近年は、年間100社前後の企業がIPO(新規公開株式)により証券市場へ上場している。2021年度におけるIPO企業の社長の平均年齢は50.3歳と2011年度の52.3歳と比較して若年化しているのが特徴だ。本企画では、市場に新しい風を巻き起こすことが期待されるIPO企業の代表者に企業概要や上場のねらい、今後の展望についてインタビュー形式で実施。
株式会社サインドは、管理システムの導入が遅れる理美容業界に対し、簡単に効率よく新規顧客獲得やリピート顧客管理ができるサービスを展開している。いまだに多くの店舗が悩む複数サイトからの予約管理を簡易的にするだけでなく各店舗が「顧客体験価値を高めること」に焦点を当てサービスの幅を広める注目企業だ。今回は、代表取締役の奥脇氏に起業のきっかけや今後の展望についてうかがった。
(取材・執筆・構成=丸山夏名美)
株式会社サインド
2011年10月、東京都品川区五反田で理美容業界へクラウド型予約管理システムを提供する会社として法人設立。顧客体験価値向上・生産性向上に向けサロンブランディングまでを一貫してサポートし、理美容業界のリーディングカンパニーへと導いている企業だ。2012年5月に理美容室向けの公式アプリが制作可能な「BeautyMerit(ビューティーメリット)」をリリース。
Web予約機能や一元管理機能、EC機能など改良を重ね利用店舗数を増やし、2022年5月には課金店舗数が6,000件を突破。2021年12月には、東証マザーズ(現:グロース市場)へと上場。「インターネットを通じて、心のつながりを提供する」をミッションにあらゆる価値の「最大化」へとまい進している。約8割強がサブスク方式の売上。
目次
株式会社サインドの事業ドメイン
─ 現在の事業内容や事業ドメインについてお聞かせください。
株式会社サインド代表取締役社長・奥脇隆司氏(以下、社名・氏名略):現在のメイン事業は「BeautyMerit(ビューティーメリット)」という理美容店舗向けの“予約管理システム”の開発・提供です。現在、美容室や理容室をはじめ、ネイルサロン、エステ、マッサージなどリラクゼーション系事業店舗を含め全国6000店舗以上で利用されています。
▽理美容サービスに特化したバーティカルSaaS
「BeautyMerit」を利用する目的は、大きく分けて「新規顧客」「リピート顧客確保」の2つ。
新規顧客獲得の主な機能
複数の集客サイトの予約管理を一元管理するものです。多くの美容やリラクゼーション業界の店舗は、ホットペッパービューティーや楽天ビューティ、minimo、OZmallなど複数の集客サイトで新規顧客を獲得しています。しかし24時間オンライン予約が可能な複数サイトを手作業で管理することは、簡単ではありません。
実際に創業当初、これらの個別の集客サイトを見ると前日予約は、すべて「予約可」の店舗と、すべて「予約不可」の店舗ばかりでした。でも「予約不可」の店舗に電話をすると予約することができてしまうのです。予約の入力の整備が追いつかず“いったん”「予約可」「予約不可」とするしかありませんでした。
その課題を解消するために複数サイトの空き枠を自動でコントロールするシステムを提供し、各店舗が機会損失することなく集客できる環境を支えています。
リピート顧客確保の主な機能
リピート顧客確保の課題も各店舗の大きな課題です。一顧客あたりの平均単価は、新規顧客よりリピート顧客のほうが高いうえ、リピート顧客が多いほど経営や利益が安定します。機能として、お店専用のアプリやLINEミニアプリ、Instagram、Googleマイビジネスと連携し、お店独自のポイント付与、クーポン情報、シャンプーやリンスなどオンラインショッピングがスムーズにできる仕組みを提供しています。
主軸事業を選択・展開した目的ときっかけ
─ 本業界で「BeautyMerit」の事業を展開されたきっかけや目的をお聞かせください。
起業前に働いていた比較.com株式会社(現:手間いらず株式会社)では「楽天トラベル」や「じゃらん」などのホテルや旅行業界の複数の集客サイトの一元管理システムを提供していました。仕事をするなかで、インターネット予約市場が伸びているという感覚があったこと、またそのなかでも飲食業と理美容業界は市場が大きい割にシステム化が進んでおらず狙うべきタイミングだと感じたため起業しようと考えました。
飲食業界もニーズはあったのですが、よりネット予約ニーズが未発達であった理美容業界の課題解決をすると決めました。
株式会社サインドの競合他社にはない強みとは
─ 競合他社にはない御社ならではの強みはどこにあるのでしょうか。
強みの一つは、顧客に寄り添ったシステムを提供した結果得られた顧客基盤です。理美容業界は、理容師、美容師の国家試験に合格するための専門学校等に通う人が多いことから同級生や同期生がつながったり、店舗同士が情報交換をしたりと横のつながりが強い業界であるため、ご縁が非常に重要です。ですが、私たちは一人として理美容業界出身者がいなかった。そのため、最初の2−3年はなかなか顧客獲得が進まず苦しみました。
資金繰りがうまくいかず、創業メンバーの私を含め2名でサービス開発をしながらバイトをするという生活が続きました。それでもあきらめずにサービス開発と顧客開拓を進めていたところ、理美容業界で有名な店舗に本システムを導入してもらうことができたのです。それがきっかけとなり、本サービスがクチコミで一気に広まりました。
そのお客様をはじめ、業界の皆さまに学ばせてもらっているという意識を失わず、価値提供を追求していきたいと思います。またもう一つの強みはメンバーです。創業期に参画し、一緒に泥水をすすっていたメンバーが辞めずに活躍しています。その人たちが今、組織の軸となり他のメンバーを動かす骨組みとなり、会社を支えてくれているのが現状です。
多くの企業の永遠の課題は、人材といえるため、その課題がクリアになっていることも強みだと思います。
激動の時代に上場した企業として感じた変化
─ 御社が上場した2021年12月は、IPOが32社という激動の時代でした。創業から上場に至るまでさまざまな変化があったかと思いますが、企業としてどのような変化があったかお聞かせください。
大きな変化を感じることの一つは、社内メンバーの意識です。上場したことで計画値や達成率について情報開示されていることから常に外部から評価される認識が浸透しました。今までも「社会的にどのような価値を提供するか」という考えはありましたが、より強く「どのKPIに対してどの事業やチーム・メンバーが寄与しているのか」について明確にしなくてはなりません。
逆の見方をすると投資家の人からどのような業界で、どのような成果を出していくのか常に評価されるようになったということです。理美容サービスの経済規模は約3.7兆円のマーケットがあり、約55万店舗あるとすると1店舗あたりの売上はそこまで高くありません。
それらをターゲットとして「どこまで売上を上げられるのか」という意見を投資家の皆さまからもいただくことがあります。コロナの影響で旅行や飲食業は打撃を受けたなか、理美容業界はむしろ最終消費者のニーズをうまく受け取り緩やかな右肩上がりとなりました。店舗のお客さまに必要とされるシチュエーションが増えたのだと感じています。
提供している価値のポテンシャルがあることを実績とともにお伝えしていきたいです。
業界が抱える課題と、株式会社サインドとしてのアプローチ
─ 業界が直面している課題と今後の動向について考えをお聞かせください。
近年に限ったことではありませんが、美容業界各社の大きな課題は「集客」と「人材」です。
集客について
単に集めるだけでなく「顧客体験価値を高めること」が大切と感じています。弊社は、美容関連業界で売り手と買い手をつなぐ予約の一元管理サービスを提供していますが、管理システムを提供したいわけではありません。お客さまにとって顧客体験の価値が高いと感じられれば新規顧客も増えますし自然とリピートしてくれます。
逆に体験価値を提供できなければ、どんなお店も生き延びることは難しくなるでしょう。顧客体験価値は、来店時に限りません。エンドユーザーが月1回しか来店しないならアプリなどメッセージ経由でお得な情報を送ったり、おすすめメニューを紹介したりすることも期待できます。アプリやネットと組み合わせて提供するべきです。
人材について
課題はさまざまですが、よく聞かれるのは、スタッフが事務的な作業の増加や納得感のない評価に不満を感じることです。「BeautyMerit」は、事務的な作業の削減という課題解決の一助となります。弊社のEC機能は、オンラインショッピングで購入された商品をディーラーから直接発送する仕組みや商品が売れたときにそのお客さまの担当スタッフに自動的にインセンティブがつけられるシステムを提供しています。
事務作業の負荷がなく売上を伸ばしたり、正当な評価を受けたりすることができるため、彼らのモチベーションを保つ手助けとなると思います。
▽EC機能における理美容ディーラーとの取り組み
市場に対するアプローチと展開
─ 今後、さらに成長していくための具体的な目標や事業展開についてお聞かせください。
理美容サービスにおけるインターネット予約市場は、近年約20%で成長しています。お客さまから求められる価値を提供するだけでなく、お客さまが感じている課題を解決するサービスを提供していけば、売上は確実に伸ばせるはずです。またお客さまとなる美容業界の各店舗は、単にスポットでの美容やモノを売っているわけではなく「体験価値」を提供しています。
お客さまがその提供価値を最大化できるように店舗とECを組み合わせたご提案を伸ばしていきたいです。
▽理美容サービスネット予約市場の状況
株式会社サインドへ期待されることとメッセージ
─ 激変の時代に新たに上場された企業は投資家・富裕層から注目されています。弊媒体読者へ、メッセージをお願いいたします。
美容業界は、まだまだ課題が多い業界ですが逆にいえば“伸びしろ”が大きい業界です。弊社サービスを含むシステムの導入も遅れておりキャッシュレス化や事前決済システムも進んでいません。業務の効率化については、まだまだ提供できる価値があると思います。また効率化が進めば働く環境も変わり「理美容業界に就職したい人が増える」「辞めにくくなる」という人的な課題改善にもつながるでしょう。
▽ターゲットシェアの拡大
伸びているインターネット予約市場を軸に、これら効率化の市場で事業を確立・拡大していけば売上が大きく伸びると考えています。ぜひ数値面でも事業面でも弊社の今後の展開にご期待いただければ幸いです。