後継者の育成には、座学では得られない難しい部分がある

後継者の育成には時間がかかり、実務面以外の課題もあるため、座学では得られない難しい部分がある。

経営を実践することの難しさ

特に創業者のなかには、自己流で経営してきた人が多い傾向だ。しかし実績のある企業の経験豊富な創業者は、長年培ってきたノウハウと幅広い人脈を持っていて社内・社外に協力者がいるため、経営が安定していることも多い。

一方、創業者の後継者となる者は、会社を承継することが決まってから経営の勉強を始めるケースも少なくない。そのため創業者と比べると経営経験の差は大きくなり、判断力・人脈ともに創業者にはかなわないだろう。経験が浅く人脈を持っていない者には、経営を実践する難しさがある。

実際に経験させることでしか、経営を学ぶことはできない

多くの経営者がしてきたように、経営は失敗により学ぶことができる。まだ早いと思っても実際に経営を経験させて、失敗することが経営を学ぶ早道となるのだ。いつまでたっても「未熟だ」といって経営を任せないでいると、後継者は育たない。

経営者が会長として残るのであれば「経営を任せる」「失敗したときにフォローする」といったことができるが、難しいケースもある。経営は失敗と成功を積み重ねることで覚えていく。経営能力を養うためのPDCAサイクルを構築し、実践と改善を繰り返させ、後継者の経営能力の上昇につなげよう。

事業の継続に後継者の育成は不可欠

事業承継を円滑に進めるためには、後継者の育成が不可欠だ。後継者の育成がうまくいかなければ、世代交代で売上が減少したり従業員の心が離れ離職者が発生したりすることもある。時には、世代交代によって事業継続の危機に陥る可能性があることも忘れてはいけない。

後継者の育成では、事務・実務面の引き継ぎだけではなく、経営理念や経営方針のほかにも取引先や社内の人間関係など「人とのつながり」も引き継ぐ必要がある。経営センスや企業経営の判断能力は、失敗と成功の積み重ねでしか養うことができない。

事業承継では、早い段階から後継者候補を選び、後継者育成に手がけることが重要だ。しかし後継者がいないケースや後継者として期待していた子どもが親の経営する会社を継ぐことを希望しないケースもある。

そのようなケースでは、一部譲渡や事業縮小・拡大時にも活用できるM&Aを検討するのも一つの方法だろう。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
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