一般的な社債よりも利回りが高く設定されていることから、大きなリターンを得られるとして人気の劣後債。積極的な運用手段として有効である一方、普通社債と比較してリスクが高めであるなどの注意点もある。普通社債との違いやメリット・デメリットなどをしっかりと確認し、運用資産への組入れを検討しよう。
劣後債とは一般の債券より弁済順位が劣る債券のこと
劣後債とは、一般の債券よりも弁済順位が劣る債券だ。劣後社債や劣後特約付社債とも呼ばれ、後述する期限付劣後債や永久劣後債と同じハイブリット社債の1つである。劣後債の特徴は「弁済順位が普通社債よりも低い」かわりに「利回りが高く設定」されている点だ。
ここではまず、劣後債の最大の特徴である弁済順位の違いについて詳しく見ていこう。
弁済順位とは
弁済順位とは、元本や利息などの支払い順位の優劣のことをいう。これは、社債や株式の発行体である企業に倒産などの劣後事由が発生した場合に、元利金の支払いが行われる順位のことだ。
劣後事由が発生した場合、その企業はすべての債務を弁済するだけの資金が残っていないケースがほとんどだろう。そのため、弁済順位を付けることで返済の順番を法的に決めているのである。弁済順位の低い債務は、順位が高い債務の支払いが完了するまでは弁済を受けられない。そのため弁済順位が低いほど、投資のリスクは高くなるのだ。株式や債券における法的弁済順位を、以下で確認しよう。
▽証券の法的弁済順位
【高い】普通社債
【中間】ハイブリッド証券
【低い】株式
劣後債は、弁済順位が中間に位置するハイブリッド証券の1つだ。ハイブリッド証券が元利金の支払いを受けられるのは、普通社債の債権者に対する弁済が終了した後である。普通社債よりも債務を回収できなくなるリスクが大きい劣後債は、普通社債と同様の発行条件であれば購入者は集まりにくい。そのため劣後債は、普通社債よりも高い金利を付けることで購入者を募っている。
劣後事由とは
劣後事由とは、劣後特約に定められた一定の事由のことだ。一般的には、破産や会社更生手続きの開始などが劣後事由として定められる。劣後債は、劣後事由が発生すると元利金を回収できる可能性が著しく下がる。そのため劣後債を購入するにあたっては、劣後事由が発生する可能性がどのくらいあるかの検討が必要だ。
しかし、個人投資家が企業の破産の可能性を自力で知るのは難しい。そこで利用したいのが、格付け会社による格付けである。格付け会社は債券を発行する企業および、発行される債券について格付けを行っている。一般的に格付けがAAAならば破産などのリスクが低く、CCCならリスクが高いとされる。劣後債に投資をするなら、事前に格付けを確認しリスクを把握することが重要だろう。
劣後債の種類
劣後債には、期限付劣後債と永久劣後債がある。それぞれの仕組みやメリット、デメリットを確認し、投資家の投資方針に合った方を選ぶことが肝心だ。
期限付劣後債
期限付劣後債は、劣後債のうち満期が定められた債券のことをいう。弁済順位は、後述する永久劣後債よりも高く設定される。
期限付劣後債のメリットは、満期が決まっており運用計画が立てやすい点だ。一方デメリットには、永久劣後債よりも金利が低めに設定される点が挙げられる。もちろん普通社債よりも高金利ではあるが、より高いリターンを目指すなら、永久劣後債も検討しよう。
永久劣後債
永久劣後債は劣後債のうち、満期がなく、発行体が存在する限りは利息が払われ続けるものをいう。
永久劣後債のメリットは、長期にわたり利息を受け取れる点だ。債券は、満期到来までに得た利息が投資のおもな利益となる。そのため満期の設定がない永久劣後債なら、長期での利益の積み上げが期待できるのだ。
デメリットは、現金化するためには時価での売却となる点だ。一般的に債券は満期が決められており、満期時には発行体が破綻しない限り額面金額が払い戻される仕組みとなっている。つまり満期まで持ち続ければ、投資資金を減らすことなく利息を受け取ることができるのだ。
一方、永久劣後債は満期がないため債券が償還されることはない。投資資金の現金化を希望するなら、時価で売却することになる。そのため、債券の価格次第で売却損が発生する可能性があることは知っておくべきだろう。
・永久劣後債の期限前償還条項とは
永久劣後債には多くの場合、期限前償還条項が付いている。期限前償還条項とは、発行体が任意に決定した時期に早期償還できる権利をいう。永久劣後債には満期が設けられていないため、期限前償還条項を定めることで、企業が債権を償還できる可能性を残すのだ。
期限前償還条項が定められている永久劣後債は、ファーストコールで償還されるのが一般的である。ファーストコールとは、発行体が満期前に繰り上げ償還できる期間のうち最も早い日付のことをいい、債券発行時に定められる。ファーストコールは5年目の利払い日に設定されているものが多いが、債券によっては7年目や10年目の利払い日のこともある。
なお、これまで日本国内で発行されたほとんどの劣後債は、ファーストコールで償還されてきた。そのため永久といいながら、実際には5~10年の運用を想定した金融商品とも考えられている。
劣後債のメリット
ここからは、劣後債のメリットおよびデメリットを解説する。まずは、2つのメリットを詳しく見ていこう。
劣後債のメリット1. 普通の社債よりも利率が高い
メリットの1つ目は、普通社債よりも金利が高い点だ。先述のとおり劣後債は弁済順位が低く、元利金を回収できないリスクが普通社債よりも高い。その分高い金利が設定されており、まとまったリターンが期待できるのが劣後債の一番の特徴だといえるだろう。
劣後債のメリット2. ドル建てで発行されることが多く、円安局面で有利
メリットの2つ目は、劣後債はドル建てで発行されることが多いためリスク分散の効果がある点だ。特に、円安局面において資産をドルで保有することは、有力な選択肢となる。
米ドルを中心に外貨建てで劣後債を発行する日本企業は、近年ますます増えている。実際、2021年には劣後債発行額の約30%が外貨建てであった。外貨建て劣後債の発行が増えている背景には、海外市場の投資需要の高さと、海外の金利の先高観が挙げられる。この2点は今後も継続すると考えられることから、外貨建て劣後債の発行は今後も続くだろう。
劣後債のデメリット・リスク
次に劣後債のデメリットおよびリスクを解説する。
劣後債のデメリット・リスク1. 発行体が倒産すると元本が返還されない可能性が高くなる
劣後債のリスクの1つ目は、発行体である企業が倒産した場合に元利金が返還されない可能性が高い点だ。劣後債を購入する際には劣後事由をしっかりと確認し、弁済されないリスクが生じるケースを把握しておくことが重要だろう。
なお、「新型劣後債」と呼ばれる実質破綻時免除特約が付いた劣後債は、さらに注意が必要だ。新型劣後債は、発行体の企業が法的に倒産する前でも実質的に破綻していると政府が認めれば、元利金の返還が受けられなくなる。そのため、一般的な劣後債よりもリスクが高くなる点は知っておこう。
劣後債のメリット2. 期限前償還条項によって想定した利回りが得られない可能性も
劣後債のリスクの2つ目は、期限前償還条項により繰り上げ償還された場合、想定した利回りを得られない可能性がある点だ。期限前償還条項が付いた劣後債は、発行体が任意に決定した時期に早期償還されるケースがあることは先述のとおりだ。
特に気を付けたいのは、金融機関が発行した期限前償還条項付の劣後債を購入した場合である。金融機関が発行した劣後債は、一定所条件のもとで自己資本に組み入れられるとされている。自己資本が多い企業は、体力があり倒産の可能性が低いと判断されるため、破綻時に社会的な影響が甚大である金融機関は、自己資本の増強のために劣後債を活用することが多い。
しかし劣後債の資本への組入れ比率は、残存期間が5年以下になった時点から徐々に低減する。そのため、残存期間が5年を切ると企業にとっての劣後債の魅力が薄まるため、繰上償還される可能性が高いことは知っておこう。
なぜ企業は劣後債を発行するのか?
先述のとおり、金融機関には劣後債を自己資本に組み入れられるメリットがある。また、金融機関以外の企業でも、格付け会社が評価にあたって劣後債を資本とみなすケースも少なくない。では、高い自己資本比率は、企業にどのようなメリットをもたらすのか。ここでは、劣後債により自己資本を増加させるメリットを詳しく解説する。
自己資本比率を高めるメリット
自己資本比率とは、総資産に占める自己資本の割合のことだ。そもそも自己資本とは、株主が出資した資本金や資本準備金、企業が創業以来稼いできた利益準備金や剰余金といった、返済義務がない資金をいう。自己資本比率が高くなると、おもに以下の2つのメリットがあると考えられる。
▽自己資本比率を高めるおもなメリット
・経営が安定する
・融資を受けやすくなる
自己資本比率が高くなれば借入金の返済といった負担が減るため、安定した経営を目指せると考えられる。また、自己資本比率は経営の安定性を測る指標としても活用されるため、比率が高い企業は銀行などから融資を受けやすくなるのもメリットだといえるだろう。
株式ではなく劣後債を発行する理由
前項で述べたとおり自己資本には、株主が出資した資本金も含まれる。つまり、新たな株式の発行(増資)も、劣後債の発行と同じく自己資本比率の増加に有効な手段なのだ。では、株式ではなく劣後債を発行し自己資本を増加させるのには、どのような理由があるのだろうか。
劣後債を選択する1つ目の理由は、会社の経営権を守れる点だ。株式を新たに発行すると、議決権を持つ株主が増える。場合によっては、会社の経営を脅かす事態にもなりかねない。議決権を守ったまま資本を増やしたい企業は、劣後債を発行するのである。
理由の2つ目は、株式を新たに発行すると株式の希薄化が起こる可能性があるからだ。新たな株式の発行によって市場に流通する株式の量が増えると、需要に対する供給量が一時的に大きく増加し、株価が下落する可能性がある。
株式の需要と供給のバランスを崩すことなく資本を増やすことができることも、劣後債を発行する理由のひとつだといえるだろう。
近年劣後債を発行した代表的な企業
実際に劣後債を発行した代表的な企業には、ソフトバンクグループや楽天グループ、商船三井、オリックスなどが挙げられる。それぞれが発行した劣後債の詳細および、普通社債との条件の違いを以下で確認しよう。
▽近年劣後債を発行した企業の一例および発行条件
劣後債 | 普通社債 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
金利/年(税引前) | 債券格付 | 期間 | 金利/年(税引前) | 債券格付 | 期間 | |
ソフトバンクグループ | 2.75% | BBB | 約35年 (最短約5年) | 1.38% | A- | 7年 |
楽天グループ | 3.00% | BBB+ | 40年 | 0.72% | A | 3年 |
商船三井 | 1.60% | BBB | 35年 | 0.49% | A | 6年 |
オリックス | 1.13% | A+ | 60年 | 0.39% | AA | 5年 |
いずれの企業でも普通社債のほうが格付けは高く、劣後債のほうが金利が高く設定されている。なお、ソフトバンクグループでは上記のほか米ドル建ての普通社債も発行しており、税引前金利は5.225%とかなり高い。高リターンの債券を希望するなら、外貨建て債券も選択肢となるかもしれない。
ちなみに、普通社債や劣後債への投資と国債および預貯金での運用では、期待されるリターンにどのくらいの違いがあるのだろうか。一例を挙げると、2022年10月17日時点の個人向け国債の税引前金利は0.05%もしくは0.17%、メガバンクの定期預金金利は0.002%だ。楽天グループの劣後債とメガバンクの定期預金では、実に1,500倍の金利差がある。資産運用を考えているなら、劣後債のリスクをしっかりと把握したうえで、投資資金の一部への組入れを検討してみるべきだろう。
劣後債はどこで購入できる?
劣後債は、もともとは機関投資家向けに発行された債券だった。しかし近年では前項で紹介した企業のほか2022年9月にはみずほFGが個人向け劣後債の発行を発表するなど、個人投資家が劣後債を購入するチャンスは増えている。
劣後債はおもに証券会社で購入が可能だ。店舗型の証券会社はもちろんネット証券でも取り扱いがあるため、複数の証券会社で過去の取引実績を確認すると良いだろう。債券は発行総額が決まっているため、人気の商品は短期間で完売することも少なくない。確実に手に入れるなら、すぐに購入手続きができるよう事前に証券会社の口座開設を済ませておくことが肝心だ。
さまざまな企業が発行する劣後債は、商品によってリスクやリターンの大きさが異なる。納得がいく投資をするなら、購入前に商品内容をしっかりと確認することが重要だろう。投資家自身で購入債券を選ぶのが難しいと感じるなら、専門家にアドバイスを仰ぐのも有効だ。
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劣後債の利回りは魅力的だが信用リスクに注意
劣後債は、一般の債券よりも弁済順位が劣る債券をいう。劣後事由発生時に元利金の支払いを受けられないリスクがある一方で、普通社債よりも高い金利が設定される点が魅力だ。
劣後債には、償還までの期限付きのものと期限がないものがある。また、期限前償還条項や実質破綻時免除特約が付加されているかによっても商品内容に差がでるため、事前にしっかりと発行条件を確認することが重要だ。
近年はソフトバンクグループや楽天グループ、みずほFGなど、個人投資家向けに劣後債を発行する企業も増えている。発行総額には限りがあるため、劣後債の購入を希望するなら証券会社で口座を事前に開設しておくと安心だろう。
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