“隠せない時代”の企業成長に必要な「人的資本経営」成功のポイント

近い将来に企業の人的資本の情報を有価証券報告書に記載することが義務化される。そのため、企業にとって従業員エンゲージメントが経営戦略の重要なテーマの一つとなり、多くの企業が人的資本経営に向けた取り組みを開始している。投資家や企業から注目されている「人的資本経営」について、創業以来、まさに「人・組織」の分野で多くの企業の課題解決を支えてきたリンクアンドモチベーションの川内氏に企業が取り組むべき人的資本経営についてお話をうかがった。

▽お話をお聞きした人

川内 正直
株式会社リンクアンドモチベーション
常務執行役員 川内 正直
2003年早稲田大学卒業後、 (株)リンクアンドモチべーションへ入社。採用や育成、人事制度構築、経営ビジョン策定・浸透プロジェクト推進と、一貫して組織課題の解決に向けたコンサルティング業務に従事。顧客企業の組織変革を成功に導く傍ら、新規拠点の立ち上げや新規事業部門立ち上げなども担当。2010年に大手企業向けコンサルティング事業の執行役員に、2018年に取締役就任。2022年に常務執行役員に就任しグループ最大規模である組織変革コンサルティング部門を統括。

人的資本の情報開示で企業はどう変化するのか

―リンクアンドモチベーションの事業内容についてご紹介ください。 

当社は2000年に創業しました。企業の競争優位の源泉である人材のモチベーションにフォーカスしたい、個人のモチベーションを組織の全体戦略に「リンク」させたい、人と人との“間”に生じる様々な問題を解決していきたいといった想いを込めて「リンクアンドモチベーション」という社名にしています。

事業としては創業以来、組織人事のコンサルティングを手掛けています。2016年には、それまでに培ってきたノウハウをクラウドシステムに搭載した「モチベーションクラウド」というサービスもスタートさせました。コンサルティング、クラウドサービスによって、企業の「人的資本経営」をワンストップで支援しています。

また、リンクアンドモチベーショングループ全体としては、企業の組織開発だけでなく、個人のキャリア開発や、人材紹介など企業と個人のマッチングも支援しています。

―リンクアンドモチベーションでは「人的資本」についてどのように定義されていますか?

以前の考え方では、人材=「資源」でした。モノをつくる時に材料が必要なのと同じように、生産のための「コスト」であり、原価管理の対象だったのです。これに対し、「資本」は投資の対象であり、価値が伸び縮みするものです。目的を持って投資することで、後から大きなリターンを得られるかもしれないということですね。つまり「人的資本」とは、新たな価値を生み出す投資対象として、人材を「資本」と捉える考え方です。

―「人的資本経営」を取り入れるメリットを教えてください。

人や組織が競争優位の源泉になる経営スタイルが「人的資本経営」だと思います。企業は商品市場で消費者から、労働市場で求職者や従業員から、資本市場で投資家から選ばれなければなりません。

経営者はどうすれば商品やサービスが売れるのか、つまり商品市場で選ばれるのかに最も関心があると思います。昨今の商品市場の特徴として「ソフト化」と「短サイクル化」が挙げられるでしょう。

以前は、大きな資本やインフラを持っている企業が強かったのですが、今はどの産業においても価値の源泉がソフト化しています。このソフトを生み出していくのは人です。

また、以前であれば、ヒット商品を生み出した企業は、一定期間そのメリットを享受できましたが、今はその期間が短くなっています。これが「短サイクル化」です。だとすると、企業には次々と新しいものを生み出していくことが求められます。新しいものを生み出していくのは誰かと言えば、やはり人であるという結論になります。

消費者の方から選ばれるサービスや新しい価値を生み出し続けるためには、人・組織が重要となっているのです。そのため、資本市場においても投資家から「人的資本」が注目されるようになりました。企業に対しての人的資本開示の要請は年々強くなっています。「人的資本」がしっかりしていれば、投資家から将来性を評価され、資金が集まりやくなるでしょう。

―2023年内に適用が開始される予定の「人的資本の項目開示義務化」によって何がどう変わると見込まれていますか?

これまでIR情報開示する際に、人的資本をアピールしたい企業は自主的に人的資本にまつわる情報を入れていました。しかし今後は、人的資本情報を有価証券報告書に記載することを義務付ける方針が示されているので、上場企業は必ず開示する必要があります。そうなれば、上場していない企業も徐々に開示が求められていくことが想定されます。これからは、情報がどんどんオープンになり、企業にとって「隠せない時代」になっていくと思います。

また、当社の連結子会社のサービスである「OpenWork」では、「社員クチコミ」という形で社員の「生の声」を見ることができます。こういったサービスを使うことは、もはや転職者や就活生の間で当たり前になってきているのです。そういった世の中で、10社中9社が情報を出していて1社だけ出していないと「出せない理由があるのではないか」と憶測を招くことになるでしょう。

隠せない世の中では、現状が完璧でなかったとしても、愚直に取り組んでいる企業が評価されるようになっていくと思います。逆に、真剣に向き合わなくては労働市場、つまり従業員や求職者から選ばれなくなり、人や組織を維持していくこと自体が難しくなるでしょう。ルールだからやる、というよりも、持続的な組織の成長、ひいては企業の成長のために開示していくことが求められるのです。

経営者がどこに経営資源を投下し、どんな未来を作っていくのかを真剣に考えている企業は、人的資本に対しても鋭く効果的な投資をし、大きなリターンを得て、どんどん成長していくと思います。