政府の観光支援策である「全国旅行支援」が始まり、制度を利用した旅行の予約が殺到して話題になりました。そのとき問題になったのが、制度が始まってしばらくすると起きた宿泊料金の便乗値上げです。

ところが、もともと需要と供給によって料金が変わる仕組みは導入されていたので、一概に便乗値上げと断定できない事情もあります。本記事では、需要と供給で料金が決まる「ダイナミックプライシング」について解説します。

全国旅行支援で話題になった「ダイナミックプライシング」

チケットを買うなら知っておきたい「ダイナミックプライシング」とは
(画像=MonsterZtudio/stock.adobe.com)

2022年10月11日(東京都は10月20日)から全国旅行支援が始まりました。全国旅行支援が始まると予約が殺到しましたが、すぐに宿泊料金を値上げするホテル・旅館が出たことから、利用者の間から「便乗値上げではないか?」との批判の声が上がりました。しかし、航空・旅行アナリストから元々需要に合わせて宿泊料金が変化する仕組みはあったとテレビ番組で解説があり、再注目されたのがダイナミックプライシングです。

ダイナミックプライシングは、商品やサービスに対し需要の多い時期や時間帯の料金を高く設定し、需要が少ない場合は低く設定する変動料金制のことをいいます。ダイナミックプライシングという言葉は最近知られるようになりましたが、仕組み自体は航空チケットなどで昭和の時代からあったものです。

便乗値上げとダイナミックプライシングの違い

問題になった便乗値上げとダイナミックプライシングはどのような違いがあるのでしょうか。ダイナミックプライシングは宿泊施設の場合、あらかじめシーズンや曜日などで繁忙期と閑散期を分け、需要が多い時期は高く、需要が少ない時期は安い料金に設定することで需要と供給のバランスをとっています。

一方で、ダイナミックプライシングの仕組みを導入していない定額料金の宿泊施設が、全国旅行支援が始まったら急に料金を変更した場合は便乗値上げといわれても仕方ないでしょう。

現在ではダイナミックプライシングを導入している宿泊施設が多いので、全国旅行支援が始まり需要が多くなれば料金が上がるのは仕組み上仕方のないことといえます。単なる便乗値上げではないからです。しかし、ダイナミックプライシングの仕組みを知らない人からすると便乗値上げのように感じられることから、宿泊施設にクレームの電話をする人もいるようです。

宿泊施設側は需要の増加による値上げと説明しますが、理解を得られないケースもあります。このようなことにならないためにも、ダイナミックプライシングの仕組みを知っておくことは有意義です。

ダイナミックプライシングのメリット・デメリット

ダイナミックプライシングにはメリットだけでなくデメリットもあります。メリット・デメリットを把握したうえで利用するようにしましょう。

ダイナミックプライシングのメリット

ダイナミックプライシングのメリットは、繁忙期以外で利用することが可能な人は割安価格でチケットの購入や宿泊施設の予約ができることです。子ども連れの場合は子どもの学校休日(土・日・祝日、夏休み等)と繁忙期が重なるため難しいですが、単身者や夫婦2人が閑散期を狙って利用すれば「安くてゆったり過ごせる」一石二鳥のレジャーを楽しむことが可能です。

企業側のメリットとしては値上げしやすいことが挙げられます。日用品など希望小売価格があるものは値上げすると消費者離れが起こるため、価格転嫁しにくいのが現状です。その点ダイナミックプライシングの対象になるようなサービスは高くても買う人がいるため、値上げしても消費者離れが起きにくいというメリットがあります。

ダイナミックプライシングのデメリット

ダイナミックプライシングのデメリットは、需要が集中する時期の各種料金が割高になることです。同じサービス内容であるにも関わらず、曜日や時期が違うだけで多く予算を立てなければなりません。

また、料金が頻繁に変動すると、いくらが適正なのかわからなくなり、消費者の不信感につながる恐れがあります。昔は宿泊料金の調整は宿泊施設が手作業でアナログ的に決定していましたが、現代はAI技術を駆使して1ヵ月単位で細かい料金設定ができるようになっています。月が変われば料金も変更されているため、同じ曜日でも前月と料金が異なる場合があります。

ダイナミックプライシングを導入しているチケット

ダイナミックプライシングを導入しているチケットで代表的なのが航空チケットですが、それ以外にも採用しているチケットがあります。以下の2つが代表的な例です。

ユニバーサルスタジオ・ジャパンの入場チケット

テーマパークで顧客の不満が多いのが長時間アトラクションの行列に並ばなければならないことです。そこでユニバーサルスタジオ・ジャパンでは、2019年に繁忙期と閑散期のチケットに価格差をつけるダイナミックプライシングを導入しました。その結果入場者数をコントロールでき、混雑緩和できたことで顧客満足度の向上につながりました。

Jリーグ横浜・F・マリノス観戦チケット

昭和時代のプロ野球では巨人戦が突出して入場者数が多い時期がありました。サッカーも巨人戦ほどではなくても、対戦カードによって入場者数に差があるのは事実です。

Jリーグの横浜・F・マリノスはホームグラウンドの試合を、人気チームとそれ以外の対戦カードでチケットに価格差をつけるダイナミックプライシングを導入しました。それにより日産スタジアム(約7万人収容)とニッパツ三ツ沢球技場(約1万5,000人収容)の2つのホームグラウンドを上手く使い分けているといいます。

不正転売チケットに注意しよう

ダイナミックプライシングの普及でチケットの売れ行きが分散されるようになったとはいえ、人気のコンサートチケットなど、そもそも入手自体が難しいものもあります。海外人気ミュージシャンのプラチナチケットもその1つです。

高額で転売されることがよく話題に上がりますが、令和元年6月14日からは「不正転売禁止法」が施行されています。法に触れるチケットを購入してしまう場合もあるので、非正規ルートで入手することは避けるようにしましょう。

人気のコンサートチケットが発売初日でSOLD OUTになった場合、数日するとチケットぴあなどでリセールチケットが販売される場合があります。コンサートに行けなくなった人が転売に出すためですが、転売目的ではない正規の再販売で購入すれば法に触れる心配もなく、定価で購入できます。

さまざまな場所で導入されているダイナミックプライシング

ダイナミックプライシングはチケットや宿泊施設などのほかにもさまざまな場所で導入されています。身近なところでは、スーパーやコンビニなどで販売期限が近くなると値段を下げる見切り販売が挙げられます。アパレルショップのシーズン切り替わりにおける値引き販売も同様で、廃棄処分にするよりは少しでも売り上げになったほうがよいという考え方です。資源の無駄を防ぐSDGs(持続的開発目標)にも貢献できます。

観光は平日に出かけたほうが混雑を避けられ、宿泊施設もリーズナブルな料金で利用できるメリットがあります。洋服も流行遅れになったとしても品質自体は同じなので、安く買えればよいと考える人には見切り品はお得といえます。フードロスも大きな社会問題になっているので、その日のうちに食べるものは見切り品を購入するのも社会貢献の1つになります。

このように、ダイナミックプライシングを利用してリーズナブルな観光や買い物をするのも生活の知恵といえるでしょう。

(提供:Incomepress



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