特集「令和IPO企業トップに聞く 〜経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍という激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について、各社の取り組みを紹介する。

株式会社インターファクトリーは、国内EC事業者向けのECプラットフォームサービスを提供するIT企業。本インタビューでは、代表取締役兼CEOである蕪木登氏に同社の企業概要や日本経済の展望、今後の事業展開などについてうかがった。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

株式会社インターファクトリー
(画像=株式会社インターファクトリー)
蕪木 登(かぶらき のぼる)――株式会社インターファクトリー 代表取締役 兼 CEO
1973年10月生まれ、埼玉県出身。
エンジニアとして株式会社システムマネージメント、株式会社ケーソフトを経て、2003年6月にインターファクトリーを設立、代表取締役に就任。
2019年8月、当社代表取締役 兼 CEOに就任。2020年8月には東証マザーズ(現:グロース)に上場。
株式会社インターファクトリー
インターネット関連のソフトウェア受託開発会社として2003年6月に設立。
当時パッケージ型システムが主流だった国内EC市場に先駆け、主要提供サービス「ebisumart(エビスマート)」をカスタマイズ可能なSaaS型EC構築システム(現:クラウドコマースプラットフォーム)へバージョンアップを行い、提供する。
これまで累計700サイト超の中・大規模EC事業者に支持され、国内ECサイト構築ツールのクラウドサービスにおいて、パイオニア的存在として事業規模を拡大。
2020年8月に上場以降、スタートアップ向けEC構築ツールや運営面をサポートするEC支援サービスを提供し、あらゆるEC事業者への包括的な支援を行う。
現在は東京本社の他、全国4拠点に開発ラボを拡張。高い自社技術を武器に、直近5期間の売上高CAGRは14.3%と業績を伸ばしている。

目次

  1. ECプラットフォームとしてのサービスに一極集中する
  2. 海外市場を見据え、ECカートシステムの多機能化を目指す
  3. 利益率よりも成長を重視していく

ECプラットフォームとしてのサービスに一極集中する

――株式会社インターファクトリー様のカンパニープロフィール、現在の事業内容についてお聞かせください。

インターファクトリー代表取締役 兼 CEO・蕪木 登氏(以下、社名・氏名略):現在は、ECのプラットフォームをお客様に提供しております。今後はECシステムの機能拡張だけではなく、周辺のさまざまなサービスも交えてEC事業に関わるあらゆるサービスをワンストップで提供することを目指しています。

上場した理由の一つは、既存のECプラットフォーム以外のサービスを検討するにあたり、自社内で新しくサービスの立ち上げを行うよりも、上場することで成長を加速させ、M&Aのような手法を使いながら達成することがより確実だと考えたためです。

創業当時は上場することを明確に決めていませんでしたが、会社としてのKPIを見つつ経営判断として上場を決めました。

―― 創業から上場に至るまでさまざまな変化があったかと思いますが、事業の変遷についてお聞かせください。

蕪木:最大の変化は、並行してさまざまな案件に割いていたリソースを1つのプロダクトに集中させたことです。創業当初は受託開発やパッケージ制作など実にさまざまな案件を手がけていましたが、限られた人数で成功するためには案件を絞らざるを得ず、結果として最も効率の良い案件が残るように、EC構築システムというプロダクトに絞りました。

上場後は、やはり金融面が変化しましたね。ファイナンスのバリエーションが増えただけでなく、上場していることで金融機関の方と話しやすくなったことも大きなメリットだと思います。もちろんお客様からの信頼度が上がり、営業面や採用面でも良い影響はありましたが、やはり金融の手段が増えたことが大きいですね。

―― インターファクトリー様がビジネスにおいて重視するポイントは何ですか?

蕪木:当社には「インターファクトリーの道」という企業理念があり、これを重要視しています。

株式会社インターファクトリー
(画像=株式会社インターファクトリー)

社員教育では社員の人間性を高め、ひいてはお客様のプラスになるサービスを提供することで事業を成長させたいと考えているため、その土台となる個々の人間力を高めることを重要視しています。

―― 人事や採用面で変化はありましたか?

蕪木:現在のEC事業を育てるためのメンバーが純粋に増えているという感じです。今回の上場に関しても、多くのメンバーが「一生懸命頑張ってきてよかった」と前向きに捉えてくれています。もちろんさまざまな意見は出ましたが、代表としては「上場してこれから頑張っていく会社」だと思っています。

「成長できた」と実感できるかどうかは、向こう5年くらいの間の結果次第だと思っていますが、おそらく社内のほとんどのメンバーに「上場してよかった」と思ってもらえるのではないでしょうか。

―― 上場後に発生した課題はありましたか?

蕪木:課題はやはり成長だと思います。お金の調整なども含めて、会社としてやるべきことをしっかり行い、株価を上げていけば資金調達のバリエーションや額も増え、調達した資金で会社をさらに成長させることができます。その確度を高めることが最大の課題ですね。

これについては、社内を見渡せるようなポジションの人間を集めて新規事業やM&Aなどを判断するチームを作ったので、そこにリソースを割いていく考えです。

海外市場を見据え、ECカートシステムの多機能化を目指す

―― 激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面している課題と今後の日本経済の動向について、ご意見をお聞かせください。

蕪木:マーケットには、まだ拡大の余地があると思います。特にグローバルにおけるAPAC(アジア太平洋)はこれから伸びますし、北米の伸びに対してヨーロッパは低迷していると思うので、地球全体を見て伸びる場所でリテール事業を行うことはとても大切です。そのため、当社もそのようなエリアでサービスを展開していく流れを作らなければなりません。

売るものをプロファイルする側の視点でいえば、日本という国は非常に強いと思います。世界を見ても製造業中心の国として日本はシェアを持っていますし、プロダクトを作る側としては日本を中心に考えてもよいのではないかと思います。円安の流れもありますし、日本の製造業を復活させるという流れは、国としては売り物が増えるのでEC業界にとってもプラスになるでしょう。ただし、売り先が日本だけというのは違うと思います。

―― インターファクトリー様はD2Cサービスとして企業ごとの特性に合わせたECサイト構築・運営システムの提供を行っており、それが強みの一つですが、同様の事業領域を持つ企業が2023年以降の市場において成長するためのポイントは何でしょうか。

蕪木:ポイントは、ECカートのシステムがコモディティ化する中で、カート以外の要素をどれだけ実装できるか、でしょう。D2Cという業態は間違いなく拡大すると思いますので、カートシステムがあるのはもちろんですが、「どれだけ付加価値をつけられるか」は重要な観点だと思います。

いわゆる「カスタマーサクセス」という面はお客様のニーズとして間違いなく存在しますので、単純なプロダクトだけではなくカスタマーサクセス面を強化すべきだと考えています。そのようなニーズをマーケティング的なツールで解決していくのですが、そのためにはデータベースをどう扱うかも非常に重要です。スモールB的なビジネスではあまり注目されませんが、カスタマーサクセス的なツールに適合すると同時に、裏側のデータの扱い方も重要なポイントといえるでしょう。

―― お客様がECサイト運営で利益を上げるために、インターファクトリー様のサービスに追加すべき要素は何でしょうか。

蕪木:コンサルティング的な領域でいうと、2022年12月にECのコンサルティング事業を行うマクロジ社と業務提携契約を締結いたしました。今後は、「ECビジネス成長支援事業」を立ち上げ、ECモールや自社ECサイトを運営する事業者様を対象に、ECビジネスの成長を戦略立案から実務まで一気通貫で支援を行うサービスを提供したいと考えています。

利益率よりも成長を重視していく

―― 上場からさらに成長するための目標や5年後、10年後にインターファクトリー様が目指す姿についてお聞かせください。

蕪木:中長期事業計画はすでに公開しており、2025年までに売上高44.4億円を目指します。

株式会社インターファクトリー
(画像=株式会社インターファクトリー)

私はよく「100億円」という分かりやすいマイルストーンの話をするので、「売上高100億円に到達するまで、あと何年かかるか」を従業員に話します。そのためには、先ほどお話ししたとおりECカートだけではなくデータベースの部分や、お客様の成長に直結するようなマーケティングのツール・サービスなども強化する必要があります。

BtoCを行うお客様のかゆいところに手が届くようなサービスを用意し、「インターファクトリーに任せれば、ワンストップで全てが滞りなく進む」という認識を持っていただけるような会社にしたいと思います。

システム面に関しても、マーケティングに関する基本的な機能はすべて実装しなければならないと思っていますが、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)やPIM(プロダクトインフォメーションマネジメント)といったリテールのデータを統合・分析して広告や商品開発につなげるという要素も必要です。そういったものを当然に用意しつつ、将来求められるような機能もしっかり用意しようと考えています。

―― 激変の時代に上場した企業は投資家・富裕層から注目されます。そのような読者へメッセージをお願いします。

蕪木:当社のようなストックモデルでエンタープライズ向けのサービスを行う企業には、かなりのGMV(流通取引総額)が溜まります。これは、商いに関する多くの情報が蓄積していると言い換えることもできます。この情報を付加価値に変えることで、お客様にさらなる貢献ができるようになると考えています。中長期的な視野を持ちつつ、目の前のお客様にしっかりご満足いただけるよう、励んでまいります。