この記事は2023年1月13日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「沈静化に向かう米国の耐久財インフレ」を一部編集し、転載したものです。


沈静化に向かう米国の耐久財インフレ
(画像=GoodIdeas/stock.adobe.com)

(米国労働省「消費者物価指数」)

米国では、耐久財の価格上昇がインフレを主導してきた。米国労働省の「消費者物価指数」によると、耐久財価格は2021年に急騰し、22年2月には前年比の伸び率が19%に達した(図表1)。これだけの高い伸びは、第2次世界大戦中の1942年3月以来80年ぶりである。耐久財の値上がりは、自動車、通信機器、家電製品、家具など幅広い分野に及んだ。

耐久財の価格上昇の背景には、供給が追いつかないほどの需要の急増がある。米国の耐久財消費は2021年にコロナ前から3割増と、これまでのトレンドを大きく上回って増加した(図表2)。米国の需要急増は世界の幅広い分野の増産を誘発し、それが一部で供給制約を引き起こした。半導体などの部品が不足した結果、自動車や家電などの生産に支障を来したほか、木材などの原材料不足も家具関連の需給を逼迫させた。さらに、取扱貨物の増加が、輸送関係者の労働力不足とも相まって、物流網を混乱させた。

この耐久財需要の急増を引き起こしたのは、生活様式の変化と政府による経済対策だ。生活様式の面では、コロナ流行後に、在宅勤務やオンラインショッピングが急速に普及したことで、パソコンやスマートフォンといった通信機器の需要が拡大した。また、在宅勤務の普及は、人口密度が高い都市部から郊外への移住を促し、耐久財全般の買い替えを促した。そして経済対策においては、家計への現金給付策が繰り返し実施された結果、支給額は国民1人当たり最大3,200ドルに上り、可処分所得はコロナ前から平均1割ほど増加した。

ただし、最近では耐久財価格の騰勢が弱まっている。経済活動の正常化が進むとともに生活様式の変化は一巡し、通信機器などへの需要は鈍化している。また、金融引き締めの影響で住宅投資が急減しており、これに関連する耐久財需要も下押しされている。

需要の減速により部品の供給制約や物流網の混乱は緩和しており、供給面からも価格上昇圧力は弱まっている。こうして耐久財インフレは沈静化に向かう一方、最近では賃上げの影響を受けて、サービスが米国のインフレを主導しつつある。

沈静化に向かう米国の耐久財インフレ
(画像=きんざいOnline)
沈静化に向かう米国の耐久財インフレ
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日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 所長/西岡 慎一
週刊金融財政事情 2023年1月17日号