本記事は、長友威一郎氏の著書『最強のナンバー2チームをつくれ! 会社を大きく成長させる、社員の強みを活かした人材育成』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
社内でナンバー2チームが育つ環境とは
ナンバー2チームのメンバーたちを育てるための環境は、経営者がつくる必要があります。チームのメンバーたちは中間管理職という立場にあるなど、ある程度の役職を担う人たちが多いため、ナンバー2チームのことだけに専念できる人はまずいません。それぞれの業務とナンバー2としての業務が兼任になるからこそ、経営者としては彼らが定期的に集まることのできる「場」を確保することが非常に重要となります。
また、ナンバー2チーム以外の社員に対しても、「今、あなたたちの上司にはナンバー2チームのメンバーとしてこの部分を担ってもらっている。日々の業務においては、ぜひ協力してあげてほしい」など、経営者から根回しをしておく必要があります。
というのも、ナンバー2メンバーたちが動いていることが、現場の社員たちにはうまく伝わらず、「上のほうで何か動いているな」「最近、うちの上司は忙しそうだな」くらいの印象で終わってしまうことがほとんどです。
だからこそ、あえて経営者がフォローし、「会社として、今こういうことを君たちの上司にお願いしている。ナンバー2チームの一員にもなって働いてくれているから、ぜひみんなにも協力してほしい。自分たちでできることは自分たちの力でがんばっていこう」と発信するのです。
ナンバー2チームが動きやすい環境をつくり、定期的に集まれる場をつくってあげることを心がけてください。たとえば、あえてナンバー2チーム用の予算を立てて、メンバー同士で集まりやすくしたり、話し合いの時間を確保しやすくしたりしてもよいと思います。
なぜここまでするかというと、意識的にメンバーが話し合える場を確保していかないと、このチーム自体が崩れていく可能性があるからです。ナンバー2のメンバーたちはそれぞれが日常の業務でも忙しいので、チームとして会う時間や話し合う場をなかなか設けられなかったり、一度は決めたけれど集まれずにスケジュールを組み直したりすることが多々あると思います。話し合う場がないことが続くと、だんだんと集まること自体が面倒になってしまい、結果的にチームが機能しなくなってしまうのです。
こうしたことを未然に防ぐためにも、全員が確実に話し合いのできる時間を設けることが重要です。
社外でもチームを育てる環境をつくる
ナンバー2チームのメンバーや、社内で幹部やリーダーといわれる人たちは、どうしても視点が社内に向きがちです。この状態が続くと視野が狭くなり、井の中の蛙になってしまうため、経営者は部下たちを積極的に外部の研修に参加させるなどして、外の世界のコミュニティを経験させてください。
おすすめなのは、経営者同士の会食などに、お互いの幹部やリーダークラスの人間を一人ずつ連れてきて、3対3で食事をしたりする機会を設けることです。経営者ともなれば、社外に経営者同士のつながりなどを求めて、見聞を広める努力をしている人が多いのですが、幹部クラスで自分と同じような立場にある社外の人たちと交流できるくらい意識が高い人はそう多くありません。
まずは経営者がナンバー2メンバーや幹部クラスの部下たちを外部の研修に参加させたり、経営者同士の会食の場に一緒に連れて行ったりして、見識を広げる場を与えてあげましょう。
会食などが難しい場合は、「互いに経営会議の場を見学し合ってみませんか?」と経営者同士で話をして、会議の場にお互いのナンバー2チームや幹部クラスの人材を連れてきてもよいでしょう。このような交流は双方にとって、非常によい刺激となります。
弊社では、クライアントの経営者からの会食や見学のリクエストをいつでも受けつけています。実際に、ナンバー2チームのメンバーや幹部クラスの部下たちを連れてこられた経営者からは「本当にいい刺激になった」「幹部クラス(ナンバー2チーム)のメンバーの意欲が増した」「社内ではあまり見たことがない、部下たちの生き生きとした表情を見ることができた」などのお声をいただいております。
経営者はチーム育成の相談役を外につくる
ナンバー2チームを育てる場合には、自社だけではなく社外からの目線も取り入れつつ、チームのことについて経営者が相談できる人を外部に確保しておくことも有効です。そうすれば、経営者が一人で不安や問題を抱え込んだりせず、第三者的な視点を入れつつ、建設的にチームを育てていくことができます。
また、ナンバー2チームのメンバーたちも、経営者に対して言いたいことはあるものの、自分たちの考えが正しいかどうかわからないことが多々あります。そういう場合に、外部の人間に自分たちの考えを聞いてもらったり、ときには愚痴を聞いてもらったりしながら、チームを築き上げていく。そのためのオブザーバー的な存在として、外部の相談役をつくっておくと、経営者もナンバー2チームのメンバーたちも安心してこのプロジェクトに取り組むことができます。
弊社でも、外部のコンサルタントという立場から、こうしたことを多数請け負ってきました。コンサルタントを入れている会社なら、そこを外部の相談役にしてもよいし、税理士などにお願いしてみてもよいでしょう。会社のことを多少は知っていて、外部からメンター的な役割を果たしてくれる人をナンバー2チームのために設けておくと、何かあったときにさまざまな視点からアドバイスをもらえるので安心です。
理想を言えば、愚痴の言い合いや話し合いも、ナンバー2チームでできるようになることが最も望ましいことです。メンバーたちが育っていけば、お互いに愚痴を言い合ったり、方向性を確認したり、ときにはアドバイスをし合ったりできるようになっていきます。そして、「みんなはこう言うけれど、自分はこういう意見がある」「この部分はもう少しお互いに明確にしておきたい」など、いろいろな意見を出し合いながら、お互いの不明点を再確認していく場が自然とできるというのが、将来的には理想の形です。
とはいえ、すぐにそこまでいくのは難しいことですし、チームのメンバーはそれぞれ「自分」というものをもっている人たちなので、いきなりみんなで一丸となって「よし、やっていこう!」とはならないと思います。だからこそ、第三者的な人に意見をフィードバックしてもらうような環境も整えておいたほうが、チームの成長は速まります。
column 実際のナンバー2チームにみる強みの活かし方
現在、私たちがコンサルティングを担当しているクライアントの中に、IТ関連のソフトウエア開発の会社があります。ここのナンバー2チームも、「数字さん」「管理さん」「影響さん」「信頼さん」と、個性豊かなメンバーがそろっています。実際にどのようなメンバーがいて、どんな成長を遂げているかをここではご紹介したいと思います。
この会社のナンバー2チームの「数字さん」は、中途採用入社で5年目の営業担当の女性です。年齢は35歳。中途採用ではありますが、会社のビジョンやミッションに共感し、得意の営業で数字を次々に上げています。新規顧客も精力的に開拓しており、0から1をつくるのが好きなタイプです。
組織としての課題は「営業力がない」だったので、数字をもっている「数字さん」の営業のやり方やノウハウ、彼女が自然と身につけている「あたりまえ基準」はどういうことなのかを洗い出し、経営者から「それらを若いメンバーにどう教えるかを考えてほしい」とリクエストしました。
それから週1回、1年目の新卒社員や2〜3年目の若手社員たちとオンラインで営業のロールプレイングをしたり、「数字さん」自身がつくり込んだスクリプト(営業トークのシナリオ)を提供したりと、役割に応じた動きが早速ありました。
半年たち、若い社員たちが成果を出し始めると、「数字さん」も同行して案件の打ち合わせをするようになりました。商談に同席し、後輩たちに賞賛の光が当たるようにフォローしてくれていました。
そのほうが本人的には楽でもあり、楽しくもあるということに気づいたのです。「自分も年齢が上がるにつれ、こういうやり方のほうが体力的にも楽で、自分一人でやるより、みんなで成果を出したほうが大きな数字になる。これからは完全にこのやり方でやっていきたい」と自ら言ってきました。数字とマネジメントを掛け合わせる楽しさに気づいたのです。
続いてマネジメント力のある「管理さん」。新卒入社で5年目、28歳の男性です。実は彼はそこまでマネジメント力が高いわけではなく、若い社員に対するマネジメントでは一度失敗していました。下の社員との関係が馴れ合いになりがちだったので、経営者が「下の社員にはもう少し厳しくしたほうがいい」と伝えたことがありました。
すると彼は、部下を称賛することもなく、後輩からの声を聴くこともせず、厳しい言葉だけで部下を引っ張ろうとしたのです。ところが部下たちはそんな彼の言うことをまったく聞かず、「管理さん」も手を焼いている様子でした。最近このやり方ではダメだと気づいたようで、「もう厳しくするのはやめます」と言ってきたそうです。「まずは本人たちのやりたいことや意志を聴いて、褒めるところから始めようと思います」、と。
その言葉どおり、今度は気持ちが悪いくらい部下たちを褒め始めました。そのがんばる姿を見て、経営者は「相手の行動や言動をよくチェックしなさい」「感謝の気持ちをもち、できるだけ多く『ありがとう』の言葉を伝えてみてください」とアドバイスしました。
すると部下たちの対応も、徐々に変わってきました。現在はだいぶマネジメント力がつき、社員たちも「管理さん」に仕事の報告をするのが楽しくなっている様子でした。約半年間のトライ&エラーを繰り返し、4月からはより広く深くみんなを巻き込んでいくマネジメントをするという役割を担うことになりました。
次に紹介する社内に対する影響力が強い「影響さん」は、6年目となる新卒入社で29歳の女性です。彼女は自分の考えと軸をもっているので、全然ブレることはありません。先日、彼女は外部研修を受けました。そのクライアントが主催する講座で、外部から講師を呼び、「影響さん」は受講生として話を聴いていたそうですが、途中で経営者に「どういうお考えなのですか!?」と問いただしてきたといいます。彼女の言い分を聴いたところ、「あの講師の方は、うちの会社が目指している組織の形や理念について、否定するようなことをおっしゃっていましたよね!?」というのです。
確かに講師は否定はしていたものの、すべてではなくピンポイントで否定していただけなので、経営者としてはそこまで気にしていなかったそうなのですが、影響さんは「なぜうちの会社の考え方を否定するような方を講師として呼んだのですか?」とかなり腹を立てていました。
その姿を見ていて、経営者は「逆にありがたいな」と思ったそうです。確かに、その場の空気感は険悪になりましたが、「会社が大切にしていること、今後目指したいと思っていることに対して、『影響さん』は一切ブレていなかったので、そのように腹を立ててくれたことがうれしかった」と言っていました。
このように、考え方が一切ブレない「影響さん」の言葉の力はとても強く、本人もそれを自覚しているため、「来期も全社に対して発信する事柄やメッセージ性を吟味しながら、ナンバー2チームのために動いていきたい」とのことでした。
最後の「信頼さん」は中途入社で9年目、34歳の女性です。彼女はみんなの声を聴くことが得意で、個別で経営者にフィードバックしたり、社員たちのさまざまな情報を教えてくれたりするので、経営者からは「非常に助かる」との評価を得ています。また、ナンバー2チームのメンバーも「信頼さん」にはいろいろと相談をしているようでした。その理由は「自分の意見を『いいね』としっかり承認してくれる」「反論せずに『そうなんだね』と受け止めてくれる」。そのため「信頼さん」に対しては、みんなが「この人になら話しやすい」と思っており、結果、それぞれの“壁打ち”になっていたのです。要は自分で言ったことがブーメランのように返ってくるので自分の考えを整理しやすく、「信頼さん」に話すことで、各人が気づきを得ていたのです。
そんな「信頼さん」は来期においては、「さらに多くの社員たちとの交流を深め、なおかつナンバー2チームをまとめるリーダーとしての自覚をもちながら、チームのために自分の役割を果たしていきたい」とのことでした。
ナンバー2チームのメンバーがそれぞれの強みを活かし、自分には何ができるかをつねに考えながら、会社のこれからを見据えているのがおわかりいただけたでしょうか。実際に、こうしたチームを育成している会社も増えており、組織としての成長・発展の道を着実に歩み始めています。
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