特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、その中でさらに成長するための戦略・未来構想を紹介する。

株式会社True Dataは東京都港区に本社を構え、全国のドラッグストアやスーパーマーケットなどの消費者購買情報を扱うビッグデータプラットフォームを運営し、データやテクノロジー、活用ノウハウでビジネスを支援している。2021年12月16日には東証マザーズ(現東証グロース)に上場した。ここでは代表取締役社長の米倉裕之氏に企業概要や上場に至った経緯、将来の展望などについて伺った。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社True Data
米倉 裕之(よねくら ひろゆき)――株式会社True Data代表取締役社長
2012年12月に当社の代表取締役社長に就任。大企業から地域の中小企業までデータを活用して強くなれる社会を目指し、オープンで中立的な立場のビッグデータマーケティング企業として当社のビジネスモデルを構築。当社への参画前は、東京海上日動において海上保険、経営企画、米国派遣、ブルッキングス研究所客員研究員を経験。GEコンシューマー・ファイナンスに転じ、クオリティ担当として事業再編に従事した後、ぐるなびで新規事業開発等を担った。神奈川県出身。東京大学農学部卒業。
株式会社True Data
全国の消費者購買データを扱うビッグデータプラットフォームを運営し、POS、ID-POSなど消費者データ分析や購買行動分析ソリューションを小売業、消費財メーカー等に開発・提供。「データと知恵で未来をつくる」をパーパスに、企業のデータマーケティングなどデータを活用したDXを支援している。2017年に株式会社True Dataへ社名変更し、2021年12月に東証マザーズ(現グロース)市場に上場。

目次

  1. 小売業へのデータマーケティング支援で創業
  2. 上場を通じて認知度が向上し、新領域に取り組みやすくなった
  3. 増収増益にコミットし、スタンダード市場への上場を目指す

小売業へのデータマーケティング支援で創業

―― 最初に株式会社True Dataの概要・事業についてお聞かせください。

True Data代表取締役社長・米倉裕之氏(以下、社名・氏名略):弊社はPOS(販売時点情報管理)やID-POSと呼ばれる、小売業における消費者の購買ビッグデータを活用するプラットフォームを運営し、これをもとに消費財メーカーや小売業などのお客様がデータを活用するためのソリューションを展開しています。例えば小売業向けソリューションでは、自社の購買データを分析するSaaS型ツール、メーカー向けでは全国の購買データを分析するSaaS型ツールなどが挙げられます。

▼True Dataの事業イメージ

株式会社True Data
(画像提供=株式会社True Data)

POSとは商品の売上データのことで、小売業であればこれを使って販売施策を行うような仕組みを確立してきました。その後はさまざまなポイント事業者が出てきましたが、お客様がポイントカードなどを提示して購入する取引データをID-POSと呼びます。

――POSとID-POSは何が違うのですか。

POSは「商品を軸にしたデータ」で、どの商品が購買されているかといったトレンドやランキングがわかります。このカップ麺が人気、夏はこの商品が売れ筋といったことがデータによって可視化できるのが特徴です。一方でID-POSは顧客IDが付くことにより「人を軸にしたデータ」となり、年齢や性別などより細かいデータを収集できます。例えば、インターネットのアンケートなどでは若い人のデータは取得できてもシニアはわからないこともありますが、お客様がポイントカードを提示して購入すると、ID-POSによってさまざまな世代の買い物傾向が明らかになるのです。

ID-POSでは、同じ店で同じ商品を繰り返し買っているかといったリピート率もわかります。プロモーションの実施によって、ある商品は売れてリピーターが多い、売上は同じでも別の商品はリピーターが少ないなど、ファンの獲得度合いを見える化できます。あるいは、Aというシャンプーの購入者がある時からBという商品に乗り換えたといったスイッチングの時期や、一緒に何を買っているかもわかります。この調味料を買う人は豚肉をよく買っている、深夜にはアイスだけを買う人が多いなど、商品の売れ行きだけでなく地域住民のライフスタイルも浮き彫りになり、より細かい分析ができるのが強みです。人口が減りマーケティングが難しくなる中で新規顧客やファンの獲得は大きな課題になっているため、来店頻度やリピート率、購入単価などがわかるID-POSは非常に有益なツールです。

――ライフスタイルまで浮き彫りになるのは、非常に興味深いですね。

例えば、日本では多い日は1日に1,000もの新商品が生まれますが、ID-POSを使うと販売開始から購入までの時間も計測できます。すると、新商品を買うアーリーアダプターが多いのか、それとも定番商品を買い続ける人が多いのかといった傾向が、地域ごとに見えてきます。あるいは、新商品をすぐに買う人・そうでない人という軸でもデータを抽出できますから、これらを統計的に処理することで、嗜好や価値観を可視化できるわけです。

今は移動情報やキャッシュレス決済のデータなど、さまざまな情報がある中で、それらを重ね合わせて消費者を正確にデータで把握できる時代に入っています。弊社はさまざまな方が安全に使えるデータの民主化を目指していて、例えば金融面ではファンドの方が運用に使うデータを提供したり、観光DXの取り組みでは本州から自動車を使い、フェリーで北海道に旅行するのはどういった人かをビッグデータで可視化したりしたこともあります。どのような購買傾向の人が訪れていて、旅行先ではどこを訪問しているか、といったこともわかるので、これらの情報を組み合わせることで、どの地域に住む人がどのような旅行プランを好み、どういった商品・サービスを好むのかが見えてきます。

上場を通じて認知度が向上し、新領域に取り組みやすくなった

――御社は2000年に創業し、2021年12月には東証マザーズ(現東証グロース)に上場しました。今日までの事業の変遷をお聞かせください。

弊社は三菱商事の新規事業として設立された会社で、創業時はカスタマー・コミュニケーションズという社名でした。当時はビッグデータという言葉はまだなく、当初は小売業のCRM支援から始めましたが、時代が早すぎたのか経営は厳しい状況でした。私がぐるなびで新規事業の開発などに携わっていたところに声がかかり、2011年に入社して翌年12月に社長に就任しました。

これまでを創業期とするなら、今は変革期です。20名ほどの社員と一緒に明るい未来を創るため、2014年にビジネスモデルを変えるために資金を集め、True Dataというブランドを作りました。

そこで着目したのが、人類が新しく手にした強力なツールであるID-POSを軸としたビッグデータプラットフォームです。小売業のマーケティングをデータで支援するだけではなく、データ活用を社会に広げるためのチャレンジを始め、2014年にID-POSデータから消費者の購買行動を手軽に分析できる「Eagle Eye」、2015年に日本全国の500カテゴリの商品について、リピート率や年齢・性別ごとの購買層などを無料で閲覧できるデータマーケティング・ダッシュボードの「ウレコン」をリリース。これらの製品は支持され、業績はV字回復しました。その後、総務省の情報通信白書でビッグデータの利活用元年と記された2017年に、ブランド名に合わせる形で社名をTrue Dataに変更。2019年には「Eagle Eye」、2020年にデータ分析ツールの「Shopping Scan」を全面リニューアルし、クラウド化しました。社員数も増え、2019年には新卒採用も始め、全社員へのヒアリングなど、1年半にわたる検討を経て、2020年には「データと知恵で未来をつくる」というパーパスも制定し、2021年にIPOを果たしました。タイミングは狙ったものではなく、あくまでも自然体に構えた結果です。

――上場したことで、ビジネスに変化はありましたか。

次の成長ステージに弾みをつけたい、加速したいという思いがありましたが、認知度が高まったことで事業提携の打診は急増しています。また、今まではどちらかというと効率的な成長を目指してSaaSをコツコツ積み上げてきましたが、今後は新領域となるアナリティクスや広告といった大きな市場にも進出したいと考えています。知名度が広がり打診も増える中、新領域を創出して既存事業に乗せ、海外へも進出しながら事業を展開しやすくなったと感じています。

財務面に関しては、IPOで財務指標が大きく改善しました。追加ファイナンスは実施していませんが、今後実施するかもしれません。資金調達の手法は、確実に広がりましたね。

増収増益にコミットし、スタンダード市場への上場を目指す

――現在日本経済が直面している課題や今後の展望、御社のビジネスへの影響をどのようにお考えですか。

もちろん高齢化もありますが、人口減少によって弊社の主力クライアントである消費財メーカーの国内売上が減少することは、日本経済が直面している課題の一つです。先ほど申し上げたように、売上を上げるためのデータ活用だけではなく、これからは売上が上がらなくても利益を確保するために、守りのデータ活用の需要が拡大すると考えています。ロスを削減するといった取り組みを行えば、その余地はあるでしょう。2022年3月にはEDI基幹プラットフォームの構築・提供・運用を手がけるプラネットと業務提携を行い、「POSデータクレンジングサービス」の共同開発を通じて各企業のDX推進を強力に支援し、将来的にはロス削減の実現を目指します。

伸びる市場への参入という観点では、今後は日本企業が海外に展開するためのデータ活用も重要になるはずです。そこで、ベトナム最大級のICT企業であるFPTソフトウェアと戦略的な業務提携を結ぶとともにFPTグループのTRANDATAへ出資を行い、ベトナムのデータ連携にも着手しています。

一方、DXの進化は日本経済の大きな課題です。ビッグデータの活用によるDXというメガトレンドは当面続くと思われるので、弊社には追い風になると考えています。

――今後目指すべき姿について、お聞かせください。

事業面では主力のデータマーケティング市場に対して、SaaSで着実に売上を積み重ねるのが基本戦略ですが、国内だけでなく発展著しいアジアを中心とした海外市場への展開も視野に入れています。その隣にはアナリティクスや広告といったデータのニーズがある巨大な市場も控えており、弊社がデータを供給することでデータ活用を後押ししたいと考えています。両方の市場においてエコシステムで事業領域を広げ、コツコツ積み上げるSaaSの上に乗せて成長することをイメージしています。

コーポレート面では、スタンダード市場への上場に値するような会社になることが目標です。業績は増収増益にコミットすることが肝心です。具体的な数値目標として、売上成長率は10%以上を継続し、営業利益率はできるだけ早く10%以上まで引き上げていきたいと考えています。一方、円安などによって小売業は物流費、消費財メーカーは原材料費が上昇して販管費などが影響を受けることで、マーケティング予算が縮小されるおそれがあります。懸念点がないわけではありませんが、DX推進の流れは弊社にとって追い風です。

――最後に、ZUU onlineの読者へメッセージをお願いします。

我々の業界はDXと一口にいっても、AIを武器にする会社もあれば、移動やヘルスケア、不動産といったさまざまな情報を持つ会社もあり、多岐にわたります。その中でTrue Dataの知名度は、まだ低いといわざるを得ません。一方、DXの時代に安心・安全かつクオリティの高いデータを活用できるかどうかは非常に重要で、ここを得意としているのがTrue Dataです。データを保有するデータホルダー企業やプラットフォーム企業の動向に関心を持っていただき、弊社にも注目していただきたいと思います。毎年の増収増益にもコミットしており、業績を向上させながら企業価値を高めていきますので、株価も上昇すると考えております。弊社をご支援いただけますと幸いです。