ファンドラップサービスとは、金融機関などに資産運用を一任できるサービスです。投資初心者はもちろん、投資のための勉強や投資に割ける時間がない人でも運用を始めやすいとされていて、利用する人が増えています。日本投資顧問業協会の統計によると、国内のラップ業務の件数は2022年3月で前年対比14.6%の伸びで、133万件に達しています。このファンドラップサービスについて、仕組みやメリット、デメリットを確認し、資産運用の1つとして検討してみましょう。
目次
ファンドラップサービスとは「投資一任契約による資産運用サービス」
ファンドラップサービスとは、「投資一任契約による資産運用サービス」です。取引する金融機関にファンドラップサービスのための口座を開設して投資一任契約を結ぶことで、口座に預けた資金の運用を一任することができます。
資産運用では、投資銘柄の選定や売買、値動きおよび運用状況の定期チェック、コスト管理などを自分でしなければいけません。投資経験や時間に余裕がある投資家であれば、これらの作業もそれほど負担ではないでしょう。しかし、投資初心者や投資に時間を割く余裕のない人にとっては、資産運用を始める高いハードルになるかもしれません。
ファンドラップサービスを利用すれば、投資にかかる手間も含めて運用を一任できます。投資における煩雑で面倒な管理や運用の負担を抑えることはもちろんのこと、後述するポートフォリオ管理についても、専門的な金融理論に基づき行ってくれます。比較的簡単に誰でも、理論的な投資をスタートできるのが特徴です。
ファンドラップサービスの利用の流れ
ファンドラップサービスは、以下の流れで利用でき、資産運用が行われます。
▽利用の流れ
- 資産状況やリスク許容度などを金融機関に確認、相談する
- 投資先となるポートフォリオの提案を受ける
- 投資一任契約を締結する
- 運用を開始する
ファンドラップサービスでは、金融機関がヒアリングや相談などによって投資家から得た情報をもとに、投資家それぞれに適した投資対象となるポートフォリオの提案を行います。提案内容に納得できれば、投資家と金融機関が投資一任契約を締結し、提案内容に沿った資産運用がスタートします。
運用スタート後は、運用状況や今後の見通しなどが定期的に報告されます。また、運用成績や景気の状態などに合わせて、投資先の資産配分の見直しも行われます。
このように、投資家の意向を反映しながら、金融機関などに資産運用をお任せできるサービスなのです。
バランス型投資信託とファンドラップサービスの3つの違い
ファンドラップサービスは、投資家のヒアリング情報にもとづいて複数の投資信託を組み合わせて運用を行います。そのため、特定の資産(アセットクラス)に偏らず投資を行うバランス型投資信託との違いがわからないと感じる人もいるでしょう。ここでは、ファンドラップサービスとバランス型投資信託の違いを3つ解説します。
1. 資産配分の自由度の違い
ファンドラップサービスとバランス型投資信託では、ポートフォリオ(資産配分)の自由度にも違いがあります。ファンドラップサービスは個人ごとにポートフォリオ管理がなされるのに対して、バランス型投資信託はファンド全体でのポートフォリオ管理となります。
バランス型の投資信託は、例えば国内外の株式および債券に25%ずつなど、ファンドの投資方針として資産配分があらかじめ決まっています。そのため、運用スタート後に資産配分が変わることは原則としてありません。バランス型の投資信託に投資をするなら、自分の投資方針に合った資産配分の銘柄を選ぶことが重要です。
ファンドラップサービスは、投資家の投資方針に合わせて資産配分が決定されます。例えば、ハイリスク・ハイリターンの運用を希望する投資家には株式の資産割合が多いポートフォリオ、リスク許容度が低い投資家には債券の資産割合が多いポートフォリオが提案されるケースがあります。
そのため、投資家の方針に合わせられ、より柔軟に資産配分を決められるサービスと言えるでしょう。
2. 受けられるサービスの違い
ファンドラップサービスと投資信託とでは、受けられるサービスも異なります。
投資信託で受けられるのは、原則としてファンドの決算時に発行される『運用報告書』の交付です。運用会社が発行した運用報告書は、販売会社である金融機関を通じて郵送もしくはネット上からのダウンロードで受け取れます。
一方ファンドラップサービスでは、以下のサービスが受けられます。
▽ファンドラップサービスで受けられる主なサービス
・運用状況の定期報告
・投資家の方針に則ったリバランス
ファンドラップサービスでは預けた資産の運用状況について、金融機関から投資家に対して定期的に報告が行われます。また、運用状況によって投資家からヒアリングした資産配分が崩れてしまった場合は、資産の売買による調整(リバランス)が行われます。投資信託でもリバランスは行われますが、あくまで選択した投資信託の投資方針に則ったリバランスとなります。
そのほか、ファンドラップサービスによっては投資資産の定期払戻や利益の払出が可能です。また、あらかじめ指定した基準まで利益が出たときに自動的に利益が確定される「プロフィットロック」や、反対に指定した基準まで損失が発生したときに自動的に損切り売却が行われる「ロスカット」などを備えたサービスもあります。
3. コスト面の違い
ファンドラップサービスとバランス型投資信託では、運用に必要なコストが異なります。それぞれの投資に必要なコストを、以下で確認しましょう。
▽ファンドラップサービスとバランス型投資信託で必要となる主な運用コスト
ファンドラップサービス | バランス型投資信託 |
---|---|
・ファンドラップサービス手数料(口座管理手数料) ・投資顧問報酬 ・信託報酬 ・信託財産留保額 | ・買付時手数料 ・信託報酬 ・信託財産留保額 |
投資信託の運用では、主に「買付時手数料」「信託報酬」「信託財産留保額」の3つが必要です。
買付時手数料は、投資信託の購入時に窓口となる金融機関に支払う手数料です。ファンドによっては、無料の場合もあります。信託報酬はファンドの運用や管理に必要な手数料で、運用会社や販売会社、受託会社に支払います。信託財産留保額は売却時にファンドに支払う手数料で、ファンドによってはない場合もあります。
対してファンドラップサービスでは、信託報酬および信託財産留保額に加えてファンドラップサービス手数料と投資顧問報酬が必要です。
ファンドラップサービスはスーツにたとえれば、セミオーダースーツと言えます。ある程度決まった中から個人に合ったサイズなどで製作可能となるものです。対してバランス型投資信託は既製品(サイズなどは規格に沿ったもので、気に入れば買うというもの)のイメージです。
このように、大事な資産の運用を専門家に一任できる分だけ手数料が増えることは把握しておきましょう。
ファンドラップサービスは富裕層向けのサービスなのか
「投資一任契約」と聞くと、まとまった投資資金がある富裕層を対象としたサービスと感じる人もいるでしょうが、そうとは限りません。
ファンドラップサービスは、サービスを提供する金融機関によっては1万円や10万円といった少額からスタートできるものもあります。ここでは、投資資金の大小に関わらずファンドラップサービスを利用する意味を解説します。
プロに運用を任せられるため手間がかからない
ファンドラップサービスを利用する意味は、「ポートフォリオの管理など、手間を抑えた運用ができる」点です。資産運用では、銘柄選択や売買、運用状況の確認およびリバランスなど、さまざまな手間がかかります。それらの負担を契約した金融機関に一任し、投資家としての労力を軽減した投資を目指せるのが、ファンドラップサービスでの投資の最大のポイントです。
一般的に将来に向けた資産形成を目的とした投資は、投資のコストを抑えられ、複利効果を含めて、収益が安定する傾向があることから、中長期で行うことが望ましいです。しかし、働き盛りのビジネスマンなど日々の生活が忙しい人にとって、長期に渡って投資資産の管理や把握をし続けるのは簡単ではありません。将来の資産形成を目指す投資家の資産運用の開始と継続をサポートするのが、ファンドラップサービスの大きな役割だと言えるでしょう。
3つのメリットから見るファンドラップサービス
ファンドラップサービスには主に3つのメリットがあります。確認しましょう。
▽主なメリット
・自分に合った適切なポートフォリオが構築できる
・リスクをコントロールした運用を任せられる
・グローバルかつ複数のアセットクラスに、手軽に分散投資できる
自分に合った適切なポートフォリオを構築できる
ファンドラッブサービスは、自分のリスク許容度に合った応じたポートフォリオを構築できるというメリットがあります。ポートフォリオとは、投資する金融商品の組み合わせのことです。
ポートフォリオを構築するには幅広い金融商品の比較検討が必要であり、多くの手間や時間がかかるため、自身で行うのは簡単ではないでしょう。ポートフォリオを構築するにあたっての手間を抑えつつ、リスク許容度に合ったポートフォリオ選択ができるのが、ファンドラップサービスの大きな魅力と言えます。
リスクをコントロールした運用を任せられる
リスクをコントロールした運用を任せられるのもメリットです。
投資初心者の中には、リスクを「損失が出る危険性」と感じる人もいるでしょう。しかしリスクとは、「価格の振れ幅」のことを言います。投資信託(ファンド)でいえば、リスクが高いファンドは値動きが大きくハイリスク・ハイリターン、リスクが低いファンドは値動きが小さくローリスク・ローリターンなのです。
ローリスク・ローリターンのファンドのみの運用では、資産の増加は限定的です。場合によっては手数料が上回り、いわゆる“コスト負け”することもあるでしょう。一方、ハイリスク・ハイリターンのファンドのみで運用すると、大きな利益を得られるかもしれませんが、想定以上の損失が発生する可能性もあります。
長期にわたり継続した資産運用を実現するには、リスクレベルが異なるファンドを組み合わせ、値動きなどのリスクの相関を加味してコントロールすることが重要です。
ファンドラップサービスでは、各投資家が希望するリスク許容度に応えられるよう、いくつかのポートフォリオが用意されています。ファンドラップサービスを利用することで、リスクコントロールが効いた資産運用を実現できるでしょう。
グローバルかつ複数のアセットクラスに、手軽に分散投資できる
メリットの3つめは、グローバルな複数のアセットクラスに、手軽に分散投資できる点です。
アセットクラスとは、投資対象となる資産の種類のことを言います。具体的には株式、債券、不動産、預金などが挙げられます。
グローバルな複数のアセットクラスに投資するメリットは、値動きの傾向が異なる資産を組み合わせて保有することで、市場価格の下落により資産の価値が下がるリスクを分散できる点です。たとえば株式の価格が上昇する好景気には債券価格は下落し、不動産は株式に準じながらも少し遅く追随する、といった傾向があります。
一般的に株式よりも不動産の方が価格変動のリスクは低く、不動産価格は株価に遅行すると言われます。また、債券は、不景気の局面で価格が上昇する傾向にある資産です。
値動きの傾向が異なる複数の資産を組み合わせた投資は、長期での各資産から受ける価格変動リスクを抑えるためのポイントとなります。併せて、国内資産だけでなくグローバルな資産を組み合わせて投資すれば、一国の情勢ですべての資産が値下がりするリスクの軽減も図れるでしょう。
投資家が自身で国内外の複数のアセットクラスに投資するのは手間も時間もかかります。一方ファンドラップサービスなら、ヒアリングで希望を伝えるだけで、自分のリスク許容度に適した、国際分散投資のポートフォリオ構築を選択可能となります。
このように、アセットクラスを分散することでリスクを抑えた投資を目指しやすいのも大きな魅力だと言えるでしょう。
ファンドラップサービスはどんな人に向いているのか
ファンドラップサービスは、以下のような人に向いているサービスです。
▽向いている人
・投資の知識に不安のある人
・投資に割ける時間がほとんどない人
・自分に適した資産運用を専門家に任せたい人
・中長期でリスクを抑えた資産形成を目指したい人
投資においては、金融商品やアセットクラスについて特徴やリスクを知ることは重要です。投資の知識に不安のある方や学ぶ時間、投資に割ける時間がない人は、ポートフォリオの提案を受けられるファンドラップサービスの利用をぜひ検討したいところです。また、中長期で将来に向けた安定した資産形成を目指す人は、自分のリスク許容度に合ったポートフォリオで資産運用を一任できるファンドラップサービスはおすすめです。
まとめ:専門家のアドバイスによる長期投資ができる。投資初心者でなくても検討したいサービス
ファンドラップサービスは、金融機関と投資家が投資一任契約を結んで資産運用を行うサービスです。ポートフォリオの提案やリバランスなどの資産運用サービスを受けられるため、投資初心者や投資に割ける時間がない人でも運用を始めやすく、長期投資を続けやすいという特徴があります。
ファンドラップサービスを活用すれば、分散投資によってリスクをコントロールした資産運用を目指せます。中長期での資産形成を検討しているなら、ぜひ利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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