言わずと知れた大手百貨店グループの株式会社高島屋。大型店が中心で、1000億円超えの店舗数は業界内で最多。百貨店の運営とともに、ショッピングセンターの開発・運営を行う商業開発業や金融業なども幅広く展開している。抜群の集客力を誇る百貨店やショッピングセンターが取り組むESG経営とはどういったものなのか。同社でESG推進室長を務める桂由里子氏から、その方針や具体的な活動などについて聞いた。

(取材・執筆・構成=大西洋平)

株式会社高島屋
(画像:株式会社高島屋)
桂由里子(かつら ゆりこ)
−−株式会社高島屋ESG推進室室長
2000年に入社し、横浜店紳士雑貨売場に配属。2007年から人事部で新卒採用および若手従業員の能力開発を担当。2011年に日本橋店に異動し、営業企画担当や売場マネジャーを経験。 2016年にレストランを運営する子会社の株式会社アール・ティー・コーポレーションへ出向。 商品開発の責任者を務めた後、2020年に同社取締役管理本部長に就任。2022年3月より現職に就任し、持続可能な社会の実現と企業価値の向上に向けたESG戦略の立案および推進を担う。

株式会社高島屋
初代・飯田新七が京都で創業した古着木綿商を発祥とし、百貨店では国内14店舗、海外4店舗、グループ会社・東神開発の単独商業施設5店舗(全23の商業施設)を展開。中核となっているのは、営業収益の8割以上のシェアを占めている百貨店業。商業開発業はグループ内のデベロッパー機能を担い、国内外でショッピングセンターを中心とする施設を開発 ・運営。クレジットカードの発行・運営などを行う金融業や、商業施設・文化施設の企画・設計・施工を手掛ける建装業など、幅広い事業を手掛けている。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. 創業以来の「店是」、現在の経営理念、SDGsに通ずる思いとは?
  2. 環境の領域では、「循環型ビジネスの構築」を進める
  3. 社会の領域では、率先してダイバーシティを推進
  4. 街の賑わいを創出し、 行政などとも連携して地域と共生
  5. ESGやSDGsへの取り組みに、けっして近道は存在しない

創業以来の「店是」、現在の経営理念、SDGsに通ずる思いとは?

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略) 御社は2021年に創業190周年という大きな節目を迎えたとお聞きしました。現在、推進されているESG経営にも、創業以来のポリシーが受け継がれていると伺っていますが、詳しくお聞かせください。

高島屋 桂氏(以下、社名、敬称略) 高島屋グループには、創業から今日に至るまで受け継がれてきた「店是」があります。それは普遍的な行動指針で、次のようなものです。

  • 確実なる品を廉価にて販売し、自他の利益を図るべし。
  • 正札掛値なし。
  • 商品の良否は、明らかにこれを顧客に告げ、一点の虚偽あるべからず。
  • 顧客の待遇を平等にし、 いやしくも貧富貴賤に依りて差等を附すべからず

この「店是」は、現在の高島屋グループが掲げている「いつも、人から。」という経営理念にもつながっています。それは、私たちが取り組んでいるESG経営の根幹ともなっており、SDGs が 目指す「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という社会の実現にも結びつくものだと考えています。そして、当社グループのESG経営におきましては、「すべての人々が21世紀の豊かさを実感できる社会の実現」を目標として掲げています。

▽グループESG経営概念図

株式会社高島屋
(画像:株式会社髙島屋)

お客様やお取引先様をはじめ、百貨店は非常に多くのステイクホルダーの方々と関わりがあるビジネスです。様々なステイクホルダーの方々との間で築かれたネットワークの中で、循環型社会の実現に向けた取り組みや、多様な価値観を尊重し合いながらすべての人々が活躍できる社会の実現に対し、当社がどのように向き合っていくのかというポイントが非常に重要だと考えています。それはすなわち、百貨店だからこそ提供できる価値であり、そういったことについてステイクホルダーの方々にきちんとお伝えし、共感していただくことが我々の目標であると捉えています。

環境の領域では、「循環型ビジネスの構築」を進める

坂本 具体的には、ESGに関してどのようなことに取り組まれているのか、環境の領域から教えてください。

桂氏 百貨店ならではの環境に対する取り組みとして、まず挙げられるのが循環型ビジネスの構築だと思います。承知の通り、百貨店のビジネスモデルは、取り扱っている商品の中で大きな割合を衣料品が占めていることも含めて、地球環境に負荷がかかる業態だと言われています。そういったことを前提とする中で、少しずつではありますが、グループ全体で資源を再生・活用していく仕組みを構築したり、その活動のことを世の中に発信したりする取り組みを進めています。

その一例として、当社は、サステナブルな循環型社会の実現を目指した「Depart de Loop(デパート デ ループ)」というプロジェクトを進めており、その傘の下、リサイクルシステムを持つ企業とパートナーシップを組み、循環型のものづくりを続けています。
例えば、当社はケミカルリサイクルの分野で独自の技術を有するJEPLANと2020年に資本提携を結び、「お客様から不要な衣料品を回収→分解して再生ポリエステル樹脂として原料化→再生ポリエステルの糸や生地から商品を生産し、販売」というプロジェクトに共同で取り組んでいます。さらに、カシミヤやデニムなど、他の素材に広げるとともに、化粧品や雑貨など、今後は衣料品以外のアイテムにも循環型ビジネスの対象を拡大していきたいと考えています。また、より多くのお客様が、取り組みの主旨に賛同し、参画いただける場を増やしていくことを目指しています。

▽衣料品における循環型ビジネス

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(画像:株式会社高島屋)

社会の領域では、率先してダイバーシティを推進

坂本 続いて、社会の領域における取り組みについてお聞かせください。

 当社グループのコア(中核)である百貨店事業におきましては、ご来店いただくお客様と従業員の大半が女性です。こうした背景もあって、我々は比較的早い段階から女性活躍の推進を経営戦略に掲げ、両立支援制度を設けるなどの施策を実施してきました。
さらに、お取引先の従業員の皆様をはじめとする、多くの方々が働く当社グループでは、ダイバーシティの推進は、率先して取り組むべき課題であると考えています。

そこで、当社は2020年7月に「ダイバーシティ推進方針」を策定しました。多様な価値観や能力を尊重し、企業の成長に結びつける取り組みを推進しています。全ての人材が能力を発揮し、やりがいを感じられるダイバーシティ&インクルージョンの実現を目指しています。

▽株式会社高島屋のダイバーシティ推進方針

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(画像:株式会社髙島屋)

先に述べた通り、ダイバーシティ推進の中でいち早く注力してきたのは、女性の活躍・ジェンダー平等に向けた取り組みです。直近では、働き方改革の側面からも両立支援制度を拡充するとともに、「男性育休取得100%の推進」にも取り組んでいます。LGBTの観点から、女性だけが着用していた制服も廃止しました。

また、グループ会社が手掛ける飲食事業では多数の外国人従業員が働いています。そういったことを踏まえて、「外国人の受入れに関する高島屋グループ基本指針」を策定し、外国人労働者の就労課題への対応や語学習得サポート、学習支援などの環境整備も進めています。

街の賑わいを創出し、 行政などとも連携して地域と共生

坂本 社会の領域では、「地域社会との共生(まちづくり)」という活動にも力を注いでいるとうかがっていますが、具体的な取り組みについて教えてください。

 当社グループの存在意義という視点から改めて見つめ直してみると、やはり店舗を通じて周辺地域の方々の暮らしに貢献し、ひいては街全体の豊かさに結びつけていくことが 果たすべき役割であると捉えられます。当社グループが推進している「まちづくり」とは、ショッピングセンターや百貨店の集客力によって街の賑わいを創出するとともに、 行政や地元の企業・団体などと積極的に連携して地域との共生を目指すという取り組みです。加えて、商品や環境、サービスを通じて新しい価値を提案・提供することによって、さまざまな社会問題の解決に貢献する役割も果たしています。

この取り組みの草分けとも言えるのは、1969年に開業した東京の玉川高島屋S・Cです。当時の日本では他に例を見なかった郊外型のショッピングセンターを開発し、地域の活性化や地域との共生を図って今日も賑わいが衰えないコミュニティを形成しています。

また、2007年春に千葉県の流山市で開業した「流山おおたかの森S・C」は、「森のある豊かな自然の中で子育てをしながら、駅前でショッピングやイベントが楽しめる暮らし」を目指したものです。日本全体では少子高齢化が進んでいますが、流山市は過去10 年間で人口が約3 万人も増加したうえ、30 ~ 40代が占める割合が最も多くなっています。

▽流山おおたかの森S・C

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(画像:株式会社髙島屋)

ESGやSDGsへの取り組みに、けっして近道は存在しない

坂本 省エネや脱炭素を進めるには、エネルギーの見える化が必須といわれています。弊社も電力トレーサビリティシステムの提供を通じて企業を支援していますが、御社ではどのように取り組んでおられるのでしょうか。

 再生可能エネルギーに関するトレーサビリティ(流通経路の追跡)ですね。やはり、私どももRE100へ取り組むうえで、非常に重要なテーマとなってくると考えています。

先述した「まちづくり」の戦略におきましても、エネルギーの“地産地消”や、エネルギーの調達を通じた地域への貢献などといった観点からトレーサビリティが求められてくるでしょう。単に再生可能エネルギーを調達するだけにとどまらず、トレーサビリティの問題もクリアにしていくことが重要ですし、おそらくその点は廃棄物の処理にも言えることだと思います。

坂本 ESG推進室のリーダーとして、特にどの点が大きな課題であると考えていらっしゃいますか。

 すべての従業員がESGやSDGsを自分事として捉え、日常の行動や業務に自然と結びつけられるようになるまでには、相応の時間を要することになるかと思われます。したがって、こつこつと継続的に取り組んでいくべきテーマだと言えますし、自然発生的な取り組みが生まれるようになるまでは、ESG推進室が旗振り役となって積極的に情報発信していく必要があるでしょう。

一方、百貨店のような小売業には数多くのサプライチェーンの方々が関わってきます。当社グループだけが単独でESGやSDGs達成を推進するのではなく、サプライチェーンの方々と力を合わせて取り組んでいかなければ、大きな行動変容にはつながりにくいと思います。

いずれにしましても、けっして近道は存在しないのがESGやSDGsへの取り組みだと私は捉えています。短期と中長期の両方の視点から地道に社会課題の解決に取り組むことによって、企業としての成長を目指すとともに、持続可能な社会の実現に貢献できればと考えています。