「伝統的資産に対して相関性の低いアセットクラスを組み合わせることで、ポートフォリオのリスク分散を図り、分散投資効果を高める」というのがオルタナティブ投資戦略の最大の目的であり、その理屈についてはどなたもご納得いただけるものだと思う。ただ日本の居住者相手に「ポートフォリオ提案」として具体的に提案書をまとめようとすると、実は非常にこれが難しいことに気がつく。なぜかと言えば、提案書に自信を持って組み入れられる具体的な金融商品が極めて少ないからだ。特にヘッジファンドについては皆無に等しい。実はこれが、バークレイズ ISSヘッド時代の最大の頭痛の種だった。
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グローバルに展開するプライベートバンク(PB)にとって、ある程度なら国や地域の特性に合わせた(投資)商品の微調整や修正は許される。しかし、それぞれのPBが有する「基本的な投資哲学」については、当然のことながら頑として譲らない。筆者のようなファンドマネージャーとしてのキャリアを持つ者をなぜPBの「インベストメント・ソリューション」を司る専門職チームのヘッドとして本社が採用したのかと言えば、市場のローカルな特殊性や規制事情を踏まえた上で、最善の方法で自社の投資哲学に沿った提案ができるようになると期待していたからだ。だが残念ながらわたしは日本において、バークレイズ 英国本社の期待に100%応えられるソリューションを生み出すことはできなかった。実はその最たる例が「オルタナティブ投資戦略」に関わるもので、中でもヘッジファンド関連は最難関だった。ただし、社内の優秀なバンカーにだけは「あるアイデア」をこっそり授けて、そのソリューションとしたことがある。
そもそもヘッジファンドとはその名が示す通り「ファンド」であり、この建付けを具体化するには「投資信託」の形態を取るしかない。話があまりに専門的になり過ぎるので詳細は割愛するが、日本の居住者に販売できる投資信託の形にするには、ヘッジファンドは何段階ものハードルを越えなければならない。「公募か私募か」といったわかりやすい次元の話とはかけ離れた難しい問題が数多く存在するのだ。だからだろうと思うが、ちまたには「『億円単位』のまとまった資金があるなら、特別なルートを使うことでヘッジファンドを購入できる」という話が流れたりする。しかし、前述のように、話はそう簡単ではない。
そういうわけで今回は「オルタナティブ投資戦略」の中で、ヘッジファンドのエクスポージャー(金融資産の中で市場の価格変動リスク、あるいはその他の特定のリスクにさらされている残高や比率)を取ることは可能なのか、不可能なのか、という問題を取り上げる。