ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択する上で投資家のみならず、大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回はリソル土地開発株式会社代表取締役社長の湯田幸樹氏とリソルグループ広報室ご担当者にお話を伺った。
ホテルやゴルフ場の運営、リソルの森(CCRC)、福利厚生、再生エネルギー、投資再生など、多岐にわたる事業を展開するリソルグループ。ESG/SDGsにも積極的に取り組み、環境面では事業を通じて省エネ、再エネ、緑地保全、森林整備などを推進している。本稿ではCO2削減・脱炭素のトピックを中心に、同グループの現状や課題、目指すべき姿などについて、インタビューを通じて紹介する。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
リソルホールディングス(株)常務執行役員、リソルの森(株)代表取締役社長、リソル総合研究所(株)代表取締役社長など、グループ会社役員を歴任。リソルの森株式会社の代表取締役社長としては、「Sport & Do Resort リソルの森」(旧称リソル生命の森)の2020年全面リニューアルを指揮した。現在はリソル土地開発株式会社の代表取締役社長として「再生エネルギー事業」「フェアウェイフロントヴィラ事業」の土地開発関連業務を手掛けている。
リソルホールディングス株式会社
運営と投資再生を軸に6つの事業[ホテル運営、ゴルフ運営、リソルの森(CCRC)、福利厚生、再生エネルギー、投資再生]を多角的に展開。コーポレートスローガン「あなたのオフを、もっとスマイルに。」と長期方針「人にやさしい」「社会にやさしい」「地球にやさしい」を掲げ、事業を通じて「いきがい・絆・健康・くつろぎ」を提供し、たくさんのスマイルづくりに努めている。
[東京証券取引所:プライム市場上場、代表取締役社長:大澤 勝、本社所在地:東京都新宿区、公式サイト: https://www.resol.jp/]
<過去の紹介記事はこちら: https://zuuonline.com/archives/242958>
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。
株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。
リソルグループの再エネ・脱炭素に対する取り組み
アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):鳥取県に本社を構えるアクシス代表の坂本です。本日は、リソルグループ様のESG・脱炭素への取り組みについて勉強させていただきます。よろしくお願いいたします。
リソルグループ 湯田氏(以下、社名、敬称略):リソルグループの再生エネルギー事業セグメントなどを担当する、リソル土地開発の湯田です。弊社では太陽光などの自然エネルギー事業や太陽光設備の販売・管理、コンサルティング、土地開発関連業務を手掛けています。FIT(固定価格買取制度)の案件が始まってからは、グループの中で弊社が再エネ事業を担い、売電だけではなく、電力の地産地消を進めています。
坂本:最初に、リソルグループのESGや脱炭素に対する取り組みや成果、ビジネスへの影響などについてお聞かせください。
湯田:リソルグループが運営するゴルフ場では緑地保全を行い、CO2削減と大気浄化につなげています。運営するゴルフ場の浄化作用を換算すると成人男性5万2,000人分の年間排出量に相当する1万7,000トン弱のCO2を吸収し、1万2,000トンの酸素を排出しています。
再生エネルギー事業は、2015年に売電を開始した「鴨川発電設備」(千葉県鴨川市)に始まり、これまで「大熱海発電設備」(静岡県伊豆市:大熱海国際ゴルフクラブ内で稼働)、「瀬戸内発電設備」(広島県竹原市)、「福島石川発電設備」(福島県石川郡)などを立ち上げてきました。
再エネ事業は意義がある一方でFITの買取単価は年々下がっていて、いずれは限界を迎えます。我々としては自分たちで作った電気を自分たちで使うエネルギー地産地消の時代が来る、あるいはCO2削減を始めとする環境対策が消費者の施設選びの要素になると考え、千葉県長柄町にある約100万坪の複合リゾート「Sport & Do Resortリソルの森」(以下、リソルの森)では2020年4月1日から、太陽光発電の電力を自営線(自社発電の電気を自社の需要地まで供給するために自社が設置した配電線)と自己託送(自社発電の電気を電力会社の既設送電線を利用し自社需要地に供給する)のハイブリッドで送電する、日本初の「地産地消エネルギーシステム」を稼働させました。
当時、私はリソルの森株式会社の社長を務めており、自分たちの作った地球にやさしい電気を施設内で使うことが今後必要になると考え、東京電力様や電機メーカーの東光高岳様、日建設計様、千葉大学様に力を借りながら、リソルの森にある未利用地に太陽光パネルと蓄電池、ヒートポンプを組み合わせ、電力会社の送電設備ではなく自社で設置した専用の配電線を使い電力を供給する仕組みを構築しました。この「地産地消エネルギーシステム」は、令和3年度新エネ大賞の「新エネルギー財団会長賞」を受賞しました(リソル土地開発・リソルの森・東京電力ホールディングス・東光高岳の4社共同で受賞)。現在は売電と自施設で電気を作り消費する事業の両輪で再エネに取り組んでおり、今後もこの2つが必要だと考えています。
▼日本初の地産地消エネルギーシステム 事業全体のイメージ
坂本:同事業では、どのような形で施設内の電力を賄っているのですか。
湯田:基本的には太陽光パネルで作った電力を自営線でメディカルトレーニングセンターに送り、そこで使い切れなかった電力はゴルフ場(クラブハウス)に送られます。 1つの太陽光発電設備で2つの施設の電力を賄うのは日本初とのことで、受賞につながったようです。これにより、主要施設となるメディカルトレーニングセンターでは消費電力の最大40%をカバーでき、大幅なCO2排出と光熱費削減につながっています。100%でない理由は、曇りや雨の日は電気を作ることができず蓄電池の価格も高いので、どうしても供給量が限られるからです。
坂本:多くの企業が省エネ中心になる中、リソルグループは地産地消の電力に注力しており、非常に先進的ですね。
湯田:私どもはゴルフ場や宿泊施設といった資産を持っており、地産地消のエネルギーシステムと相性が良いと思っています。施設を持っていることは強みでしょう。一方、再エネのビジネスは森林伐採などの自然破壊につながるため、近隣から理解を得られないといった課題があります。しかし、日本の再エネの目標を考えると、大規模なプロジェクトを行わなければ到達しません。ゴルフ場は造成工事がある程度終わっており、自然体系を変える(新たに土を動かすなど)わけではないので、周辺の方の理解を得ながら大規模なプロジェクトを進めやすいことは確かです。このような点が、リソルグループではプラスに働きました。
リソルグループが考える脱炭素経営の社会・未来像
坂本:SDGsやESGの観点を含めて今後の御社における未来像や構想についてお聞かせください。
湯田:先ほどお話ししたように、電気は自ら作り使うようになっていくと考えるなら、施設には土地が必要です。工場では屋根に太陽光パネルを載せるのが主流ですが、屋根の構造の問題があり、その広さも限られています。
その中でエネルギー地産地消の新たな取り組みとして工事を進めているのが、弊社グループゴルフ場の駐車場の屋根に設置する「ソーラーカーポート」です。ここで作った電気でクラブハウスの電気を補い、またEV充電器の設置も考慮した設計にしています。カーポート自体は猛暑日や雨天時でも快適で、脱炭素や省エネにもつながると考えています。現在は、「スパ&ゴルフリゾート久慈」(茨城県常陸太田市)や「中京ゴルフ倶楽部 石野コース」(愛知県豊田市)、「瀬戸内ゴルフリゾート」(広島県竹原市)で工事を行う予定です。このようなエネルギーの地産地消が、将来はより進むと思います。
▼ソーラーカーポート(EV充電器付)完成予想図
坂本:御社は、サステナビリティの取り組みを積極的に公開していらっしゃいます。各企業でも情報公開を考えておられますが、ESGや脱炭素社会の実現に向けた情報公開やプロモーションをする際に心がけておられる点はありますでしょうか?
リソルグループ広報室:TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応は各社バラバラで、情報公開に対する東証の基準も完全には定まっていないようです。現状は監査法人の指示を仰ぎながら、開示の要件に合わせていこうとIR上は考えています。
PRに関しては、新規ゴルフ場を2021年に1つ取得し、2023年には東急不動産から4つ取得しますが、それだけではCO2を減らしたことになりません。伐採や植樹など森林の管理が決め手になりますが、それをどのようにPRするかを検討する必要もあります。
先ほど湯田が申し上げたソーラーカーポートはEV充電器の設置も検討していますが、お客様の車のすべてがEVではありませんし、EVの充電にも時間がかかります。ゴルフの間に充電できるというユニークなもので、本来の意味でグリーンな電力の活用といえます。ニッチな事例ですが、このような取り組みもPRしていきたいと思います。ソーラーカーポートを設置する「中京ゴルフ倶楽部」はトヨタ自動車様のお膝元で、「ブリヂストンレディスオープン」開催時は毎回プリウスなどをご出展いただいています。そういった場所に設置することも、弊グループとしては話題になると思いますし、「瀬戸内ゴルフリゾート」も眺望に優れた場所ですから、それぞれの特徴に合わせて多くの方に知っていただけるような取り組みを進めたいと思います。
リソルグループのエネルギー見える化への取り組み
坂本:脱炭素を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組まれていますか。
リソルグループ広報室:TCFD上は、一定のロードマップで示すことが対策になっています。CO2の排出を始め、その対策について次回の株主総会で示す必要があり、現在準備を進めています。
坂本:現在はプライム市場上場企業を中心に、脱炭素でいうところのScope1、2の把握を行っていますが、今後サプライチェーンを含めた排出量の算定(Scope3)も検討しなければなりません。リソルグループ様は、どのようにお考えでしょうか。
リソルグループ広報室:現在はScope1、2のデータ収集に追われていて、Scope3に関しては社内外の人材を含めて「どこまでコミットするのが適切なのか」という課題があり、来年の株主総会でそれが明確になると思います。
坂本:国の基準が曖昧で、海外拠点がある企業はどうするのかなど、Scope3に関しては多くの企業が苦労しています。弊社としても、何かお力添えできれば幸いです。
最後に、昨今は、ESG投資が機関投資家・個人投資家から注目されています。その観点で御社を応援する魅力をお聞かせください。
リソルグループ広報室:ロシアによるウクライナ侵攻以降は「明日の暖房・冷房」を心配する状況であり、ESGに対する認識は変わりつつあります。我々としては取り組みを継続し、情報を発信する必要があると考えています。湯田を中心に進めている再生エネルギー事業も、既存のゴルフやホテル事業との相乗効果をいくつか示したいところです。リソルの森では45ホールのゴルフ場があり、オリンピック選手が宿泊する施設やトラックも保有しています。これを核に複合的な電力のやり取りを進め、見える化や対策についても情報を発信していきたいです。グループの規模は大きくありませんが、ニッチな部分の積み上げとそれらの組み合わせによるシナジーを投資家の皆さんに知っていただきたいと思います。
坂本:ありがとうございます。エネルギーの地産地消の取り組みは非常に最先端かつユニークで、脱炭素社会実現に向けた好事例だと思いました。