ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択する上で投資家のみならず、大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は、株式会社グリーンズ取締役管理本部長の伊藤浩也氏にお話を伺った。

グリーンズは60年以上にわたる実績と信頼をベースに日本全国で100店舗(2022年11月末時点)のホテルを運営するホテルオペレーター企業。世界40ヵ国以上で7,000店舗超を擁するホテルチェーンのグローバルブランド「コンフォートホテル」「コンフォートイン」「コンフォートスイーツ」を国内展開する「チョイスホテルズ事業」と、「ホテルエコノ」などオリジナルホテルをドミナント展開する「グリーンズホテルズ事業」を手掛けている。

同社は、2018年にグリーンズグループ2030年CSR宣言「環境にも人にも優しいホスピタリティあふれる企業」を策定。ホテル業に欠かせない「ホスピタリティ」をキーワードに環境配慮やコミュニティ、人、サービスを重点課題として取り組みを進めている。本稿ではESG・脱炭素のトピックを中心に、同社の現状や課題、進むべき未来像などについて、インタビューを通じて紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社グリーンズ
(画像=株式会社グリーンズ)
伊藤浩也(いとう ひろや)
――株式会社グリーンズ 取締役管理本部長
略歴:1970年生まれ、三重県出身。2005年9月に株式会社グリーンズ入社。2013年1月に経営企画部部長、9月に経営企画部執行役員部長に就任。2014年9月に取締役(現任)、10月に管理本部長(現任)に就任。施設管理部門、購買部門、財務経理部門、情報システム部門および総務部門を管掌する立場から、株式会社グリーンズにおけるESGを推進。

株式会社グリーンズ
三重県四日市市に本社を置く1957年(昭和32年)創業のホテルオペレーター企業。「TRY!NEXT JOURNEY ~新たな旅に踏み出そう~」の経営ビジョンのもと、宿泊特化型ホテルを中心に日本全国で100店舗(2022年11月末時点)のホテルを運営。世界40ヵ国以上7,000軒以上のホテルチェーンのグローバルブランドを国内展開する「チョイスホテルズ事業」と、60年以上のホテル運営の実績をもつ「グリーンズホテルズ事業」とのシナジーで、グローバルブランドの中間料金帯ホテルチェーンで唯一全国展開に成功。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年生まれ。埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」運営など、多岐にわたる。

目次

  1. 株式会社グリーンズの省エネと再エネ活用の取り組み
  2. 株式会社グリーンズが考える脱炭素経営の社会・未来像
  3. 株式会社グリーンズのエネルギー見える化への取り組み

株式会社グリーンズの省エネと再エネ活用の取り組み

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):アクシス代表の坂本です。弊社は鳥取県に本社を構え、システム関連と再エネ関連のプロダクトを販売しています。本日はよろしくお願いいたします。

グリーンズ 伊藤氏(以下、社名、敬称略):株式会社グリーンズで管理部門を担当している伊藤です。弊社は三重県四日市市に本社を構えています。北は北海道から南は沖縄県の石垣島まで、日本国内で100店舗(2022年11月末時点)を運営しています。創業の地である三重県を中心に60年以上の実績を誇る当社オリジナルの宿泊特化型ホテル、集宴会・レストラン等を兼ね備えたシティホテル等を展開する「グリーンズホテルズ事業」と、40ヵ国以上で7,000軒以上を展開する米国「チョイスホテルズインターナショナル」とのマスターフランチャイズ契約を通じ、「コンフォートホテル」「コンフォートイン」「コンフォートスイーツ」を展開する「チョイスホテルズ事業」を展開しています。ホテル業界は新型コロナウイルス感染症でダメージを受けましたが、その中でも弊社は成長させていただいています。

坂本:最初に、御社のESGや脱炭素に対するこれまでの取り組みと成果、ビジネスへの影響などについてお聞かせください。

伊藤:2022年8月12日に発表した中期経営計画「GREENS JOURNEY 2025」では、経営ビジョン「TRY!NEXT JOURNEY~新たな旅に踏み出そう~」、グリーンズグループ2030年CSR宣言「『環境にも人にも優しいホスピタリティあふれる企業』を目指します」を2本柱として掲げ、取り組んでいくことを打ち出しております。このCSR宣言は2018年に発表した前中期経営計画で策定したもので、ホテル業界が厳しい状況に陥ったコロナ禍でもその時々に出来ることを精査し取り組みを継続してきました。今回も成長戦略の両輪として採り入れ、ESG経営を推進することで、新しい価値の創出を目指したいと考えています。

坂本:その中でも、環境に対する具体的な取り組みについて教えてください。

伊藤:環境配慮の取り組みとして「エネルギーと資源利用の最適化」「環境や社会に配慮した調達」の2つを重点テーマとして掲げています。脱炭素に関しては、政府が掲げる目標と同水準のCO2削減目標を進める方針です。

その中で我々ができるのは何か。24時間365日オープンしているホテルだからこそ、再エネの活用やLED電球への交換は、効果の高い施策です。さらに今後については、社会全体が脱炭素化することを見越し、ホテル駐車場へEVスタンドを設置するなど、多方面からの電力消費量の削減策の実施を進めたいと考えています。また弊社では、2022年8月31日、三重県と、県内の各地域の活性化や県民サービスの向上に向け包括連携協定を締結しました。その中では観光振興や県産品の利用などに加えて、環境配慮・省資源化に取り組んでいくことも含まれています。

EVスタンド
(画像提供=株式会社グリーンズ)

坂本:再エネの活用はすでに行われているのでしょうか。

伊藤:2021年9月より中部電力ミライズが提供する三重県産のCO2フリー電気「三重美(うま)し国Greenでんき」を「コンフォートホテル鈴鹿」で導入しています。弊社では社長を委員長としたCSR推進委員会を社内に設け2030年に向けた取り組みを推進しています。重点領域ごとに4つの下部委員会、環境配慮委員会、コミュニティ支援委員会、人づくり委員会、特長あるサービス委員会を設置しており、中部電力ミライズが提供する「三重美し国Greenでんき」導入は、環境配慮委員会の取り組みの一環として進めたものです。導入により年間約113トンのCO2排出量削減が見込まれ、地域とともに脱炭素を目指す事業者として、三重県より令和3年度の「三重県産再エネ電力利用事業者」として認定されました。

▼「三重県産再エネ電力利用事業者」の認定式

認定式
(画像提供=株式会社グリーンズ)

「三重美し国Greenでんき」は三重県内に立地する櫛田川や宮川などの水系にある水力発電で発電された電気に対して、同発電所に由来する環境価値を活用することでCO2排出量をゼロにした電気で、環境配慮だけでなく三重県というコミュニティを支援する目的でも活用しています。2022年12月14日にオープンした「コンフォートホテル四日市」でも導入しました。

坂本:再エネ電力は今後も外部から調達されますか、それともオンサイト・オフサイトPPAのような自家発電・自家消費も検討していらっしゃいますか。

伊藤:例を挙げますと屋上に太陽光パネルを設置することなども検討しました。弊社では建物をお借りしてホテルを運営していますので、設置には建物(ホテル)オーナー様との協議が必要です。ご理解いただければ進められますし、難しいようなら調達になります。さまざまな面からの検討、取り組みが必要だと考えています。

坂本:「三重美し国Greenでんき」の活用について、宿泊客の皆様にもお伝えするような取組みはされていらっしゃいますか。

伊藤:館内のデジタルサイネージや客室テレビのインフォメーション画面、ウェブサイトで公表しています。

坂本:環境を含めて、ESGに積極的に取り組むことによるビジネスへの影響についてはいかがでしょうか。

伊藤:ワールドワイドな流れからすると、昨今はESGやSDGs、脱炭素といった社会課題に取り組む企業が選ばれる傾向があります。欧州の旅行者の間では、こうした意識が高まっている調査結果もあるほどです。その点に関して、脱炭素に向けた大掛かりな設備などを入れるためには、建物(ホテル)オーナー様の理解を得なければなりませんし、しっかり歩調を合わせて進めていく必要があります。

株式会社グリーンズが考える脱炭素経営の社会・未来像

坂本:近年はスマートシティ構想が現実味を帯びてきましたが、来たる脱炭素社会における御社の役割や、そうなるために注力していることについてお聞かせください。

伊藤:最新技術の活用によって、都市や地域のサービスは効率化されていくと見ています。ホテル業界も同様ですが、弊社としては非接触のセルフチェックイン・アウト機の導入を進め、スマートフォンであらかじめチェックインできるオンラインチェックインサービスを先行して導入するなどして、新しい顧客体験の創造を目指しています。また、利用時間が集中しやすい朝食会場の混雑状況が各客室のテレビやお客様のスマートフォンから確認できるシステムの導入なども進めているところです。

▼非接触のセルフチェックイン・アウト機を導入

セルフチェックイン・アウト機
(画像提供=株式会社グリーンズ)

脱炭素に関しては、EVの普及が急速に進み、消費者も買う・買わないの選択ではなく、いつ買うのかという意識になっていきますから、ホテルの駐車場にもEVスタンドを設置する必要があります。イオン様などすでに始めている企業もありますが、ホテル業界はまだこれからですので、取り組みを加速したいと思います。

坂本:脱炭素社会を目指す中、これら施策について情報を公開することも大切だと感じています。今後、各企業はどのようなプロモーションが必要だと考えていらっしゃいますか。

伊藤:弊社は最先端を走っているわけではありませんが、考えを述べさせていただきます。2020年4月に、使い捨てスプーンなどプラスチック製品の削減を事業者に求めるプラスチック資源循環促進法が施行され、ホテル業界では客室に備え付けのくしや歯ブラシなどアメニティへの対応が広がっています。ただし現状はホテルによって温度差があり、中小事業者の場合、対応の遅れもあるようです。今後業界全体として環境負荷軽減や法令遵守の取り組みを打ち出し、プロモーションを展開する必要があると思います。

坂本:従業員の皆さまに対するESGやSDGsに関する教育・研修は実施していらっしゃいますか。

伊藤:eラーニングにSDGsの学習コンテンツを用意しており、メディアで取り上げていただいた動画なども共有しています。また全社員が一丸となって環境活動に取り組むべく、社員の環境活動への意識を高め、具体的な活動を推進するための指針として、環境に関わる9つの行動をまとめた「地球に優しいエコ習慣9つのエコアクション!!」ポスターを製作し、全事業所で掲示しています。

株式会社グリーンズのエネルギー見える化への取り組み

坂本::脱炭素を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組んでいらっしゃいますか。

伊藤:年間何万トンとか〇〇の何個分といったわかりやすい単位でお示しし、建物(ホテル)オーナー様や取引先様、お客様にご理解を得られるようにしています。ただし、すべてシステマチックにできているかというと、そうでない部分もあるかもしれません。例えば水光熱やプラスチック、紙などを購入したインプットと排出したアウトプットは社内で管理していますのでお客様にわかりやすく伝えることで、環境への意識を一緒に高めたいと考えています。一方で環境への取り組みは一企業が単独で行うものではなく、さまざまな企業様と連携しつつお客様にもご理解いただいた上で進めることと考えています。数値の管理だけではなく弊社の考えや取り組みなどを伝えていくことが重要です。

坂本:多くの施設を運営する中で、Scope1、2はどのように集計されていらっしゃいますか。

伊藤:電気使用量の請求データに係数をかけて算出しています。

坂本:今後はサプライチェーンも含めたCO2排出量を把握する必要があるとされていますが、どのように集計をされていく方針でしょうか。

伊藤:タイムリーかつ正確に把握する必要があると認識しており、その仕組みを構築しなければなりません。一方で着実に排出量削減成果が出る取り組みも進めていく必要があります。まずは、広域で100店舗を運営する中、どうやって見える化を実現していくかが課題です。

坂本:電力データは広域機関から取りたいのですが、電力小売事業者しか取れません。弊社は彼らが持っているデータを自動的に取得する仕組みを持っていて、それらを回収し、昨年値を使ってオンタイムで数字を見ていただき、報告書に使う場合は確定値を入手次第、それをご活用いただきます。数値に関しては建物や全社など異なる単位で出せる仕組みで、自家消費の太陽光発電システムや再エネ価値のある電力メニュー、再エネ証書のデータも取り込めるようになっています。

現状、多くの企業は電力の請求データからCO2排出量を計算し、エクセルなどで管理していますが、拠点が多いと集計業務の負荷は大きくなります。弊社のサービスはそこを自動化するので、業務の省力化にも貢献します。

伊藤:システムに対するニーズの高まりは、どのように感じていますか。

坂本:Scope1、2までは自社で集計できても、Scope3となると難しいため、脱炭素に対して積極的な企業では自動化に向けた議論がすでに始まっているように伺っています。

伊藤:そうなのですね。ありがとうございます。

坂本:近年は多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せています。その観点で御社を応援することの魅力を最後にお聞かせください。

伊藤:規模の大小はありますが、コロナ禍においてもESGやSDGsを踏まえた取り組みは中断することなく進めてきました。2030年の目標に着実に近づくことを踏まえた活動であり、投資家の皆様にもご理解いただいていると認識しています。60年以上にわたりホテルオペレーターを続けてきた実績を強みとし、弊社でしかできないことを実現することも大切だと考えています。建物(ホテル)オーナー様やお取引様などとのパートナーシップを深めて、いろいろな形で連携し成果につなげていきたいと思います。

先ほど申し上げた三重県との包括連携協定では、環境や人づくり、防災の問題、さらに地産地消に関しては環境資源の活用などについて取り組んでいますが、三重県以外でも出店地域の自治体との連携に注力しています。このような点もESG投資の観点でご評価いただけると思います。我々のコーポレートブランドを展開するチョイスホテルズインターナショナルがグローバルで推進するRoom to be Greenという環境イニシアティブプログラムの基準を日本国内で積極的に取り入れていることも、ワールドワイドで見ればご評価いただける点です。これらについて、投資家の皆様に説明することにも努めたいと思います。

坂本:このプログラムの報告内容は、国際法基準に即した内容でしょうか。

伊藤:チョイスホテルズインターナショナルとしての独自基準です。レベル1から3まであり、最上位のレベル3には再エネの導入が記載されています。

坂本:細かい報告ではなく、基準に則った取り組みを行うという形でしょうか。

伊藤:マストではなく、チョイスホテルズインターナショナルでは3段階の基準を設けていて、推奨するといった内容です。弊社としてはそれに沿った形で取り組み、ESG投資につなげていくことを考えています。

坂本:今日のお話を通じて、御社やホテル業界の脱炭素に対する動向を知ることができました。ありがとうございます。