ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択する上で投資家のみならず、大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が、各企業に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は、株式会社ピエトロ代表取締役社長の高橋泰行氏にお話を伺った。

福岡市中央区天神に本社を構え、「ピエトロ」ブランドのドレッシング・パスタソースなどの食品やパスタレストランなどのレストラン事業を展開する、株式会社ピエトロ。「しあわせ、つながる」という未来に向けて社員全員で策定したビジョンのもと、持続可能な社会を目指した活動を展開している。本稿では環境・脱炭素のトピックを中心に、同社の取り組みや成果について対談を通じて紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社ピエトロ
(画像=株式会社ピエトロ)
高橋 泰行(たかはし やすゆき)
――株式会社ピエトロ代表取締役社長
大学卒業後、全日本空輸株式会社に就職。34歳でピエトロの創業者村田邦彦氏に出会い、株式会社ピエトロに入社。社長秘書からスタートし、海外事業をはじめ通信販売部門や食品部門で責任者を務め、役員に昇格。創業者の急逝に伴い、社長に就任。

株式会社ピエトロ
1980年、福岡市の繁華街・天神に一軒のパスタレストラン「洋麺屋ピエトロ」を創業。サラダにかけていたドレッシングが評判になり、お客様の要望でおすそわけしたことがきっかけで、創業翌年にドレッシングの販売を開始。その後、1985年に会社を設立。現在は、レストラン事業のほか、ドレッシング・パスタソース・スープ・冷凍商品などの製造・販売を行う。
“大きな厨房”と呼ぶ自社工場で、手作りの工程を多く残した丁寧な商品作りをしている。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. 株式会社ピエトロの再エネ・脱炭素に対する取り組み
  2. 株式会社ピエトロが考える脱炭素経営の社会・未来像
  3. 株式会社ピエトロのエネルギー見える化への取り組み

株式会社ピエトロの再エネ・脱炭素に対する取り組み

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):はじめまして、アクシス代表の坂本です。本日はピエトロ様のESGへの取り組みについてお聞きする機会をいただき、ありがとうございます。

ピエトロ 高橋氏(以下、社名、敬称略):ピエトロの高橋です。こちらこそ、この度はお声がけいただき、大変光栄です。弊社はSDGsやESGに取り組み始めたばかりで、できることから実践しているところです。本日は私もいろいろ教えていただき、今後の参考にさせていただければと思っています。

坂本:最初にESG・脱炭素に対するこれまでの取り組みと、その成果についてお聞かせください。

高橋:弊社では、以前から「三方よし」という言葉を好んで使っています。お客様に喜んでいただくのは当たり前ですが、働いている自分たちもしあわせでないとお客様をしあわせにできません。また、私たちは社会に支えられながら商売をしていますから、社会のしあわせも大切だと考えています。これらをバランスよく実現することが、SDGs・ESGにもつながると思っています。

社会にどう向き合って貢献するかについては、2022年5月に公表した「PIETRO VISION」で明らかにしています。

▼2022年5月に公表した「PIETRO VISION」

PIETRO VISION MAP
(画像提供=株式会社ピエトロ)

ここでは「お客様」「働く私たち」「社会」の3つのしあわせが連鎖する未来を描いていて、「社会」のしあわせでは、まず『地球の健康に貢献』の項目を掲げました。地球の健康があってはじめて私たちも健康でいられますし、美しい森と水と土を守るために食品ロスの削減や環境に配慮した地球に優しい資材の使用など、ピエトロらしいSDGsに取り組む必要があります。次に、私どもは福岡発祥ですから『福岡から全国へ、そして世界へしあわせを』、また、子どもの笑顔がない世の中ではいけませんから、3つ目に『こどもたちのイマとミライにhappyを』という項目も加えました。

坂本:地球の健康に貢献するために、具体的にどのような取り組みを行っていらっしゃいますか。

高橋:今回は比較的新しい取り組みを紹介します。弊社は、定番の280mlのドレッシングであれば、年間1,500~1,800万本ほどのドレッシングボトルを使っていますが、油を使うものは原則的にリサイクルができず、環境や焼却場の負担になっています。とても心苦しく思う中、環境にやさしいボトルということで、2022年4月出荷分からドレッシングの容器を、バイオマスプラスチック配合の素材に切り替え、これによってボトル1本あたり、約12%のCO2排出量削減を実現しました。

▼バイオマスプラスチック配合素材を使ったドレッシング容器

バイオマスプラスチック配合 ピエトロドレッシングボトル
(画像提供=株式会社ピエトロ)

製品全体では2022年の環境配慮型製品への切替目標59%を達成し、2025年までに100%環境配慮型製品への切り替えを目標に掲げています。レトルト商品の外装も同様で、森林の多様性を守り、地域社会や先住民族、労働者の権利を守りながら適切に生産されたことを認めるFSC認証紙を使用しています。どれだけ地球全体のCO2排出量削減に貢献できるかわかりませんが、弊社の姿勢を示すことは大切であり、社員にとっても「世の中のためになることをしている」という誇りになると思います。

直営レストランでは、お客様にサラダをさらにおいしく食べていただきたいとの思いから、プラスチック箸から野菜をつかみやすい竹箸に替えました。脱プラであることはもちろん、サステナブルな素材として熊本県産の竹を使っています。食洗器でも洗える竹箸を製造販売する熊本の企業があり、2018年からのテスト導入を経て現在は全店で採用しました。この取り組みは新聞で紹介されたことで他社様でも導入が進んでいるようで、情報を発信することで仲間が増えるといった効果も期待しています。

▼熊本産の竹を使った竹箸

竹箸
(画像提供=株式会社ピエトロ)

同じような発想で2018年に始めたのが、「LIMEX(ライメックス)」という国内で採れる石灰石と水で作られる新素材の使用です。石灰石は日本国内にたくさんあり、環境にやさしいということで、社員の名刺に使っています。さらに、2022年から一部のレストランやショップなどで使用するレジ袋を、国産の非食用米を原料とする環境配慮型新素材「ライスレジン」配合のレジ袋に切り替えています。日本では食用にならず廃棄される米があり、メーカーに連絡し、社長様の熱い思いをお聞きした上で導入を決めました。他にも国産原材料で作ったものはないかと探しているところです。

▼ライスレジンを使用したレジ袋

株式会社ピエトロ
(画像提供=株式会社ピエトロ)

坂本:エコな素材を使うことでCO2排出量削減に貢献しているのは、とても有意義な取り組みだと思います。一方で、再エネの活用についてはいかがでしょうか。

高橋:2021年7月に福岡のピエトロビル(本社)屋上にソーラーパネルを設置し、一部電力を賄っています。また、福岡市内のレストランの郊外店舗2店に100%再エネ由来の電力を導入しました。2025年竣工予定の新工場も同様で、太陽光発電や再エネなどで稼働させる予定です。最終的には本社ビル、その他の郊外店舗を含め、100%再エネ利用を目指します。

▼ピエトロビル屋上に設置したソーラーパネル

ピエトロビル屋上ソーラーパネル
(画像提供=株式会社ピエトロ)

坂本:再エネの調達に関しては、今後の価格上昇が気になるところだと思います。

高橋:弊社の事業規模を考えると自家発電だけでなく、その道のプロである再エネ事業者とお付き合いしたほうが、効率は良いと思います。苦戦している企業もあるようですが、皆さんは地球の未来を真剣に考えて取り組んでいますから、コスト高などによって短期的に非効率であっても、導入することで応援にもなるでしょう。これは、使う側の責任の一つだと考えています。幅広く情報を収集しながら、良いパートナー様と協業したいですね。

坂本:最近はオンサイトだけではなくオフサイト・バーチャルPPAなど、自家発電・消費の選択肢が広がりつつあります。このあたりは検討していらっしゃいますか。

高橋:バランスの問題で、自社施設にソーラーパネルは設置しますし、可能性があるなら導入を視野に入れるかもしれません。ただし、弊社の規模で一事業として取り組むには厳しいというのが現時点での見解です。導入済みの2店舗では異なる事業者から再エネ電力を調達していますが、それぞれから情報をいただきながら進めたいと思います。

株式会社ピエトロが考える脱炭素経営の社会・未来像

坂本:DXやIoT化が進展し、近年はスマートシティのような構想が現実味を帯びています。そのような未来において、御社は脱炭素社会をどのようにイメージしていらっしゃいますか。

高橋:デジタル化によって利便性・効率性の向上や無人化など、さまざまな面で恩恵があると思います。しかし、人間は電気で動くわけではなく、おいしいものを食べてしあわせを感じるのは、これからも変わらないでしょう。デジタル時代だからこそ、親しい人との楽しい幸せな時間がますます大事になると思い、五感に触れる部分で貢献するのが我々の役目だと考えています。商品の製造工程については、効率化を進めている部分もありますが、五感でお楽しみいただける商品づくり案や、店づくりを大切にしています。脱炭素社会では、そういった企業になることを目指します。

坂本:御社は、サステナビリティの取り組みを積極的に公開していらっしゃいます。各企業でも情報公開を考えておられますが、ESGや脱炭素社会の実現に向けた情報公開やプロモーションをする際に心がけておられる点はありますでしょうか。

高橋:弊社ができているかわかりませんが、コストとのバランスや成果の見えにくさなど、難しい面があることは確かです。しかし、企業間でも情報を共有し、お互い参考にしあうこと、社員の誇りや自信につなげること、そして、家庭などで子どもたちに伝えることは大切だと思います。事業規模に応じた取り組みを進めて育て、仲間を増やしていくことも大切です。社内に関しても、SDGs推進室とSDGsプロジェクトが中心となって情報を発信したり、勉強会を開催したりしています。

坂本:仲間を増やすというのは、興味深い提言ですね。話は少し変わりますが、弊社は鳥取県に本社があり、地域貢献を掲げていますホームページを拝見し、御社も福岡県に対して強い思い入れがあると感じましたが、地域の方と一緒に行っている取り組みなどご紹介いただけますか。

高橋:ご存じのとおり弊社はドレッシングを扱っているので、「子どもの野菜嫌いがなくなった」など、嬉しい声を頂いています。しかしながら、世の中には野菜が苦手で悩んでいるお子さんや保護者の方はまだまだいますから、地元の幼稚園などをはじめ、野菜に触れる体験型イベントを開催し、「“魔法のドレッシング”で野菜が食べられた」と大変喜ばれています。私たちにも嬉しいことですし、こうしたことも社会的使命だと考えています。

坂本:弊社ではフードロスと子ども食堂の支援を目的に、地元の生産者や農家の方から、規格外・余剰野菜を買い取り「Axisのやさい」という活動に取り組んでいます。子ども食堂に野菜を寄付しているのですが、ドレッシングが付いていたら、さらに食べやすいですよね。今後のヒントになりました。ありがとうございます。

株式会社ピエトロのエネルギー見える化への取り組み

坂本:脱炭素を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組まれていますか。

高橋:先ほどお話しした新工場では、自家発電と再エネ調達のバランスを考えなければなりませんし、弊社は東証一部からプライム市場に入れていただいていることから、2026年までにTCFDに沿った情報を開示するとしています。数字を捉えた上の開示が必要なので、社内で専門のチームを設置し、取り組みを進めているところです。

坂本:現在はどのように集計していらっしゃいますか。

高橋:請求書データをもとにエクセルで管理していますが、今後これで良いのかとは考えています。

坂本:自社だけならまだしも、サプライチェーンも含めた情報開示が求められる中、正確に把握して開示するのは、各社の皆様にとって至難の業だと思います。

高橋:弊社はいろいろなおいしい食材を購入・加工してお客様に提供していますが、中には仕入れ先の規模が大きくないところもあるため、計測は難しいでしょうし、コスト負担も大変でしょう。それを義務づけることについては、正直思うところがあります。

坂本:まさにそのとおりで、小規模事業者をどうするかは、社会全体でもっと考える必要があると思っています。

高橋:実際のところ、中小企業は環境や脱炭素にどのように取り組んでいるのでしょうか。坂本社長は何かご存じですか。

坂本:経営者の姿勢によって脱炭素の取り組みを大きく左右していますね、その意味では両極端だと感じています。一方で、最近ではZ世代の環境意識の高まりを強く感じている企業ほど、脱炭素の取り組みを積極的にアピールしておられるようですね。

高橋:子育て世代の社員は、家庭で子どもから「お父さんの会社は環境に対してどういうことをしているの?」と聞かれるそうです。そのためではありませんが、弊社はさまざまな取り組みをしていてよかったと思いますし、若い人の環境への意識も高くなっていると感じます。

坂本:最後の質問です。現在は多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せています。このことから御社を応援することの魅力をどのように考えておられるか、お聞かせください。

高橋:CO2排出の削減量だけでいえば、弊社の規模はそれほど大きくありません。ただし、数字以外に国内産や持続可能な原材料を使うなど、ユニークな取り組みを評価していただけたらありがたいと思います。

坂本:おっしゃるとおりです。今日のお話を通じて、脱炭素社会の実現に向けた新たな視点を持つことができました。ありがとうございました。