本記事は、和田秀樹氏の著書『「思秋期」の壁』(リベラル社)の中から一部を抜粋・編集しています。

老化予防は「形から入る」こと

老化予防は「形から入る」こと
(画像=C Davids/peopleimages.com/stock.adobe.com)

お洒落をして街に出かけるだけで、なんとなく心が浮き立つような気分になるのは、よく経験することではないでしょうか。

スーツを着てネクタイを締めると心が引き締まるという男性や、メイクをすると気分が前向きになるという女性はたくさんいます。

反対に、日曜日などに一日中パジャマでゴロゴロしながら家で過ごすと、リラックスを通り越してかえって体調を崩したりします。

このように、人の心のありようは、内面から湧き出るというよりも、外側から規定されるものだという考え方が、現代の行動療法や認知科学の世界では強まってきています。

行動によって人間の心のありようは変わり、身体の状態も変わる。ということは、心が沸き立つような行動を取れば、自然に脳や身体の調子もよくなるわけです。「見た目」「外見」をよくするのもそういった行動のひとつです。

たとえば、少し若めの格好をしていると気分まで若返ります。

逆に「見るからにおじさん」「いかにもおばさん」という格好をしていると、心まで「おじさん」「おばさん」になってしまいます。不思議なことですが、そうやって自己規定していると、姿勢や仕草、表情なども中年らしくなる。さらには体形までずんぐりむっくりしてきたり、肌がくすんできたりするのです。

「形から入る」という言葉がありますが、老化予防はまさにそれです。

ホルモンや前頭葉の機能は、心のありようで大きく変わります。心がウキウキしているとホルモンの分泌や前頭葉の働きは活発になりますが、どんより沈んでいると、停滞してきます。若く見られたいという気持ちは、想像以上に大切です。

超高齢社会になって、くすんだ色合いのしょぼくれた老人ばかりが目立つようになってはまずい。趣味でも服装でも、美容や化粧でも何でもいいので、形や見た目若返れば、心・脳・身体も若返ります。これがアンチエイジングの第一歩です。

アクティブな生き方を大事にして、見た目も若く保つ思秋期の心がけとして、ぜひマスターしてほしいことです。

「食べない式」のダイエットはタブー

見た目の若さというと、「ダイエットしなくては!」と考える人もいるでしょう。

しかし思秋期以降のダイエットで、もっとも避けなくてはいけないことが「食事を減らして体重を落とそうとすること」です。

ダイエットとは、体重を減らすことだと非常に多くの人が誤解していますが、本来は健康を保つための方法です。体重を減らしても健康でなくては美しいとはいえません。

ところが「食べない式」のダイエットでは、まず間違いなく栄養が不足した状態になってしまいます。タンパク質や脂肪といった栄養素が不足すると、たしかに外見はやせてきます。

しかし、肌のツヤが悪くなったり、白髪が増えたり、髪の毛が減るなどして、いかにも年を取ったような貧相な姿を引き寄せてしまいます。内臓が健康にならなくては、美しくはなれません。

細胞レベルで見ると、酵素、補酵素(その多くはビタミンと呼ばれるものです)と微量元素の不足は老化に直結します。少し専門的にいえば、糖質や脂肪を燃焼させてエネルギーを作る代謝回路がうまく働かなくなるからです。

身体へのダメージは確実に老化につながるので、かえって肌ツヤを悪くします。そうなってから化粧品だ美容医療だというのは本末転倒だし、費用ばかりかかるわりに効果は低い。内臓が若返って健康になると、自然に外見も若々しく健康になります。

思秋期ならずとも、30代も半ばを過ぎれば、若いころと同じように食べていると体重は増えていきます。スポーツジムなどでは「年齢とともに筋肉の量が減って、基礎代謝が下がるから」と説明された人もいるかもしれません。

たしかにそれは間違いではないのですが、もっと根本的な理由は、若いときは細胞レベルでの代謝回路(糖や脂肪からエネルギーを取り出す仕組み)などがうまく働いていたものが、次第に衰えてくるからです。

つまり、ある種の老化現象が始まっているから太るわけで、思秋期の年代では、細胞レベルからのケアがしっかりできていないと、運動をしてもやせられないし、老化も止まらないということにあります。

では、どうすればそのケアができるのでしょうか。

これに対するひとつの解答が、フランスの予防医学・抗加齢医学の権威、クロード・ショーシャ博士のメソッド(手法)です。ショーシャ博士は世界抗加齢医学会の副会長も務める実力派で、俳優、スポーツ選手、王族など世界中のセレブリティを患者に持ち、医学界、栄養学界、美容界などからも高い支持を得ています。

博士が重視しているのは、食事の量を減らしてやせることなどではなく、「食べても太らなかった時代の身体に戻すこと」であり、「老化の原因は〝細胞の炎症〟である」という理論に基づいて、炎症を最小限に抑えるさまざまな方法を提唱、実践しています。

私自身、ショーシャ博士のメソッドに非常に感銘を受け、直接指導を仰いで〈和田秀樹 こころと体のクリニック〉を開設したほどです。以下、私のクリニックで説明したり実施したりしている内容を中心に紹介しましょう。

身体は酸化によって錆びつき、古びる

老化を遠ざけ、若返るために避けるべきこととして、ショーシャ博士が挙げるのが「身体の酸化」です。金属が酸化すると錆びるのと同じように、身体は酸化によって錆びつき、古びてしまうのです。

この酸化の原因になるのが細胞の炎症です。

私たちの身体を形成する細胞は細胞膜によって包まれていますが、これは単純な壁やシートではありません。必要な栄養素などを通したり、情報のやりとりをする非常に大事な機能を持っています。そんな大役の細胞膜に傷がついた状態が〝炎症〟です。

たとえば足首を捻挫ねんざすると、腫れ上がって痛んだり熱を持ちますが、これは靭帯じんたいや周辺の組織の傷を修復するために、さまざまな物質が分泌されている証拠。細胞膜が傷ついた場合も、細胞レベルで同様のことが起きています。

皮膚、髪、内臓、骨、脳などすべての器官は細胞からできているのはご存じでしょう。その細胞で〝炎症〟が起こると、細胞膜を構成する物質のバランスが崩れて、細胞まで栄養が届きにくくなってパフォーマンスが下がる──これがあらゆる老化現象の原因になっていると、ショーシャ博士は説明しています。

活性酸素などのフリーラジカル(不安定で反応しやすい分子や原子のこと。不安定になると細胞を破壊したりする)によっても細胞膜は傷つき、炎症を起こします。逆に、細胞膜で炎症が起こった場合も、体内にフリーラジカルが増えて、さらに炎症を加速させるのです。

私たちは呼吸して取り込んだ酸素によって、糖や脂肪を燃やしてエネルギーを得ていますが、このときフリーラジカルも生み出してしまいます。フリーラジカルには殺菌作用など役に立つ面もあるので、完全な悪玉というわけでもありません。そもそも私たちは酸素なしには生きられないのです。

ただ、酸素によって〝錆びつき〟も起こります。体を錆びつかせる酸化自体は病気ではなく、自然な現象なのです。避けたいことではあるけれども、年を取るほど、ある程度の炎症は避けられません。

であれば、その炎症反応を増やさないようにしよう、広げないようにしようというのがショーシャ博士の考え方です。

「思秋期」の壁
和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神 経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー、浴風会病院神経科医師を経て、現在、「和田秀樹こころと体のクリニック」院長、国際医療福祉大学大学院教授、川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって、高齢者医療の現場に携わっている。

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