急激な円安、世界的なインフレと金利高、そしてロシアによるウクライナ侵攻――。世界経済や国際情勢が激変する中、日本人はどのように資産を防衛すべきでしょうか。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び世界三代投資家と称されるジム・ロジャーズ氏は、インフレで「商品(コモディティー)の時代」が再びやってくると説きます。インタビューの内容を2回に分けてお届けします。 (インタビュー・構成:花輪陽子)

目次

  1. 為替はどう変わる?日本円はどうなる?
  2. 円安下でも利益を出すことは可能
  3. インフレで「商品の時代」が再びやってくる
ジムロジャーズ

為替はどう変わる?日本円はどうなる?

――コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻など、世界を取り巻く課題は目まぐるしく変化しています。今の状況をどう見ていますか。

コロナ禍やロシアによるウクライナへの侵攻によって世界で大異変が起きています。ロシアとウクライナは、大量のエネルギーや農作物を産出しているため、これらの価格上昇によって世界経済が大きく影響を受けています。特に農作物は戦時下では簡単に耕作することができないため、農作物の価格が急騰しています。

また戦争は、輸送コストや銅などさまざまなものの価格を上昇させ、長引けば長引くほど上昇傾向となるでしょう。その中でもロシアから直接エネルギーを輸入していた欧州が最も影響を受けているように感じます。

――歴史的な円安ドル高が続いています。2022年10月には32年ぶりの円安水準となる1ドル=150円を記録しました。

私は、もっと早い段階で円安になると予想しており、想像以上に円が持ちこたえていて驚いています。なぜなら日銀はずっと前から紙幣を印刷し続けていますが、普通は金融緩和を続けていると比較的早い段階でその国の通貨は弱まるからです。ウクライナ情勢に加えて円安が進行しているため、日本でもエネルギー価格は急上昇しています。

ドル円相場の推移(2021年12月16日〜2022年12月16日)

画像引用:三菱UFJ銀行「外国為替相場チャート表」
(画像引用:三菱UFJ銀行「外国為替相場チャート表」)

さらに米国がインフレを抑制するために急速な利上げを続けたことから、日米の金利差が拡大し日本円が売られるという、負のスパイラルに陥りつつあります。円安の根本的な理由は、少子高齢化や債務の増大などマクロ要因が大きいですが、エネルギー価格の高騰による経常収支の悪化も円売り要因の一つと考えています。

「円安はどこまで続くか?」とよく聞かれますが、1980年代の1ドル=175円を上回っていた水準に戻る可能性もあり得ると思います。なぜなら当時より日本の財政状況が悪化しているからです。財政赤字を出し続ける財政運営を日銀が金融緩和によって支える構造が変わらない限り、日米金利差を背景とした円安は続く可能性があります。

円安下でも利益を出すことは可能

――先の見えない円安に日本人はどう対処すればよいでしょうか。

円安に対して、懸念をしている日本人も多いと思います。しかし私の書籍の中でも述べていますが、円安下でも利益を出すことは可能です。

円安になった際に上昇するだろう物を保有すべきだ。そうすれば、自己防衛どころか利益が出るかもしれない。そしてこれは日本人のみならず、皆が行うべきことだ。農業、金や銀などの貴金属、こういったものが上昇するだろう。債券は下落するが、米ドルを持っていれば円安に対して防衛できるだろう。米ドルでなくても上昇するものであれば、保有する通貨はどれでもよい。
引用:ジム・ロジャーズ『世界大異変 現実を直視し、どう行動するか』東洋経済新報社、2022年8月

インフレで「商品の時代」が再びやってくる

――円安は昨今の輸入インフレを加速させています(※)。インフレ時に意識すべきことはなんでしょうか。

※輸入インフレとは、外国でのインフレが影響して国内で発生するインフレのこと。ある国でインフレが起きるとその国からの輸入品が値上がりし、それらを原料として使う製品の価格も上昇する。円安になると輸入コストが増加するため、この現象に拍車をかける効果がある。

円安がずっと続く環境下では、円安時でも上昇余地あるいは価値を失くさない何らかの資産を持つべきだと考えます。例えば株式や貴金属など円安時でも価値を維持するものを保有しておかないといけないでしょう。利上げをすれば一時的には商品(コモディティー。原油などのエネルギー、小麦などの穀物、金や銀などの金属を指す)の需要が抑えられるかもしれません。しかし利上げによる商品価格の抑制効果は一時的です。

根本的に生産量が増えない限りインフレは続くと考えていますが、農作物や銅、鉛の生産量を急激に増やすことは容易ではありません。また物流のゆがみ(※)も物不足を生じさせ、インフレを助長するでしょう。さらにエネルギー価格の高騰は、世界的な流通コストの上昇をもたらしています。

※コロナ禍以降のコンテナ不足やウクライナ情勢を受けた物流の混乱

さまざまな国の不動産などはバブルになっていると感じますが、商品に関してはまだ割安だと感じます。例えば銀は、2011年の高値から約50%程度も下がっているので、これはバブルではないでしょう。砂糖なども同様です。上昇したとしてもピーク時の価格を大きく下回っているので、バブルにはほど遠いのです。

書籍でも述べていますが、私は長期保有できるものに投資したいので、商品に注視しています。

まずは資産のポートフォリオを考えなければいけない。過去の歴史においては、インフレ時には金や銀、食糧やエネルギーなどの商品、あるいは不動産を持つことが有効だった。ウクライナ侵攻が起こって以降、食糧やエネルギーの高騰が続いているが、私はそれ以前から商品には注目し投資をしていた。
引用:ジム・ロジャーズ『世界大異変 現実を直視し、どう行動するか』東洋経済新報社、2022年8月

私はインフレがしばらく続くと見ています。ポートフォリオにはある程度、商品を組み込んでおくことをおすすめします。商品投資は、株式の下落相場やひどいインフレに対してだけではなく、深刻な不況に対しても有力なヘッジ手段となり得るからです。

(下に続きます)

ジム・ロジャーズ
ジム・ロジャーズ氏
1942年、米国アラバマ州生まれ。イェール大学で歴史学、オックスフォード大学で哲学を修めた後、ウォール街で働く。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立し、10年間で4,200%という驚異的なリターンを上げる。37歳で引退した後、コロンビア大学で金融論を指導する傍ら、テレビやラジオのコメンテーターとして活躍。2007年よりシンガポール在住。ウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスと並び世界三大投資家と称される。『世界大異変 現実を直視し、どう行動するか』(東洋経済新報社)等日本での書籍も多数ある。
mumss
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