜き」からメンバーを選んだほうが、確実に優秀なナンバー2チームとして育てていくことができるのです。
やはり「生え抜き」として育ってきた人間のほうが、会社に対する思い入れや感謝の気持ち、愛着などをもっています。そのような人たちがナンバー2チームにいるほうが、ほかの社員や部下たちを惹きつけます。上司として見る場合にも、安心して頼ることができるでしょう。
逆に私は、中途採用で幹部候補を引っ張ってこようとする中小企業の経営者にこう問うてみたいのです。「あなたが経営している中小企業で、生え抜きとしてがんばっている社員たちに、なぜ会社を任せようとしないのですか?」と。
大企業でもなく、非常に有名な会社でなくても、長い間働いてくれている社員たちがいるわけです。その人たちを、経営者はなぜ幹部にしないのでしょうか。
このように問いかけると「そういうスキルをもった社員がいないから」と多くの経営者が言います。けれども、そういうスキルが備わらないように育てたのは、経営者であるあなたご自身なのではないでしょうか。何十年も働いてくれて、会社に対する思い入れがある社員を幹部として育てることは、経営者が行うべき務めだと思います。
スキルは時間をかければ身につきますが、会社に対する思い入れや愛着心というのは、そう簡単には育ちません。そこにはさまざまなドラマがあると、私は考えています。そのドラマは、なぜその会社のために働くのかを語ることができる材料となります。この材料をもっている人ともっていない人とでは、会社の未来に対する思い入れも異なるのです。もし、あなたが、そのような人材がいるにもかかわらず、育ててこなかった経営者であるなら、今からナンバー2として任せられる人材に育てていきましょう。これは会社の未来を着実に切り開いていく、経営者としての責任でもあるからです。
ナンバー2を選ぶポイントとは
現場の社員からリーダー、幹部と役職が上がれば上がるほど、これくらいの仕事はもう普通にできるだろうという、「あたりまえ基準」が高くなります。そのため、ナンバー2候補に該当する社員のことを、経営者はあまり褒めなくなったり、できないことばかりに目がいったりしがちです。
実際にクライアントの経営者の方々の話を聴いていると、多くの経営者はナンバー2候補に対して、「〇〇は、Bができない」としか言わないのです。「〇〇は、Aはできるけど、Bができない」という言い方をする方はほとんどいません。
相手のできないところ(弱み)ばかりに目を向けていては、ナンバー2候補すら選べません。なぜなら、ナンバー2を選ぶポイントは、相手の強みと弱みの両方を見極める力が重要になるからです。そして、強みだけをピックアップしてその部分を伸ばし、弱みとなっている部分は徐々に底上げしていくように育てていきます。
経営者がナンバー2候補の強みを見極める場合、大前提として、「この会社をよくしていきたい」という意志があることが求められますが、そのうえで大別すると次の4タイプが必要となります。
(1)数字をもっている人(以降「数字さん」)……数字の成績はつねに社内トップ。どんなときも自ら戦術や戦略を練って、目標を達成する能力に長けている。
(2)マネジメント力が高い人(以降「管理さん」)……人を動かす力がある。組織の成果を上げるために人、物、金といった経営資源を効率的に活用できる。
(3)影響力がある人(以降「影響さん」)……仕事に対する問いに的確に答えられる。発言力があり、社歴や経験の豊富さでカリスマ的な影響力をもつ。
(4)信頼が厚い人(以降「信頼さん」)……人間性が豊かで社内で「いい人」と評価されている。聞き上手で、仲間や顧客との人間関係を円滑に保つことができる。
これらのうち、いずれかの強みを1つもっている人たちを集めてナンバー2チームを結成します。4つの力をすべてもっている一人の人を探すよりも、着実かつ安全に、経営者を強力にサポートしてくれるナンバー2チームを育てることができるからです。それぞれ選ぶ際の条件や役割について、次項から詳しく紹介していきます。
[ナンバー2を選ぶ条件1]数字
数字をもっているこのタイプは、プレイヤーとしてピカイチです。このタイプに当てはまる「数字さん」の場合、お客様からの信頼が非常に厚い、結果に対するコミット力があるなどの特長があります。また、自分で決めたことは必ず実現させていきたいという自己実現型でもあります。
数字とは、お客様からの評価です。お客様とちゃんと向き合っているからこそ、数字を上げられるのです。数字をもっている人は、社内よりも社外からの評価が高い傾向にあります。社内では「数字だけの鬼」「歩合給で数字ばかり追っている」など、ネガティブなイメージをもつ人がいるかもしれませんが、お客様からの評価がなければ数字は上がらないので、こうしたポジティブな面にも目を向けてもらえたらと思います。
ただ、「数字さん」の場合、プレイヤーとして部下や後輩に自分の背中を見せることはできるのですが、彼らが自分と同じように結果を出せないと、「なんでやり方を理解しなのか!」「しっかり考えて行動すればいいのに」「それだったら自分がやったほうが早い!」という思考に陥りがちです。また、過去にマネジメントで大きな失敗経験があり、育成に対する苦手意識をもっている可能性もあります。自分自身に対する責任感は強いのですが、部下や後輩に対する関わり力が弱いもしくは苦手意識をもっている傾向があります。
[ナンバー2を選ぶ条件2]マネジメント力
マネジメント力が高い「管理さん」の場合、会社の理念・ミッション・ビジョンに共感していることが大前提です。そのうえで、「数字さん」のように目線が社外に向いているのではなく、「部下や仲間たちの成長がうれしい」「社内で彼らをどのように活かすか」など、社内に目線を向けている人が多いです。誰よりも社内のことを知っており、相手の話を聞く耳をもっているため、すでに社内で団結力の高いチームをつくっている人も少なくありません。社内の情報に精通しており、それらを元に分析し、自分の知識、経験、ノウハウを駆使して、人・物・金といった部分をしっかり管理していきます。
ところが育成者として、個人よりもチームの目標達成にコミットしてしまうため、最終的に個人もチーム成績も未達になりがちです。「管理さん」自身は育成に対する責任感が強く、部下や後輩に対する関わり力もあるのですが、なかなか数字をつくることができない部分がネックとなっています。
[ナンバー2を選ぶ条件3]影響力
ここでいう影響力とは、専門のスキルをもっていたり、社歴が長かったり、経験が豊富だったりすることで発言力やカリスマ性があることを意味しています。社内では「この件はあの人に聞けば全部わかる」もしくは「あの人がこう言うから仕方ないか」と思われるような立ち位置にいることが多いです。仕事に関する質問には、「影響さん」はいつも的確な回答をくれる存在なので、仕事においては部下や後輩に頼られています。
けれども、威圧的な性格であったり、さまざまな経験をしているがゆえに、かえって関わりにくい部分もあったりするので、部下や後輩からの信用・信頼は薄いところがあります。また、その存在感から自社の経営者と話をすることも多いのですが、経営者視点がなく、主観で物事をとらえがちでワンマン傾向にあります。
なお、(2)マネジメント力の高い「管理さん」と(3)影響力のある「影響さん」は似て非なるところがあります。「管理さん」はどちらかというと社内の動きを全体的に見ているため、大きな失敗をすることが少ないのですが、「影響さん」は専門性が高いケースが多いので、もろ刃の剣になりやすいのです。あるクライアントの社員の事例ですが、経理、財務、総務、労務などをすべて一任していた方がいました。すべての知識をもっており、定年が近い年齢だったため、「この人になら任せておいて大丈夫だろう」という安心感を経営者はもっていました。
実際に社員たちからも頼られていたのですが、影響力が強いことが災いし、だんだんと「俺はなんでも知っている」「俺の言うことを聞け」となり、最後は裸の王様のような状態になってしまいました。このように「影響さん」は専門的かつもろ刃の剣的なところがあるので、丁寧に関わりをつくりながら育てていくことが大切になります。
[ナンバー2を選ぶ条件4]信頼
基本的に「信頼さん」は話し上手もしくは聞き上手なため、数字的にはトップにはならないものの、顧客や仲間と良好な人間関係を築くことが比較的上手にできます。部下や後輩の悩みを誰よりも早く拾い上げ、理解しようとする姿勢から、社内全体の相談窓口になっている人も多いでしょう。ただ、話は聴いてくれるけれど、それに対して明確な答えをくれたり、代わりに動いてくれたりはしないため、仕事においては部下や後輩から頼りにされているとは言えません。
とてもいい人なので、「信頼さん」は相手に害を与えません。ただ、逆にそういう人だからこそ、「なぜ、この人がナンバー2チームのメンバーに?」と思われやすいところがあります。けれど、こうした存在はナンバー2チームを形成するうえで非常に重要になります。
たとえば、「信頼さん」は野球部のマネージャーと似たような立場です。なぜなら、マネージャーがいなくても野球部は成り立ちますが、マネージャーがいるからこそ、部員たちはそれぞれのポジションの練習に集中できたり、何かあったときは話を聴いてもらえるというみんなの安心の場所になっていたりするのです。
また、「信頼さん」は、知識はあるけれど実績がないことがあります。先ほどの例えを使うなら、マネージャーは野球の知識もあり、スコアもつけられて、「こういうときはこうすればいい」ということもわかっています。けれども、それを実際にできるかというと、プレーは下手で部員ほどうまくはできないという状態です。
経営者の考えも想いもわかっていて、会社をこうしていきたいという意思も強くもっているのですが、それを実現するためのスキルは足りないのです。その代わりに、会社や仲間に対する思いやりがあり、相手のために惜しみなくサポートするなど、自然と自己犠牲ができるような人でもあります。このような人材は、意外とどんな会社にもいると思うのです。
「信頼さん」は、いわゆる組織の潤滑油です。この人がいなくても組織は動くけれど、この人がいてくれたら組織はよりスムーズに活発に動くことができます。
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