本記事は、和田秀樹氏の著書『「思秋期」の壁』(リベラル社)の中から一部を抜粋・編集しています。

脳の老化に直接アプローチする「TMS治療」とは

認知症の予防につながる最先端医療
(画像=ASDF/stock.adobe.com)

最先端医療として、私が思秋期の方にお勧めしたいのが、「磁気刺激治療(TMS)」です。

15年ほど前、「副作用がない夢のうつ治療法」としてNHKスペシャルで取り上げられ、大きな話題を呼びましたので、覚えている方も多いかもしれません。うつ治療法として有名になったTMS治療ですが、実は思秋期の脳にもとても効果的であることがわかってきました。

これまでに述べてきたように、年を取ると脳がだんだん萎縮してきますが、脳の中でもとくに前頭葉がまず縮んできます。前頭葉が萎縮してくると何が起こるかについては、第2章でも述べましたが、意欲や感情のコントロール、思考の切り替え、クリエイティビティがうまくできなくなってきます。キレやすくなったり、意欲がなくなったり、新しいことを考えられなくなってしまうのです。

この前頭葉機能の低下に対し、直接働きかけることができる画期的な治療法が「TMS治療」なのです。

TMS治療とは、ストレスや老化などによって機能が低下した脳の組織(とくに前頭葉)に、ごくわずかな磁気刺激を与えることで、神経伝達物質や神経細胞を活性化させ、脳の活動を回復させる治療法です。

特殊な装置を頭部にあてて横になっているだけでよく、麻酔などの処置が必要ないため、安全性が高く、ほとんど副作用がないことが特長です。

アメリカでは、日本の厚生労働省にあたる食品医薬品局(FDA)による認可を受けている治療法ですが、日本では2019年に一部の病院では保険適用可能となりました。

うつ治療においては、薬物療法で効果がなかった人にTMS治療を行った結果、約6割の効果があったという論文も出ています。治療の副作用がないことに加え、治療中も脳の働きのポテンシャルを下げないことも特筆すべき点です。

症状や各人によって、その期間や回数は異なりますが、TMS治療は一定期間、何度か回数を重ねて行う必要があります。

認知症の予防につながる最先端医療

思秋期になると気になるのが、認知症だという方も多いかもしれません。実際、65歳以上の高齢者のうち、認知症を発症している人は推計16.7%で、2020年度の厚労省の調査によると、約602万人に上ることがわかっています。認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いると推計され、認知症とその予備群を含めると、65歳以上の4人に1人が該当することになります。

認知症は、さまざまな病気や老化などによって脳の働きが悪化し、いろいろな障害が起こり、生活に支障が出る状態をいいます。原因となっている病気によっては治ることもありますが、老化によって徐々に進行する脳機能の低下については、確たる治療法がないのが現状です。

そんななか、脳に直接働きかけることのできるTMS治療は、超高齢化が進む人類にとって、大きな福音であると私は考えます。

認知症の予防につながる最先端医療
(画像=認知症の予防につながる最先端医療)

TMS治療は40代半ばから60代半ばくらいまでの初老期認知症の前段階の方を主な対象としているそうです。

認知症になると日常会話がままならなくなったり、物忘れがひどくなるというイメージが強いかと思います。会話をしたり、情報を一時的に保ちながら操作するための脳の領域を「ワーキングメモリ」といいますが、これは前頭葉にあるのです。

認知症においても、前頭葉がカギを握っていることがおわかりいただけたかと思いますが、TMS治療によって前頭葉を磁気刺激することで、ワーキングメモリを活性化させ、認知症の予防につながるというわけです。

「思秋期」の壁
和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神 経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー、浴風会病院神経科医師を経て、現在、「和田秀樹こころと体のクリニック」院長、国際医療福祉大学大学院教授、川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって、高齢者医療の現場に携わっている。

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