近年は、年間100社前後の企業がIPO(新規公開株式)により証券市場へ上場している。2021年度におけるIPO企業の社長の平均年齢は50.3歳と2011年度の52.3歳と比較して若年化しているのが特徴だ。本企画では、市場に新しい風を巻き起こすことが期待されるIPO企業の代表者に企業概要や上場のねらい、今後の展望についてインタビュー形式で実施している。

今回は、サービス企画から開発までをワンストップで提供し、企業のDXを支援する「クラウドインテグレーションサービス」とSaaS型のドライバー働き方改革クラウド「Cariot(キャリオット)サービス」を提供する、株式会社フレクト代表取締役CEOの黒川幸治氏にお話をうかがった。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

株式会社フレクト
黒川 幸治
株式会社フレクト代表取締役CEO
学生時代に前身となるIT会社の起業を経て、2005年には、株式会社フレクトを設立し代表取締役CEOへと就任。その後クラウド事業へ参入し、現在の事業基盤を構築。「インターネットを通じてみんなの人生満足を追求する」をミッションに掲げ、ステークホルダーの幸せと価値提供の最大化を目指す。
株式会社フレクト
2005年8月設立。従業員数は212人(2022年9月末時点)。DX支援のプロフェッショナルサービス「クラウドインテグレーションサービス」、クルマと企業をつなぐドライバー働き方改革クラウド「Cariot(キャリオット)サービス」を展開。2021年12月、東証マザーズ(現東証グロース市場)上場。
【受賞歴】
Salesforce “Innovation Partner of the year”(2020)
MuleSoftJapan“MuleSoftJapanPartnerEnablementAward2022”(2022) ほか

目次

  1. 株式会社フレクトの事業概要について
  2. 株式会社フレクトが誇る事業の強み
  3. 上場の狙いと上場後の変化について
  4. 今後の日本経済の行方について
  5. 株式会社フレクトの未来構想

株式会社フレクトの事業概要について

―― 御社の事業内容についてお聞かせください。

株式会社フレクト代表取締役CEO・黒川幸治氏(以下、社名・氏名略):当社は2005年の設立で、基盤事業の「クラウドインテグレーションサービス」と、新規事業であるSaaS型のドライバー働き方改革クラウド「Cariotサービス」を展開しています。 「あるべき未来をカタチにする」をビジョンに、マルチクラウド・インテグレーターとして顧客中心型のビジネス変革を支援しています。デジタルでヒトとモノがつながることが当たり前になった今、デジタルに最適化された新たな顧客体験をカタチにしていくことが私たちの役割であると考えています。 顧客にいわれたことだけをやるのではありません。顧客企業、そしてその先のユーザー、さらには社会にとって「あるべき姿とはなにか」を私たちがしっかり考えて、モノづくりを行っています。

主力である「クラウドインテグレーションサービス」では、クラウド先端テクノロジーを活用して「攻めのDX」を支援しています。DXというと、アナログな業務をデジタル化してコスト削減を実現するもの、いわゆる守りのDXを想像する方が多いかもしれませんが、DXの本質は企業の競争力を高めることだと私たちは考えています。 攻めのDXとは、価値を創出してプロフィットを生み出す、そして顧客とのエンゲージメントを高めるといった「収益につなげるDX」のことです。

守りのDXに比べて、攻めのDXの方が達成難度は高いといえます。しかし、日本企業が厳しい状況に置かれている昨今では攻めのDXは当然必要なものであり、状況を打破するためのキーワードになるはずです。 我々が支援しているDXは多岐に渡ります。IoT、モビリティ、AI、ECサービス、企業独自のオンラインビデオサービス(ビデオ会議ツールなど)、コミュニティサービス、そして最近ではマッチングやシェアリングのサービスにも取り組んでいます。

「クラウドインテグレーションサービス」においては、大手企業が事業売上高の約95%を占めています。具体的には、日経225、JPX日経インデックス400、日経500平均の対象企業や、これらのグループ企業、または売上1,000億円規模の企業です。

▼攻めのDXとは

株式会社フレクト
(画像=株式会社フレクト)

――新規事業の「Cariotサービス」はクルマと企業をつなぐドライバー働き方改革クラウドとのことですが、立ち上げの背景などを含めて詳しくお聞かせください。

「Cariotサービス」は、自社のノウハウをプロダクト化したSaaS型クラウドサービスです。配送トラックや営業用の自動車といった商用車の運行情報をリアルタイムで取得・可視化することで管理業務をDXし、安心・安全を提供しています。

モビリティ業界の課題として、ドライバー不足により物流危機と呼ばれる状態が顕在化しており、この危機を抜け出すためにはドライバーの働き方改革が必要とされています。ドライバーの労働時間は全産業の平均と比べて2割ほど多いという結果が出ており、これが若手人材の獲得に大きな影響を与えているのです。 労働環境の改善に向けて、2024年には自動車運転業務全般において残業上限規制を適用することが予定されています。このような状況を受けて、ドライバーや管理者など、車関連の業務に関わるすべての人がストレスなく本業に専念できるよう、「Cariot」を広めていきたいと考えています。

▼サービス概要

株式会社フレクト
(画像=株式会社フレクト)

株式会社フレクトが誇る事業の強み

―― 競合他社と比較して、御社の強みはどこにありますか?

最大の強みは、デジタルサービスづくりをワンストップで提供できることです。実際にデジタルサービスを作り、DXを支援する際には多くのステップがあります。企画立案に始まり、UI/UX設計、顧客アプリケーション・業務アプリケーションの開発、さらにはプラットフォームやインフラの構築も必要になるため、AIやIoTの先端テクノロジーも求められます。

弊社ではIoTやAIといった先端テクノロジーも手がけていますし、SalesforceやAmazon Web Services、Azure、Google Cloud Platformといった、主要なクラウドをマルチに手がけています。それぞれのパブリッククラウドの長所・短所を理解し、効果的に使うことで、網羅性のあるDXサービスの創出を可能にしています。 企画はA社へ、デザインはB社へ、IoTはC社へ……と分業で発注するとなると、顧客側が各進捗をコントロールしなければならなくなり、デジタルサービスを発展させていく上でもネックになります。私たちはこれらすべてをカバーし、ワンストップで提供することで、顧客の負担を大幅に削減しています。このようなワンストップサービスを提供できる企業は、希少であると考えています。

ワンストップならではの強みとして、変化に適応する高いアジリティ(俊敏性)も挙げられます。当社のプロジェクトは平均3ヵ月で、早ければ1ヵ月でサービスをリリースします。基本的にロングスパンの開発スケジュールを立てて、フェーズを分けて進めていく形を採っています。世の中にサービスを早くリリースし、お客様からフィードバックをいただいて改善する。さらに競合のサービスを見ながら常に変化に適応させることで、サービスを継続的に発展させていくことができます。

▼フレクトがワンストップで提供するクラウドインテグレーションサービス

株式会社フレクト
(画像=株式会社フレクト)

上場の狙いと上場後の変化について

―― 上場の狙いと実際の変化についてお聞かせください。

社会的信用と知名度向上により事業の成長性を高めること、そして採用活動をより優位に進めることを期待しています。資金調達によってエンジニアの体制強化、そして新しい技術を発掘するためにR&Dへの投資も積極的に行っていきます。

特に採用に関しては目標に対して高い達成率となっており、労働市場においては採用が難しいとされているエンジニア職でも良い結果が出ています。上場前も比較的順調でしたが、これは人事の各施策を積み上げた結果でもあり、「エンジニアを大事に育てる、教育にしっかり投資する」というメッセージが求職者に響いているのだと思います。これまでの取り組みの積み重ねに加えて、上場が良い効果をもたらしているようです。

上場後は一般の株主の方に参加していただけるようになったことで、我々の意識が変化したことが大きいと思います。外部への説明責任やコーポレートガバナンスに対する意識の強化に加えて、それぞれに対する施策も変わりました。個人投資家や機関投資家と面談する機会も格段に増えて、直接フィードバックをいただけるようになったことも大きいですね。株主の方からのご意見は当社の成長スピードに合わせ、身の丈に合う形でできる限りお応えしていきたいと考えています。

今後の日本経済の行方について

―― 激動の時代ですが、今後の日本経済の動向をどのように見ていますか?

コロナ禍を経て一定の経済回復は見られるものの、急激な円安や物価高騰など、今も先行きは不透明だと考えています。特に気になるのは、GAFAといった巨大IT企業が採用をストップしていることです。日本ではまだエンジニア採用が活発ですからアメリカとはギャップがありますが、この動きからリセッション(景気後退)が現実味を帯びてくる可能性もあるでしょう。

このような局面においても、日本企業の成長には「攻めのDX」が必要不可欠だと考えます。コロナ禍の影響を多大に受けた厳しい業界の中にも「厳しいからといって守りに入るのではなく、厳しいからこそ、競争力を強化するために投資をしよう」という企業があります。当社がMuleSoftというクラウドサービスの導入を支援しているANA様もその一つです。ANA様の目的は、お客様の体験価値の最大化を目指し、その先の収益につなげること。まさに攻めのDXです。

このように、日本でも大手企業を中心に本業におけるデジタル改革が始まっています。景気が思わしくない状態でもデジタルへの投資を控えるのではなく、むしろ加速するべきだと考えていらっしゃいます。皆様のご期待に、しっかりお応えしていきたいと考えています。

▼攻めのDXを推進する大手企業が増えている(フレクトの顧客基盤)

株式会社フレクト
(画像=株式会社フレクト)

株式会社フレクトの未来構想

―― 中長期計画を含めて、御社の未来構想を教えてください。

向こう3年間の売上高については成長率30%アップを目標として、2026年3月期には100億円以上、2027年3月期には東証プライム市場への上場を目指しています。現在もDXに積極的な日本を代表する大手企業様を中心にお手伝いさせていただいており、我々自身も「日本を代表するマルチクラウド・インテグレーター」になることが目標です。

▼中長期成長計画

株式会社フレクト
(画像=株式会社フレクト)

日本のDXをリードする存在であるために、マルチクラウドの強化と発展により、顧客数の増加とARPA(顧客単価)を高めていきます。足元では、既存顧客の取引拡大を優先しており、顧客を中心に360°でつながるSalesforceのクラウドサービスを幅広くカバーすることや、企業内のあらゆるシステムをAPIで連携させるMuleSoftに注力しています。MuleSoftはあらゆるシステムのハブになるプロダクトのため、システムを連携させる開発が発生するごとにクロスセルが進みやすくなります。

また、旺盛なDX支援の需要に応えるための人材投資に尽力します。当社のエンジニアに伝えているのは「レジュメ(職務経歴書)価値を最大化する」というメッセージです。当社でさまざまな開発経験を積んで、スキルアップする。そして社内外問わず5年後、10年後、その先のマーケットでも活躍できる人材になってほしいと考えています。 具体的には社内に教育イネーブル(推進)チームを設置して、従業員のスキルアップ支援などに取り組んでいます。入社間もない社員にはオンボーディングの型化、自社オリジナルのEラーニング、資格取得支援、トレーナー・メンター制度などがあります。

加えて、R&Dにも引き続き力を入れていきます。失敗も含めてさまざまなノウハウを蓄積し、世の中の問題解決にいち早く対応できる会社でありたいと考えています。 我々はまず特定の領域でNO.1となるポジションを作り、事業を成長させるというサイクルで取り組んでいます。「Cariot」もこのサイクルから生まれたサービスです。 今はまだ公表できる段階にはないですが、実際に研究開発を起点に新規事業の種が生まれており、現在手がけているジャンル以外の業界に向けたサービスが誕生する可能性もあります。

――最後に、ZUU Onlineをご覧の皆様へメッセージをお願いします。

当社は「インターネットを通じてみんなの人生満足を追求する」という企業理念を掲げています。現在はクラウド活用によって「お客様、社会、社員、社員の家族、パートナー企業そして株主様と、すべてのステークホルダーの皆様に幸せを提供していくこと」といえます。

「攻めのDXが必要」と申し上げましたが、最近では実証実験で終わらず、本業におけるデジタル変革が進んでいる事例が急増しています。DXが成功している企業が割合的に少ない日本においては、とても良い傾向です。

我々はデジタルのプロフェッショナルとしてお客様のDXを成功に導き、お客様の発展につなげるという非常に重大な役割を担っていると考えています。我々の取り組みが実を結び、やがて日本経済の発展にも寄与すれば幸いです。

持続的な成長、中長期的な企業価値の向上を目指していきます。