カンブリア宮殿,リクルート
(画像=テレビ東京)

この記事は2022年10月13日に「テレ東プラス」で公開された「激流に勝ち2兆円企業~これがリクルートの神髄だ:読んで分かる『カンブリア宮殿』」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 1,000人の花嫁を徹底調査~ゼクシィ驚異の結婚ビジネス
  2. 毎年1,000件の応募~新ビジネス生む「リング」とは?
  3. ボタンひとつで職探しを~インディード躍進の裏側
  4. ビジネスの成功と情熱~企業理念「個の尊重」とは?
  5. ~村上龍の編集後記~

1,000人の花嫁を徹底調査~ゼクシィ驚異の結婚ビジネス

京都市東山区にある「HOTEL VMG RESORT KYOTO」は今、話題のホテルブランドだ。外観は純和風の旅館。室内はガラスと木材を美しくデザインした今までにない和の空間だ。

▽京都市東山区にある「HOTEL VMG RESORT KYOTO」今までにない和の空間

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夕食は宿からぶらりと歩いた下京区の鴨川べりに建つ150年の歴史を持つ料亭「鮒鶴(ふなつる)」へ。この「LE UN鮒鶴京都鴨川リゾート」もモダンにリノベーションされた、伝統を感じ、オンリーワンの時間を楽しめるブランドだ。

日本中の歴史的建造物を改修したホテルやレストランの新たなブランドで人気を呼ぶ「バリューマネジメント」。代表取締役の他力野淳さんはリクルートを辞めて起業した。

「『ゼクシィ』という事業部で3年弱、働いていました。リクルートの皆さんは主体性があって、『何をするか』より『どうありたいか』を考えている。またそれを問われる場所だと思う。その経験は大きかったです」(他力野さん)

▽「『何をするか』より『どうありたいか』それを問われる場所だと思う。」と語る他力野さん

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他力野さんはリクルートをやめて起業した。その経験が原点にあるという。

一方、年商300億円超えの急成長を遂げる人材開発のコンサルを手がける「リンクアンドモチベーション」の創業者の小笹芳央さんも元リクルート。やはりその教えを大切にしていた。

「社員全員が経営者だと。“出る杭”はどんどん伸ばしていく。一般企業の常識では考えられない仕組み、制度があり、この会社は本当にすごいと思っていました」(小笹さん)

そんなリクルートのビジネスは日本の結婚シーンを変えた。

東京・千代田区の「東京大神宮マツヤサロン」で開かれたのはカップル向けの見学会「特別ブライダルフェスタ」。本番さながらのコースの試食も味わえる。参加者に聞くと「ゼクシィ」で予約していた。

▽「東京大神宮マツヤサロン」で開かれた「特別ブライダルフェスタ」

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リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」。1993年の創刊号の表紙には「仏滅、平日結婚で50万円うかす」の文字が。日本の結婚に革命を目論む意気込みが伝わってくる。それまで選択肢も少なく価格も高かった日本のブライダルに、自分たちにあった式を挙げる新たなスタイルを生み出した。

若いカップルに人気なのは、両親への挨拶の作法といった人に聞けない情報。だが「ゼクシィ」を熟読するのはカップルだけではない。

千葉市緑区の結婚式場「ザ・チェルシーコートあゆみ野ガーデン」の総支配人・岸田憲人さんは「他社がどういう取り組みをしているか、トレンドをつかむ意味で読んでいます」と言う。

この式場では最近のトレンドをヒントに人気のサービスを生み出していた。「高砂ソファ」とは、新郎新婦が並ぶ高砂をソファで行うという最近はやりの演出。この式場では、式で使ったソファをそのまま持ち帰れるプランを始めた。式場は「ゼクシィ」でつかんだ情報で、さらにサービスを進化させているのだ。

▽新郎新婦が並ぶ高砂をソファで行う「高砂ソファ」

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夜、「ゼクシィ」の編集部を訪ねると、スタッフがリモートで花嫁のリアルな声をヒアリングしていた。統括編集長の森奈織子が見せてくれたのは、最初に高砂ソファを取り上げた特集。2013年5月発売号だ。

「世の中の“兆し”をつかみにいって、そこにどんな深層心理があって花嫁さん花婿さんがやっているのか、聞きに行くということを徹底してやっています」(森)

「ゼクシィ」を中心に拡大したリクルートのブライダル関連事業は売り上げ500億円規模を叩き出している。

毎年1,000件の応募~新ビジネス生む「リング」とは?

リクルートには「ゼクシィ」をはじめ巨大なビジネスを次々に生み出してきた仕組みがある。40年の歴史を持つ新規事業提案制度「Ring」だ。毎年1,000件に及ぶ応募の中から、数件の提案を選出。勝ち残った社員は新たなビジネスに挑戦できる制度だ。

▽40年の歴史を持つ新規事業提案制度「Ring」

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4年前にリングへの提案が最終審査を勝ち抜いたリクルート新規事業開発室・今里亮介が考え出したのは「エリクラ」というスマホのサービス。自宅の近所で気軽に収入を得られるという。

「『今日働ける仕事』が掲載されているので、応募ボタンを押せば現地に行って働けます」(今里)

▽今里亮介さんが考え出した「エリクラ」自宅の近所で気軽に収入を得られる

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現在、仕事の多くは賃貸アパートなどの簡単な清掃。埼玉・狭山市で女性が選んだのは、40分ほどで1,230円が手に入るというもの。アパートの共用部分を掃き掃除すると、作業した場所を写真に撮って報告するだけ。定時で働けない人には便利なサービスだ。

▽仕事の多くは賃貸アパートなどの簡単な清掃

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「Ring」では専門のアドバイザーによる事業育成の丁寧な指導が行われる一方、半年ごとに厳しい審査が行われ、収益性などが条件に達しなければ撤退するルールになっている。全社をあげて本気で事業を育てるのだ。

「儲かるのか、拡大できるのかのチェックを半年ごとに行い、どんどん撤退させます。これだけの人数が毎年応募し続ける新規事業制度は他の会社にはないのではないかと思います」(リクルートRing事務局長・渋谷昭範)

現在、「エリクラ」は、事業化の第4ステップ。今里は誰もが使うサービスに育てるべく、さまざまな意見を聞きに走り回っていた。

▽「加速度的に当たり前のサービスになっていくのではないかと思います」と語る今里さん

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「なかなか新しいものは受け入れられないこともありますが、仲間みたいな人がどんどん増えていくほど、加速度的に当たり前のサービスになっていくのではないかと思います」(今里)

ボタンひとつで職探しを~インディード躍進の裏側

現在、急拡大中なのが、急病の時などに24時間いつでも対応してくれる「ファストドクター」というサービスだ。「『急ぎ行ってくれ』という保健所からの要請でこれから往診です」と言って渡邊譲医師が急行したのはあるマンション。待っていたのはコロナ患者だ。

緊急の相談が入る東京・港区の「ファストドクター」のコールセンター。急増する依頼にコールセンターなどの人員を増やし続けてきたのだが、求人サイト「インディード」で人材を確保している。大量の求人を素早く手配できるという。

▽東京・港区の「ファストドクター」のコールセンター

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「本当に命綱です。採用までのリードタイムが極めて短い。短期間に採用しなければいけない時は待つ時間がない。一気に2倍、3倍に人員を増やすことができました」(ファストドクター代表・水野敬志さん)

CMでもおなじみ、急拡大中の「インディード」はリクルートホールディングスの傘下企業。そのサービスは言わば「職探しのグーグル」だ。

希望する職種と勤務地を入力すれば、ネット上の膨大な求人募集の中から簡単に検索ができる。企業側も求人広告を出す手間が減らせ、スピーディーに人材を集められる。

もともとアメリカ・テキサス州のベンチャー企業だった「インディード」。それを見つけ出し買収を主導したのがリクルートホールティングス社長・出木場久征(47歳)だ。

▽「インディード」はリクルートホールディングスの傘下企業

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その出木場を、アメリカのオフィスに訪ねた。

「僕の場所はみんなとコミュニケーションを取りたいから玄関の一番そば。たまに宅配便の人が来て、僕が開けないといけない(笑)」(出木場)

当時は売り上げ100億円に満たなかったが、今や「インディード」関連の事業は、売り上げ8,000億円を突破する爆発的な成功を収めている。

出木場への評価を、社員たちに聞いてみた。

「ボタンひとつで職が見つかるサービスをつくる、出木場のシンプルな考えがいいわ」

「仕事を探す人を感動するようなサービス。出木場のこのビジョンがインディードの成功の理由だと思います」

▽「僕の場所はみんなとコミュニケーションを取りたいから玄関の一番そば。」と語る出木場さん

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「インディード」との出会いの原点は、かつて出張したジャカルタでの光景にある。街には収入がなく困窮する人々が溢れ、彼らには職を探す手段もなかった。この、世界で起きる“職探し”の問題を解決できないか。見つけ出したのが「インディード」だった。

当初、アメリカの本社を訪ねた出木場が衝撃を受けたのは「インディード」の理念だった。会議室に置かれていたオレンジ色の椅子がそれを表していた。

「『ジョブシーカーチェア(求職者の椅子)』と呼んでいるのですが、会議室で議論してること、決めることは、この椅子に『仕事探しでとても困っている人』がいても、胸を張れる議論ができているか、結論を出せているか。そのことを忘れないために『ジョブシーカーチェア』を会議室に置いている。この人たちは本当に仕事探しをしている人のためにビジネスをやっているんだなと、真剣に考えているんだと思った瞬間でした」(出木場)

▽「インディード」の理念『ジョブシーカーチェア』に衝撃を受けたと語る出木場さん

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職を探す人の気持ちを最優先する。出木場はこのインディードの理念を徹底的に磨き上げるべく、買収を決意する。

現インディードCEOのクリス・ハイムスは、当初から出木場に驚かされたという。

「最初彼は全く英語が話せませんでした。ところが、リクルートが『インディード』を買収した後に再び戻ってきた時、彼は英語をしゃべれるようになっていたんです。私は驚きました。5カ月で英語を学ぶのは簡単なことではありません」

そして最も驚いたのは、自分たちを尊重する出木場のスタンスだった。

「彼は最初にこう言いました。『今までと何も変えず、今後20年後、50年後に実現することだけ考えてほしい』と。そこからです、我々のすばらしい10年が始まったのは」

今、インディードが取り組むのは、犯罪履歴があり、職に就けない求職者をどう支援するかなど、職探しで社会を良くする挑戦。今やその取り組みは、世界的にも注目されている。世界経済フォーラム「ダボス会議」に出席した出木場は次のように語っている。

「40%の人々は貧困ライン以下にいます。人々がより迅速に簡単に職に就けるようにすることが極めて重要なのです」

ビジネスの成功と情熱~企業理念「個の尊重」とは?

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瀬戸内海に浮かぶ愛媛・伯方島(はかたじま)にやって来たリクルートの山内恵介の目的地は島で唯一の県立高校、今治西高等学校伯方分校。授業の教材として使われているのがリクルートの「スタディサプリ」だ。人気講師の分かりやすい動画を4万本以上掲載。塾がない地域などで大活躍している。

「個別指導をフォローする形で非常に役立っています」(仲野充洋先生)

山内は10年前まで予備校の数学の講師だった。「スタディサプリ」の開発を知り、リクルートの門を叩いた。

「『スタディサプリ』が教育の未来に貢献できるかもしれない、と」(山内)

「スタディサプリ」を発案したリクルート販促領域プロダクトマネジメント室の池田脩太郎は「教育は人の人生を変えちゃうし、日本は普通に格差があると気付いてしまって」と言う。その情熱で市場を切り開き、今や全国の高校の4割で使われるまでになった。

「『スタディサプリ』で人生変わりました、と。周りに塾や予備校がない子が『リクルートに入社して恩返ししたいです』と言ってくれたりする。そういうのを聞くと泣いちゃいます」(池田)

今までにない事業を情熱で切り開くリクルートの社員たち。そんなマインドの原点にあるのが、創業者・江副浩正が大切にした理念「個の尊重」だ。これについて出木場はスタジオでこう語っている。

「『個の尊重』というと恰好良く聞こえるかもしれませんが、『みんなわがままで自分勝手でいいよ』と言っている状態だと思います。わがままに自分勝手にやりたいものを集めて束ねていく。そんな作業をみんなやってきたと思うし、僕自身もやられたと感じています」

一方でリクルートにはちょっとうらやましい文化がある。

さまざまな事業を立ち上げ続けるリクルート新規事業開発室の佐々田幸だが、「結婚式のオンライン見積もりサービスは撤退しました。あと、電子書籍も大失敗でした」。それでも挑戦を続ける理由は「失敗ばかりしているのですが、『罰する』ということが全くないので」と言う。

中国版「ゼクシィ」を展開した柏村美生も「初めての海外事業は失敗でした」と言う。だが柏村は今や執行役員にまで出世している。

▽「初めての海外事業は失敗でした」と語る柏村美生さん

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失敗覚悟で勝負ができる、これもリクルートの強さだ。

~村上龍の編集後記~

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理念は「個の尊重」である。日本のほとんどの組織では、個は自立していない。まず集団があり、そこから抽出される。だがリクルートは個が剥き出しになっている。

グループの売上高約28,000億円、従業員数約5万人、連結子会社270社という企業、個人がバラバラで自由な感じがするし、各組織ががっちりまとまっている感じもするのは、個が剥き出しになっているからだ。

出木場さんがインディードを買収できたのも、そういった文化のせいだ。採用を科学する、単なるデジタル化ではない。

<出演者略歴>
出木場久征(いでこば・ひさゆき)
1975年、鹿児島県生まれ。1999年、早稲田大学卒業後、リクルート入社。2011年、全社WEB戦略室室長就任。2012年、執行役員、Indeed CEO就任。2021年、リクルートHD CEO就任。