この記事は2023年1月12日(木)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『月間9兆円程度の国債買入れで日銀は長期金利を誘導目標のレンジ内に維持できるだろう』を一部編集し、転載したものです。
シンカー
日本の長期金利(10年国債利回り)はネットの国内資金需要(対GDP比%)、日銀の政策金利(コールレート)、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)、米国10年国債利回り、YCCダミー、連続指値オペダミーで推計できる。
将来の景気減速懸念が一段と強まり、グローバルな金利低下圧力が強まる可能性が高い。一方で、国内ではポスト・コロナに向けた転換が進み、民間投資が更に拡大し、アベノミクスの堅持による財政拡大方針も維持されることで、ネットの資金需要は一段と拡大するとみている。
グローバルな金利低下圧力とネットの資金需要の拡大による金利上昇圧力が相殺し、月間9兆円程度の買入れを維持することで、日銀は国債10年金利を0.5%以下に誘導することは十分に可能だろう。
日銀が現行の金融政策の点検・検証を行うとしても、副作用により配慮しながら金融緩和効果を持続的にするための手段が議論の中心となり、金融引き締め(利上げ)につながるものにはならない可能性が高い。
2023年1月の展望レポートで2024年度のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)の見通しを+1.6%から2%程度まで引き上げる可能性があるが、政府のエネルギー価格上昇の負担軽減策を織り込めば(2023年度は下押し、2024年度は押し上効果)、見通しは事実上+1.5%程度となり、2%の「物価安定の目標」の達成が見通せたとは言えない。
フェア・バリューを把握することが重要
2022年12月の日銀金融政策決定会合で日銀は国債10年債利回りの誘導目標(0%)の変動幅の容認レンジを従来の±0.25%から0.5%へ拡大した。政策変更など債券市場全体に大きな影響を与える動きがある局面ではマクロ・ファンダメンタルズを基に算出したフェア・バリューを把握することが重要だろう。
日本の長期金利(10年国債利回り)はネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支、対GDP比%)、日銀の政策金利(コールレート)、日銀の長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比%)、米国10年国債利回り、YCCダミー、連続指値オペダミーで推計できる。
これらの変数を使うことで、1990年からの日本の長期金利のマクロ・フェア・バリュー(四半期ベース)が算出でき、10年国債利回りの99%の動きが説明できる。
- 国債10年金利(%)=0.31+0.68 コールレート+0.27 米長期金利-0.05 ネットの資金需要-0.03 日銀長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比)-0.38 YCCダミー -0.11連続指値オペダミー(2022年4~6月期から2022年10~12月期まで1、これからは0)+0.52 アップダミー-0.46 ダウンダミー;R2=0.99
現状のコールレート、米金利水準、ネットの資金需要を前提に、連続指値オペダミーが解除され、日銀が2022年12月の決定会合で発表した年間108兆円程度の国債買入れを実施した場合、国債10年金利のマクロ・フェア・バリューは0.50%程度と新しい容認レンジの上限に近い水準になる。
日銀の景気の先行き判断
日銀の景気の先行き判断は、「資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる」と海外経済減速への警戒感が強い。
欧米中央銀行はインフレを抑制するための金融政策の引き締めを進める方針を維持している。将来の景気減速懸念が一段と強まり、グローバルな金利低下圧力が強まる可能性が高い。
一方で、国内ではポスト・コロナに向けた転換が進み、民間投資が更に拡大し、アベノミクスの堅持による財政拡大方針も維持されることで、ネットの資金需要は一段と拡大(マイナスが強い)するとみている。
国債10年金利のマクロ・フェア・バリュー
日銀が月間9兆円程度の国債買入を維持するとの仮定の下、ネットの資金需要と米金利の水準次第で国債10年金利のマクロ・フェア・バリューがどう変わるかをマトリックスで示すことができる。
グローバルな金利低下圧力が強まり米金利が3%程度まで低下した場合、ネットの資金需要が-5%まで拡大しても、国債10年金利のマクロ・フェア・バリューは0.39%と日銀の誘導目標の上限を下回る結果となる。
仮に米金利が足元の3.5%程度で推移し、ネットの国内資金需要が-4.5%まで拡大しても、現行の月9兆円程度の国債買入れでYCCの新しい容認レンジ内に10年債金利を誘導できる。
国債10年金利を0.5%以下に誘導することは十分に可能
グローバルな金利低下圧力とネットの資金需要の拡大による金利上昇圧力が相殺し、月間9兆円程度の買入れを維持することで、日銀は国債10年金利を0.5%以下に誘導することは十分に可能だろう。
日銀が現行の金融政策の点検・検証を行うとしても、副作用により配慮しながら金融緩和効果を持続的にするための手段が議論の中心となり、金融引き締め(利上げ)につながるものにはならない可能性が高い。
容認レンジ拡大後の日銀の国債買入額は拡大しており、マクロの観点からみると量的緩和政策の効果の拡大している。足元の金利上昇は投機的な動きによるものの可能性が高く、日銀が長期金利を誘導目標内に抑制し続けることは可能だろう。
2023年1月の展望レポート
日銀は、2023年1月の展望レポートで2024年度のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)の見通しを+1.6%から2%程度まで引き上げる可能性がある。
しかし、2023年1月からの政府のエネルギー価格上昇の負担軽減策が年後半に終了することを織り込めば(2023年度は下押し、2024年度は押し上効果)、2024年度のコア消費者物価指数はゲタの効果で0.5%程度も上振れることになる。
2024年度の見通しは事実上+1.5%程度となり、2%の「物価安定の目標」の達成が見通せたとは言えない。点検が実施された場合、コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品及びエネルギー)を物価動向の判断基準とすることを明確化する可能性がある。
2024年度のコアコア消費者物価指数の見通しは+1.6%から引き上げられても、2%には届かないだろう。
図:10年国債利回りとマクロ・フェアーバリュー
図:月間9兆円程度(年108兆円程度)で買入れた場合の長期金利のフェア・バリュー・マトリクス
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