資産管理といえば企業が行うものだと考える人は多い。しかし、個人が資産管理によって今ある資産を把握すれば、資産形成の目的が明確となり、計画も具体的となるため、目標の達成が大きく近づくことになる。また人生100年時代において、今後のライフプランが立てやすくなることも利点といえるだろう。本記事では個人が資産管理をする具体的なメリットと、資産管理を容易にするためのおすすめのアプリを紹介する。
個人で資産管理をする目的とは?
個人の資産を管理する目的とは何だろうか。それは大きく「資産の可視化」と「キャッシュフロー(現金の流れ)の把握」である。これにより資産運用の効率性は大きく変わる。
個人で資産管理をする目的1:資産(ストック)の可視化
資産管理の最初の一歩は、資産の棚卸し、つまり現時点で保有している資産の可視化である。
ここでいう資産には、現金や預貯金のほかにも、建物や土地などの不動産、株式や債券などの有価証券、保険など、すべての財産が含まれる。
貯金ができておらず、一見自分には資産がないと思っている人でも、実際に棚卸しすると、会社で財形貯蓄や企業型確定拠出年金に加入していたり、個人で解約返戻金のある保険に加入していたりなど、意外な資産が見つかる場合がある。
現状の資産を把握することで、はじめて目標に向けた計画を立てることができる。具体的には、現在の資産と目標の差額を出し、計画的に貯金をする、または運用を考える、などだ。
資産を把握せず、将来に対して漠然と不安を感じている人は多い。自分のスタートラインがわからなければ、漠然とした不安は漠然としたままである。
個人で資産管理をする目的2:現金の流れ(キャッシュフロー)の可視化
資産管理でもう1つ大事なのが、キャッシュフローの可視化である。キャッシュフローとは、収入から支出を引いて手元に残る資金の流れをいう。
特に支出の把握は重要だ。個人の場合、自分の支出を過小評価しているケースは非常に多い。
「貯金がしたい」「無駄遣いをやめたい」といった目標がある場合、支出の把握が重要なのは言うまでもないだろう。自分の支出の傾向を把握することで、意外な無駄が見つかったり、重点的に支出を減らせる項目が見つかったりすることもある。
そのほかにも、支出の把握は将来の資金計画全般に関わる。例えば、現在の生活費がわかれば、保険に必要な保障額が適切に計算できる。また、老後に必要な生活費も、今の支出をベースにするとより正確な予想が立てやすい。
個人の資産管理で重要なこと
個人の資産管理には、資産の可視化とキャッシュフローの把握が必要であることは説明したが、これらは、ただ単に記録していればいいというものではない。資産管理の目的は、あくまで資産を活用して個人の目標を達成することである。
逆に言えば、資産管理を行ったところで個人の目標=ライフプランが明確になっていなければ、どのように資産を活用すればいいのか決まらないだろう。
ライフプランとは、例えば30歳で結婚し、住宅は一戸建てで、旅行は年に1回、老後の生活は今と同じ水準で……など、人生で何をしたいかを決めることである。
大切なのは、自分の希望する範囲でいいので、具体的なライフプランをしっかりと考えておくことだ。
ライフプランを明確にしないまま漠然と生活をしていると、将来に対する漠然とした不安はなくならないだろう。自分のライフプランを決め、それに向かって資産管理をすれば、目標は格段に達成しやすくなる。もちろん、立てたプランに必ず従わなければならないわけではない。目標が変わればいつでもライフプランを変更すればいいだけだ。
個人が資産管理を成功させるコツ
個人の資産管理を行う必要性が理解できても、実際やってみると継続できない人は多い。ここでは個人が資産管理を成功させるコツを紹介する。
個人が資産管理を成功させるコツ1:厳密にやろうとしすぎない
資産管理の失敗で最も多いのが、管理を完璧にしようと考えてしまうことである。
例えば「貯金をしたい」という目標があるとき、最大限節約して余ったお金をすべて貯金に回そう、と考えるのはよくある失敗の1つである。この方法では、たとえば始めの2、3ヵ月は月に10万円もの貯金ができるかもしれない。しかし、張り詰めた節約をしていると、「いつも頑張っているから」という気の緩みが生じて、次第に貯金額が5万円、2万円と減っていくだろう。
この場合、はじめから少し余裕のある貯金額を設定した方が、結果的にうまくいくケースが多い。例えば月々5万円を先取り貯金し、残りは自由に使う、とした方が、長く継続できるだろう。
個人が資産管理を成功させるコツ2:自動化、仕組み化、省人化をする
個人の資産管理は時間と手間がかかる。この手間をいかに減らせるかも、資産管理を成功させるポイントだ。
まず利用を検討したいのは、資産管理用のスマホアプリである。
ひと昔前の資産管理は、ノートに手書きで書くか、パソコンで管理するかであった。手書きの場合、ノートにいつでもすぐに記入できる点は便利だったが、合計額の計算やグラフの作成などは自分でしなければならなかった。
パソコン管理の場合、入力さえすれば月間や年間の合計額、資産の推移などは自動で表示してくれる。しかし、いちいちパソコンを起動する手間が面倒で、結局使わなくなった人も多いだろう。
スマホアプリでは、入力だけなら隙間時間に行うこともできる。もちろん合計額の計算やグラフ作成も自動だ。パソコンのソフトと連動できるものも多いので、日々の管理はスマホで、じっくり分析したいときはパソコンでという使い分けもできる。
個人が資産管理を成功させるコツ3:1ヵ月の「収入(入リ口)」と「支出(出口)」を把握する
個人の資産管理において、最も基本となるのが、1ヵ月の収支の把握だ。失業中など特殊な状況下以外では、1ヵ月の支出額が、収入額を超えないようにしなければならない。
当然と思われるかもしれないが、いざ実際に収支を記録してみると、毎月赤字になっている家計は少なくない。毎月の赤字をボーナスでカバーしていたため、問題が見えていないケースもある。
毎月の収支が赤字だと、いくら資産管理を行っても将来達成できる目標は限られる。そもそも資産管理を継続するモチベーションも上がらないだろう。
赤字の状態が続いている場合、固定費を払いすぎていることが多い。家賃、駐車場だけでなく、保険料や習い事など、毎月かかる支出を見直し、まずは家計の黒字化を目指そう。
個人の資産管理にスマホアプリを導入するメリット/デメリット
個人の資産管理の手間を減らすのに、スマホアプリは非常に便利なツールである。ここでは資産管理アプリのメリットとデメリットを紹介する。
資産管理アプリのメリット1:隙間時間で記入できる
資産管理にアプリを使う1番のメリットは、いつでも簡単に記録ができる点である。今やスマホを持ち歩いていない人はごく少数だろう。スマホによって昼休みや信号待ちなどのスキマ時間に資産の記録や確認ができるのは、資産管理を続ける上で大きなアドバンテージになる。
「レシートなどを取っておいて、ある程度の期間分まとめて入力した方が、こまめに入力するより効率的ではないか」と考える人もいるかもしれない。しかし、この方法では定期的にある程度まとまった時間が必要になるので、結局億劫になってしまうことが多い。
1日数分であれば、心理的な負担をぐっと下げることができる。理想は毎日歯を磨くように、支出の記録も習慣化することである。
資産管理アプリのメリット2:金融機関の情報を自動的に取得できる
個人であっても、資産は現預金や株式、電子マネーなどさまざまな形で保有しているはずだ。
多くの資産管理アプリでは、最初にこれらの金融機関を登録することで、データを自動的に取得してくれる。銀行の預金はもちろん、証券会社の株や投資信託、電子マネーの残高、クレジットカードの利用額や、溜まっているポイント数まで管理できるアプリもある。
資産管理アプリのメリット3:資産を一括で管理できる
自動取得した金融機関のデータと手入力を組み合わせることで、1つのアプリで自分の資産をすべて管理することが可能になる。
これまでは現金の支出は家計簿で、銀行の預金は通帳記入で、投資の資産は証券会社のウェブサイトにログインして、というように別々に管理していたものが、アプリを開くだけですべての資産を確認できるのだ。
もちろん、株や投資信託のように価格が変動するものに関しては、その時々の時価がタイムリーに反映される。
資産管理アプリのデメリット:自動取得に対応していない金融機関や資産がある
このように非常に便利な資産管理アプリだが、自動取得に対応していない金融機関や資産がある点はデメリットといえる。アプリにもよるが、地方銀行や小規模な証券会社、また一部のクレジットカードなどは連携ができないことがある。
また、土地、建物、貴金属などの現物資産は、自分で管理しなければならないケースがほとんどだ。
さらにITサービス特有の問題もある。金融機関がメンテナンス作業などを行っているときは情報を自動で取得できないので、資産をすぐに確認できない。システム障害などが起こった場合も同様である。
資産管理アプリを選ぶ3つのポイント
資産管理アプリを選ぶ際に重視したいポイントは次の3つだ。
資産管理アプリ選びのポイント1:必要な機能の有無
まずは、自分のライフスタイルに合った機能が備わっているかどうかを確認しよう。レシート読み取り機能や予算設定機能など、アプリによって利用できる機能が異なる。特に支出の記録や、収支の確認に関する機能は、個人によって求める機能がさまざまなので、まずは自分にどんな機能が必要か考えておこう。
資産管理アプリ選びのポイント2:管理できる資産の種類
自分が保有する資産のうち、なるべく多くのものを管理できるアプリを選ぶことも重要だ。自分が使っている銀行が自動取得機能に対応しているかどうかはもちろん、証券会社、電子マネー、クレジットカード、ポイントなどについても、あらかじめ対応状況を確認しておこう。
資産管理アプリ選びのポイント3:セキュリティ対策
個人の資産管理を1つのアプリでする場合、必然的にそのアプリにはさまざまな個人情報を入力しなければならない。万が一にも情報が漏洩してしまうと大問題である。
実際問題として、個人が運営会社のセキュリティ対策を判断するのは難しい。しかし、アプリ運営会社の規模や、過去のセキュリティ関連のニュース、企業が発表しているセキュリティ対策の情報など、最低限のことは調べておこう。
また、パスワードを推測されやすいものにしない、指紋認証を使うなど、自分でできるセキュリティ対策をしっかりしておくことも重要だ。
個人で使える資産管理アプリおすすめ4選
ここでは、実際に個人の資産管理におすすめのアプリを4つ紹介する。機能は制限されるが無料で使えるものも多いので、いくつか使ってみて自分に合ったアプリを見つけよう。
おすすめ資産管理アプリその1:マネーフォワードME
マネーフォワードMEは、資産管理アプリの中でも特に人気があるものの1つだ。
生活用口座や貯金口座、そして投資用口座など、いくつもの口座を管理できるのはもちろん、クレジットカードの利用額やポイントやマイルの残高まで、資産をまとめて管理できる。
毎日の支出も、食費や日用品などのカテゴリーに自動的に分類してくれる。また、銀行の残高不足やクレジットカードの使いすぎを知らせてくれる機能や、資産状況を分析してレポートを表示する機能なども便利だ。
おすすめ資産管理アプリその2:Moneytree
Maneytreeは、銀行、クレジットカード、電子マネー、ポイント、マイルなど、2,400種類以上の金融機関およびサービスに対応している資産管理アプリだ。
AIが明細を学習して自動的に支出のカテゴリーを振り分ける機能があるため、家計管理を手間なく行うことができる。
また、大きな支出、支払いがあるときや、有効期限が切れそうなポイントがあるときなどに通知で知らせてくれるので、うっかり忘れを防ぐことができる点も便利だ。
おすすめ資産管理アプリその3:Zaim
Zaimは家計簿アプリというカテゴリーだが、資産管理アプリとしても優秀だ。
各種口座やクレジットカード、電子カードの残高、また利用可能なポイントなどを自動取得できるのはもちろん、支出のカテゴリー分けも自動で行ってくれる。
Zaimの特徴は、プレミアム会員であれば支出のカテゴリーを自由に設定できる点だ。マネーフォワードMEやMoneytreeでは、カテゴリーの内訳は追加できるものの、元のカテゴリーを変更することはできない。例えば、生活日用品カテゴリの中に「洗濯用」や「衛生用品」を追加することはできるが、新たなカテゴリーは追加できないのだ。
Zaimでは、自分の好みに合わせてカテゴリーを追加/編集することができる。はじめはカテゴリーの編集が面倒だが、使い込むほどに自分好みの仕様に改良できる点が魅力だ。
おすすめ資産管理アプリその4:カビュウ
カビュウは、資産の中でも株式の管理に特化したアプリである。証券会社のサイトでは蓄積されない過去の取引データを独自で収集・再整理し、管理/分析を行う。
複数口座を管理できるはもちろん、米国株式やETF、投資信託といった国内株式以外のアセットや「つみたてNISA」の取引にも対応している。中長期的に資産形成をしたい投資家におすすめだ。
まとめ 資産管理にはなるべく手間をかけずに自動化
資産管理は企業が行うものと考える人は多い。しかし、個人でも現状の資産とお金の流れを把握し、管理することで、人生の目標達成や、将来への不安の軽減に役立つ。
資産管理というと難しく考えがちだが、現在では優秀なアプリがいくつもあり、入力や管理が格段に楽になっている。個人の資産管理を続けるコツは、できるだけ手間を減らし、楽をすることである。自分にあったアプリを活用して、ぜひ今日からでも資産管理をはじめてみて欲しい。